国内起債市場を斬る 起債評価:11/13~11/17

ようやく3月期決算企業の上期末決算発表時期が終わり、起債市場にも社債等の募集が戻って来た。木曜日に募集された案件は、グリーの3年債60億円とポケットカードの5年債100億円とややレアな銘柄であったが、17日の金曜日に募集されたのは、商社や電力、メーカーの社債と合わせてバラエティをかもし出しており、これから12月中旬までの募集期間に起債市場の盛り上りを期待させるものとなった。この背景には、年末に向かう時期的なものがあることに加えて、金利の先高感が弱まったことで、発行体側も社債等を募集し易くなったものと考えられる。

社債等の他に、17日の金曜日に初めて募集されたのが、グリーン共同発行債と呼ばれる複数の地方公共団体によるグリーンボンドの発行プログラムに基づく10年債であった。地方債の10年共同発行市場公募債は平成15年に始まる長い歴史があり、道府県と政令指定都市からなるプログラムに参加する複数の地方公共団体による共同の発行である。地方財政法の規定から共同発行債の信用力はストロングリンクするものと考えられ、プログラムに参加するもっとも優良な地方公共団体と同等と考えられている。東京都がプログラムに参加していないものの、参加する複数の県や市にR&IがAA+格を付しているため、符号としては日本国債と同水準と見て良いだろう。この11月9日に募集された第248回債は、0.948%クーポンで715億円が募集されている。対国債カーブ対比でのスプレッドは+9bpsであった。

今回初めて募集されたグリーン共同発行債は、ベースは同じ共同発行プログラムに基づくものの、グリーンボンドに求められる募集時やその後の継続的な情報開示をまとめて行うことで、各地方公共団体の煩雑さを簡略化する試みである。総務省自治財政局地方債課が国のグリーン推進プログラムに沿って進めて来た取組みでもあり、時代の流れに沿った画期的な取り組みであったと言えるだろう。なお、具体的に参加する地方公共団体は、今月の通常の共同発行債よりも多くなっている。

今回の第1回グリーン共同発行市場公募地方債は10年債で、0.846%クーポンの500億円が募集された。対国債のカーブ対比でのスプレッドは+7bpsとされており、通常の共同発行債に比べると2bpsほどタイトなスプレッドを実現されている。この差分がグリーニアムと理解される。個別の地方公共団体がグリーンボンドを発行しても、なかなか明示的なグリーニアムを考慮した低廉な起債は難しかったが、共同発行の枠組みを利用し同じ月に募集したことで、グリーニアムの存在が明確に確認されたものである。しかし、グリーニアムはわずかに2bpsであり、市場利回りの変動から見れば必ずしも大きな幅ではない。特に、実際のクーポンを比較すると、9日に募集された共同発行債から、クーポンは10.2bpsも低下している。結局のところ、ベースとなる国債利回りの低下幅がグリーニアムより遥かに大きかったのであり、グリーニアムの効果はわずかでしかないことが確認できたと言っても良いだろう。

国内起債市場を斬る 決算発表期特別号:再び社債市場の活性化が俎上に

前週は3月期決算企業の上期末決算発表のピークとなり、地方債や財投機関債等の募集は見られたものの、民間企業による社債の募集はなかった。そのため、今回は今秋になって再燃している社債市場の活性化に向けた検討について言及したい。具体的には、10月に行われた日本証券業協会の会長定例会見で、検討の再開が明らかにされたものである。同会のHPに上げられている協会長との質疑応答から、検討の主な柱になりそうなものを抜き出すと、「投資家の方々が、きちっとしたリスクをとった中で、しっかりとした見返りがあること、加えてリスクをある程度低減できる方策として、コベナンツの問題、情報の平等性の問題、あるいは担保設定の問題といったものがアメリカのマーケットに比べて遅れている部分があるため、それは見直していかなければいけない」という説明である。

