国内起債市場を斬る 起債評価:8/20~8/24

旧盆の休みが終わると、ここから9月中旬までは起債集中シーズンとなる。3月決算企業の決算発表等イベントがなく、発行体の条件決定は比較的自由であり、投資家も上期末を意識しながら、ポジションの積上げや購入計画の遂行を図る時間帯である。需要と供給のマッチし易いタイミングと言って良いだろう。7月前後の市場にあった先行きの金利上昇懸念は、日銀によってイールドカーブコントロールが微修正されたために収束してしまった。実際のところ、8月中旬の10年国債利回りを見ても、ほぼ0.1%前後の水準で安定しており、0.1%を超えることがあるのは以前こそ異なるものの、結果として大きく超えることはない。市場の沈静化を受けて、投資家も社債を買い易くなっているだろうし、発行体も債券の募集をし易い環境なってきている。

既に17日から財投機関債の募集は開始されていたが、その後も22日には財投機関債の募集が行われている。これらはいずれも財投機関債というだけでなく、20年・30年・40年といった超長期債の募集であった。どんなに金利水準が欲しいと言っても、企業の寿命が30年程度(日本の企業の中には、千年単位のものもあるが)と見られている中では、超長期債の投資対象は自ずと限定される。自然な流れとしても財投機関債等の公的セクターは、超長期債の中でも投資し易いものとなる。この時期に再開された起債市場の募集が超長期の財投機関債からはじまるというのも、良くも悪くも象徴的である。

この週の起債は、その後、民間企業によるものに続くのであるが、典型的な業種と考えられるノンバンクや電力・ガス、鉄道だけでなく、メーカーまでが早々と募集に動いたのが珍しい。超長期債を募集できるのは、公共セクターを除くと実質的に電力・ガスに鉄道と業種が限られている。JR西日本は30年債と40年債の二本立てを募集しており、小田急電鉄も20年債、東邦ガスは30年債を募集している。一方、九州電力は5年債と10年債の二本立てで、メーカーなどと同じような年限を選択している。

これら以外では、東洋紡とニチレイが奇しくも同じ7年債を募集している。格付けはJCRによって同じA格を取得しているが、クーポンは東洋紡が0.29%とニチレイより4bps高い利回りになっている。確かに一般消費者に対する知名度といえば、ニチレイの方に馴染みがあると考えられるが、ニチレイはみずほ証券の事務主幹事、他三菱UFJモルガンスタンレー証券・野村證券・SMBC日興証券と3社幹事なのに対し、東洋紡がSMBC日興証券の単独主幹事という構造格差に起因するものもあるかもしれない。東急不動産ホールディングスも5年債と10年債という無難な二本立てであった。不動産業種という面では、これくらいの年限が適切なのかもしれない。

国内起債市場を斬る 夏季特別号:格付け変更の明暗

アベノミクス効果もあり、近年の企業業績は概ね良好である。先月公表された日銀短観を見ても、大企業製造業の業況DIは21で、非製造業のDIは24とまずまずの数値となっている。バブル経済崩壊以降で業況判断DIのピークを見ると、製造業では2004年9月調査の26、非製造業では2006年12月調査から2007年6月調査の22となっている。つまり、大企業にとって現在の業況は、ほぼ陽の極に近い状態となっている。消費者の生活実感からはかなり乖離があるが、少なくとも大企業にとってネガティブに感じる要素は多くないようである。

こうした良好な業況にあると、企業に対する格付けの変更は概ね格上げが中心となり、格下げは個別事情のある企業に限られるということになる。今年度に入ってからの企業発行体格付け変更を、まず、R&Iによるアクションから見て行こう。格上げになった企業はキッコーマン(A+へ)、西松建設(A-へ)、戸田建設(A-へ)、安藤・間(A-へ)、東芝(BB+へ)、プレス工業(BBB+へ)、マツモトキヨシ(Aへ)、三菱自動車工業(BBBへ)、五洋建設(A-へ)、アルフレッサHD(A+へ)、メディパルHD(A+へ)、オリンパス(Aへ)、ソニー(Aへ)、雪印メグミルク(A-へ)、JXTGHD(A+へ)、昭和シェル石油(Aへ)と計16社見られた。東芝を除いて、いずれも1ノッチの格上げであった。こういった環境での格下げは、京都銀行(Aへ)の1社のみでこの事象が目立っている。金利低下の中で積極的な基盤拡大を図っているため、収益力の改善に時間を要するというのが格下げの理由である。地方銀行の経営環境の厳しさは、単に金融庁からの指摘だけに留まらず、様々な角度から浮き彫りにされているようである。

