国内起債市場を斬る 起債評価:3/4~3/8

年度末まで1ヶ月を切り、社債の募集に適した期間も終わりに近づいているが、起債市場には大きな盛り上がりは見えない。以前から指摘しているように、金利の先高感がない中では、特に必要がなければ、このタイミングでの募集を選択する意義は乏しい。ベースとしての金余りが続いており、企業側の資金調達にとってはこの週に起債するインセンティブは乏しいのである。昨年の夏から秋の金利上昇も、米国の金利引締めに向けた動きや欧州での金融緩和解除の動きから、日本だけが低金利を維持できないという背景があり、他律的な金利上昇であった。足元では、米国の利上げが停止されるという観測が高まり、欧州の金融緩和解除も先送りになるという観測が高まっており、日本の金利環境に変化が訪れるとは、ほとんどの市場参加者は予測していない。従って、この3月に慌てて起債する必要などないという筋書きは変わっていない。

この週の起債は、中日本及び東日本高速道路、製紙メーカー持株会社の北越コーポレーション、地銀持株会社のコンコルディアホールディングス劣後債、スポーツ用品メーカーのアシックス、九州電力、化学品及び食品のメーカーであるADEKA、東海及び東日本旅客鉄道、三井不動産、東京建物の劣後債といった顔触れである。本数と言う意味では、引続き、5年債が多いのだが、北越コーポレーションは0.22%クーポン、アシックスは0.2%クーポン、九州電力は0.24%クーポン、ADEKAは0.18%クーポン、三井不動産は0.16%クーポンと、0.2%前後の利回りのものが多い。唯一、東日本高速道路は、信用力の高さから0.07%クーポンと突出した低利回りである。その他に、中日本高速道路は0.001%クーポンでオーバーパーの2年債、JR東海も0.02%クーポンの2年債を募集している。

これらの対極に位置するのが、超長期債であろうか。JR東日本は0.782%クーポンの30年債と0.997%クーポンの40年債を募集した。その他に、九州電力も0.788%クーポンの20年債を募集している。電力・ガスと鉄道は超長期債の常連であり、業種特性からも相応しいものと考えられている。一方で、東京建物の劣後債に関しては、コールされずに超長期債の最終償還まで保有を迫られた場合の信用リスクは大きい。不動産業に対する37年債や40年債の与信は、かつてのバブル経済の崩壊等から30年も経過していない歴史を考えると、最初のタイミングでのコールを前提とせざるを得ない。それでも、最初の償還までは7年もしくは10年であり、不動産業に対する与信という意味では、期間が長い。同日に募集された三井不動産のシニア債だと、7年債のクーポンは0.28%で、10年債のクーポンは0.38%である。同社がJCRから取得した格付けは、AA格である。劣後性を考慮した東京建物のハイブリッド債の格付けは、JCRのBBB格と6ノッチも下である。37年債の当初7年のクーポンは1.66%で、40年債の当初10年のクーポンは2.15%である。利回りとしては明らかに高いのであるが、BBB格の不動産業者に対する長過ぎる与信ではなかろうか。40年債はグリーンボンドの認定も受けているが、それが投資家の主な購入理由になると言うのも、不自然な判断であることは隠せない。