国内起債市場を斬る 起債評価:1/8~1/12

ようやく年末年始の約1か月間の社債募集のない閑散期間を終え、2024年の起債シーズンがはじまった。その間に、能登半島地震の影響もあり、日銀による金融政策の見直しに対する期待が大きく低下している。見直し期待の低下を受けて、株価はバブル経済崩壊後の最高値を更新し、為替も再び円安基調となっている。まずは金融・資本市場の状況を確認し、先行きのシナリオを構築するのが三連休明けの市場参加者の重要な職務となったことだろう。

2024年の起債市場で最初に募集されたのは、12日の日本政策投資銀行の3本立てとJR東日本の2本立てであった(他に、国際協力機構の個人向け5年物の財投機関債も条件決定されているが、同債券募集は15日からになっている)。しかし、これらの顔触れは決して違和感がない。二つの発行体ともが、2023年1月の第2金曜日に社債等を募集した顔触れだったのである。なお、2023年1月は12日(木)から社債等の募集が始まっており、13日(金)には日本政策投資銀行とJR東日本以外にも、東京電力パワーグリッドや日本高速道路保有・債務返済機構や東日本高速道路も社債等を募集している。ちなみに、国際協力機構も同日に個人向け財投機関債の条件を決定しており、この日に募集等のアクションを起こした三つの発行体ともが、まるで話し合ったように1年前と同じタイミングでの動きとなったのである。

これらの中で、もっとも起債の動きが変化したのが、JR東日本だったのではなかろうか。過去数年の同社の起債パターンとしては、10年債から10年刻みで複数年限の社債を募集するというものであった。ところが、今回の募集に際しても同様のサウンディングは行われたようではあるが、最終的には、10年債と20年債の2年限のみに絞った形での募集となっている。超長期年限の金利の先行きが不透明なこともあって、10年債と20年債のみが選択されたものと考えられる。なお、10年債はE235系の車両や鉄道整備を使途とするサステナビリティボンドとしての認定を受けている。国債対比のスプレッドは、10年債で+33bpsと厚くなっており、出来上がりのクーポンは0.91%になっている。20年債は国債対比スプレッドが+24bpsの1.554%クーポンと、かつて目の慣れていた水準よりも高い位置にある。

一方、日本政策投資銀行は2023年1月と同じく3年債・5年債・10年債という三本立ての社債を募集している。ただし、募集金額は前年の各250億円から、3年債のみ400億円に増額されている。R&Iの格付けだけを見るとJR東日本も日本政策投資銀行もAA+格で同じ符号であるが、国債対比スプレッドを見るとJR東日本の+33bpsに対し、日本政策投資銀行は+11bpsとタイトである。そのため、日本政策銀行の10年債はクーポンが0.69%と低めに映ってしまう。政府との距離を反映したものと言ってしまえばそれまでであるし、完全に民営化した会社かどうかの差なのではあるが、比べるとサステナビリティボンドであるJR東日本の10年債を選択したくなる投資家は少なくないのかも知れない。

国内起債市場を斬る 新春特別号:社債市場の活性化に向けて

これまで日本証券業協会は、社債市場の活性化に向けた検討を2009年に設置した懇談会と下部の検討組織で継続して来ている。既に15年近くが経過しているのだが、成果として見ることが出来るものは決して多くない。見え難いところで引受審査の見直しを通じた社債募集可能期間の拡大もあるが、対外的に公表されたものとしてコベナンツモデルやコベナンツ開示例示集の策定がある。ところが、これらのコベナンツ関連の取り組みは、検討した上でそれなりの有意義な提言を行ってはいるが、実務での採用に至ってはいない。また、社債権者補佐人制度を導入するという提言は、その後の会社法改正によって社債管理補助者制度の導入という形で法的な裏付けを得て結実した。社債管理補助者を付された社債は2023年にようやく第1号案件の募集が行われたが、今後の拡大が期待されるところである。加えて、セカンダリーマーケットに関連した検討では、公社債店頭売買参考統計値の精緻化と社債取引情報の収集と公表が行われるようになり、公表対象の拡大を通じてある程度の成果を実現しているが、社債レポ市場の整備については、まだ検討の段階を出ていない。

