国内起債市場を斬る 年度末特別号:その後の新型コロナウイルスとクレジット‐2

新型コロナウイルス感染の影響は、日を追って拡大している。異論はあるが、中国で最初に感染爆発が生じ、それが近隣の日韓に拡大した。前週末時点で中国の感染者は8万人強で、死者は3千人強とされている。日本では、武漢周辺からの帰還者や英国籍のクルーズ船乗客を除いて、決して感染者の発生は多くなかった。隣国の韓国では。宗教団体を中心にクラスター化及びスーパースプレッダー化したことなどから、感染者が1万人に近づいたが、死者は150人に満たない。韓国の感染拡大については、ピークを越えたようである。当初、東洋人や東洋料理店に対して「コロナ」差別を行っていたと報道され他人事と見ていた欧米では、遅れて感染が拡大することとなった。その欧州では、イタリアの感染者9万人弱・死者9千人を筆頭に、スペインで感染者6万人強・死者5千人、フランスで感染者3万人強死者2千人といった広範囲の感染となっている。英国皇太子及び首相の感染や、モナコ大公の感染は象徴的な事象である。対岸の火事と見ていた感のあるアメリカも、感染者は10万人を超え、死者は1,500人(3月26日現在)を超えている。既に中南米やアフリカでの感染も報告されており、世界的なパンデミックとなっている。日本はこれまで何とか感染爆発を抑えてきたが、大都市圏を中心として感染者の拡大や複数のクラスター発生が確認されている。

全世界で既に60万人が新型コロナウイルスに感染しており、拡大を抑止するため、各国によって人々の移動や生産活動が制限されている。東京で行われた週末の外出自粛などは可愛いもので、国によっては不必要な外出に対する刑事罰の適用すら行われている。こうした状況下では、当然、経済全般が停滞する。小売、サービス、運輸といった直接の影響を受け易い業種もあるが、従業員が生産工程に参加できないのであれば、メーカーにも大きな影響があるだろう。様々な企業への悪影響が長期に及ぶならば、雇用の減少から所得経由で消費に悪影響が及ぶのは必至であり、経済全般の停滞による影響を受けない業種はないと言って良いだろう。

それでなくても、2019から2020にかけては、景気循環による経済の停滞が予測されており、結果として、COVID-19が不況(場合によっては恐慌)のトリガーとなった可能性が高い。景気後退局面においては、信用力の劣る企業にまず影響が生じる。幸い日本にはハイイールド債市場が存在せず、代替機能を銀行等金融機関が担っているために、クレジット市場がすぐに機能不全となることは回避されるが、海外においては、経済活動の抑止が長引くに連れて、低信用力企業の破綻が多く生じることだろう。もっとも、信用力や業種の一般的な傾向とは別に、債務負担の大きな特定企業は信用力を大きく棄損することになるだろう。知名度のある大企業の破綻が引き起こされる可能性も、否定できない。

株価の大幅な上下変動は、必ずしも社債の価格変動とはリンクしないが、既にCDSは大きな値動きを示しているし、海外の一部社債銘柄では他にも理由があるものの、時価の大きく下落している例が見られる。これまでのところ金融市場そのものは、リーマンショック時のような機能不全には陥ってはいないが、これからの展開、特に都市の閉鎖や自粛がいつまで長引くかということが、大きなファクターになりそうである。何れにせよ、経済全般も金融市場も長期の非常事態に直面する厳しい状況に置かれていることになる。経済の実態と各国政府の施策を注意しておきたい。ただし、デフォルトが発生しない限り、債券は償還によって額面が返済されることを忘れてはならない。過度に悲観することは不要である。
(本稿続く)

