国内起債市場を斬る 新春特別号:2020年のクレジット市場を展望する

年初にあたり、2020年のクレジット・マーケットを展望してみたい。まず、前提となるリスクフリーレートである国債利回りについては、大きな変化が期待できない。日本経済が人口減少の影響を受け低成長に陥っているのと同様に、グローバルに見ても先進諸国は停滞経済化している。その結果、国債利回りが大きく上昇する見込みは乏しい。むしろ景気悪化から、さらなる金融緩和の強化を受けて、人為的な金利圧縮が継続されることだろう。日銀が望むような物価上昇の実現するシナリオは、中東の紛争激化から原油輸入が困難となり原油価格が上昇する影響が物価全般に波及するといったものか。しかし、米大統領選挙と北朝鮮問題を抱える中では、世間をにぎわせているような第三次世界大戦といったものは想定できないし、勃発しても局地戦に限られることだろう。イランを中露が全面的に支援して、西側諸国と激突するなんて世界大戦は、今は架空戦記のシナリオでしかない。
金利が上昇せずレンジの範囲内に留まる中では、クレジット市場自体の要素が大きな変動要因となる。先進各国の経済が停滞する中では、高格付けの銘柄に対する危惧は少ないが、信用力の劣る銘柄や知名度の高さから過大に評価されている銘柄は、大きな転機を向かえる可能性が高い。歴史的に見ても、日本の社債でデフォルトした業種を考えると、小売や不動産といったものが多く、メーカーについては実例が少ない。業態を問わず、発行体を破綻処理せずに融資の返済スケジュールを変更するといった対応がとられる可能性は引き続き高い。発行体と金融機関の取引関係についても、改めて確認しておくべきだろう。

ヘッドラインリスクと株価の変動が、信用力そのものの直接の変化ではないものの、社債の価格変動をもたらす要因になる可能性はある。隠れていたマネジメント・リスクや不正会計、コンプライアンス違反等のイベントは、要注意である。また、M&Aを中心にして巨大な投資が膨れ上がっている企業グループなどは、投資先の何処に地雷が埋れているかわからない。2019年に明らかになった例で言えば、日産自動車、関西電力、日本郵政、ソフトバンクグループなどだろう。当該企業が破綻するかどうかは様々な外的要素が影響するし、社債の償還は確保されても、期中の価格変動が大きくなる可能性もある。景気低迷下では、金利水準が低くなっていることから、キャピタルの損失をインカムで埋め合わせることは容易でない。

2020年の時間軸を考えると、中東や極東の地政学的リスクは、いつ爆発してもおかしくない。一方で、日本は夏に東京オリンピック・パラリンピックというビッグ・イベントを控えている。夏までグローバル経済が持つのかどうか、安倍政権に対する支持が岩盤のような強さを失いはじめた今、五輪後の衆院選の可能性を含め、政治的な混迷が起きた場合の、クレジット市場に与える影響は小さくない。秋の米大統領選を考えると、2020年の前半に収益を確実に固め下期以降に波乱が生じても耐えられるような状況を築いておくことが望ましい。結局「備えあれば憂いなし」という先人の言葉を噛み締めて、準備するしかないのかも知れない。