次に、JCRのアクションを見ると、三十三FG(2018年4月2日三重県を本拠とする三重銀行と第三銀行が統合、A-へ)・第三銀行(A-へ)、東京TYFG(2018年5月1日東京都民銀行、八千代銀行、新銀行東京3行が合併して「きらぼし銀行」としてスタート、A-へ)、東京都民銀行(A-へ)・八千代銀行(A-へ)・新銀行東京(A-へ)、リンテック(A+へ)、オカムラ(Aへ)、タカラトミー(BBBへ)、清水建設(AA-pへ)、大林組(AA-へ)、大成建設(AA-へ)、新生証券(A-へ)、昭和リース(A-へ)、新生銀行(A-へ)、IBJL東芝リース(A-へ)、興銀リース(A-へ)、セゾン自動車火災(AAへ)、長谷工コーポレーション(Aへ)、ロイヤルHD(BBB+へ)、フェローテックHD(BBB-へ)、森永製菓(Aへ)、ダイキン工業(AAへ)、中部飼料(A-へ)と数多く見られた。ただし、お気づきのとおり経営統合によるものも少なくない。一方で格下げは、三十三FG設立による経営統合の影響で三重銀行(A-へ)がその憂き目に遭った。

実際に格上げの件数が圧倒的に多いことが確認されたが、業種としては建設関連が目立っており、これも足元の経済実態を反映しているように思える。R&Iによる京都銀行の格下げに端的に現れているように、また、JCRの格付けでも地銀の再編による変更が見られており、地域金融機関の経営の厳しさは顕著であり、今後もこれにつづくアクションが見られる可能性を秘めている。

国内起債市場を斬る 起債評価:8/6~8/10

広島の原爆祈念日から旧盆休みに至るこの時期は、多くの起債は期待できない週である。それでも、前週に長期国債の入札が行われた後、公募地方債の条件決定が行われる期間であって、市場関係者も完全に休みとはならない時間帯である。週央からは財投機関債等公共セクターの募集が行われ、10日の金曜日には社債の募集が行われたのである。

募集された公共債は、定例の銘柄とそれ以外に分類できる。基本的に毎月募集されているのが、住宅金融支援機構と地方公共団体金融機構である。前者は、概ね5年債と10年債を中心に、それ以外の年限も月によって募集するといった形である。8月は、5年債・10年債に30年債を募集している。今年度のこれまでの実績を見ると、4月は5年債・10年債・20年債、5月は5年債・10年債・30年債、6月は5年債・10年債・15年債、7月は5年債・10年債・20年債といった履歴である。超長期の募集年限を月ごとに変えているというところか。一方、地方公共団体金融機構の場合は、10年債250億円のみを募集している。同機構は、FLIPに基づく起債を除くと、10年債を毎月募集し、それ以外に5年債・20年債・30年債が組み合わされることもあるという形になっている。

必ずしも毎月募集しない公共セクターで8月に債券を募集したのが、鉄道建設・運輸施設整備支援機構と都市再生機構である。前者は、基本的に2・5・8・11月と四半期に一回ほど複数年限の財投機関債を募集する発行体である。今回は、5年債・10年債・20年債の組み合わせで、計660億円とまとまった金額の募集となっている。また、後者も、四半期に一回2・6・8・11月に財投機関債を募集するのが過去のパターンであるが、今年度は発行予定額が増えたこともあって、5月に続いて40年債200億円を募集している。民営化がイメージされると、40年といった超長期の年限の与信は難しくなるが、足元では、復興支援等の観点から、かつて見られたような不要論は見られない。しかし、人口減少が進む中での都市再生機構の役割を考えると、事業内容の見直しは必須だろう。

社債を募集したのは、初ものの月島機械と森ビルである。いずれも10年債を募集しており、前者は50億円、後者は100億円と小額の募集である。一部の情報ベンダーでスプレッドの誤報も見られたが、単純な10年債同士なので、明らかであった。月島機械の格付けはBBB+(JCR)格であり、最初から10年債というのは、やや年限が長いか。一方で、森ビルは不動産業であり、ネガティブな見方も出来るが、人口減少の中での都心集約という意味では、都市再生機構よりも事業立地としては明るいかもしれない。それでも、もしもの時の公的支援は期待できないだろう。

国内起債市場を斬る 夏季特別号:日銀のYCC修正と起債市場

日本銀行は、7月終わりの金融政策決定会合で、既存の長短金利操作付量的質的金融緩和(YCC)の微修正を決定した。公表文のタイトルは「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」とされており、引続きの金融緩和姿勢を示している一方で、10年国債利回りの変動幅を「概ね±0.1%の幅から、上下その倍程度に変動し得ることを念頭に置く」としており、市場では金利上昇を容認したものと解している。現時点での理解はそれでよいと思われるが、一方で、変動幅を倍にしたことから、状況によっては、10年国債利回りがマイナス0.2%にまで下がることを認めているものと考えることができる。今年の後半以降、グローバルな景気後退等から再度の金融緩和が求められた際に、利下げ幅の存在する米国や、資産買入れの再拡大が可能な欧州と異なって、日本の場合には金融緩和の更なる余地は困難であった。それが、金利変動容認幅を拡大したことで、金融緩和の強化可能性を確保したのである。