国内起債市場を斬る 年度末特別号:その後の新型コロナウイルスとクレジット‐1

2019年度内の起債市場の動きは、終了した。3月末に多くの企業が決算を迎えるためである。特に、金融セクターは投資家も引受証券も3月末決算を採用しており、具体的な起債の動きは停滞する。今年度末は、新型コロナウイルスによる肺炎の拡大による影響が色濃く市場に出始めている。特に顕著な影響が見られるのは株式市場であるが、日経平均株価も米ダウ平均も上下の値幅を拡大しながら、基本的に大きく値を下げている。これは、各国中央銀行の強力な金融緩和による株式市場のバブルが、新型コロナウイルスの蔓延によって経済のファンダメンタルズが受ける影響を懸念して崩壊したものとも考えられる。欧米の中央銀行は3月に入って金融緩和を強化し、日銀もETFの買入れを増額しているものの、株価の下落を防ぐことはできていない。こうした状況は、クレジット市場にも無関係ではない。

新型コロナウイルスの拡大による影響は、様々な経路からクレジット市場にも及ぶことになるだろう。一つには、端的に影響を受ける業種としては、収益低下から信用力の悪化が考えられる。まずは、各国が人と物の流れを遮断しているために、空運・海運といった運輸企業が大きなダメージを受ける。既に、737MAXのトラブル問題から経営悪化していた米ボーイング社は、政府に対して支援要請を行っている。また、他の国々でも航空会社の路線休止からレイオフや経営統合に向けた動きが見られており、さらに、LCCの経営危機や破綻も次々に表面化している。海運に関しては、これから徐々に影響が出て来ると思われる。少なくとも、クルーズ船については、プリンセス号に加えてナイル川クルーズでの感染者続出から、当面、大きく業績が損なわれることだろう。

次に、多くのサービス業が影響を受けるのは必至である。代表的なのは演劇、音楽等の興行系企業であるが、クラスター感染のポイントとなったスポーツクラブや接客業等は特に大きなダメージを受ける。社債発行企業は決して多くないが、期限の見えない自粛を求められることから受ける影響は甚大である。しかも、株価の全般的な下落に見られるように、経済全般が大きな影響を受けていることは否定できない。中でも、医薬品等の特定業種を除いて、消費全般が低迷している。生活必需品に関しては、状況に関わらず消費は継続するものの、奢侈品やレジャー系の消費は低迷する。外食産業の受ける影響も甚大である。企業による余剰人員の削減等の対応は進むが、その結果として所得が減少し、消費全般が低迷するという悪循環に陥るだろう。

このように、幾つかの特定業種だけのクレジットが悪影響を受けることから始まり、その影響がマクロ経済全般にまで及びかねない状況である。オリンピックの予定通りの開催可否は単なる象徴に過ぎず、日本だけでなく世界経済に対して新型コロナウイルスの与える影響は大きい。ファンダメンタルズの悪化に加え中央銀行の金融緩和強化もあって、金利の上昇を到底望める状況にはないのである。
(本稿続く)

国内起債市場を斬る 起債評価:3/9~3/13

今年度の起債としては、最終ステージと言える週となった。駆け込みの案件や、大型案件が見られ、例年特殊な事情や特徴のある案件が出て来る時期である。実際に募集された案件の中から幾つか挙げてみよう。

まず、大和証券グループ本社の二本立て永久劣後債である。期限前償還のタイミングで5年と10年の二つに分けられているが、NC5年債が1,250億円でNC10年債が250億円と合計で1,500億円の大型起債である。いわゆるAT1債であり、Tier1に算入される。格付けはBBB+(JCR)格と高くないが、ファーストコールまでのクーポンは1.2%と1.39%であり、通常の社債では得られないような高水準である。魅力的な購入対象と考える投資家も少なくないが、大和証券グループの将来を考えた際に、懸念なしとは言えない。特定の大手銀行、大手外銀グループとのパイプを有しない独立系の位置づけは、野村證券と同様である。しかし、今や「債券の大和」「国際部の大和」のプレゼンスは、野村ほど見られず、脅威を感じるようなグループの展開網はない。大手証券の一角を維持しているものの、経営陣の人選が法人部門にバイアスがかかっている同社には、将来的に経営戦略上の懸念は残る。今月に入っても、経営危機を意識されているドイツ銀行がAT1債の期限前償還をスキップしており、同様の手段をとる可能性がないとは言えない。この劣後債についても、投資家が十分にコールされないリスクを意識して購入したか、興味深いところである。

