国内起債市場を斬る 起債評価:9/2~9/6

起債環境に大きな変化はない。基本的に、欧米も含めて先進国の金利は低下傾向にある。当然に9月の各中央銀行の政策決定イベントには、注目が集まっている。もし、米国が7月につづいて利下げを敢行した場合、為替は円高水準に振れるのか、それとも、大きな変化はないのか。もし円高になるようなら、日本銀行も再び金融緩和を強める可能性が高いと想定される。既に日本銀行の黒田総裁は、マイナス金利の深掘りの可能性すら示している。しかも、起債市場は上期末が近づく中で、募集に適した営業日が徐々になくなりつつある。さらなる金利低下を見据えた投資家は、社債を積極的に買い向かう可能性が高い。この週の起債は、募集総額が巨額になった。

募集金額を大きくした一つのグループが、劣後債である。銀行・保険の劣後債としては、あいおいニッセイ同和損害保険が計500億円、第一生命ホールディングスが650億円、三菱UFJフィナンシャルグループが計2,000億円と計3,000億円を越えて募集したのに加え、日本製鉄の劣後債(世の中ではハイブリッド債などと称すこともあるが、実際には、単なる劣後債と考えるべき)が計3,300億円募集されており、劣後債の募集総合計は6,400億円を上回る金額であった。

もう一つ募集金額を増やしたのが、ソフトバンクグループである。もっとも、個人投資家向けの4,000億円は6日に条件決定されただけで、実際の募集は9日からとなっている。同社が個人投資家向けに4,000億円といった大規模な起債を行うのは決して珍しくないが、今回は同時に条件決定・募集された機関投資家向けの募集額が目を引く。個人投資家向けと同じ7年債で、同一クーポンとされたのであるが、単体で1,000億円を募集している。従来から、同社に対する与信について慎重なスタンスの機関投資家は少なくない。機関投資家向けの社債の発行額より個人投資家向け社債の方が募集金額は大きいのは、別に普通であった。しかし、機関投資家向けで1,000億円と大台に乗った募集が実現したのは、投資家の利回り志向が、「たとえソフトバンクでも背に腹は代えられない」と、気持ちが緩んだと考えられる。

ソフトバンクグループが募集したのは、JCRでA-格の評価の7年債で、クーポンが1.38%と高水準である。一方、日本製鉄の60年物劣後債で当初7年間償還されないタイプのものは、7年間のクーポンが0.93%である。日本製鉄の劣後債格付けは、劣後性による引き下げを考慮しても、JCRのA格とソフトバンクグループより高い。しかし、差は、わずかに1ノッチである。劣後プレミアムが乗っているとはいえ、日本製鉄の0.93%が色褪せてしまうような利回り水準であったと言える。もっとも、それを利回りが高いとポジティブ方向のみに評価すべきではなく、1ノッチ上の劣後債よりも、大幅に利回りが上回ることとなった背景として、発行体にどういったリスクが存在するかをよくかを、真摯に考えるべきではないか。