国内起債市場を斬る 起債評価:7/1~7/5

7月に入り、米国独立記念日の花火でお祝いムードになる一方で、起債市場の様相は一変する。3月期決算企業の株主総会を超え、年度第2四半期に入るためである。満を持して起債市場に臨むのは、発行体も投資家も同じかもしれない。しかも、10年国債利回りが、日本銀行の想定するレンジ±0.2%の下方に位置する状況であり、超長期国債の利回りも低下していることから、発行体の調達ニーズは高く、一方で、債券を買えていない投資家の焦燥感も強い。円債購入を諦め、他の資産での利回り獲得に向かえば、無理して年限の長い債券や突っ込んでタイトなプレミアムの社債等を購入しなくて済むのであるが、基本的に年度初めに策定した計画を遵守することが得意な日本の機関投資家は、愚直に債券購入を進める。期間損益を考えれば、利回りが低くても、投資の開始時点は早い方が良い。その結果、4月や7月の投資家は、極めて購入意欲が旺盛である。

社債等の募集はほとんどが5日の金曜日に集中した。4日に募集したのは、東京電力パワーグリッドの3本立て起債のみである。5年債700億円・10年債800億円・15年債600億円と計2,100億円の大型調達である。同社の起債はスプレッドプライシングを採用していないが、10年国債利回りがマイナスに陥っていることもあって、スプレッドプライシング自体の減少が著しい。地方債や財投機関債等国債利回りを強く意識する公共セクターを除くと、5日の金曜日に募集された10年物社債でスプレッドプライシングを用いたとされるのは、中部電力と中国電力の2電力のみであり、その他のリコーリース、三井物産、JR東日本、近鉄グループホールディングス、東急不動産ホールディングスといった発行体は絶対値ベースでのプライシングである。何しろ10年国債利回りがマイナス圏に深く沈んでいるために、スプレッドの方がクーポンより大きいのである。

確かに東京電力パワーグリッドの信用力には懸念がない訳でもないが、東日本大震災後の政府による保障スキームを考えると、さほど心配しなくても良いのではないか。同じ10年債で比べて、同社の社債クーポンは1.01%で、翌日に募集されたJR東日本の社債は0.1%クーポンである。10倍以上の差と考えることも出来るし、91bpsの格差と考えることも出来る。R&Iの格付けでBBB+格とAA+格と大きく水準は異なっているが、果たして電力債をそこまで忌避すべきかは、議論が分かれる。

起債市場のスタートダッシュは、電力債のみならず、ノンバンクやメーカー、商社、鉄道等多様な発行体が社債の募集に動いた。今後も、メーカーの起債観測が多く聞かれており、投資家側も銘柄選択に色々と思い悩む展開になりそうだ。