今季の検討に際しては、資産運用立国を推進する流れの中で、金融審議会の市場制度ワーキンググループにおいて改めて社債市場における課題が金融庁から論点として提示されている。具体的には、社債権者を適切に保護する観点から、市場への適切な情報提供と、社債・融資のイコールフッティングの二つの論点が指摘されている。これらは決して新しい論点ではなく、従来から課題として認識されていたものではあるが、改めて検討されることとなったものである。日証協からは、コベナンツの付与や開示とパリパスの確保、社債管理補助者の活用などによる適切な債権保全といった対応策の方向性が示されている。

もっとも、今回の検討の契機の一つとなった資産運用立国に関する議論の関連で、社債市場の活性化として加えられているスタートアップ企業の資金調達を円滑化するといった視点は、上場企業ですら活用が進まない社債市場を、スタートアップ企業が一足飛びに利用できるようになるとは到底思えない。しかし、コベナンツや社債管理補助者を付すことによって、9月に無格付けで社債を募集したジャパンインベストメントアドバイザーのような取り組みの例も見られていることから、従来の発想から飛躍した取り組みが今後行われる可能性は否定できない。

日証協では、既存の「社債市場の活性化に向けたインフラ整備に関するワーキンググループ」を改組し、今月以降に複数の論点について精力的に検討した上で、今年度末を目途に報告書を取りまとめ、報告書の提言を基に来年度以降、更に具体的な検討を進める計画を公表している。社債市場の活性化については、ワーキングの親懇談会が設置されてから14年が経過し、コベナンツモデルや社債管理補助者など幾つかの検討成果が形になってはいるものの、利用されている事例がほとんどない。資産運用立国という政府の大きな旗振りによって、今回の検討が少しでも進展するかどうかを見守りたい。今は銀行融資に隠れて活性化していない社債市場ではあるが、将来的に企業も銀行も金余りの状態ではなくなった時に、資本市場を活用できるように道筋を整えておくことが有意義なのである。

国内起債市場を斬る 秋季特別号「社債型種類株を考える」:10/30~11/3

3月期決算企業の上期末決算発表の時期に当たり、この週に社債そのものの募集はなかったが、社債に近い証券の募集が行われたので、代わりに取上げてみたい。銘柄は、ソフトバンク第1回社債型種類株である。かつての日本においては、株式と言えば普通株をさすものとされており、普通株という表現はあまり見られなかったが、近年になって、普通株以外の株式も少しずつ見られるようになっている。中でも、もっともよく見るのが優先株であろうか。株主総会での議決権を持たなかったり、残余財産に対して普通株よりも優先的に請求権を有するとか、普通株とは異なる取扱いがされる株式であり、劣後債と同様にハイブリッド証券と呼ばれることもある。しかし、片仮名表記をすることで、証券の特性を誤解させるようなことがあってはならない。正式な名称をきちんと顧客に伝えるのは、販売会社の義務であろう。

10月31日まで募集されて11月2日に東京証券取引所のプライム市場に上場されたソフトバンクの第1回社債型種類株は、社債型と付されるように、配当として当面年率を2.5%で支払うことが約束されており、固定利付きに近い性格を有している。本種類株の配当には普通株式への配当に優先する累積型とされているが、固定率を上回ることがない非参加型である。一方で、配当率の固定は2029年3月末までであり、その後は1年国債利回りに3.182%を加えた変動する率に基づくこととされている。この部分は劣後債などに似た証券の性質である。一方で、株式であるから満期償還の概念はないが、普通株への転換権は付されていない。劣後債より優先株に近いと見るのが妥当だろう。満期償還の概念はないものの、2028年11月以降に、発行体が金銭で投資家から買い取ることが可能とされているのも、優先株などに類似した構造である。

