国内起債市場を斬る 起債評価:10/7~10/11

起債市場において募集に適した時間は決して長くない。カレンダーが10月に入ってしばらくすると、3月期決算企業の上期末決算発表を意識するタイミングが迫って来る。そのため、必然的に下期入りしてからの限られた時間に案件が集中しがちとなる。さらに、劣後債や個人向け社債などの条件決定が重なれば、金額だけで見ると、巨額の募集になってしまう。この期間においても、メガバンクグループによる劣後債の募集が2グループによって行われたため、他の週とは桁違いの金額となっているのである。

三菱UFJフィナンシャルグループによる劣後債は機関投資家向けの募集であり、5年3か月早期償還付き永久劣後債が1,570億円、10年3か月早期償還付き永久劣後債が1,160億円と2本立てで計2,730億円が募集されている。早期償還を前提にし劣後事由や債務免除事由の発生がなかった場合には、5年3か月債でクーポンが0.82%、10年3か月債でクーポンが1%と高水準である。取得した格付けはJCRのA-格であり、永久劣後性等の考慮から決して高水準ではないが、特に10年3か月債の1%クーポンは魅力的だろう。同日に募集された同じA-(JCR)格を取得したトナミホールディングスの10年債のクーポンは0.4%であり、半分以下の水準である。早期償還のオプション性及び劣後や債務免除事由が生じる蓋然性と、三菱UFJフィナンシャルグループのネームを比較考量し、購入する投資家も少なくない。

一方、みずほフィナンシャルグループは個人投資家向けに劣後債を募集している。個人投資家向けであるから、形式的に永久劣後債は選択し難い。10年の一括償還債410億円と5年早期償還付き10年劣後債1,170億円の計1,580億円を条件決定している。10年債のクーポンは0.538%と銀行預金などでは得られない高利回りであり、5年の早期償還付き劣後債のクーポンは0.39%である。劣後特約等が付されているとはいえ、みずほフィナンシャルグループの期限付き劣後債の格付けは、R&I及びJCRのA+格である。同日に条件決定された近鉄グループホールディングスの個人投資家向け5.5年債のクーポンは0.21%であり、格付けはR&IのBBB格及びJCRのBBB+格である。格付けの差が3~4ノッチあるため、早期償還を前提にした5年程度の債券として比較すると、利回りの逆転は著しいと評価することが可能である。個人投資家は劣後等のリスクをどう評価するだろうか。なお、近鉄グループホールディングスの個人投資家向け社債には、抽選で200名に賢島宝生苑の宿泊招待券が当たる。これへの期待も含めた評価となるだろう。

なお、11日に募集されたトヨタファイナンスの3年債は、民間企業の募集した社債としては、初めて利回りが0%となっている。クーポンは0.001%に設定されているが、発行単価が100円00銭3厘のオーバーパーとされているためである。既に財投機関債等では同様の0%債券は確認されていたが、社債でも見られるようになったものである。ほかの高格付け発行体で追随が見られるか注目されるが、日本銀行が今後マイナス金利を深掘りした場合には、より長い年限や格付けの低い発行体による募集も考えられる。利回り0%の意味するところを、よくよく考えておきたい。