国内起債市場を斬る 起債評価:5/21~5/25

決算発表は終わったが、起債の動きは決してアクティブとは言い難い。まず目立ったのがノンバンク。三井住友ファイナンス&リースが5年債で、三菱UFJリースが2.5年債と7年債・10年債の3本立てを募集している。両社は格付けが、R&IのA+格及びJCRのAA-格で揃っており、どちらもメガバンク系と似たような位置付けである。今回の起債は年限が重ならず、おぼろげながらもイールドカーブが描ける。いずれも、問題なく消化された模様であり、特に三井住友ファイナンス&リースの5年債は、200億円の発行になっている。

次に、前週の民鉄ラッシュ(名鉄・南海・東武・東京メトロ)に遅れて、東京急行電鉄が10年債と20年債を募集している。格付けはR&IのA+格及びJCRのAA-格と、前述のノンバンクと同水準で、東京地下鉄を除く前週の鉄道会社より高水準である。同じ20年債の国債対比スプレッドを比べると、東急電鉄の+19bpsに対して、名鉄が+21bps、東武が+22bps、南海が+34bps、東京メトロが+10bpsという位置付けである。名鉄や東武と比べると、東急電鉄のスプレッドは格付け対比で厚く見える。ただし、スプレッド水準が相対的に厚くても、利回りの絶対水準が低いために、利回りの水準そのものを意識した投資家には好まれない結果ともなり得る。クーポンで見ると、東急電鉄は0.723%で、名鉄が0.748%、東武が0.758%、南海が0.878%、東京メトロが0.638%である。なお、東京メトロの20年債は消化に苦戦しており、東急電鉄も10年債より20年債が売れなかったのは、こうした構造の影響があるのだろう。

募集された金額という意味では、三菱UFJフィナンシャルグループの募集したバーゼルⅢ適格 Tier2債が、10年固定0.535%クーポンで400億円、10年NC5の期限前償還条項付当初0.37%クーポンで600億円の計1,000億円が、最大の貢献であった。

今後期待される起債の顔ぶれとしては、シャイアの買収に要した資金を社債で調達する(厳密には、金融機関からのブリッジローンで買収した後に、社債で固定する)と報じられている武田薬品の起債を待つまでもなく、間もなくファーストリテイリングの4本立て計2,500億円程度や、ソフトバンクの個人投資家向け4,100億円といった巨額の社債募集が予定されており、暫く大型起債によって高水準な募集金額になる展開が確実視されている。金余りの日本の金融市場には相応しいのかもしれない。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/14~5/18

ようやく起債市場の動きが活発になってきた。公的セクター以外に、電力、運輸といった定番の他、メーカーの起債も見られるようになっている。しかし、何と言っても、運輸セクターの20年債が乱れ飛んだのが特徴だろう。運輸セクター以外の20年債は、中国電力の7年債との2本立て、九州電力の10年債との2本立て、日本高速道路保有・債務返済機構の財投機関債が募集されている。ただし、電力と道路機構であるから、運輸とは極めて近いセクターである。

運輸の20年債を含めた起債は、以下の通り募集されている。名古屋鉄道の100億円、南海電鉄の100億円、東武鉄道の100億円と、単体での募集が行われている。それ以外に、東京地下鉄は10年債・20年債・30年債・40年債を各100億円募集しているし、ANAホールディングスも100億円募集している。格付けで並べると、もっとも高いのが東京地下鉄のAA(R&I)及びAAA(JCR)格で、次がA(JCR)格の名古屋鉄道、続いて、A-(R&I)格の東武鉄道とANAホールディングス(ANAホールディングスはA(JCR)格も取得)があり、もっとも低いのがA-(JCR)格の南海電鉄となる。国債対比のスプレッドは、東京地下鉄が+10bpsで、名古屋鉄道が+21bps、東武鉄道が+22bps、ANAホールディングスが+28bps程度、南海電鉄が+34bpsとなる。概ね格付けの序列に沿った形になっているが、名古屋鉄道と比べると、東武鉄道がややタイトなように見える。