こういったゆっくりとした動きの中で、昨年秋以降に新たな社債市場の活性化に向けた検討が開始されている。発端は、資産運用立国の実現に向けた金融諸制度の見直しと金融審議会市場制度ワーキング・グループでの検討にある。社債市場の活性化を実現することで、企業による資金調達の選択肢を拡大しようという考え方は、決して誤りではない。しかし、金融庁が特に意図しているスタートアップ企業に対して社債の発行を促進するという方向は、決して日の目を見ることがないと思われる。そもそも、日本に3千以上の上場企業が存在しているのに、格付けを取得している企業は千社前後に留まり、公募普通社債を発行している企業の数は更に限定される。結果的に、大企業の資金調達の場でしかない公募普通社債の市場に、スタートアップ企業をいきなり参加させることは難しい。特に、ほとんどの投資家は、いわゆる投機的信用格付けの企業が発行する社債を購入しようとしておらず、そこにスタートアップ企業が割り込んで来られる可能性は決して高くない。高い知名度と格付けを獲得し、事業の安定性を確保できるような企業になって、初めて公募普通社債を日本の市場で募集できるようになるのである。

日本証券業協会もそういった状況は理解しているようで、社債市場の活性化に向けた具体的な課題として、チェンジオブコントロール条項等重要事象発生時の対応、適切なコベナンツの付与、社債と他の債務との間でのパリパスの確保、債権者間の情報格差の是正、社債管理補助者の活用といったものを提示しており、2023年秋からは「社債市場の活性化に向けたインフラ整備に関するワーキング・グループ」における検討を再開している。年度内に複数回の検討を行い、翌年度以降も引き続き検討を継続するスケジュールを示している。日本証券業協会の会員や特別会員である証券会社や銀行などには直接の影響が及ぶかもしれないが、多くの投資家や発行体企業には間接的な制度変更としてのみ作用することが可能である。

社債市場の活性化については、目標を米国の社債市場に匹敵するような規模にしたいなどといった不適切なものとするのではなく、銀行融資と並存した金融慣行を前提とする中で、日本の市場として理想に出来る姿を探して行くべきだろう。かつての日本の取引銀行は、スタートアップ企業に対しても、超大手企業に対しても、まるで「ゆりかごから墓場まで」の様々な金融機能を提供して来た。しかし、銀行の自己資本規制が強化される中で、すべてを銀行融資に委ねることは難しくなっている。将来の姿を見据えた日本の社債市場のありかを模索すべきである。絵空事の夢物語は要らない。

国内起債市場を斬る 2023年降誕日特別号:日銀の金融政策と社債

この12月18、19日の金融政策決定会合では、金融緩和の縮小方向への見直しは見送られた。12月初めに植田総裁が「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになる」といった発言をしたこともあって市場の注目は高まっていたが、見送りによって肩透かしになったと感じた市場参加者も少なくなかったのではなかろうか。債券市場をはじめ、多くの注目点は、マイナス金利の解除有無の一点にあったが、短期金利の居所とは別に、イールドカーブ・コントロールの見直し、即ち、10年国債利回りの水準修正があるのかについては、社債の発行体も投資家も興味があったに違いない。既にイールドカーブ・コントロールにおける10年国債利回りの居所については、0%±0.5%といった上下の変動幅が解除され、上限の目途が1%とされており、金利の上昇を容認する形になっている。イールドカーブ・コントロールの実態がなくなったという見方もあるが、少なくとも1%程度に設定された天井は、まだ市場で意識されている。

一方で、社債等については、今回の金融政策決定会合でも『感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(約3兆円)へと徐々に戻していく。ただし、社債等の買入れ残高の調整は、社債の発行環境に十分配慮して進めることとする。』としており、異次元の金融緩和以前から実施している残存3年以内の社債買入れが継続されている。既に、日銀が社債を購入することで、信用スプレッドを圧縮するという政策効果は必要がないものと考えられるが、惰性で続けられているように思える。そもそも、信用スプレッドの拡大を抑制した資金調達を欲する企業のほとんどが、公募普通社債ではなく、金融機関等からの借入れに依存しており、日銀による社債買入れの直接の影響は及ばない。公募普通社債で資金調達を行うような大企業にとっては、社債の信用スプレッドの圧縮の恩恵を強く感じることはほとんどなく、一部の大きな負債を抱える企業のみに対する恩恵に留まっている可能性が高い。

