国内起債市場を斬る 起債評価:4/8~4/12

年度初めの起債は、発行体側から見れば早期の資金調達実現である。一方、投資家側から見れば、早期の投資実行であり、期間収益という意味からは、なるべく早い時期での債券購入が、利息収入に繋がる。つまり、早期の起債に対しては、需要と供給がマッチする傾向にある。一部の投資家には、4月早々には体制が整っていないとか、年度方針が固まっていないとかの理由で、年度始すぐには動かない例もあるが、基本的にはもったいないことであり、投資機会を逸していると見るべきだろう。もっとも多くの投資家が早期に債券を購入しようとするならば、スプレッドはタイトになる可能性があり、無理してまで購入すべきでないというのもごもっともである。

この週に条件決定された起債で最大の金額であったのは、ソフトバンクグループの個人投資家向け6年債5,000億円である。JCRでA―格という評価は既に無視してよいのかもしれない。クーポンは1.64%に設定されており、同日に機関投資家向けに募集された三菱地所の50年債の1.132%クーポンをはるかに上回る。スマホやADSL等通信関連でユーザーを押さえており、TVCMの出広量も多いことから、知名度は高い。クーポンが高いだけでなく、証券会社に支払う引受手数料も1円25銭と、個人投資家向けという顧客管理の要素を考慮しても、極めて高い水準にある。つまり、投資家にとっても引受証券にとってもハッピーな起債であり、唯一、高水準な利息を支払っているということなのだから、株主の利益が毀損されているのである。しかも、過去の経緯からは機関投資家は、ソフトバンクグループ債に積極的な投資姿勢を見せていない。それは、個人投資家が保有債券の時価評価を求められないのに対し、機関投資家の多くが、バイアンドホールドを意図していても、保有債券は時価評価を求められるからである。業態特性から通信障害等の発生といったヘッドラインリスクが高いだけでなく、元々、M&Aによる信用力の変化が大きいことにある。つまり、企業分析や業界分析だけでは、保有債券の価値が保全できないのである。したがって、同社が個人投資家向けの大量起債を行うのは、理に適っていて、某大手証券のセールスからは小職にも早くから電話でのセールスに来ていた。

もう一つの大型起債が、ブリヂストンによる5年債500億円・7年債500億円・10年債1,000億円の3本立て計2,0000億円である。マーケティング当初は、もう少し少な目の起債額が言われていたものの、投資家の強いニーズから各年限とも増額されている。近年の大型起債では、M&A絡みのものが多いが、今回はそういった資金使途ではないようだ。足もとでは10年金利が回復しつつあるものの、未だにマイナス圏で推移しており、ブリヂストンの10年債も国債対比+43bpsのスプレッドで、クーポンは0.375%である。R&IでAA格と高格付けであるが、より高格付けな公共関係の債券が低クーポンになっているため、相対的には投資妙味があると受入れられたようである。