しかし、社債の売行きは格付けやスプレッドとは必ずしもリンクしなかったようである。運輸の20年債の中で順調に消化されたのは、名古屋鉄道、南海電鉄、東武鉄道で、やや苦戦したのが東京地下鉄とANAホールディングスである。売行きを左右したのは、信用力に見合ったスプレッドが付されていたかどうかであり、格付けは必ずしも信用力そのものを指し示す指標ではない。また、投資家も自らの発行体しの信用分析に自信を有しているとは限らない。格付会社が数年程度しか見通せない中で、投資家が20年もの信用度を評価することには当然限界が生じる。したがって、投資に際してのもう一つの判断基軸は、既発債の流通市場の実勢対比となる。東京地下鉄やANAホールディングスの20年債が、消化に苦戦したのは、明らかにセカンダリー対比で割高な募集を強行したからである。

それでも、運輸や電力といった業種は20年債の募集に適していると考えて良いのである。これが、一般的なメーカーの場合や、ビジネスの時間軸がより短いノンバンクである場合には、目先の利回りだけを考えて超長期の与信を行うのは怖い。途中で売却するのであれば良いが、信用力の変化や金利水準の変動を考えると、超長期の与信行為には慎重になるべきである。十分な覚悟を持たずして、超長期の与信を行うことは許されないだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/7~5/11

引続き、起債市場の動きは鈍い。1年前を振り返っても、ゴールデンウィーク明けの木曜と金曜になって、ようやく四国電力の10年債及び20年債、電源開発の10年債、地方公共団体金融機構の10年債、日本高速道路保有・債務返済機構の20年債、それに住宅金融支援機構の5年債及び10年債が募集されただけである。今年の場合も同じタイミングになって、前年と同じ顔触れが、四国電力の10年債及び20年債、地方公共団体金融機構の10年債、住宅金融支援機構の5年債及び10年債と揃っている。それら以外にも、住宅金融支援機構は30年債を募集し、森ビルの20年債に、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の10年債及び15年債が募集されている。

結局のところ、前年と同じ年限を募集した銘柄は、住宅金融支援機構の5年債を除くと、いずれも10年債か20年債であり、2018年のみに募集された銘柄も、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の10年債以外は、すべて超長期債であった。日本銀行執行部が新体制になっても、イールドカーブコントロールの継続が明示されている。そもそもオーバーシュート型コミットメントにおいても、2%の物価安定の目標が安定的に持続するまで、強力な金融緩和を継続することが示されており、金利が上がらないのであれば、利回り確保を超長期債で狙うのは妥当な投資である。金利上昇が確実視されるならば、デュレーションの大きな超長期債は、例えクーポンが高くても、価格変動性の高さから忌避されるだろう。超長期債が売れるのは、投資家が金利上昇リスクを強く感じていないことの表れと考える。

超長期債の抱えるリスクは、単にデュレーションの大きさから来る価格変動リスクのみではない。発行体の信用力が毀損される信用リスクも、償還までのエクスポージャーが長ければ、それだけ大きなものになる。倒産確率の推移からは、信用力の低い銘柄は早期に消滅するために、超長期のリスクが低いと考えられることもあるが、それが誤りであることは自明であろう。信用リスクに晒される期間は短い方が良いに決まっている。超長期債の信用リスクは、償還年限の長さと連動しないが、むしろエクスポージャーという意味で、期間概念を伴うのである。多くの投資家は単なる理屈からだけでなく、信用リスクの構造を本質的に理解しているために、無闇な超長期債投資を行わないのである。

この週に募集された超長期債のうち、財投機関債については信用リスクを懸念する必要性は決して大きくない。通中に業務遂行されているならば何らの問題もないし、仮に収支構造が悪化したとしても、公的サービスとして必要な業務であるならば、国からのサポートが期待できる。つまり、国と一体視できるかどうかなのである。民間企業の場合にも、業務の重要性や国からのサポートなどが、超長期債投資に際しての重要な要素となる。そういう意味では、電力会社は不動産会社に勝るだろう。それでも、同じ20年債で四国電力の0.738%クーポンと森ビルの0.97%クーポンを並べると、決して後者が割安とは思うべきではないのではないか。

国内起債市場を斬る 大型連休特別号:4月の起債を前年と比較する

長く起債市場を見続けていると、起債のパターンがいつの間にか身についている。年度の初めには、どういった起債パターンアが多いものか。例年似たような状況が演出され、そう異なるものではない。2017年と2018年の4月の起債を比較してみよう。

業種という意味では、電力、ノンバンク、財投機関を含む公共セクターといったところが定番である。2018年度の最初に募集されたのは、4月5日の中国・北海道・北陸と電力会社であった。一方、2017年度も最初の4月7日は、中国・北海道の電力2社に、電源開発、さらには、JR東海と西日本鉄道の鉄道2社、日本政策投資銀行の財投機関債が募集されている。2018年度も、日本政策投資銀行と西日本鉄道は4月6日に債券を募集しているのだから、スタート銘柄の顔触れは、大きく異なるものではない。