株式に近い特性としては、既に述べたように東証プライム市場に上場されており、単元株である100株単位での売買が可能である。募集時点では4,000円の価格で3千万株が募集されたため、計1,200億円が調達されており、資金使途は、「生成AIを用いたサービスの実現、次世代社会インフラの構築、再生可能エネルギーの開発・調達など中長期的な企業価値の向上に資する成長投資資金または基地局・ネットワーク設備等の設備投資に充当」するとされている。11月2日に上場された後は、募集価格の4,000円を下回っていないが、翌営業日の11月6日も高値は4,040円に留まっている。個人投資家から機関投資家までの幅広い投資家が購入対象とすることが可能なものの、大幅な値上がりとはなっていない。

2.5%という配当率は、ソフトバンクが7月に募集した社債よりは当然高い利回りであるが、普通株の配当利回りが5%前後であることを考えると、まさに半分の水準である。ちなみに、格付会社も本件種類株を50%の資本性と評価しており、普通株の半分くらいにあたる証券という理解が適切なのかもしれない。今後の種類株の価格変動が大きなものでなければ、市場参加者の理解が固まって来ると考えられるし、追随する発行体が出て来るかもしれない。何れセカンダリー市場の拡大に繋がれば、東京市場の存在向上にも貢献することを、少し期待するところだ。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/23~10/27

起債市場を見ているだけで季節の到来を感じることがある。日本の企業の多くが3月末決算を採用しているため、四半期ごとの決算発表のシーズンや株主総会の時期には起債がほとんど見られなくなる。また、発行企業の決算期とは関係なく、投資家や引受証券の休暇などの関係で、年度末や上期末である3月と9月の後半や12月の後半にも起債はほぼ見られなくなる。起債観測が上がっていても実際の募集が見られなくなると、いつもの時期が到来したことを感じることが出来る。圧倒的に多くの企業が3月ないし12月決算を採用しているので四半期サイクルが同じになるが、それ以外の決算期を採用している企業は、起債市場の閑散期に社債等を募集することが可能である。引受証券や投資家もお休みモードに入っていれば別だが、3月期決算企業が大人しくしている時期は、異なる決算期の企業にとって、市場の注目を集め、もしかしたら大型起債が可能になるチャンスでもある。

10月下旬の決算発表シーズンに入り社債等の募集が少なくなるとは言え、昨年のこの週では森永乳業や阪和興業、マルハニチロといったレア銘柄の募集が散見されており、今年のように木曜日まで募集が見られないという状況ではなかった。今年については、日銀による金融政策の見直しに対する期待が盛り上がったこともあって、投資家が購入意欲を低下したことで、募集を先送りしたり、起債そのものを見送った発行体も少なくなかったようだ。特に、社債での調達を諦め、銀行からの借入れに変更した企業も多かったものと推測される。日銀の金融政策が見直されるかもといった観測はあっても、銀行借入れの基準となる短期金利ではなく、社債等により影響する長期金利のコントロール上限を引き上げる方向の観測が喧伝されていたためである。

このような環境で大型の社債募集を行ったのは、2月決算を採用する小売業の最大手であるセブンアンドアイホールディングスであった。3年債600億円・5年債600億円・7年債300億円・10年債700億円の計2,200億円を募集しており、当初の起債観測で上がっていた総額2,000億円を大きく上回る募集額となった。同社は、身近なところではセブンイレブンやイトーヨーカ堂、更には小売業以外でセブン銀行も運営しており、知名度に何ら問題はない。この夏までは傘下にそごう・西武による百貨店事業も営んでいたが、百貨店事業を米ファンドに売却している。当該ファンドが西武池袋本店への出店企業を見直す中で、所在する豊島区との騒動になったり、従業員のストライキがあったり、と落ち着かなかったことは記憶に新しい。ただし、これらの問題については、いずれもセブンアンドアイホールディングスの手を離れた後の話であり、今回の起債には直接の影響を及ぼすものではない。

