国内起債市場を斬る 起債評価:11/4~11/8

9月末決算の発表が引きつづき継続しており、民間企業の社債募集は動きが鈍い。1週間を見渡すと、国債や地方債を除いて条件決定から募集に至ったのは、日本高速道路保有・債務返済機構と住宅金融支援機構の財投機関債を除くと、森ビルの社債のみとなった。

森ビルは3月期決算を採用しているが非上場であり、必ずしも上場企業と同様のスケジュールには馴染まない。今回募集したのは、10年のグリーンボンドである。不動産業は、比較的にグリーンボンドには馴染みやすい業種であろう。今回の起債に関しては、虎ノ門・麻布台プロジェクトの保留床取得資金を使途とすることが発表されている。「アークヒルズ」に隣接し、「文化都心・六本木ヒルズ」と「グローバルビジネスセンター・虎ノ門ヒルズ」の中間点に位置し、ロシア大使館の斜め向かい、旧麻布郵便局のあった日本郵政グループ飯倉ビル及びその背後にあった古い住宅地等を再開発するプロジェクトである。やや地下鉄の駅からアクセスは良くないが、港区内の一等地である。『緑につつまれ、人と人がつながる『広場』のような街』というコンセプトが提示されており、超高層ビルと緑化地域を両立させる狙いで、グリーンボンドには相応しいプロジェクトであろう。なお、グリーンボンドとしての適格性に関する第三者オピニオンは、サステイナリティクスより取得している。

ここで近年の社債発行市場における変化の可能性について、コメントしておこう。従来、投資家は自らがどの債券を幾ら購入したかが公になるのを望んで来なかった。また、どの証券会社から購入したかも、他の証券会社との取引関係に影響する可能性があることから、明らかになるのを忌避して来た。こうした状況に変化が訪れる可能性が、二つの方向から見られている。一つは、グリーンボンドやソーシャルボンド等に対する取得意向の表明である。投資家が新規に発行される債券に対して事前に購入意欲を示すということは、価格決定に影響を与える可能性もあり、避けられてきたのである。ところが、購入意欲の表明は、実際には、購入しない可能性もあるし、金額が明示されないことで、必ずしも忌避されないようになっている。グリーンボンド等に投資する異様の表明は、結果として、投資家と発行体双方のメリットがあるように思える。

もう一つの方向がPOT方式の採用である。主幹事証券等が顧客からのオーダーをすり合わせ、適正価格と玉(ぎょく)の配分をコントロールするものである。一部の投資家には根強い抵抗感があり、必ずしも全面的な採用には至っていない。そして、投資家の抵抗の背景にあるのが、購入申し込み玉の数量や完売に関する引受証券から流される情報が必ずしも真実でない可能性があると疑われていることにある。歴史的には、ある程度の疑いが古くから根強く囁かれてきたものの、近年では、「条件決定の金曜日集中化」と極端な偏りもあって、情報ベンダー経由で公表される完売宣言や応募倍率等の一方的な情報に対して内容の正確性が疑われている。一部の情報ベンダーからは、「実は完売していなかった」といった類の報道すら見られる。このように起債運営に対する投資家の不信感が高まっていることを前提とすると、POT方式が必ずしも容易には前に進まないものと考える。引受証券は改めて市場から疑念を呈されないように襟を正す必要があるのではないだろうか。