しかも、2017年度の4月11日に社債を募集した東京センチュリーは、2018年度の4月6日に社債を募集している。2017年4月10日の週に機関投資家向けの社債を募集した残りの企業としては、日立キャピタル・関西電力・三菱UFJリース・トヨタファイナンス・東北電力・JR西日本・高砂熱学工業・DIC・ブリヂストン・北陸電力といったものがあったが、既に触れたように北陸電力は2018年4月5日に電力債を募集しているし、その他でも、2018年4月10日にDIC、4月11日に三菱UFJリース、4月13日にトヨタファイナンス・関西電力が、4月17日に日立キャピタルが、4月18日にJR西日本とほとんどの発行体が今年も4月中に社債を募集している。

メーカーの起債も、変に似通っているかもしれない。既に両年度に顔を出した銘柄として、DICを挙げたが、2017年4月に社債を募集した銘柄は、上述のDIC・ブリヂストンの他に、岡村製作所(現オカムラ)、宝ホールディングス、テルモ、豊田自動織機といった顔触れであった。2018年4月はDIC以外に、住友化学・デンカ・クラレ・サントリーホールディングス・デンソーが社債を募集している。共通するのは、業種である。両年に出てくるのは、豊田自動織機及びデンソーの輸送用機器、宝ホールディングス及びサントリーホールディングスの食料品、それに、DIC・住友化学・デンカ・クラレと化学である。年度の初めに化学メーカーが起債するのか、単なる偶然なのだろうか。鉄鋼とか機械とかが出てこないのも面白い。2017年は5月に入ると、鉄鋼メーカーであるJFEホールディングスと新日鐵住金の社債が16日に募集されている。今年も同様の展開になるような気もする。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/23~4/27

起債市場はGWが近付く頃になると、3月期決算の発表を受けて、動きが鈍くなる。これは例年のパターンであって、特に違和感はない。前週までは、財投機関債や電力、ノンバンクといった起債が目立ち、本数だけなら四半期毎の地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債が幅を利かせていたのである。ところが、4月最終週ともなると、債券の募集は激減である。条件決定から払込までの期間を考えると、どうしてもGWの存在が邪魔してしまうのである。営業日ベースでは数日でも、カレンダーベースだと1週間を越えるといったことになりかねないのである。GWの日本以外にも、レーバーデイの休暇が入る国はあるが、海外の多くの国ではこのタイミングでの大型連休はあり得ない。その間の市場変動を怖れると、カレンダーの面でも債券の募集と投資は、両サイドからためらわれるのである。

わずかに募集された社債の中では、単独引受となった三井不動産の10年債が売行き難航したことが知られている。近年はイールドカーブ全体の水準低下もあって、利回りを求める投資家がクレジットリスクを負って投資年限を長くすることが見られる。しかし、そもそも不動産の10年という年限は、不動産価格のみならず経済の変動サイクルを考えると、アップサイドとダウンサイドとを経験する可能性が高い。よもや三井不動産のデフォルトを意識しなければならないようなことは考え難く、社債の時価評価に目を瞑り(つむり)元利金の支払だけを考えるならば、よっぽどの日本経済の変動や三井不動産のもので想定できないような不祥事の発生しない限り、このリスクを負うことに心配はないと見るのであろう。それでも、時価評価を考えるならば、現状で、R&IでA+格とJCRでAA格という格付けが上限に変動する可能性がないとは言えないのである。特に、東京オリンピック等を控えて、建設のみならず日本経済全般が上昇基調にある中では、ダウンサイドの意識を持たざるを得ない。

今回の起債は国債対比+24bpsでプライシングされ、クーポンは0.305%の水準で1000億が募集された。翌日に募集された格付けがA(R&I・JCR)格のニフコの10年債が国債対比+33bpsでプライシングされ、また、前週末に募集されたデンソーの10年債が国債対比+27bpsであったことを考えると、明らかにタイトという評価になる。デンソーの格付けは、R&IでAA+格である。幾ら3年限併せて900億円の大型起債だったとは言え、格付けが3ノッチも上の社債よりタイトなスプレッドというのでは、投資家も手がなかなか出ないだろう。100億円の小額起債だから可能になったプライシングなのではないか。