足元でも日銀による社債買入れオペでの買取りを期待した3年債の募集が見られる。かつては、0.1%クーポンのオーバーパー発行によって、応募者利回りを0%にするといったことも可能であったが、現在では、マイナス金利の解除観測もあって、残存3年の国債利回りはプラスになっており、そのような社債等は見られなくなっている。それでも、信用スプレッドの圧縮よりも、ベースとなる国債利回りの引き下げの方が明らかに調達コストの圧縮に効果があるように思われる。

イールドカーブ・コントロールは日銀による市場取引への介入であったが、社債等についても、市場参加者の手に委ねるべき時期が来ているのではなかろうか。人為的な市場統制を無用に継続すると、反動の生じる可能性が高い。本来、市場のことは市場に任せるべきであり、それが資本主義経済の基本原理であろう。外部不経済等の副作用が生じている際のみ、暫時暫定的な市場介入が許容されるものと考えるべきである。

国内起債市場を斬る 起債評価:12/11~12/15

2023年の起債シーズンも、社債等が募集されるほぼ最後の週になる。1年前のこの週の募集状況を見ると、地方公共団体金融機構のFLIP債に加えて、銀行持株会社とガス会社の劣後債があり、それに野村総合研究所の三本立ての起債が見られている。今年は地方公共団体金融機構の5年債・10年債・20年債の定例募集がこの週にずれ込んでおり、FLIP債は募集されていない。金利水準が上昇したこともあって、劣後債の募集は銀行関連で少し見られるが、事業会社による劣後債の募集は減少している。上昇した国債利回りに加えて、信用スプレッドと劣後プレミアムを加えると、出来上がりの調達コストは従前より大きく上昇した形になってしまうのを嫌ったものだろう。もっとも、今後金利が更に低下するという見透しは難しく、少なくとも日銀が人為的に押下げて来た利回りが中立的な水準にまで戻ることを考えると、早めに社債等で資金調達しておくことを考える発行体も出て来ることだろう。今月の金融政策決定会合が終ってしまうと、もはや年内に社債等を募集するのは難しい日程であるが。

地方公共団体金融機構以外に社債等を募集したのは、民間の3社のみであった。アコムは3年債250億円を募集している。日銀が継続している社債買入れオペの対象になることが期待されることもあるが、0.55%とクーポンが随分と高水準になっている。マイナス金利政策の解除がすぐに行われる可能性は高くないが、短い年限の金利水準もこの1年で大きく上昇していることが確認できる。

残りの2本は、いずれも5年債が募集されている。昨今の起債市場では、国債利回りが全体に上昇しており、実際にイールドカーブは概ね2013年4月の異次元の金融緩和導入直前のものと概ね同程度の位置にある。そのため、5年債でも十分に高い利回りが得られる状況となっており、5年債での調達が多く見られる傾向にある。まず、23年ぶりに社債を募集した古河機械金属は、JCRのBBB+格という評価もあって、クーポンが1.2%と高くなっている。1%の利回り確保に汲々として来た投資家としては、信用力の評価として投資可能と判断できるならば、十分な投資妙味を感じられるだろう。

もう一つは、住友不動産が0.628%クーポンで300億円の社債を募集している。かつて格付の片脚がいわゆる投資適格を下回った発行体から見れば、現在のR&I及びJCRからAA-格と高評価を得ているのは、隔世の感がある。しかも、グリーンボンドの認証を得ていることで、国債対比のスプレッドは+32bpsと発表されている。国債と同程度の信用力を有すると目される地方公共団体金融機構の5年債が、国債対比+10bpsで募集されたことを考えると、R&Iの評価で2ノッチ下回るだけであるものの、22bpsしかスプレッドが異ならないのは衝撃的ですらある。ここまでで、実質的に年内の社債等の募集は終了すると見られるが、金融政策決定会合が19日に終了した後、ギリギリのタイミングで募集があるかに注目したい。

国内起債市場を斬る 起債評価:12/4~12/8

前週は12月1日(金)に大量の社債等が募集されていたが、この週も年末を控え少なからずの募集が見られ、各曜日に広く分散する発行となった。休日明けの月曜日には募集されないし、水曜日はみずほリースの1件のみ。結果として、木曜および金曜と週後半に募集が集まって来るのは仕方ないだろう。まず、業種が多岐に渡っているのが一つの特徴である。一般に起債シーズンで早期に社債等を募集するのは、電力やノンバンク、銀行といった起債に慣れている発行体であり、その後、メーカー等がおもむろに登場して来る展開が普通である。そのため、シーズンの後半はメーカーやレアな発行体が目立つことになりがちである。もっとも、ノンバンクに関しては発行体の数が多いこともあり、満遍なく募集されているようにも見える。