募集された社債については、同社の起債頻度が多くないことに加えて、格付けがR&IのAA-格及びJCRのAA格と高水準なこともあって順調に消化できた模様である。既に述べたように、他の案件との競合がなかったこともプラスに作用している。国債対比のスプレッドプライシングが採用された5年債がT+32bps、7年債がT+45bps、10年債がT+52bpsといった格付け対比で厚めのスプレッドが付されており、しかも、結果として出来上がりのクーポンが7年債以上が1%を越える水準となったことで、投資家の目線に十分かなった起債と受け止められたようである。募集のタイミングを含めて、絶妙な社債募集の案件であったと言えるだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/16~10/20

先行きの金利見通しが起債市場の動向にも大きな影響を与えはじめているようだ。日銀の金融政策見直しに対する思惑と、米国の追加利上げの有無に対する観測が、金利の先行きに対して不透明感を強めている。日本の金利に関しては、特に円安による物価上昇の継続の有無が先行きを左右する。政府は物価上昇対策としての施策を導入することで、支持率の回復を目論んでいるようだが、スピード感の欠如は致命的なものかもしれない。週末に行われた衆参補欠選挙の結果は一勝一敗に終わったが、いずれも自民党議員の欠員補充であったのに一勝も辛勝に留まったことから、実質的には惨敗に近いものと理解されている。年内に衆議院の解散総選挙を実施することが難しくなり、補正から来年度予算にかけて国民の人気取りを意図した政策が織り込まれる可能性が高い。所得税減税といった検討すら聞こえるようになっているが、手っ取り早く歳入の不足を補うには国債を増発するしかない。結局のところ、金融と財政の両面から先行きの金利上昇観測は根強いものとなり、投資家が様子見を決め込むことから、起債市場の動きは鈍くなってしまっている。発行体からすれば、金利が上昇する前に資金調達をしたいところではあるが、そもそもの資金調達ニーズが高くないため、上がっていた起債観測が取り下げられるケースが散見されている。当面の起債市場は、大きな盛り上がりにはならないだろう。

こういった起債環境において、募集される案件の主体がSDGs債になるのは、自然な成り行きである。単純なグリーンボンドの募集は見られなかったが、ソーシャルボンドで日本高速道路保有・債務返済機構が10年債・17年債・20年債で計239億円、キリンホールディングスは5年債と7年債で計600億円(別途、10年債330億円を募集)、日本学生支援機構が2年債300億円と計1千億円を越え、サステナビリティボンドもリコーリースの5年債100億円に、阪神高速道路の3年債150億円と続く。加えて、芙蓉総合リースがサステナビリティリンクボンド270億円を募集しており、SDGs債の総計では1,600億円を越える額となっている。引き続き、投資家が社債等を購入する大義名分を掲げられることが、重要な要素になっているものと考えられる。

SDGs債以外では、ドンキホーテなどを展開する小売業の持株会社であるパンパシフィックインターナショナルホールディングスが3年債から10年債の4本立てで計700億円を募集した他、日本郵政が5年債260億円を募集したことに触れておきたい。前者は、デフレ下で大きく業績を伸ばした企業であり、インバウンドによる購入需要が円安下で強い間は業績を維持できるものと思われるが、出店や買収等の華々しい事業展開は必ずしも盤石に映らない。日本の社債発行企業で破綻した事例の多くが、不動産と小売で占められていることには、投資家も留意しておきたい。年限ごとの起債額を見ても、3年債と5年債で620億円とほとんどであり、10年債はわずか30億円に過ぎない。格付けはJCRのA+格と低くはないのが、安心感をかもし出している。

一方、日本郵政は一般担保付きで5年債と無理をした年限ではないが、度重なる買収や出資の失敗などもあって、低迷して来た株価がようやく回復傾向を見せつつある。とは言っても、上場当初の価格1,631円(2015年11月4日)までには至ってはいない。格付けはJCRのAA+格と優良企業の水準であるが、政府による有形無形のサポートを考慮してのものであり、それを抜きにしたら国債対比+26bpsといったスプレッドは割高だろう。日本郵政の5年債のクーポンは0.603%で、同じ年限のキリンホールディングス債のクーポンは0.673%である。どちらの投資妙味が高いと考えられるか、少し興味深い。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/9~10/13

