国内起債市場を斬る 起債評価:1/21~1/25

12月決算の発表がはじまると、起債量は急速に細ってしまう。例年のことだが、これから2月中旬くらいまでは、ほとんどが公的セクターの起債になってしまうだろう。そしてその後は、3月中旬までの起債ラッシュという流れになる。金利先高感は消え、むしろ日銀による追加緩和が市場関係者の中で囁かれている中では、慌てた起債は見られない可能性が高い。一方で、年度内の予定消化という意味で、発行体も投資家も、ある程度の案件消化を求めるのではないか。M&Aに関係する大型案件がなければ、平年並みの案件数が見られるものと期待される。

この週の起債市場でもっとも募集金額が大きかったのは、劣後債である。一つは、大陽日酸(4091)のハイブリッド債である。35年物のノンコール5年債は、1,000億円と巨額の募集になった。劣後性を考慮した格付けは、R&IのBBB格及びJCRのA-格である。事業会社の劣後債に関しては、期限前償還が最初のタイミングで行われない可能性が厳然と存在する。つまり、期限前償還を前提にした5年債として評価するのは誤りであり、投資家は5年後の事業環境や金利環境を見据えて、期限前償還の可能性を判断しなければならない。当初5年のクーポンである1.41%は、5年債としては十分に高いクーポンである。同日に募集された東京電力パワーグリッド債は、格付けがR&IのBBB+格及びJCRのA格と両社で相反する上下関係にあるが、クーポンは0.58%である。最初の償還期以降は、6ヶ月物円ライボー+2.4%の変動利付きになるので、通常の事業環境であれば、期限前償還されるだろう。しかし、メーカーの事業環境の変化は容易に予測できるものではない。近年の東芝やシャープの展開を見ると、間違っても35年の与信はできない。

なお、大陽日酸のハイブリッド債は、もう一本40年物のノンコール10年債が80億円と小額で募集されている。金額的にも圧倒的に少ないが、当初10年のクーポンは、1.87%クーポンである。10年債としては魅力的であることは間違いないが、期限前償還の有無のみならず、より超長期の与信可能性を考えるのは難しい。金額は当初の募集予定が60億円程度とされていたことから、発行体が小額を要望したものと考えられるが、80億円はいかにも少ない。

もう一つの劣後債は、かんぽ生命の30年物のノンコール10年債である。当初10年のクーポンは1%で、格付けはJCRのA+格を取得している。持ち株会社の日本郵政との親子上場であり、そもそも事業展開の将来性があまり見えない企業であり、株式購入ですら躊躇されるのに劣後債に踏み込むのは、容易でない。高齢化の進む社会で生命保険ビジネスの将来展開は厳しいものがあるし、地方にも営業展開を義務付けられている旧官営保険会社の収益性は決して高くない。親会社の日本郵政が米アフラックと資本提携に踏み込む等グループとしての保険ビジネスのみならず、収益獲得そのものについて難航している節が伺われる。幸い業態が生命保険会社であることから、期限前償還をスキップする可能性は事業会社に比べると極めて小さい。スキップは金融庁による承認が得がたいものと考えられるのである。格付けの差もあるが、10年債として割り切り、時価評価をしなくて良いのであれば、かんぽ生命の劣後債の方が、大陽日酸のハイブリッド債よりも投資に対する安心感が高いのではないか。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/15~1/18

1月の起債ラッシュは、18日の金曜日に起こった。水曜日以降、少しずつ募集が行われ、中には森ビルの劣後債500億円という大型の募集もあったが、金曜日の案件集中度は高い。週全体も含めて業種別の傾向としては、財投機関債等の公的セクターが引っ張り、ノンバンクと鉄道が花を添え、その他の社債が色々と出て来たというところだろうか。中でも、案件の集中した金曜日は、鉄道関連だけを見ても、東京急行電鉄2本立て計200億円、東京地下鉄3本立て計300億円、相鉄ホールディングスと京阪ホールディングスが各100億円と、全部合わせると、7本も募集されたのである。しかも、いずれもが10年債以上の年限の長い債券であった。それに加えて、成田国際空港が3本立て計200億円、東日本高速道路が500億円、日本高速道路保有・債務返済機構が100億円と、運輸関連の起債が少なくなかった。