実際にこの週に募集された社債等の顔触れを見ると、まず大分類でメーカーに含まれるのが、三菱電機と日立製作所が電気機器、レンゴーはパルプ・紙、日本ピラー工業は機械、アシックスはその他製品とバラエティーに富み、メーカー以外の業種でも、戸田建設と長谷工コーポレーションは建設、ヤマタネとアルフレッサホールディングスは卸売、FOOD&LIFE COMPANIESは小売、JR九州とNIPPON EXPRESSホールディングスは陸運、みずほリースとクレディセゾンはノンバンク、イオンモールは不動産と様々である。その他に財投機関債を募集したのは、都市再生機構はフリークエントイシュアーであるが、福祉医療機構と沖縄振興開発金融公庫は時々しか出て来ない銘柄である。

この週に社債等を募集した企業を見ると、多くが起債頻度の低いレア銘柄であることがわかる。中でも、NIPPON EXPRESSホールディングスと日本ピラー工業、アルフレッサホールディングスはいずれも第1回債を募集している。また、回号が一桁の社債を募集した発行体も、アシックスにFOOD&LIFE COMPANIESと複数見られている。こうした初回やレア銘柄で多様な業種が社債等を募集するのは、社債募集シーズンが間もなく終わるということの表れでもある。

募集された社債等は金利の先高感がある中でも、レア銘柄を中心に投資家の需要を集めており、概ね順調に消化しているようである。また、このようにレア銘柄が頻出する中でも、SDGs債の募集は続いている。グリーンボンドとして募集されたのが、ヤマタネの3年債、JR九州の5年債(10年債は通常の社債)、三菱電機の5年債及び10年債、日立製作所の5年債(7年債と10年債は通常の社債)、日本ピラー工業の5年債、イオンモールの5年債(他の年限は通常の社債)で、ソーシャルボンドはアルフレッサホールディグスの5年債と福祉医療機構の10年債で、サステナビリティボンドは都市再生機構の5年債及び10年債と沖縄振興開発金融公庫の10年債であり、サステナビリティリンクボンドとして募集されたのがみずほリースの4.5年債(償還2028年6月12日/利率=0.639%/発行価格100円)と、様々な種類が登場している。もう1週間ほど年内の起債シーズンは続く日程であり、起債観測は複数上がっているようだ。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/27~12/1

ひとつ前の週は、「勤労感謝の日」による飛び石連休であったため、社債等の募集は例外的に22日(水)に集中したが、この週は木曜、金曜と徐々に盛り上がって行く展開になった。中でも月の変わった金曜日には、個人向け社債を含めると計23本の社債等が条件決定されており、年末に向けての動きが目立つ展開となっている。しかも、年末に向かっているというタイミングだけでなく、足元で米国の金利動向を受けて、日本の長期金利も少し低下して来たことが、発行体の募集意欲を高めており、投資家側もクーポンが高いうちに買ってしまいたいという想いに駆られているようだ。水曜からの募集案件は数多くなったが、募集した社債等の消化に苦労したという話は聞こえていない。

29日(水)に募集されたのは、ノンバンクと化学メーカーの社債であり、中でも旭化成の3年債・5年債・7年債・10年債の4本立て計600億円が目立っている。水準が下がったとはいえ、10年国債利回りは未だに0%より高く、R&IとJCRからAA格の高い評価を得ている旭化成の10年債が1.232%クーポンというのは、十分な投資妙味があると感じる投資家も少なくないだろう。30日(木)には、ダイビルの5年グリーンボンド120億円の他、JERAが通常の社債計400億円、JCRのBBB+格を取ったイチネンホールディングスは1.3%クーポンの3年債100億円を募集している。

案件集中日となった1日(金)は、個人向けの電力債を九州・東北・北海道・北陸・四国の5電力が条件決定している。北陸電力のみ5年債で、他は3年債である。また、九州電力は、別途、機関投資家向けに円Tibor連動の5年物変動利付債150億円を募集している。中期年限も金利がこれから上がると考えるならば、5年物の変動利付債は面白い投資対象であろう。なお、九州電力は個人向け3年債には、R&IのA格とJCRのAA-格を取得しているのに、機関投資家向けの5年物変動利付債には、R&IとJCRの2社に加えて、ムーディーズのA3格も取得している。個人投資家にムーディーズの格付けは不要であるという判断とも考えられるが、格付手数料を抑える効果もあると考えたか、変動利付債の購入者に海外の投資家が含まれる可能性も否定できない。