次に、三井不動産は、15年債300億円・30年債100億円・50年債100億円の超長期債計500億円を募集している。中でも50年債は、対照年限の国債が存在しない中での募集であり、過去に三菱地所、東日本旅客鉄道、大阪瓦斯、東京メトロと4社の発行事例があるものの、三井不動産という会社の安定性は、やや先行4社に劣る。しかも1.03%のクーポンで絶対水準を確保したとされるが、わずかな1%越えでは投資妙味があると言い難いのではなかろうか。

続いて、ソフトバンクは3年債・5年債・7年債・10年債の4年限で各100億円を募集している。ほぼ投資会社と化した親会社とは異なって、携帯電話等を中心とした通信会社であり、現在の事業の安定性は高い。しかも、ソフトバンクグループの社債と異なって、100億円×4本と小額の分散発行である。機関投資家は、十分に投資価値があると判断したことだろう。

最後に挙げるのは、日本航空の3年債及び20年債各100億円である。3年債は日本銀行のオペで買入対象となることが期待できる。しかし、その一方で、新型コロナウイルスの世界的な蔓延で航空ビジネスに甚大な影響の発生が確実視される中での社債募集は、投資家軽視と批判されても仕方ないだろう。既にイギリスではLCCが倒産しており、他の国々でも航空会社が大幅に路線減を強いられ経営危機が意識されている。欧州諸国で国境を閉鎖したり、アメリカが欧州からの渡航を遮断するといった動きが見えており、人と物の動きが止められているため、空運ビジネスに与える影響は軽々なものではないし、まだ、十分に見通すことが出来ない。日本からの流入に対して制限を科したり受け入れを拒否している国は、既に50を超えている。このタイミングでの空運会社の社債募集は、不適切であると言っても過言ではない。

国内起債市場を斬る 起債評価:3/2~3/6

いよいよ年度内の最終月に入ったが、起債市場の盛り上がりは感じられない。何しろ新型コロナウイルス問題で、経済が正常の状況にはないのである。日本のみならず世界的に株価下落が進んでいることに加え、アメリカの予防的利下げからの金融緩和は世界的な金利低下の再燃となっている。特に、Brexitの余震が冷めやらぬイギリスでは、2年物と5年物国債の利回りがマイナス圏に突入するという事態に至っている。世界的な経済活動の停滞が見込まれることもあって、原油価格の大幅な下落とともに、リスクオフの円高も確認されている。当初は日本を新型コロナウイルスの感染国とする見方から、円安に振れる可能性も残されていたが、イタリアを筆頭とする欧州やアメリカ本土での感染が日本以上に拡大するにつれて、円安の可能性は消失しつつある。

このような経済情勢の大きな悪化の中では、クレジット市場も低信用力のゾーンを中心に大きな影響が生じることは必至である。欧米でいえばハイイールド債であるし、原油価格の低下による直接の影響を受けるのは、シェール関連企業である。これらの先行きには大きな懸念を持つべきである。また、新型コロナウイルスの直接的な影響が懸念され、実際に破綻やレイオフ等の実例が見られ始めているのは、空運、サービス、レジャー、宿泊等の業種である。

