国内起債市場を斬る 2019年度上期末特別号:令和元年の上期を振り返って

5月から令和元年度となった今年度上半期の起債市場を振り返ってみよう。起債環境としては、米中貿易摩擦の影響を受けて欧米の金利先高観が後退し、グローバルの景気トレンドは下方に向かうと想定された。その結果、クレジット面では、低格付け債のスプレッドに拡大圧力のかかることが懸念された。ところが、FRBによる予防的な利下げやECBによる金融緩和縮小の撤回によって、株価は利下げ催促を意識して高水準を保っている。日本においても、日本銀行は既に金融緩和の手段を相当程度使い尽くしているものの、マイナス金利の深掘りを意識して、株価は高めを維持している。欧米のみならず、日本においても金利の先高感は後退し、10年国債利回りはマイナス金利が導入された2016年に記録した最低水準と同程度にまで低下している。利回り確保の一つの方向性である年限の長期化が十分に機能しない中で、投資家はもう一つの方向性であるクレジットリスクの拡大を意識せざるを得なくなっている。

年限について振り返ると、日銀による買いオペ対象の期待から見られていた3年債の募集は環境変化から少なくなり、低利回りから5年債の募集もあまり多くは見られない。起債市場の中核は、従来からの10年債に加えて、業種・銘柄によっては超長期債になる。その一方で、国債利回りのマイナスが残存15年程度にまで拡大すると、ほぼ全年限でスプレッドプライシングが適切に機能しなくなり、結果として、20年前の起債市場のような絶対水準の利回りをベースとした起債がほとんどになっている。もっとも、マイナス金利政策によって、対象年限の国債利回りがマイナスとなっていた中期債では、既に利回りの絶対値によるプライシングが主流となっており、絶対値の適用年限が全体に及ぶ傾向のあることが上期の一つの特徴であろう。

クレジットの面では、必ずしも低格付け銘柄の募集が増えたというイメージではない。それでも、新規に市場での社債発行に取り組んだ企業は少なくなく、A格付のゾーンを中心に起債本数は確保されている。BBB格付ゾーンに満たないハイイールド債が公募されたことは一つのトピックであり、後続案件の参加による市場の拡大が期待されるところである。

年限の長期化とクレジットリスクの拡大という二つのベクトルを同時に満たしているのが、ハイブリッド債の流行であろう。期限前償還されるならば単なる中期債であるが、コールされないと仮定して最終償還を意識すれば、超長期債である。しかも、コールオプションのプレミアム相当分に加えて、劣後プレミアムが乗っているのであるから、利回りは十分に高くなる。投資家のイールドハントに対するニーズと、発行体の長期資金調達及び資本の充実ニーズの双方を満たすウィン・ウィンの起債である。しかし、双方がハッピーということは稀なのが市場の常であり、将来的にはハイブリッド債に対する幻想も、資本性評価の見直しや発行体によるコール見送りが頻出するようなことになれば、投資家からの需要は急速に減退することになろう。