電力債以外にメーカーの社債が多く募集されたのも目立つが、他にも銀行劣後債や建設、通信業等発行体の業種はバラエティに富んでいる。また、相変わらずのSDGs債も多種多様で、東洋紡の5年サステナビリティリンクボンド100億円、西日本高速道路の2年及び5年のソーシャルボンド計600億円、カネカの5年ソーシャルボンド100億円、名古屋銀行の10年期限前償還条項付劣後グリーンボンド100億円、メタウォーターの5年ブルーボンド100億円、新関西国際空港の20年及び30年ソーシャルボンド計200億円、水資源機構の3年サステナビリティボンド100億円と、発行体の業種が様々なのに加えて、年限もバラエティ豊かである。財投機関債に分類される水資源機構債が3年で、財政投融資計画に基づかない新関西国際空港の社債が20年及び30年の超長期債を募集しているのは面白い。関西国際空港と大阪国際空港の管理等を担当する新関西国際空港は、取得している格付けの符号は日本国債を下回るものの、実質的な政府保証があるとみなしている投資家が多いのだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/20~11/24

近年の社債等募集は金曜日に集中する。前日が営業日でない月曜は海外市場の動向を確認するために動かず、火曜と木曜は国債の入札が入ることが多いため見送られることが多くなり、消去法で週最後の金曜に社債等の募集が集中するのが典型である。ところが、この週は木曜が「勤労感謝の日」で祝日になっており、前営業日が休日だと社債等の募集が入らないというルールが優先される。そのため、この週の社債等の募集は、22日の水曜に集中した。やれば他の週でも水曜に募集できることの証左なのであるが、追い込まれないとやらないのは人間の性なのかもしれない。なお、この週は、火曜にも大和証券グループ本社が個人向けを含めて計4本1,860億円の条件を決定し、清水建設も5年のグリーンボンド100億円と10年債50億円を募集している。

珍しく水曜に社債等の募集が多く集中した中で、募集金額という意味では、NTTファイナンスの4本立て計2,200億円が圧倒している。かつてはNTT本体が社債等を募集していたものが、ここ数年はファイナンス子会社による社債募集が定着している。NTTの起債運営は古くから発行市場での信頼を勝ち得ており、しかも、グリーンボンドの認定を得ていることもあって、まとまった大きな金額でも消化に問題はない。3年債300億円・5年債900億円・7年債100億円・10年債900億円と、国債と同じ主軸年限の募集額を厚くし、それ以外の金額は抑えるという運営は適切であろう。国債対比のスプレッドプライシングが5年債以上で行われており、R&IのAA+格及びJCRのAAA格と日本国債と同じ符号を得ていながら、5年債で+35bps、10年債で+51bpsとやや厚いスプレッドが乗っている。結果として10年債のクーポンは1.213%という出来上がりであり、投資家への訴求は十分であったと考えられる。

その他にも、様々なラベル付きの起債が多かったのが、この水曜の特徴である。東日本高速道路の2年債200億円はソーシャルボンド、三菱マテリアルの5年債200億円はトランジションリンクボンド、京阪神ビルディングの7年債50億円はサステナビリティリンクボンド、SUBARUの7年債130億円および10年債100億円はグリーンボンド、西日本鉄道の10年債100億円もグリーンボンドと、サステナビリティボンド以外のほとんどの類型が出揃っており、しかも一時は起債が減ったのではと言われていたグリーンボンドがNTTファイナンスも含めると、計2,530億円と最大額の募集となっている。

なお、三菱マテリアルの5年トランジションリンクボンドは、SPTsを未達の場合に利率がステップアップし達成した場合にはステップダウンすることも可能な枠組みのプログラムでの募集であるが、利率の変更が適用されるのはリンクローンであって、債券に対しては未達の場合に寄付もしくは排出権を購入するという日本で一般的なリンクボンドの形式を採用するようである。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/13~11/17

