国内起債市場を斬る 起債評価:1/20~1/24

起債の波に大小があるのは、いつものことである。条件決定のラッシュが来たかと思うと、翌週は急速に案件数が減ってしまうことも少なくない。実際に、前週と比べると、この週の案件数は、減ってしまっている。それでも、24日の金曜日は、複数の条件決定が行われている。この後は、12月決算発表もあるので、波は小さくなりそうであるが。

この週の全般について特徴を探すと、ノンバンクと鉄道が主であるといったことになるだろうか。いずれも金曜日の募集案件であるが、ノンバンクでは、イオンフィナンシャルサービスが3.5年債と5年債計500億円、オリックスが5年のグリーンボンド100億円、クレディセゾンが5年債200億円の計800億円を募集している。この中ではオリックスの5年債が0.19%ともっともクーポンが低く、続いて、クレディセゾンの5年債0.22%で、同水準にイオンフィナンシャルサービスの3.5年債が続いており、もっとも高水準だったのはイオンフィナンシャルサービス5年債の0.3%となる。利回り水準そのものは決して高くはないが、R&Iの格付けのみで見ると、オリックスとクレディセゾンがA+格であるのに対し、イオンフィナンシャルサービスはA-格とツーノッチの差が存在している。なお、オリックスとイオンフィナンシャルサービスについては、東証の業種区分は「その他金融業」であるが、傘下に銀行や保険子会社を有しており、総合的な金融コングロマリットの持株会社としての側面も有している。将来的には、傘下の事業が拡大するならば、業種区分の変更が行われることがあるのかもしれない。

鉄道に関しては、月初に募集された個人投資家向け社債とは異なり、年限は長めである。京王電鉄が10年債100億円を募集した他、近鉄グループホールディングスは5年債と20年債各100億円を募集している。格付けで見ると。京王電鉄がJCRのAA格と突出した高水準であるのに対し、近鉄グループホールディングスはBBB(R&I)格及びBBB+(JCR)格と前述したノンバンクよりも低い水準にある。クーポンのみで比較すると、京王電鉄の10年債が0.205%とオリックスの5年債に続く水準であり、その後に近鉄グループホールディングスの5年債0.22%が続き、同社の20年債0.91%が別次元の高存在となっている。別の見方をしてみると、近鉄グループホールディングスは格付けでは劣位にあるものの、相対的に安定した事業基盤を有する鉄道セクターということで、5年債のクーポンがクレディセゾンの5年債と同水準であり、イオンフィナンシャルサービスの3.5年債とも同じになったものである。利回りの水準が単純に格付けに表される信用力だけに左右されるものではないという例になっている。

これらのセクター以外には、東京電力パワーグリッド7年債やT&Dホールディングスの劣後債、中日本高速道路の5年債などの募集が見られる。利回り水準だけで見ると、東京電力パワーグリッド(0.68%クーポン)やT&Dホールディングスの劣後債(当初5年0.69%クーポン及び当初10年0.94%クーポンの2銘柄)は高水準である。原発事故の影響を受ける一方で一般担保付の枠組みを維持している電力や、金融庁の監督下にあって初回コールがほぼ確実視される保険持株会社の劣後債という特性から、購入姿勢を示す投資家が限定的なためでもあるが、仕組みの面では、デフォルトへの距離は遠いとも考えられる債券である。債券の特性を理解し購入対象とする投資家が限定的であることが、高水準の利回りが付される大きな要因である。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/14~1/17

成人の日の三連休明けは、いきなりの起債ラッシュである。特に、17日の金曜日は案件集中が著しい。民間企業の社債だけでも数が多いのに、財投機関債等の公共セクターが上乗せされている。1日に条件決定が10本以上あると、十分に忙しく見えるのであるが、20本を越えたのだから、ラッシュであったと評価してもおかしくないだろう。

