国内起債市場を斬る 起債評価:3/19~3/23

前週、某紙に報じられたように、今年最後の社債募集は20日のSBIホールディングスによる3年債と5年債の2本立てとなった。近年の年度末最後の社債募集を見ると、2017年3月は15日の大王製紙・東京建物・名古屋銀行(劣後)であったし、2016年3月は11日のサッポロホールディングス・三井不動産・SBIホールディングスといった顔触れであった。SBIホールディングスは、2年前も年度内最後の起債を行っていたのだが、11日と20日ではまったく日程が異なる。ちなみに、2015年3月は13日のオリエンタルランド、2014年3月は19日の光通信・タカタと今年と同じくらいのギリギリ起債であった。しかし、後に破綻したタカタの名前がこのようなところで上がって来るのは、意味深であるのかもしれない。

2016年3月にSBIホールディングスが募集したのは、第7回3年債150億円であった。今回は第13回3年債180億円と第14回5年債180億円である。格付けは、2016年当時からR&IのBBB格であったが、クーポンがまったく異なることに驚かされる。第7回3年債は1.1%クーポンと、現在ではまったく考えがたいような水準である。今年募集された社債のクーポンは、3年債が0.45%と半分以下で、5年債ですら0.7%である。既にマイナス金利政策による影響があった時期であるから、ベースとなる金利水準自体の変化ではなく、SBIホールディングスに対する投資家の信頼度アップや利回りを求める姿勢の強さ等が反映されたものであると考えられる。今回の起債に際しても、両年限100億円程度の募集予定が各180億円まで積み上がっており、投資家の購入ニーズの強さを反映しているのである。

年度内の起債は終わりを告げた。引き続き株価は不安定さを見せているものの、リスクオフ展開の影響から10年国債利回りは低下気味にある。期間収益を意識する投資家は新年度入りして早々の社債購入を希望する可能性もあるが、低過ぎる利回り水準を嫌気して、国内クレジット投資から手を引いてしまう可能性もある。金利水準次第では、新年度の投資家の社債購入姿勢は、大きく変化するだろう。特に、米国の利上げ見通しと株価の状況次第で、日本の社債か米国の社債かを選択する可能性があり、為替や周辺市場からも目が話せない展開になるものと考えられる。既に幾つかの銘柄の起債観測が確認されており、ブラック企業や事業会社の劣後債とかも名前が上がっているようだ。4月の10年長期国債の入札は3日の火曜日に予定されており、早ければ第一週から起債に向けた動きが高まることだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:3/12~3/16

どうやら今年末は、いつまでも社債の募集は終息しないようだ。16日が最後の募集日になるかと思われたが、この日に募集された社債の払込日は23日か26日であり、月内払い込みの「駆け込み起債」という意味では、まだ数日の余裕は残っている。20日に募集するという起債観測も上がっており、なかなか年度末とならない。既に某起債評価の年度内ノミネートは締切られており、これらの起債は対象外になってしまうものと思われる。

12日からはじまる週の債券募集はサムライ債等があり、16日の金曜日になって、社債の募集が行われる展開となった。しかも、野村総合研究所は、円建ての10年債と同時に、オーストラリアドル建ての5年債も募集している。短中期の募集は日産フィナンシャルサービスの3年債250億円及び5年債150億円、光通信の5年債といった顔触れが並んだ。長期債では、野村総合研究所の10年債200億円に住友倉庫の7年債50億円があった。そして、超長期債が、光通信の15年債400億円及び住友倉庫の20年債100億円である。