ようやく3月期決算企業の上期末決算発表時期が終わり、起債市場にも社債等の募集が戻って来た。木曜日に募集された案件は、グリーの3年債60億円とポケットカードの5年債100億円とややレアな銘柄であったが、17日の金曜日に募集されたのは、商社や電力、メーカーの社債と合わせてバラエティをかもし出しており、これから12月中旬までの募集期間に起債市場の盛り上りを期待させるものとなった。この背景には、年末に向かう時期的なものがあることに加えて、金利の先高感が弱まったことで、発行体側も社債等を募集し易くなったものと考えられる。

社債等の他に、17日の金曜日に初めて募集されたのが、グリーン共同発行債と呼ばれる複数の地方公共団体によるグリーンボンドの発行プログラムに基づく10年債であった。地方債の10年共同発行市場公募債は平成15年に始まる長い歴史があり、道府県と政令指定都市からなるプログラムに参加する複数の地方公共団体による共同の発行である。地方財政法の規定から共同発行債の信用力はストロングリンクするものと考えられ、プログラムに参加するもっとも優良な地方公共団体と同等と考えられている。東京都がプログラムに参加していないものの、参加する複数の県や市にR&IがAA+格を付しているため、符号としては日本国債と同水準と見て良いだろう。この11月9日に募集された第248回債は、0.948%クーポンで715億円が募集されている。対国債カーブ対比でのスプレッドは+9bpsであった。

今回初めて募集されたグリーン共同発行債は、ベースは同じ共同発行プログラムに基づくものの、グリーンボンドに求められる募集時やその後の継続的な情報開示をまとめて行うことで、各地方公共団体の煩雑さを簡略化する試みである。総務省自治財政局地方債課が国のグリーン推進プログラムに沿って進めて来た取組みでもあり、時代の流れに沿った画期的な取り組みであったと言えるだろう。なお、具体的に参加する地方公共団体は、今月の通常の共同発行債よりも多くなっている。

今回の第1回グリーン共同発行市場公募地方債は10年債で、0.846%クーポンの500億円が募集された。対国債のカーブ対比でのスプレッドは+7bpsとされており、通常の共同発行債に比べると2bpsほどタイトなスプレッドを実現されている。この差分がグリーニアムと理解される。個別の地方公共団体がグリーンボンドを発行しても、なかなか明示的なグリーニアムを考慮した低廉な起債は難しかったが、共同発行の枠組みを利用し同じ月に募集したことで、グリーニアムの存在が明確に確認されたものである。しかし、グリーニアムはわずかに2bpsであり、市場利回りの変動から見れば必ずしも大きな幅ではない。特に、実際のクーポンを比較すると、9日に募集された共同発行債から、クーポンは10.2bpsも低下している。結局のところ、ベースとなる国債利回りの低下幅がグリーニアムより遥かに大きかったのであり、グリーニアムの効果はわずかでしかないことが確認できたと言っても良いだろう。

国内起債市場を斬る 決算発表期特別号:再び社債市場の活性化が俎上に

前週は3月期決算企業の上期末決算発表のピークとなり、地方債や財投機関債等の募集は見られたものの、民間企業による社債の募集はなかった。そのため、今回は今秋になって再燃している社債市場の活性化に向けた検討について言及したい。具体的には、10月に行われた日本証券業協会の会長定例会見で、検討の再開が明らかにされたものである。同会のHPに上げられている協会長との質疑応答から、検討の主な柱になりそうなものを抜き出すと、「投資家の方々が、きちっとしたリスクをとった中で、しっかりとした見返りがあること、加えてリスクをある程度低減できる方策として、コベナンツの問題、情報の平等性の問題、あるいは担保設定の問題といったものがアメリカのマーケットに比べて遅れている部分があるため、それは見直していかなければいけない」という説明である。

今季の検討に際しては、資産運用立国を推進する流れの中で、金融審議会の市場制度ワーキンググループにおいて改めて社債市場における課題が金融庁から論点として提示されている。具体的には、社債権者を適切に保護する観点から、市場への適切な情報提供と、社債・融資のイコールフッティングの二つの論点が指摘されている。これらは決して新しい論点ではなく、従来から課題として認識されていたものではあるが、改めて検討されることとなったものである。日証協からは、コベナンツの付与や開示とパリパスの確保、社債管理補助者の活用などによる適切な債権保全といった対応策の方向性が示されている。