10月9日(月)が祝日(スポーツの日)で三連休になり、四半期頭の出鼻を挫かれるのは、正月明けの年度第4四半期と同様である。米国の祝日を見ても、日付で決まっているもの(例えばIndependence Day;7/4)、〇月の第〇曜日と決まっているもの(例えば、Thanks Giving Day)とがあり、今年のように11/11のVeterans Dayの日が土曜日に当るため前日の11/10に振り替えるといった日本にはない前日への振り替えもある。日本の移動祝日は、ハッピーマンデーと呼ばれるように、月曜日を祝日として三連休の取得を促すものであるが、学校の時間割を考えると月曜日にやたら休日が多くなってしまい、カリキュラムに歪みが生じている。大学などでは祝日であっても開講日として対応しており、こと大学教職員に関しては学年暦を確認しないと祝日でも休めない状況になってしまっている。日本の祝日数は、いつの間にか先進国の中でも多い方になっており、勤労者が有給休暇を取得できない風土への対応としては適切なものと考えられるが、曜日や時期の偏りについては、将来的に再考の余地もあろう。加えて、日付に歴史的な意味のあった祝日を移動祝日にしてしまったこと(例えば1964東京オリンピックの開会日の「体育の日」は移動祝日に変わり「スポーツの日」となった)に対する批判は少なからず残る。

起債市場も、社債等の募集は週明けすぐには動けず週後半に偏りがちであるものが、月曜日が祝日であると、全般的に動きが鈍い。特に10月の最初の2週を見比べると、下期入りしてすぐに大きな動きのあった第1週より、この週の募集は数が少ないように見える。金額面で大きな案件としては、前週に三菱UFJフィナンシャルグループのAT1債計1,430億円の募集があったのに対して、この週は個人向け社債のため募集開始ではなく条件決定のみに留まったが、同じくメガバンクの持株会社である三井住友フィナンシャルグループがB3T2債計1,300億円が見られた。それでも、他に大型の案件がなかったため、メガバンクの持株会社債を除くと、前週よりも金額減が著しい。両方の週で見られた高速道路債の募集も、前週は西日本高速道路の計900億円があったのに対し、この週は首都高速道路300億円のみであった。

こういった状況の中で気を吐いたのが、相変わらずのSDGs債の募集である。ノンバンクを含め業種を問わず、数多くが募集されている。実例を挙げると、NECキャピタルソリューションが3年債と5年債で計106億円のサステナビリティボンド、前述の首都高速道路が5年債300億円のソーシャルボンド、東洋製罐グループホールディングスが5年債100億円のグリーンボンド、野村不動産ホールディングスが5年債及び10年債の計200億円のグリーンボンド、三井住友トラストパナソニックファイナンスが5年債のグリーンボンド144億円と、全般的に開示の観点からも発行額を控えめにした形で、募集されている。ややグリーンボンドが多く見られるのも特徴か。こうなって来ると借入金などの返済といった普通の資金使途で募集される社債の方が、却って新鮮に映るのは、筆者だけであろうか。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/2~10/6

年度の下期に入って、ラグビーWC、アジア大会の興奮が冷めやらぬ中、MBLはプレイオフ開始、プロ野球CS出場をめぐっての熱気の中、鹿児島特別国体が本格的にスタートした。起債市場でも社債等の募集が再開される。まずは、10年長期国債の入札による基準金利の確認からであるが、国債入札の後に政府保証債や地方債と続いて行ったのは過去の話で、現在は、長期国債入札の前後から社債等の条件決定が行われる。特に、10年長期国債の入札は火曜もしくは木曜日に行われることが多く、結局のところ、下期入りした週の金曜日に最初の盛り上がりを見せるというのが典型であろう。しかも、昔から初めに動くのは、電力、銀行、ノンバンクというのがパターンであり、それに加えて、財投機関等公的の一部が混じる形である。今年度下期の頭も、典型的な動きが主であった。