金利の低下とクレジットスプレッドの拡大という平時には見られない展開が予想される状況にある。発行体は慎重に動くようになるだろうし、投資家も慎重に見るべき時間帯である。しかし、東日本大震災の9周年を迎えて、つくづく3月は鬼門であるという思いが強い。学校の卒業式・入学式やスポーツ、イベント等に与えるネガティブな影響は、経済的にも心理的にも甚大なものが予想される。近年の金融緩和に下支えされた微温経済と呼ばれる状況は、ウイルスの蔓延によって崩壊を迎えることになるだろう。なお、異常気象下で大発生したバッタによる被害がアフリカからインド亜大陸に拡大しており、中国方面に展開した場合には、黙示録に描かれたような惨状となるリスクが懸念され始めている。その場合には、食糧不足による物価上昇というパスの示現する可能性もあるのだが、その前に世界的な政治・経済の混乱が生じる可能性も否定できない。

こういった状況での起債市場は、年度末に向けての追い込みである。日立製作所の計2,000億円の大型起債やオリックスによる1,000億円の劣後債の募集といった動きもみられるが、メーカー、不動産などの起債も幾つか行われているし、グリーンボンドやソーシャルボンドの募集も見られている。世界的には金利水準が低下しているものの、日本の場合には元から低金利となっていたためにあまり顕著な低下は見られない。3月9日の週がほぼ年度内最終の条件決定可能期間であり、その後は3週間程度の起債市場は様子見となることだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:2/24~2/28

前週は起債市場が盛り上がりを見せたものの、この週は、また、28日の金曜日にほぼ一極集中した。27日、木曜日に募集されたのは国際協力機構のソーシャルボンドのみであり、残り2週間となった年度内の起債市場の募集に向けた動きは、多くが3月に持ち越されている。この週の動きとしては、日立製作所の募集延期を挙げることができる。最大2,000億円程度の大型起債が予定されており、この週の候補案にでも募集する予定であったが、M&A関連の動きが遅延したことで、1週間程度遅らせることになったようである。年度内には募集されるのではないかと思われる。

2月28日の金曜日に募集された社債等の中では、まず、以前に指摘した大型起債が目に付く。パナソニックは6年債300億円と10年債700億円の計1,000億円を募集している。R&IのA格と必ずしも高水準の格付けではないが、知名度の高さは投資家に受け入れ易い発行体である。また、富士フィルムホールディングスは3年債1,000億円と5年債500億円の計1,500億円を募集している。R&Iの格付けはAA格と日本国債を1ノッチ下回るだけであり、3年債と5年債という短めの年限もあって、この日最大の起債となった。更に、本田技研工業は3年債400億円・5年債400億円・7年債200億円の計1,000億円の社債を募集している。格付けは、富士フィルムホールディングスと同じくAA(R&I)格である。同年限のクーポンを比べると、3年債では富士フィルムホールディングスの0.06%に対し本田技研工業は0.05%と発行額によって差が生じ、5年債では富士フィルムホールディングスと本田技研工業は同じ0.12%クーポンとなっている。発行額に100億円しか差がなかったためであろう。

世界的には新型コロナウイルスによる肺炎が蔓延したことを受けて、実体経済や金融市場への影響が懸念されることから、欧米の資本市場では社債募集の動きが乏しくなりつつある。株価の大きな下落と反騰、更には中央銀行による金融政策の匂わせ(におわせ)などから、週明けには米国の10年国債が最低水準の利回りを更新しており、安定した金融市場の状況にあるとは見えない。このような状況でも、日本の金利水準は低下したものの、日本銀行による統制下にあるため、大きく金利が変動しないために、当初は日本の起債市場は新型コロナウイルスの影響をあまり受けないやに見えた。しかし、27日に安倍晋三首相から、全国の学校に対し春休み迄の休校要請があった。これによって、市町村立小学校は全体の98.8%、市町村立中学校と都道府県立高校はそれぞれ99.0%が休校に入った。国立の小中高校は100%が休校、私立学校、その他教育機関もそれにならった措置を行っている(3月4日朝現在)。もはや、金融史上に残る非常事態である。日本はイタリアを除く欧米よりも多くのウイルス患者を出しており、中期的に経済の受ける影響は甚大であると想定される。起債市場に於ける影響に関しては、年度末に向けた動きに大きな変化が起こるようだ。