もっとも、今回の検討の契機の一つとなった資産運用立国に関する議論の関連で、社債市場の活性化として加えられているスタートアップ企業の資金調達を円滑化するといった視点は、上場企業ですら活用が進まない社債市場を、スタートアップ企業が一足飛びに利用できるようになるとは到底思えない。しかし、コベナンツや社債管理補助者を付すことによって、9月に無格付けで社債を募集したジャパンインベストメントアドバイザーのような取り組みの例も見られていることから、従来の発想から飛躍した取り組みが今後行われる可能性は否定できない。

日証協では、既存の「社債市場の活性化に向けたインフラ整備に関するワーキンググループ」を改組し、今月以降に複数の論点について精力的に検討した上で、今年度末を目途に報告書を取りまとめ、報告書の提言を基に来年度以降、更に具体的な検討を進める計画を公表している。社債市場の活性化については、ワーキングの親懇談会が設置されてから14年が経過し、コベナンツモデルや社債管理補助者など幾つかの検討成果が形になってはいるものの、利用されている事例がほとんどない。資産運用立国という政府の大きな旗振りによって、今回の検討が少しでも進展するかどうかを見守りたい。今は銀行融資に隠れて活性化していない社債市場ではあるが、将来的に企業も銀行も金余りの状態ではなくなった時に、資本市場を活用できるように道筋を整えておくことが有意義なのである。

国内起債市場を斬る 秋季特別号「社債型種類株を考える」:10/30~11/3

3月期決算企業の上期末決算発表の時期に当たり、この週に社債そのものの募集はなかったが、社債に近い証券の募集が行われたので、代わりに取上げてみたい。銘柄は、ソフトバンク第1回社債型種類株である。かつての日本においては、株式と言えば普通株をさすものとされており、普通株という表現はあまり見られなかったが、近年になって、普通株以外の株式も少しずつ見られるようになっている。中でも、もっともよく見るのが優先株であろうか。株主総会での議決権を持たなかったり、残余財産に対して普通株よりも優先的に請求権を有するとか、普通株とは異なる取扱いがされる株式であり、劣後債と同様にハイブリッド証券と呼ばれることもある。しかし、片仮名表記をすることで、証券の特性を誤解させるようなことがあってはならない。正式な名称をきちんと顧客に伝えるのは、販売会社の義務であろう。

10月31日まで募集されて11月2日に東京証券取引所のプライム市場に上場されたソフトバンクの第1回社債型種類株は、社債型と付されるように、配当として当面年率を2.5%で支払うことが約束されており、固定利付きに近い性格を有している。本種類株の配当には普通株式への配当に優先する累積型とされているが、固定率を上回ることがない非参加型である。一方で、配当率の固定は2029年3月末までであり、その後は1年国債利回りに3.182%を加えた変動する率に基づくこととされている。この部分は劣後債などに似た証券の性質である。一方で、株式であるから満期償還の概念はないが、普通株への転換権は付されていない。劣後債より優先株に近いと見るのが妥当だろう。満期償還の概念はないものの、2028年11月以降に、発行体が金銭で投資家から買い取ることが可能とされているのも、優先株などに類似した構造である。

株式に近い特性としては、既に述べたように東証プライム市場に上場されており、単元株である100株単位での売買が可能である。募集時点では4,000円の価格で3千万株が募集されたため、計1,200億円が調達されており、資金使途は、「生成AIを用いたサービスの実現、次世代社会インフラの構築、再生可能エネルギーの開発・調達など中長期的な企業価値の向上に資する成長投資資金または基地局・ネットワーク設備等の設備投資に充当」するとされている。11月2日に上場された後は、募集価格の4,000円を下回っていないが、翌営業日の11月6日も高値は4,040円に留まっている。個人投資家から機関投資家までの幅広い投資家が購入対象とすることが可能なものの、大幅な値上がりとはなっていない。

2.5%という配当率は、ソフトバンクが7月に募集した社債よりは当然高い利回りであるが、普通株の配当利回りが5%前後であることを考えると、まさに半分の水準である。ちなみに、格付会社も本件種類株を50%の資本性と評価しており、普通株の半分くらいにあたる証券という理解が適切なのかもしれない。今後の種類株の価格変動が大きなものでなければ、市場参加者の理解が固まって来ると考えられるし、追随する発行体が出て来るかもしれない。何れセカンダリー市場の拡大に繋がれば、東京市場の存在向上にも貢献することを、少し期待するところだ。