国内起債市場を斬る 起債評価:12/16~12/20

2019年の起債市場は、此の週で終わりとなる。今年は天皇誕生日がなくなったので、クリスマス前の休日がない。海外で一般的なクリスマス休暇とは異なり、日本の長い年末年始休暇は、グローバルな市場スケジュールとは合致していない。特に、1月の2日と3日が休みなのは、先進国の主要市場では例がない。結局、日本ではクリスマス前から約2週間ほど金融市場が十分には機能しないことになる。かつては、この間に発表される国債発行計画や資金運用部ショックなど、タイミングの悪いイベントが生じたことがあるものの、近年の予定調和的国債発行計画と日本銀行による大量購入で需給が締まっている金融市場は、波乱を期待する方が難しい。淡々と年末年始を迎えることになろう。

最後のタイミングで動いた社債は、二本のみであった。一つは、東京海上日動火災保険の劣後債である。満期は60年となっているが、10年後に期限前償還が可能になっており、金融庁の監督に服す業態に関しては、発行体のコールオプション行使が確実視できることから、実質的に10年債と考えて、よほどのことがない限り大丈夫であろう。近年では、一般事業会社の劣後債をハイブリッド証券などと称して、高い利回りで募集しているが、此方は期限前償還が確実でないことに留意するべきである。証券形態でないハイブリッドローン等では借換えによる実質的な継続を宣言し、それを前提にして格付会社が一定の資本性を認めていたが、宣言を反故にし短い期間でローンを終わらせた事例が少なからず存在する。早期に資金が返済されることは良いものの、再投資が困難になっている可能性は否定できない。結局のところ、オプションの行使が借り手の判断になっているのである。監督官庁によるコントロールがなく、市場や格付会社との間での取り決めを容易に翻して来たことを考えると、事業会社の劣後債については、信用状況や金利水準の変化があった場合に、期限前償還が実施されないリスクを十分に考慮しておくべきだろう。その場合、60年とかの超長期与信になってしまう。

もう一つの起債は、東京ガスの38年債である。社債の募集年限は、基本的には区切りの良い5年・10年・15年・20年・30年といったものが多くいものの、10年以内であれば、特にレアな9年債や1年債といったものもあるが、それ以外の年限はすべて普通に募集されている。必ずしも国債の発行年限にとらわれないのである。また、整数年限である必要はなく、この12月でも三井不動産の第71回社債は10年4か月債であった。地方公共団体金融機構のFLIPに基づく債券は、定例の募集年限を外すことが基本であり、オッド年限の募集が珍しくない。そのため、市場参加者は債券の募集年限に対して、以前よりも柔軟な対応ができるようになっている。国債の流通市場が安定していることで、端数の年限でも利回りの参照が容易である。今回の東京ガス債は、国債に対するスプレッドプライシングが行われており、国債対比+26.5bpsのスプレッドで、0.693%のクーポンとなっている。小数第3位まで刻んで半端なクーポンにも見えるが、発行体の年限希望と、投資家のニーズが合致すれば、問題なく消化できる良い例かもしれない。

国内起債市場を斬る 起債評価:12/9~12/13

金利の先高感があまり強くない中で、年末に急いで起債する動きはない。6日の金曜日は劣後債を中心として巨額の債券募集を見ることができたが、週を通しては静かな展開であった。大量の債券供給があった直後であることから、投資家の需要は必ずしも強くなく、投資に際しての銘柄吟味も辛めである。引続き、問題なく消化される起債の条件としては、利回りの高さと、発行頻度の多くないことである。もっとも格付けが低い場合には、レアだからと言って必ずしも良好に売れるとは限らないし、また、逆に、50億円程度の小額起債であると、売れ行きを云々する必要性が乏しい。日本の社債市場でセカンダリーマーケットの流動性の無さが問題視される背景には、投資家がバイアンドホールドであることに加えて、発行金額が小さいことも指摘される。そもそも、ほとんどの社債の最低取引単位が1億円であるために、総額50億円という社債は、50単位にしか分割できないのである。日本で社債を主たる投資対象とする投資信託が商品として成り立ち難いのも、こうした商品特性に原因の一つを求めることができる。市場の活性化を考えるならば、社債のあり方そのもとと、セカンダリーマーケットの将来像を見直す必要があるだろう。

足元の社債市場では、引続き、二極化の傾向が見られる。一つの方向性としては、年限の超長期化である。前週に大量に募集された期限前償還条項を付した劣後債もその文脈で考えられるし、より顕著なのが、鉄道会社に代表される安定業種による起債の多さであろう。この週も、三井不動産が10年4か月債と20年債を計500億円募集し、九州電力は30年債150億円、京阪ホールディングスは20年債を100億円、JR東日本は20年債100億円・30年債100億円・40年債150億円の計350億円を募集している。格付けで信用力を測定可能な年限を越えた社債については、業種特性や当該企業の置かれている状況等を個別に検討して投資判断を行うしかなく、監督官庁による介入度合いの強い業種の方が安定感が強くなる。電力・ガスや鉄道といった業種や、その他の業種では上位企業でないと安心して超長期年限の投資はできないだろう。それでも、将来に向けたリスクエクスポージャーの拡大であり、投資家の担当者も異動や退職によって、投資判断の責任を免れることになるのだから、投資判断における組織ガバナンスが強く求められるべきであろう。