まず、電力の動きを見ると、中部電力の17年債50億円に続いて、中国電力が5年4か月債200億円・10年債160億円・23年債110億円を募集しており、4年5か月債はトランジションボンド、10年債はトランジションリンクボンドの形になっている。やや半端な年限での募集が多いのは気になる。更に金曜日には、東京電力パワーグリッドが5年債280億円・10年債590億円・15年債330億円と計1,200億円を募集している。また、同様の公益業態である西部ガスホールディングスが10年債100億円を募集している。この週は、電力・ガスに続いたのが、鉄道である。JR東海が20年のグリーンボンド200億円を募集した他、JR東日本が10年債110億円・20年債160億円・30年債80億円・40年債130億円と本数が多いわりに計480億円と同社にしては比較的少額の募集に留まっている。いずれにせよ、これらの発行体については、公益性が高いこともあって投資家からの信認は強く、やや年限が長めであっても投資家が確保できている。国債利回りの上昇を受けて、JR東日本の10年債ですらクーポンが1.025%と1%の大台に乗っており、投資家の利回り水準に対する目線は上がっているようだ。ましてや超長期債の利回り水準は、低金利に目の慣れた投資家が見ると、十分に魅力的に映るだろう。今後の長期から超長期の金利水準動向が注目される。

銀行セクターでは、三菱UFJフィナンシャルグループがAT1の永久劣後債を計1,430億円募集しており、また、ノンバンクではトヨタファイナンスが3年債と5年債を各800億円募集するなど、大型の起債が取り組まれている。公共セクターでは、住宅金融支援機構が20年債80億円を募集した他、日本政策投資銀行が3年債400億円・5年債200億円・10年債300億円の計900億円を募集し、西日本高速道路も2年債200億円及び5年債700億円の計900億円を募集している。結局のところ、銀行・ノンバンク・公共といったセクターが、大きな募集金額となっているのも下期の頭ということか。

全般的に金利の上昇と先高感が出はじめたことなどからクレジット市場の状況悪化が懸念される中であったが、スプレッド水準の変更や起債金額の修正などの工夫によって、いずれの新発債も消化には問題なかったようである。果たしてこの後の起債案件の状況はどうなるか。まずは、日銀による金融政策の変更有無に注目が集まるところであり、加えて、金融庁が社債市場の活性化に再び取り組もうとする動きも見られ始めている。

国内起債市場を斬る 日銀レビュー特別号:「買入オペ」の功罪

日本銀行は9月27日に「わが国における社債発行スプレッドの動向」という日銀レビューを公表している。まず、執筆している部署が市場を常日頃ウォッチしている金融市場局ではなく、金融政策を主に担当している企画局であるところから、既に内容の政策意図が強いものとなっている。また、社債のスプレッドに関しては、取引量が少なく、かつ、適正ではない売買参考統計値に基づいた歪んだ流通スプレッドを分析するより、発行スプレッドの方が実勢を適正に反映しているとされていたのは過去の話である。企画局が時代遅れの発想しか持っていないためとも思われるが、日本証券業協会の長期の努力を経て、特に取引情報の報告と開示により、公表される売買参考統計値の実勢からの乖離は小さくなっている。流通市場での取引が少ないという問題は未だに解決されないものの、発行スプレッドという数の少ないデータで社債市場を語らなくても良いのではなかろうか。

レビューにおいては、2022年後半から23年初にかけて確認された社債発行スプレッドの拡大について、①資源価格上昇に伴う運転資金需要の高まり、②海外中央市場の金融引き締めに伴う海外の金融環境の引き締まりの波及、③わが国国債市場における機能度低下、といった三つの要因が指摘されている。分析の手法は2005年以降のパネルデータに基づいた推計であるが、そもそも①として挙げる要因は、可能性を完全には否定しないが、企業の手元流動性が潤沢に存在する中では、運転資金需要が高まったかどうかという観点からは、疑念が拭えない。

