国内起債市場を斬る 起債評価:4/16~4/20

いよいよ起債市場がフル稼働を開始した。と言っても、もう1週間でGWになるし、3月期決算の発表を迎えるタイミングであるために、起債がどんどん出て来るということはない。本数という意味では、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債が17本もあったために、大きくなっている。一方で、発行体の顔ぶれとしては、相変わらず公共セクター、ノンバンク、電力が目立っているが、前週に引続き、メーカーの社債も少なからず募集されている。

この週の起債で一つ注目すべきなのが、25年債の募集であろう。新発国債の年限が10年、20年、30年という刻みになっているため、間の年限の募集は多くない。まだ、15年債の募集は時に見られるが、25年債というのはレアであろう。そもそもイールドカーブのフラットニングが日銀による金融緩和で促されていなくても、超長期年限のカーブはコンベキシティ(Convexity:コンベクシティは、デュレーションの直線に対して、凸状の曲線となる)の影響を受けて、なかなか立ち難い。その中で、25年債は20年債に対して利回り面での投資家にとってのアドバンテージが出にくいのである。一方で、発行体側からすると、なぜ25年債なのかというのが、内部的には説明が容易でない。そもそも20年を超える超長期債の募集をできる業態が限られることに加えて、30年債を募集すれば足る可能性が高いのである。状況によっては、25年債を設定することで、利回りが特定のハードルレートを超える可能性もあろう。しかし、この週に募集された25年債は、日本政策投資銀行と四国電力である。前者は0.723%クーポンと、意識されたかもしれない0.75%に満たないし、同様に、後者も0.962%クーポンと1%の絶対水準を確保できていない。結局のところ、中途半端な起債にしか見えないのである。いずれの起債もみずほ証券による単独募集であり、今後、25年債が市場に定着するかどうかに注目しておきたい。

もう一つの注目銘柄は、サントリーホールディングスのハイブリッド債である。60年債であるが、期限前償還条項の付された劣後債であり、5年経過以降、複数回のクーポンステップアップがスケジュールされている。当初5年の0.39%から、6ヶ月円Libor対比+57bps、同対比+82bps、同対比+157bpsとクーポンのスプレッドが拡大することで、期限前償還を誘導するのであるが、果たして長期間経過した時のサントリーホールディングスの信用力はどうだろうか。なまじ食品という人間のもっとも基礎的な生活財を取扱っているために、風評被害等のヘッドラインに晒(さら)されがちである。昨今の健康ブームの中で、アルコール飲料からサプリ等の健康食品へのシフトは顕著に見られるが、海外展開の遅れに懸念は強い。もっとも、全般的に日本のビール、食品メーカーの立ち遅れは、日本の人口減少を考えると、現状維持ですら容易でないと見ざるを得ない。果たして無事に早期償還されるのだろうか。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/9~4/13

前週に募集された銘柄は、財投機関、電力、ノンバンクに商社と鉄道という顔触れであったが、この週は、ノンバンクに電力、地方公共団体金融機構に化学メーカーとなった。前週からの再登場がノンバンクに電力で、目新しいのが化学メーカーである。

 

前週に募集された電力債は、中国電力、北海道電力に北陸電力であったが、この週に東京電力パワーグリッドと関西電力が募集した結果、残りは中部電力、東北電力、四国電力、九州電力、沖縄電力となった。前年の4月は、中国電力・北海道電力→関西電力→東北電力→北陸電力→九州電力といった募集順であった。東京電力パワーグリッドの募集は昨年度前半が安定していなかったために外すとすれば、順当に電力債の募集が進んでいると言って良いだろう。

 

今週は、東京電力パワーグリッドと関西電力がともに10年債を募集している。前者のクーポンが0.77%で、後者のクーポンが0.435%と水準が大きく異なっている。関西電力の20年債はクーポンが0.759%と、東京電力パワーグリッドの10年債を下回っている。投資家がどの銘柄・年限を好むかは、自明であろう。ただし、東京電力パワーグリッドの格付けは、BBB+(R&I)格及びA(JCR)格と、関西電力のA(R&I)格及びAA-(JCR)格と各々2ノッチの差がある。この差が利回りの違いにどう反映しているかを考える必要があるだろう。

 

化学メーカーとしては、住友化学が10年債200億円及び20年債300億円、DICが5年債100億円を募集している。年限の面で無理のないのは5年債だろうし、利回りで魅力的なのは20年債であろう。住友化学の20年債は0.9%クーポンであり、同日に募集された地方公共団体金融機構の30年債の0.85%クーポンを上回る水準である。20年債は当初200億円程度の募集予定から、募集金額が300億円に増額されたが、10年債は200億円に留められた。引続き、年限によっては、慎重な発行条件の決定が必要であるということだろう。

 

ノンバンクの社債は年限が中短期、超長期と分散しているが、いずれも消化状況は良好なようである。特に、クレディセゾンの20年債は、ノンバンクとしては長過ぎると思える20年債であるが、0.99%クーポンとすることで、投資家の需要を集めたようである。3年債については、もはや日銀オペ見合いの強いニーズがあることは否定する必要もないだろう。株式ETFの購入もそうだが、日銀による強力な金融緩和の副作用が随所に現れている。金融政策で掲げた目標を達成できるのであれば良いが、副作用ばかりが顕在化しており、これが長期に続いていることをどう考えるべきか、そろそろ真剣に議論すべきと考える。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/2~4/6