これらの中でもっとも売行きの良かったのが、光通信の15年債だっただろう。100億円程度の発行予定で募集が開始された後で、最終的には400億円の発行となったのである。そもそも光通信の格付けは、R&IのBBB+格及びJCRのA-格であり、過去の買入償却事件や業績の大幅な変動もあって、超長期の与信に耐えられる銘柄とは考え難い。それでも投資家の人気が集まったのは、1.79%という高いクーポンである。8日に募集された三菱地所の40年債のクーポンは1.313%であり、それよりも40bps以上高い利回りだったのである。三菱地所の40年債でさえ、不動産に対する40年の与信が懸念されるところであるが、光通信への15年の与信も決して安全とは思えない。投資家の尺度は、目先の絶対水準に惑わされて、「背に腹」の判断を下さざるを得ない状況に変わりつつあるのかもしれない。

その他の起債についても、総じて順調な販売状況であった。投資家も年度内の募集が残り少ないことを認識しており、資金消化と利回り確保とのバランスを考えざるを得ない。金利の先高感がない中では慎重に案件を見極めて行くしかないが、債券の保有期間というタイムホライズンを意識して発行体や業種を評価しないと、現状がいつまでも続くことはない。物価は、日銀が引上げようとしても上がっていないし、金利は日銀の強いコントロール下にある。これらの動きが変われば、物価が上がって、日銀が金利操作を放棄することも予想できる。それが、何年後に来るか誰も計ることはできないが、投資家の保有する債券の価値が激変することは、間違いないのである。

国内起債市場を斬る 起債評価:3/5~3/9

いよいよ社債等の募集される日も、年度内残りがわずかになっている。普通に考えても、3月12日からはじまる週が最後であると考えられる。それでも、まだ起債観測の上がっているものが複数あり、金曜日の16日まで募集が散発される可能性が高い。投資家としても引受証券会社としても、分散するのは歓迎であろう。

既に3月5日からはじまった週でも、債券の募集はパラパラといった感じである。特に、日銀の金融政策決定会合を意識したということはなく、むしろ慌てて起債する発行体が少なく、投資家も年度末が迫ったからといって、社債等に対する投資スタンスが変わるものでもない。メーカーの起債が本数として目立つ中、圧倒的な人気で消化されたのが、不動産銘柄であった。

まず、6日に野村不動産ホールディングスが40年及び42年の劣後債を募集している。いわゆるハイブリッド証券と呼ばれるものである。格付けは劣後性を反映して、R&IのBBB格とJCRのBBB+格である。一般的にBBBゾーンの普通社債で超長期年限のものを購入する投資家はいないだろう。それが、ハイブリッド証券などという美名を付されると、手を出してしまうのが一部の投資家の浅はかなところである。確かに、40年債は10年経過後に、42年債は12年経過後に期限前償還条項が付されており、発行体がコールオプションを有している。クーポンのステップアップ幅は、いずれも100bpsである。ハイブリットなのは発行体であって、10年や12年経過した時に、金利水準そのものがどうなっているのかというリスクを、どう捉えるかである。

また、不動産業界や野村不動産ホールディングスの状況がどうなっているだろか。いずれにせよ、これらの劣後債を単純な10年債や12年債と考えて投資するのは誤りである。金融庁によって期限前償還を監視されている金融機関とは異なり、事業会社の場合には、平気で、経済合理性の観点から期限前償還の適否を判断するだろう。仮にまったく期限前償還されなかった場合、不動産会社の社債に対する40年や42年の投資は正気の沙汰でないだろう。1980年代に不動産を含むバブル経済が膨れ上がったのは、30年ちょっと前のことでしかない。40年も先のことを見通せる業界ではないだろう。

そういう意味では、8日に募集された三菱地所の40年債も悩ましい存在である。野村不動産ホールディングスの40年物劣後債は、当初10年のクーポンが1.3%であった。一方、三菱地所の40年債はシニア債であるものの、クーポンは1.313%である。野村不動産ホールディングスの劣後債は、クーポンのステップアップが予定されており、一方で、10年経過時点以降に早期償還される可能性がある。劣後債であるから、当然、発行体の破綻時には債務の回収可能性が低い。三菱地所の40年債はシニアであるから、元本は優先的に回収できる。しかし、40年間のクーポンはフラットである。丸の内の大家と呼ばれる同社に関しては、信用力の低下を懸念する必要性は小さいかもしれないが、南海トラフや東京直下型での地震発生を考えると、今後40年間で大きな損害を受ける可能性は小さくない。やはり不動産会社に対する40年とかの与信については、より慎重に考えるべきではなかろうか。安易に現在のクーポンの絶対水準だけを見て投資を行うと、将来のファンドマネージャーが涙することは必至であろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/26~3/2

