国内起債市場を斬る 新元号特別号:2019年度の起債市場を展望する

この4月からはじまる年度は、途中で元号が「令和」に変わるために、平成31年度と称するのは適切でないだろう。4月1日に新元号が公表されても、実際の適用は天皇陛下が退位されてからであるから、最初の1ヶ月は平成31年度である。これで元号よりも西暦の使用が一般化するとも思えない。先進国で元号を使用している国は他にないが、それ以外の国であれば、イスラム暦を使用していることもある。キリスト教由来の西暦を必ずしも唯一の世界標準とすべきではないという説もある。元号も切換等面倒であるのだが、時代の区分という意味でも存在意義はあると思える。かつて吉祥が現れたり、天変地異が起きたりしたことを改元の理由としたのも、無理はない。一世一元を制度化したのも、日本は明治以降だし、中国でも明清の時代である。

2019年度の起債市場を占うには、まず、前提としての金融環境を考える必要がある。ベースとしては、日銀の金融政策を展望することになる。昨年後半に見られた金利の先高感は、米中の貿易摩擦拡大とそれに伴う両国経済のみならず世界経済全般の失速感から、既になくなっている。欧米の景気は、今年度後半は横這いか下向きの可能性すら懸念される。こういう周辺環境で日本経済のみが強いことは考え難い。消費税率が10月に予定通り引上げられたとしても、そのことだけで金利が上昇するとは思えないのである。結局のところ、2019年度に大きな経済成長は期待できないし、日銀の金融政策に大きな変更がないと考えるならば、金利の大幅な上昇はないという見通しになる。欧米が金融緩和の見直しを停止して万一緩和に逆戻りした場合にも、日本が緩和を強化こそすれ、引締めに転じられる可能性は低い。金利は概ね横這いと見込むとして、信用スプレッドは欧米の景気後退が顕著になれば、拡大する展開も考えられるが、投資家が購入意欲を強めると、縮小することもあろう。したがって、発行体の調達意欲が高まらない限り、淡々とした社債募集が続くのではなかろうか。

発行体の調達意欲を左右する要素として、金利の先高感がないとすれば、それ以外の要因に注目すべきである。一つには、企業が資金調達を大規模に行うのは、M&A絡みである。既に新年度早々にも、武田薬品の大規模な起債が予定されており、今後もこういった感じで起債が行われることになろう。したがって、必ずしも季節性はない。年度の初めや四半期の頭に、公的セクターや電力等の募集は集中することになるが、M&A絡みの大型起債は別であろう。

投資家側の行動を考えると、期間収益を確保する観点からは、なるべく早めに投資したいだろう。金利の上昇による評価損の拡大が起こり難いと考えるならば、年度初めこそが投資の好機である。発行体側とは相容れない着目点であるから、年度初めの方が投資家の需要は集まり易いために、スプレッドはタイトになる可能性がある。結局のところ、募集のタイミングに関しては、発行体による決算の発表や株主総会等の要素に左右されることになり、それらのスケジュールについては、例年と大きく異なることはない。なお、今年のゴールデンウィークは10連休が予定されているが、従来から決算発表の時期であるために。社債の募集は必ずしも多くない。今年は、ゴールデンウィーク近辺だと債券募集と払込の間が不必要に空く可能性もあり、4月22日の週は債券募集があまり見られないのであろう。