運輸やノンバンク以外で注目を集めた一つが、村田製作所による3年債400億円と5年債600億円の計1,000億円の募集である。初回の公募社債募集ということもある上に、格付けがAA(R&I)格と高水準なのも巨額の起債をサポートしている。5年債のクーポンは0.15%で、同日に募集された他の5年債と比べると、成田国際空港の0.05%や東日本高速道路の0.07%、オリエンタルランドの0.12%を上回り、セブン銀行の0.16%を少し下回る水準である。セブン銀行も格付けは同じR&IのAA格であるが、5年債の募集金額は村田製作所の600億円の3分の1の200億円でしかない。村田製作所は近年TVCM(雑学系と分解系というCM)も打っていることもあるが、基本は電子部品メーカーであって最終消費財のメーカーではない。そのことが逆に、業績が安定し易いとされることに繋がり、企業の強みに感じられるのかもしれない。

なお、この週に起債見送りを公表されたのが、トヨタファイナンスとオリエントコーポレーションの5年債である。どちらもグリーンボンドとしての募集を行う観測が見られていたが、週後半までに見送りが報じられている。金利水準の低下など起債環境の悪化が要因とされるが、ノンバンクの起債に対する安易なグリーンボンド認定は警戒しておいた方が良いだろう。そもそも日本の社債に関しては、特別な仕組みを盛り込まない限り、会社の一般財産全体に対する請求権が認定される。したがって、再生エネルギーに対するファイナンスであると追補目論見書に記載しても、「金に色はない」のである。つまりグリーンボンドとして調達しても、資金が必ずしも表明された使途のみに使われるとは限らないし、そういった限定は法的に出来ないのである。表明した使途に使われるというのはフィクションであり、発行体のフィクションに投資家が乗っかった形で成立して来たのがグリーンボンドである。結局のところ、グリーンボンドやソーシャルボンドであるという認定基準も、ICMAや環境省、日本総合研究所、格付会社等が乱発している。今一度、基本に立ち返って、その意味を考えるべきではなかろうか。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/7~1/11

2019年の債券募集がはじまった。しかし、マーケットは荒れ模様、世界中の株価が安定せず、国内金利も10年国債利回りがマイナスになったりするので、決して良好な起債環境とは言えない。日本銀行によるイールドカーブコントロールは、短期金利がマイナス0.1%に固定され、10年国債利回りがマイナス0.2~プラス0.2%のレンジに設定されている。結果として、年限がより長くなるに連れて、金利変動幅が大きい。逆に言えば、短い年限の金利水準はあまり動く余地がないということである。市場が落ち着かない状況にある場合には、長期債よりも中期債の方が募集しやすい。

結局のところ、市場が安定しない中では、投資家は公的セクターや中短期債を好みがちになる。しかも、10年長期国債の入札後であるから、地方債からはじまる公共セクターの起債が行われるのには絶好なタイミングである。そうした好機を窺って出てきたのが、日本政策投資銀行の三本立てである。募集されたのは、3年債・5年債・10年債の各200億円である。3年債は0.001%クーポンで単価が100円00.1銭である。5年債は0.03%クーポンで、10年債は0.195%クーポンである。前年10月に募集した際と3年債及び5年債のクーポンは変わっていないが、10年債のクーポンは0.309%から大きく低下している。なお、10年債の国債対比のスプレッドは、+15.5bpsから+17.5bpsと金利低下を反映して拡大している。

中短期債の募集に適しているという環境は、ボーナスシーズンの後というリテール投資家の状況と相俟って、個人向け社債の条件決定が複数行われている。もっとも毎年1月に個人向け社債を募集するというのは、東武鉄道と小田急電鉄の定例である。両社とも前年に続いていずれも3年債を条件決定しているが、東武鉄道は0.16%クーポンから0.15%クーポンに低下し、小田急電鉄は0.11%クーポンから0.1%クーポンへといずれも1bpの水準低下が見られる。金利の低下傾向は中短期債にも波及しているということなのである。

