国内起債市場を斬る 起債評価:5/14~5/18

ようやく起債市場の動きが活発になってきた。公的セクター以外に、電力、運輸といった定番の他、メーカーの起債も見られるようになっている。しかし、何と言っても、運輸セクターの20年債が乱れ飛んだのが特徴だろう。運輸セクター以外の20年債は、中国電力の7年債との2本立て、九州電力の10年債との2本立て、日本高速道路保有・債務返済機構の財投機関債が募集されている。ただし、電力と道路機構であるから、運輸とは極めて近いセクターである。

運輸の20年債を含めた起債は、以下の通り募集されている。名古屋鉄道の100億円、南海電鉄の100億円、東武鉄道の100億円と、単体での募集が行われている。それ以外に、東京地下鉄は10年債・20年債・30年債・40年債を各100億円募集しているし、ANAホールディングスも100億円募集している。格付けで並べると、もっとも高いのが東京地下鉄のAA(R&I)及びAAA(JCR)格で、次がA(JCR)格の名古屋鉄道、続いて、A-(R&I)格の東武鉄道とANAホールディングス(ANAホールディングスはA(JCR)格も取得)があり、もっとも低いのがA-(JCR)格の南海電鉄となる。国債対比のスプレッドは、東京地下鉄が+10bpsで、名古屋鉄道が+21bps、東武鉄道が+22bps、ANAホールディングスが+28bps程度、南海電鉄が+34bpsとなる。概ね格付けの序列に沿った形になっているが、名古屋鉄道と比べると、東武鉄道がややタイトなように見える。

しかし、社債の売行きは格付けやスプレッドとは必ずしもリンクしなかったようである。運輸の20年債の中で順調に消化されたのは、名古屋鉄道、南海電鉄、東武鉄道で、やや苦戦したのが東京地下鉄とANAホールディングスである。売行きを左右したのは、信用力に見合ったスプレッドが付されていたかどうかであり、格付けは必ずしも信用力そのものを指し示す指標ではない。また、投資家も自らの発行体しの信用分析に自信を有しているとは限らない。格付会社が数年程度しか見通せない中で、投資家が20年もの信用度を評価することには当然限界が生じる。したがって、投資に際してのもう一つの判断基軸は、既発債の流通市場の実勢対比となる。東京地下鉄やANAホールディングスの20年債が、消化に苦戦したのは、明らかにセカンダリー対比で割高な募集を強行したからである。

それでも、運輸や電力といった業種は20年債の募集に適していると考えて良いのである。これが、一般的なメーカーの場合や、ビジネスの時間軸がより短いノンバンクである場合には、目先の利回りだけを考えて超長期の与信を行うのは怖い。途中で売却するのであれば良いが、信用力の変化や金利水準の変動を考えると、超長期の与信行為には慎重になるべきである。十分な覚悟を持たずして、超長期の与信を行うことは許されないだろう。