10年国債利回りがプラスになった局面での起債となったが、全体的な利回り水準は依然として低く、超長期の起債が相次いだのは、引続き、投資家の利回りに対するニーズが高いことを示している。超長期債を募集した発行体は、民間企業から公共機関まで幅広い。20年債だけでも、川崎重工業、地方公共団体金融機構、中部電力、東京地下鉄、成田国際空港、といった顔触れである。この中で利回りをもっとも高く設定されたのは、川崎重工業債の0.7%であった。超長期債の発行体としては、メーカーは決して多くなく、また、中でもこの会社の事業展開を考えると、超長期の与信には躊躇すべきだろう。同社が消費者向けに直接販売する商品は自動二輪車のみであり、基本的にはBtoBのメーカーである。船舶、鉄道車両、航空機、産業用プラント、精密機械、ロボットといった幅広い展開の中において、自衛隊関連の防衛産業の一角でもあり、破綻処理は行われ難いと期待されるが、景気の影響を強く受けたり、海外企業との競合関係にあるジャンルも少なくない。20年先を安定的に見通すことのできない企業の20年債は、購入対象とし難いと考えるべきである。

20年債を越える年限を募集したのは、東京地下鉄の30年債及び50年債、日本高速道路保有・債務返済機構の30年債及び36年債、地方公共団体金融機構の40年債といった公共セクターである。超長期の与信対象としては、問題は少ない発行体ばかりと言えるだろう。ただし、中では、東京地下鉄の将来を考えると、新規路線の建設が再開された場合のコスト負担や都営地下鉄との合併問題など、懸念材料がないものでもなく、将来的に完全民営化されるならば、全く異なった信用力の状況となる可能性が否定できない。逆に、既に組織のあり方を見直された結果である日本高速道路保有・債務返済機構や地方公共団体金融機構については、当面の変更はないものと想定できる。株式会社形態とされなかった点も、超長期の与信には適した発行体である。

この週の起債のもう一つの特徴は、SDGs(Sustainable Development Goals)債が複数募集されたことである。東急不動産ホールディングスは5年物グリーンボンドを募集しており、JR東日本は10年物のサステイナビリティボンド、東日本高速道路は5年物・7年物・10年物のソーシャルボンドを募集している。分類上の概念は異なるものの、主に対象とするプロジェクト等の絞り方の違いであったり、発行体の事業内容の違いであったりする。近年は、これらを広い意味でSDGs債と括ることが定着しはじめており、投資家側もその認定基準・内容を確認した上で、購入意欲の表明等の取組みを行う事例が見られるようになっている。

国内起債市場を斬る 起債評価:1/6~1/10

2020年最初の週の起債市場は、個人投資家向けの鉄道社債と、財投機関債で幕開けとなった。個人投資家向けの社債発行体は、東武鉄道と小田急電鉄でいずれも3年債を条件決定している。東武鉄道債には「東武スカイツリーボンド」という愛称が付され、小田急電鉄債には「小田急箱根ゆけむりボンド」という愛称が付されている。いずれも抽選で購入者に景品が当たる仕組みとなっており、投資家の購入意欲を促進する働きがある。もっとも東武鉄道債のクーポンが0.15%で、小田急電鉄債のクーポンが0.1%と、両銘柄ともマイナス金利を大きく上回る水準になっており、利率の面では十分投資妙味があるとも言える。何れも申込期間は1月30日までであり、購入単位の100万円が障害にならない資産家にとっては。絶好の投資機会であろう。

残りの財投機関債は二つの発行体が条件決定している。一つは住宅金融支援機構であり、10年債と20年債各100億円ずつを募集している。R&IのAA+格とS&PのA+格という、いずれも日本国債と同水準の格付けを取得しており、トヨタ自動車等を除けば、日本国内で最高の格付けを取得している発行体と言って良いだろう。10年債は0.155%クーポンで国債対比+15.5bpsのスプレッドであった。つまり、参照国債の利回りは0%だったという計算になる。20年債の利回りは0.35%クーポンで、国債対比のスプレッドは+5.5bpsであった。