なお、11日の金曜日にはクレディセゾンも個人向け10年債の条件も決定している。東武鉄道や小田急電鉄の3年債とは異なる年限であり、クーポンは0.48%と高水準である。しかも、両鉄道会社の個人向け社債が100万円単位で募集されるのに対し、クレディセゾン債は10万円から投資可能である。ノンバンクの10年債は投資対象の年限としては、悩ましいところである。みずほフィナンシャルグループともっとも親密な関係であったが、近年はやや位置付けに変化もあるようだ。10年の与信をどう考えるか、キャッシュレス社会到来への対応格差を含め、思いとどまりたいところではないか。

国内起債市場を斬る 新年特別号:金融市場の大変動と国内起債

2018年末から金融市場が大きく揺れ動いている。世界的な株式市場の下落は、米アップル社の業績予想引下げに起因するのかもしれないが、背景にはもっと大きな物があるように思える。最大の要素としては、これまで先進国が続けて来た金融緩和の方向変化であろう。資産買入れを中心とした強力な金融緩和は、必ずしも物価全体をインフレへ誘導することはできなかったが、資産価格を下支えし、少なくとも株価を押し上げて来たのである。ところが、既に景気好調なFRBは金融緩和から引締め方向に政策を変更し、ECBも資産買入れの停止に向かって動きはじめた。その結果、先進国経済の基盤となっていたマネーフローの潤沢さが変化しはじめたのである。

一方で、強いと思われてきた先進国経済に、わずかながらも変調の兆しが見えている。米国経済が必ずしも想定されたほどの強さを持続できないという観測は、米中の貿易摩擦が激化し関税引上げ競争へと変化したことで、急速に強まっている。しかも、中間選挙で下院の過半数を失ったトランプ政権は、選挙公約の実現を求めたために、想定外の米連邦機関の一部閉鎖を招来したのである。2月には閉鎖リスクがあると予め考えられていたが、クリスマスから年末のタイミングでの閉鎖は、米国経済に強い負のインパクトを与えてしまったかもしれない。景気は「気」からというのは、決して誤りでない。バブルの過熱も、デフレやスタグフレーションによる沈滞も、世の中の雰囲気と極めて強いリンクが確認される。経済が弱いかもしれないと感じてしまったところから、自己実現がはじまった可能性は高い。

アップルショックによる株価の下落による影響は、米国の株式市場に留まらない。為替はドル安円高になり、日本の円金利も大きく低下してしまったのである。既に年末に10年国債利回りはイールドカーブコントロール導入以降見られなくなっていたマイナスとなってしまっていたが、年明けは更にマイナス0.05%といった深さになったのである。日本銀行が昨年7月に変動幅を拡大しているため、マイナス0.2%までは政策の変更もなく許容される。市場参加者の少ない時間帯でのオーバーシュート気味であるが、2019年の起債市場は10年金利がマイナスの状況からはじまることになろう。

イールドカーブコントロールが導入された2年3ヶ月前のことを、思い出した方が良いかもしれない。10年金利がマイナスに沈んだことで、10年債のプライシングには国債利回りを参照したスプレッドプライシングが難しくなり、利回りの絶対水準で行わざるを得なくなる。5年債や7年債より短い年限で定着しているプライシング方式の採用が拡大されるのである。さすがに20年債のような超長期の利回りまでマイナスになることは想像し難いが、過度な低利回りは投資家の債券購入意欲を減退させるために、スプレッドの上乗せを求められる可能性も高い。一方で、短い年限で利回りを確保できない投資家が、スプレッドに目を瞑って(つむって)利回りを確保しようとするならば、長い年限の債券はスプレッドがよりタイトになることも考えられる。足元の低金利・マイナス金利が継続すると見るならば、債券の購入を継続する可能性もあるが、もはや円金利・クレジットに投資妙味を感じず、当面の債券購入を先送りにすることも考えられる。果たして市場参加者はどちらの方向に向かうだろうか。それでなくとも、2019年の世界経済に対しては懸念を呈する見方が少なくないため、起債市場だけでなく、世界の債券市場全般が低迷した展開になることも十分に考えられる。どうも明るい新年は期待し難いのではないか。