機関投資家向けに募集される新発債券の一般的な条件決定は、3月中旬までである。したがって、2017年度の起債市場もあと10日程度といったところだろうか。既に市場関係者のところには、起債評価機関から年度の起債評価に関するアンケート用紙が届いていることだろう。もっとも近年は、用紙というよりも投票様式だったり、オンラインの入力案内だったりといった形態であるようだ。

基本的に、日銀によるイールドカーブコントロールが続いて、多少長期金利が動いたものの、概ね金利水準はコントロール下にあったと言って良い。加えて、日銀はしつこく3年以内の社債買入を実施しているのだから、極端な格下げ銘柄や経営不安銘柄を除いて、社債のスプレッドが拡大することも考え難い。こうなると、起債に関する評価は売れたか売れなかったかという要素よりも、起債運営が適切に行われていたか、セカンダリーの実勢を発行条件に反映していたか、といった要素の色が濃くなる。債券が投資家に売れて当然な市場環境だからである。2月23日のように、募集された社債がいずれも苦戦したというのはレアな日であり、金利の変動についても、本来はスプレッドプライシングで対応できるはずのものである。日銀によるマイナス金利の導入でスプレッドプライシングの機能が低下している年限であれば、金利水準の変動が激しい状態に陥ると、債券の値決めが容易でなくなる。日銀は機能低下を否定するが、こういった状況こそが市場による価格発見機能の阻害に他ならない。官僚のような言葉遊びに陥ることなく、率直かつ真摯に市場の声に耳を傾けることが、中央銀行に望まれる姿勢であろう。

年度末が近付いても、慌てて債券を募集する動きは見られない。金利の先高感については、黒田総裁の再任が提案されたことで、政府による金融緩和の継続期待が明確に示された形となり、2月頭の金融市場に大きな変動以前に戻ったと言って良いだろう。欧米の経済回復が良好で金融緩和が縮小され、米国が利上げを複数回実施したとしても、日本の金融緩和は容易に揺るがないということなのだろう。特に、株価が大きく下げて戻って来る局面でも、為替が概ね円高に推移したことは、為替市場が転換期にあることを示唆している可能性がある。かつてのような円高イコール株安という図式が成り立たなくなっているのかもしれない。今後の展開に注意すべきだろう。

メーカー等のレア物の起債が行われ、投資家の購入意欲はなかなかに強い。フリークエントイシュアーの社債も含めて、概ね順調に新発債が消化される展開となっている。投資家が3月の声を聞いてスタンスを変えたというよりも、市場実勢に配慮したプライシングが行われていることのようである。特に、超長期債に対する投資家の需要は強いようである。ただし、そのことが必ずしも発行体に対する超長期の与信を是とした行動でないことには留意しておきたい。期限前償還条項の付された劣後債も含めて不動産セクターの40年債に対する与信については、今から40年前がバブル経済の萌芽もなく、二つのオイルショックの狭間であったことを思い浮かべると容易であろう。あなたは40年間その債券を持ちきれるか?純粋な民間事業会社にとって期限前償還条項の使用不使用は、経済環境や事業環境を考慮した経済合理性によって判断される。現状以上の更なる金利低下は考え難いが、金利が上昇していれば、低利付債に含み損が発生している可能性は高い。20年や30年後の担当者に、その処理や負担を押し付けて良いのか?投資家はより慎重に超長期の与信が意味することを考えておくべきだろう。