2018年度の起債市場の幕開けである。当然のように、10年長期国債の入札から10年物市場公募地方債と進んで、それから財投機関債や民間の社債の募集となる。もっとも現在では、市場公募地方債も個別に条件が決定されるために、10年債だけを取っても、募集は2週間程度で分散して行われる。社債や財投機関債は、さらに、日程が区々である。もっとも、近年は休み明け直ぐを避け、追い詰められたかのような金曜日の募集が多く見られている。実際のところ、募集に関しては当日の午前中にはほぼ終わっているだろうから、すっきりして週末を迎えられるということだろう。

今年度の頭は、いつもの顔触れと言って良いだろう。財投機関、電力、ノンバンクに商社と鉄道が加わって、業種としてはお馴染みのところである。財投機関債は、日本政策投資銀行の3年・5年・10年の三本立てに、住宅金融支援機構の5年・10年・20年の三本立てが募集されている。前者は合計900億円、後者は合計700億円で、二つの発行体だけで系1,600億円を募集したのである。もっとも日本政策投資銀行は3年債200億円と5年債400億円、住宅金融支援機構は5年債500億円で、中短起債のウェイトが大きく、市場を荒らすような展開とはならなかった。

電力債は、中国電力10年、北海道電力10年・20年、北陸電力20年と発行体3社が募集したものの、金額は合計でも700億円に留まっている。月央にも東京電力パワーグリッドの起債観測があるようで、投資家は無理して購入していないようだ。結果的に、割高感のあるタイトなスプレッドとなった中国電力の10年債は苦戦したようである。どうも10年債が苦戦する傾向にあるのは、住友商事の売行きでも同様である。住友商事は今回の起債が第55回債と決してフリークエントイシュアーではないのでレアモノ、グッドネームを期待するところだが、利回りが思わしくないと年度初めだからといって、投資家が飛びつくようなことにならない。

相変わらず売行きの良いのが、20年債であることは言うまでもない。北海道電力のクーポンが0.754%、西日本鉄道が0.753%と、10年債0.3~0.4%程度のクーポン対比では倍近い。年間の利息収入を確保するという目的からは、早いタイミングで高いクーポンの債券を買うのが手っ取り早い。しかも、電力や鉄道といった信用リスクが低く安定していると考えられる業種の債券は、より魅力的である。どうやら今年度も、日銀オペ見合いの3年債と超長期債が良好な売行きとなる「ダンベル市場」の可能性が高そうだ。

国内起債市場を斬る 年度初特別号:2018年度の起債環境は

平成30年度である。しかし、予定ではその次の年度は途中で平成31年度から新元号の元年度に変わるために、頭の切替えが求められることになる。官庁では元号の使用が一般的であるが、民間での使用は強制されるものでもない。有名な元号法の文言を見ても、条文は「元号は、政令で定める。元号は、皇位の継承があつた場合に限り改める。」の二つしかない。若者を中心に元号離れが進むのではないか。特に、新しい元号は、次代の天皇陛下がよほど長く公務を取られない限り、平成を大きく越えることにならないのではないか。30年程度の元号が数代続くならば、元号の使用は敬遠されるだろう。

とりあえず、日銀の新執行部を現政権が指名し国会の承認を経たため、金融政策は当面変更がないものと期待される。米FRBは利上げを実施しているものの、長期金利への大きな影響はない。仮に米長期金利が上昇して円安が進めば、日本も金利上昇へと誘導する可能性がわずかにある。しかし、円安は輸入物価上昇を通じて、物価全般の水準を押し上げる可能性がある。そういう意味では、輸出の低迷から企業業績を圧迫しない限り、金融緩和は継続されるだろう。つまり、中東や極東の政治的な混乱による金融市場の変動がない限り、金利の上昇は期待し難いのではないか。

加えて、信用スプレッドの変化もなかなか難しそうである。企業業績は一般的に良好であり、賃金の上昇は限界的であり、その他の物価も不動産路線価格の一部を除いては安定的である。企業収益を押し下げる要素はなかなか見当たらない。東京オリンピック前に建設や不動産がボトルネックに陥る可能性がないとは言えないが、中国マネーの撤退などがあったとしても、信用スプレッドの大幅な拡大に繋がるインパクトがあるとは思えない。規制の変更や資源の枯渇といった外部環境の変化も想定される範囲にはない。

当面、金利先高感がないので、起債が殺到することもないだろうし、投資家も淡々としたスタンスでの社債購入を続けるのではないか。無理して買い急ぐ構造にはないし、タイトなスプレッドの社債を敢えて購入する必要もないだろう。もっとも安倍政権が崩壊した場合に、政府からの支援を失った日銀執行部がどのように判断するかは見物であるが。景気が回復しても失速しても、金利や信用スプレッドの変化を期待できないというところに、日本経済の根深い病根があるようにも思える。