②についても、海外の金融引き締めの影響が、日本の社債利回りに影響するかと言われれば、直接の影響は小さい。海外の金利上昇を受けて、国内の金利が上昇するというのは為替変動の経路から生じ得る可能性はあるが、この期間で問題になったのは、日本の金利が上昇しなかったための顕著な円安ではなかったか。特に、2022年秋の150円を上回る円安は、その後になっても再現されてはいない。為替レートの変動で吸収したために、②は必ずしも強い要因とはならないだろう。

分析結果から得られた各要因の決定係数はともかく、指摘された三つの要因の中では、どう考えても、③が最大の要因である。レビューでは付加的に挙げているものの、日本銀行が社債発行年限と重なる年限の国債を半分以上独占的に保有しているため、国債の利回り形成に歪みが生じ、更にその歪みが社債発行スプレッドにも影響を与えているのである。加えて言えば、異次元の金融緩和以前から日本銀行が実施して来た社債の買入オペ(現在は残存3年以下、一時期は残存5年以下)は、社債のスプレッド構造に年限での断続を生んでいたのである。社債発行スプレッドに最大の影響を与えて来たのは、様々な意味でも日本銀行なのである。そもそも、社債の発行が可能な優良企業の資金調達を支援して来た社債買入れオペの在り方は見直すべきであり、より資金調達の難易度が高い中小企業に向けた施策を優先すべきであろう。いずれにせよ、国債市場も含めて、市場に存在する「神の手」に役割を返還する時期が来ているのではなかろうか。

国内起債市場を斬る 起債評価:9/19~9/22

例年であれば、上期末の起債シーズンは前の週までで終了しているはずだが、今年は、もう少し社債等の募集が行われている。一つは、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく債券の募集である。地方公共団体金融機構のFLIPに基づく債券は、基本的には、四半期最初の月の下旬に、定例募集する10年債などと年限をずらした形で募集するのであるが、それ以外のタイミングでも募集することがある。FLIPの趣旨を考えると、購入を希望する投資家が存在し発行体の望む年限であれば最低30億円から募集するというものであって、このような時期での募集も妥当であろう。今回募集されたのは、5年債40億円の他、8年債30億円と、9年債30億円が3本の計160億円である。日本証券業協会の公社債店頭売買参考統計値などでは公募債という扱いになっているのであるが、1ショット30億円程度の発行額であると、実際の流通市場での出会いはまず見られず、同様の年限の別の債券の価格から気配値を推察するしかない。地方公共団体金融機構は原則として10年債を毎月募集しており、8年債や9年債の水準を見つけることが容易である。国債を除くと、こうした起債を行うことが容易な発行体は、なかなか見つからない。

信用力の観点からも、地方公共団体金融機構は国債と同等の格付符号を取得しており、概念的には最良の地方公共団体と同じ信用力と考えられることもあって、流動性も高いことが期待できる。また、地方公務員共済組合連合会及び傘下の共済組合等が縁故債を定例で引き受けているだけでなく、公募債も継続的に購入している。総務省傘下の共済組合から見れば、地方債や地方公共団体金融機構債の信用リスクを、ほぼないと期待することには矛盾がない。これらの様々な枠組みだからこそ、FLIPに基づく起債が可能であり、時に、一般的な起債募集のタイミングを外したところでも、債券を募集することが可能になるのである。