もう一つの財投機関は、日本政策投資銀行である。株式会社形態であるために、投資家側の自己資本比率規制によって劣位する可能性があり、格付会社の評価も、JCRのAAA格とムーディーズのA1格は日本国債と同等であるが、住宅金融支援機構が格付けを取得しているR&IではAA格、S&PではA格と1ノッチずつ低い水準となっている。今回募集したのは、3年債100億円、5年債200億円、10年債200億円の計500億円である。3年債は0.001%クーポンで発行単価が100.003円のオーバーパーであり、単利利回りは0%となる。5年債のクーポンは、0.005%である。10年債は0.155%クーポンで国債対比+15.5bpsのスプレッドであった。つまり、一部の格付会社による評価では1ノッチ下回るが、同日に募集された住宅金融支援機構の10年債と同じ利回りになっている。

なお、昨年末に公表された令和2年度の財投機関債発行計画では、久しぶりに中日本・東日本・西日本の高速道路会社3社が財投機関債を発行する計画であり、一方、新関西国際空港と中部国際空港が財投機関債の発行体から外れる計画であることが公表されている。来年度は、財投機関債の顔触れに変化が見られることになりそうだ。

国内起債市場を斬る 新春特別号:2020年のクレジット市場を展望する

年初にあたり、2020年のクレジット・マーケットを展望してみたい。まず、前提となるリスクフリーレートである国債利回りについては、大きな変化が期待できない。日本経済が人口減少の影響を受け低成長に陥っているのと同様に、グローバルに見ても先進諸国は停滞経済化している。その結果、国債利回りが大きく上昇する見込みは乏しい。むしろ景気悪化から、さらなる金融緩和の強化を受けて、人為的な金利圧縮が継続されることだろう。日銀が望むような物価上昇の実現するシナリオは、中東の紛争激化から原油輸入が困難となり原油価格が上昇する影響が物価全般に波及するといったものか。しかし、米大統領選挙と北朝鮮問題を抱える中では、世間をにぎわせているような第三次世界大戦といったものは想定できないし、勃発しても局地戦に限られることだろう。イランを中露が全面的に支援して、西側諸国と激突するなんて世界大戦は、今は架空戦記のシナリオでしかない。
金利が上昇せずレンジの範囲内に留まる中では、クレジット市場自体の要素が大きな変動要因となる。先進各国の経済が停滞する中では、高格付けの銘柄に対する危惧は少ないが、信用力の劣る銘柄や知名度の高さから過大に評価されている銘柄は、大きな転機を向かえる可能性が高い。歴史的に見ても、日本の社債でデフォルトした業種を考えると、小売や不動産といったものが多く、メーカーについては実例が少ない。業態を問わず、発行体を破綻処理せずに融資の返済スケジュールを変更するといった対応がとられる可能性は引き続き高い。発行体と金融機関の取引関係についても、改めて確認しておくべきだろう。

ヘッドラインリスクと株価の変動が、信用力そのものの直接の変化ではないものの、社債の価格変動をもたらす要因になる可能性はある。隠れていたマネジメント・リスクや不正会計、コンプライアンス違反等のイベントは、要注意である。また、M&Aを中心にして巨大な投資が膨れ上がっている企業グループなどは、投資先の何処に地雷が埋れているかわからない。2019年に明らかになった例で言えば、日産自動車、関西電力、日本郵政、ソフトバンクグループなどだろう。当該企業が破綻するかどうかは様々な外的要素が影響するし、社債の償還は確保されても、期中の価格変動が大きくなる可能性もある。景気低迷下では、金利水準が低くなっていることから、キャピタルの損失をインカムで埋め合わせることは容易でない。

2020年の時間軸を考えると、中東や極東の地政学的リスクは、いつ爆発してもおかしくない。一方で、日本は夏に東京オリンピック・パラリンピックというビッグ・イベントを控えている。夏までグローバル経済が持つのかどうか、安倍政権に対する支持が岩盤のような強さを失いはじめた今、五輪後の衆院選の可能性を含め、政治的な混迷が起きた場合の、クレジット市場に与える影響は小さくない。秋の米大統領選を考えると、2020年の前半に収益を確実に固め下期以降に波乱が生じても耐えられるような状況を築いておくことが望ましい。結局「備えあれば憂いなし」という先人の言葉を噛み締めて、準備するしかないのかも知れない。