今回の微修正では、10年国債利回りの変動幅拡大の他に、政策金利のフォワードガイダンス、政策金利残高の見直し、ETFの銘柄別買入れ額の見直しなどが決められており、社債の買入れについては、現在の買入ペースを維持するとする。しかし、今回行われたYCCの微修正が金融市場の副作用を意識したものであるならば、社債の買入れについても、見直してしかるべきだったのではないか。

日銀による社債の買入れは、残存3年以内の銘柄を流通市場から買入れることとしており、格付けはBBB以上とされている。その結果、新発の3年債のプライシングが明らかな異常水準になっているのである。特に、日銀はマイナス利回りでも社債を国債と同様に買入れるために、3年の新発社債のクーポンは0.001%などの極めて低廉な水準に設定される物が増えている。それらは一旦、引受けた証券会社から投資家に売却されるものの、すぐに証券会社によって買い戻され、証券会社は日銀オペに入れるのである。こうして投資家は社債を投資ではなく短期売買の対象にしているのである。思い起こせば、1985年前後の新規上場の公募転換社債を思い起こす。新規発行の転換社債を、傷んでいる特定金銭信託で購入して頂き、上場後他の特金と何度も媒介を交わして、暗黙の利益確保と売買高競争を公然と仕組んできた。現在行われているフローを見ても本来の社債投資でなく、日銀のオペが社債のディーリングを促しているのである。これを副作用と言わずとして何とする。

日銀は2%の安定的な物価上昇が実現できない限り、現在の枠組みでは、金融緩和を後退させることが容易でない。今回のYCCの微修正にしても、かつて大本営が撤退を転進と言い換えたと同じような表現変更であり、本音と建前の使い分けに腐心している。社債オペの見直しも直ぐに行われることはないだろう。果たしてその先に健全な社債市場はあるのだろうか。仮に2%の安定的な物価上昇が実現できても、社債市場のみならず、国債市場や株式市場を大きく歪めてしまっては、残った副作用が大き過ぎると考えられる。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/23~7/27

本州以西の酷暑、西に向かう台風など、気象状況は例年と大きく異なるが、起債市場はあまり例年と変わるものがない。日銀の金融緩和見直しが意識されるために、10年国債利回りが不安定化し、日銀が指値オペで封じ込める展開であるが、一般債の募集には直接の影響が見られない。スプレッドプライシングのベースとなる利回りが上昇することで、起債コストは上昇したが、スプレッドの拡大ではないために、発行体の責任とはされないからである。あくまでも「市場の変動」によるためである。日本企業で一般的な、責任を問われないことが重要なのである。

起債市場の顔触れは、ノンバンクと財投機関債などの公的セクターである。後者は格付けが日本国債と同水準の物ばかりであり、消化に対する不安は小さい。特に、年限が短い場合には、国債を購入してもマイナス利回りしか得られないのに、高格付け債でもプラスもしくは出来上がりでゼロ%の債券となっているから、投資家は購入し易い。日本政策金融公庫の財投機関債は、2年債も3年債もクーポンは同じ0.001%である。発行単価が100.002円か100.001円かの違いである。もちろん資金使途が、2年債は国民一般向けであるのに対し、3年債は農林水産業者向けであるという違いはある。しかし、公庫の中で部門が異なるとは言っても、外部の債権者には対抗できない。対抗できるならば、財投改革は単なる数合わせによる特殊法人の統合でしかなくなってしまう。

ノンバンクの起債は、昭和リース5年債と三井住友ファイナンス&リースの4年債及び10年債である。前者は協和銀行傘下で設立され、現在は新生銀行グループに属す。後者は、沿革としては住友商事や住友銀行系のリース会社がスタートであるが、途中でさくら銀行系のリース会社も統合しており、こちらは三井住友銀行系と理解される。つまり、両社とも、銀行系リース会社である。事業環境や今後の日本経済の成長性を考えると、なかなか長期の与信は容易でないが、いざと言うときには銀行の支援が期待できることで、信用力の下支えを期待することができる。昭和リースの5年債のクーポンは0.25%であり、一方、前述の日本政策金融公庫の10年債は0.255%クーポンとほぼ同じ水準、後者の三井住友ファイナンス&リースの4年債は0.110%、10年債は0.410クーポンである。どちらがより魅力的な投資対象であろうか。

いよいよ今週は8月に入り、全ての小中学校も概ね夏休み、第100回全国高校野球選手権記念大会の代表校も出揃い、2日抽選、5日開幕となる。起債市場もほぼ案件が出尽くしており、そのまま旧盆の休みに突入するというのが例年のスケジュールである。