もう一つ純粋な民間事業会社が社債を募集したのも、この週としては珍しい。決して考えられないものではなく、条件決定及び募集から1週間程度後に払込みを設定すれば、ギリギリ上期末を跨がずに社債を成立させることは可能である。発行体の意向を引受証券が確認し、投資家が了解すれば、9月20日の条件決定も実現できたのである。5年債100億円を募集したのは丸紅であり、格付けはR&I及びJCRからAA-格と高水準の評価を取得しており、知名度の高さもあって、投資家側に検討の時間が長くなくても判断が可能だったものと推察できる。100億円という手ごろな発行額も、過度の消化懸念をもたらすものではなかった。国債対比+25bpsというスプレッドプライシングで条件決定されたことも、投資家の判断に資すると言えるだろう。つまり、巨額の募集ではなく、ある程度の知名度があって、格付けも高水準にある発行体ならば、このようなギリギリの社債募集も不可能ではないという実績となった起債であった。

国内起債市場を斬る 起債評価:9/11~9/15

今年度上期末の社債等募集期間が事実上の最後となる中で、チャレンジングな社債の募集が行われた。少し詳しくその内容を見てみたい。発行体は、ジャパンインベストメントアドバイザーである。同社は、航空機リース等を主体とした金融会社で、経営理念としては「金融を通じて社会に貢献する企業でありつづける」を掲げている。子会社によるものも含めた事業内容として、航空機や船舶、海運コンテナのオペレーティング・リースの他、太陽光発電、信託、証券、事業承継コンサルティング、M&Aアドバイザリーから上場支援、人材紹介募集などの各種コンサルティング、日本證券新聞社を通じたメディアとIRアドバイザリーなど、広く金融に関連した幅広い事業を営んでいる。また、東証プライム市場にも上場しており、20世紀なら上場企業というだけで高い評価とステータスを得られたが、現在では、そこまでの認知は得られないだろう。

今回募集したのは、当然ではあるが、第1回債であり、2年債35億円である。みずほ証券による単独引受案件であり、まず格付けを取得していない点が注目される。確かに公募普通社債を募集するのに、格付けを取得する義務はない。現在でも、地方債の多くは格付けを取得していない。しかし、投資家が他の社債案件と大まかな比較をする際に格付けは信用力の目安となるし、プロの格付アナリストによる第三者の評価として重要であると考えられる。小額であり、2年と残存期間が短いため、投資家が持ち切りで購入するのなら無格付けでも良いかと考えたのであろうか。だが、今回の案件は、そういった不安を軽減する複数の仕掛けが組み込まれた社債であった。

本案件の肝は、格付けの有無よりも、まず、財務上の特約として社債間限定の担保提供制限条項の他に、純資産維持条項と利益維持条項が付されていることにある。高格付債の場合には、市場慣行として1995年以前のような財務上の特約は不要とされて来たが、日本証券業協会が社債市場の活性化に向け推奨して来たように、コベナンツを有効に活用することが市場の厚みを増す観点からも評価できるものである。格付けを取得していないくても、純資産が減少したり営業利益がマイナスになったりすると、無担保から有担保に切り替えるなどのアクションが求められることで、社債権者の権利が守られる方向となることが期待できる。

また、財務上の特約等に抵触した場合に社債権者自らが行動することが難しい。そのため、会社法改正によって設けられた社会管理補助者が、本案件で初めて設置されている。社債管理者のように事細かくは見てくれないが、発行体の財務内容が悪化し法的処理が必要になった場合、社債権の行使を支援してくれる存在である。フルサービスの社債管理者はコスト倒れというか、何もせずに受領する手数料が「眠り口銭」」と揶揄されていたものを、十年以上の検討と協議を経て2021年にようやく一部機能のみを担当する制度が法定されたものである。基本的に発行体の財務状況に何も問題なければ機能することはないが、信用力の低い社債であっても、不測の事態が生じた場合に、投資家の側に立ってくれることが期待できるものである。万一の時の安心材料となることが期待できるのである。今回が初の設置事例であり、まだ実際に機能する局面は見られておらず、完全な評価は定まらないが、これから事例を蓄積して行くための第一歩で敏て設置されたことは評価できる。財務上の特約の復活と社債管理補助者の設置が、今後の社債市場の多様化や拡大、発行体の裾野拡張といった方向で機能することを期待したい。