もう一つの方向性がレア銘柄である。募集されたSUBARUの5年債100億円・7年債150億円・10年債150億円の計400億円は、第1回~第3回債である。昭和リースの5年債100億円は第4回債、荒川化学の5年債50億円も第4回債、日本化薬の3年債40億円と5年債80億円は第3回債及び第4回債と、極めて若い回号である。格付けもA-格~A格あたりで、必ずしも高格付けではない。発行年限も5年債が主である。これらの起債も発行体の裾野拡大には意味がある一方で、小額の起債であることから必ずしも市場の厚みには繋がらない。極論すれば、募集したらそれで終わりに近く、流通市場で二度と見かけることがない可能性が高い。

年内の起債市場は、もう少し動きがあるようだ。あまり芳しくない日銀短観の一方で、日経平均株価は高値を付けている。バブル経済のピークを象徴する日経平均株価の最高値は1989年12月末であったことも、忘れてはならない。

国内起債市場を斬る 起債評価:12/2~12/6

12月に入ると、起債市場も年内最後の募集タイミングとなり、まさに佳境に入る。条件決定の物理的期限が月央に迫っていることもあって、起債観測による投資家への打診開始はそろそろタイムリミットである。このような状況でも、募集の多くが金曜日に集中するのは相変わらず困りものだ。特に、12月最初の週は、財投機関債も含めて、6日金曜日への集中が著しい。社債だけに限っても、この週は、3日火曜日1件、4日水曜日も個人向け社債の条件決定を除くと4件、5日木曜日1件といった分布である。6日に条件決定された社債は、機関投資家向けに限っても、30件を超える。

6日の募集で集中したのは、社債の本数だけでなく、いわゆるハイブリッド債が顕著である。結果的にハイブリッド債だけでも、募集金額が大きくなっている。既に4日水曜日にも、東海カーボンが250億円の劣後債を募集している。劣後債の評価はR&IのBBB格で、期限前償還を前提とすれば、0.82%クーポンの5年債である。もし期限前償還されなければ、30年債になってしまうのだが。しかし、6日金曜日のハイブリッド債募集は、この東海カーボン債であっても、陰に隠れてしまう。

6日には、大阪ガスが60年債2本(期限前償還は7年及び10年)計1,000億円を募集し、三菱UFJフィナンシャルグループは10年債2本(1本は期限前償還5年)計500億円を、住友化学は60年債2本(期限前償還は5年及び10年)計2,500億円を、名古屋銀行は10年債期限前償還5年100億円を募集し、イオンは30年債期限前償還10年及び35年債期限前償還15年計800億円を募集している。全部を積み上げると、合計で4,900億円ともなる。大阪ガス債は、R&IのAA-格と劣後債では異例の高格付けであるが、住友化学債はR&IのBBB+格及びJCRのA-格と片脚がBBBゾーンに突入しており、イオン債は東海カーボン債と同じく、R&IのBBB格となっている。

東海カーボンとイオンの劣後債を比べると、期限前償還の時期が異なるものの、当初クーポンが0.82%に対し、1.8%及び2.52%と全く異なる水準となっている。先行きの不透明感が高い小売という業態の特性を強く反映したものである。しかし、単純なイオンの社債で、10年債や15年債に投資するのは躊躇されないだろうか。結果的に、劣後債の仕組みを利用して利回りを高く見せているだけであるとも考えられる。期限前償還を前提にする投資の危険性に加えて、その年限設定すら業種によっては、より慎重に判断すべきであることを肝に銘じるべきだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/25~11/29

師走である。それでも、金曜日に条件決定が集中する慣習は変わらない。証券会社も投資家も仕事が集中して大変ではないかと思うのだが、条件決定の前にほぼ大勢が決しているために、募集当日に色々と集中しても問題ないのか。それはそれで、現在の募集実態が適切に運営されていないということとも思えるの。引受証券は、外部から指弾されないよう、法律や規則のみならず、ノブレスオブリージュ(noblesse oblige)に則った行動が求められる。

金曜日の29日に多くの募集案件が集中しているが、比較的に知名度の高くないメーカー等の条件決定が多くなったことが特徴的な動きとして挙げられるだろう。5年債を募集した日本冶金工業は、第1回債を募集している。デンカの7年債は第22回債と回数は多くなっているが、決して同社はフリークエントイシュアーとは言えない。住友林業(現在では建設業に分類されており、メーカーではない)は、10年第9回債及び20年第10回債を募集している。戸田建設も第5回の10年債を募集した。KHネオケムは、第1回の5年債を募集している。KHネオケムは、キリンホールディングスの傘下に入った協和発酵グループから、分離独立した化学品メーカーである。これらの企業の中では、住友林業がTVCMで見かけることがあるくらいで、他の企業は、一般消費者には直接触れる機会の少ない企業群であろう。なお、こういったレア物銘柄と見られる発行体の社債は、募集額が小さくなりがちである。日本冶金工業とKHネオケムは50億円の募集であるし、デンカが150億円を募集した以外は、各回号100億円ずつである。

中国電力の第421回債は、25年と珍しい年限で募集されている。電力会社の超長期起債も増えて来ているが、20年債や30年債に比べると25年債はほとんど見ることがない。20年や30年は国債の新規発行があるため、プライシングが容易であるというのが教科書的な説明である。新発の国債とクーポン水準が大きく乖離しないために、リスク把握や管理が容易であるという指摘もある。もっとも、近年のような低金利に加えて、金利変動幅も小さくなっていると、25年といった新発国債とリンクしない年限でも、条件決定は難しくないだろう。今回の中国電力の25年債は国債対比のスプレッド・プライシングで条件決定されたが、木曜日の28日に募集された三井化学の20年債は絶対水準でクーポンが決定されている。基軸が見え難い中でのプライシングであるから、20年や30年といった年限への拘りを捨てても良いだろう。今後は地方公共団体金融機構が募集するFLIP債のように、端数年限での起債がもっと増えても良いのかもしれない。