国内起債市場を斬る 起債評価:4/20~4/24

日本銀行は週明け27日に開催した金融政策決定会合において、CP及び社債買入れオペの増額と対象拡大を決定している。基本的には、企業に対する金融支援が目的であり、コロナショックによって収益性が低下しキャッシュフローの乏しくなった企業に対するものである。しかし、公募普通社債市場にアクセスできるような大企業及び優良企業については、例外的に追い込まれている企業を除いて、金融支援を必要とするものは少ないと思われる。新型コロナウイルスによる影響で大きく売り上げが低下している企業や収支構造が大幅に悪化している企業があるため、一概に効果を否定するものではないが、昨年度の起債市場を振り返っても、3月に起債した日本航空や膨大な有利子負債を抱えるソフトバンクグループなどの一部企業しか、目に見えるような恩恵には預かれないのではないか。

3月期決算の発表については、新型コロナウイルス蔓延の影響で後ろ倒しになる企業が見られる。実際に株主総会の開催延期を検討するという報道も見られ、今後、緊急事態宣言が解除されない場合を見据えると、例年とは異なるカレンダーで動く可能性も十分に考えられる。ところが、起債市場は例年のように新年度初めのスタートダッシュが終わり低迷期に入っているようである。全般的な起債環境としては、金融緩和の強化観測に対して企業業績の悪化懸念が綱引きを行っている状況であり、社債のクーポン水準は必ずしも上下一方に偏るものではない。ただし、緊急経済対策を受けた国債増発懸念も根強く、長期及び超長期の国債利回りはやや高めの水準となる日も見られる。因みにこの週の10年国債利回りは、概ね0%を挟んでの展開であった。

この週に民間企業が募集した社債で主軸となった年限は、10年と20年であった。列挙してみると、10年債を募集したのが清水建設、クラレ、三井不動産、大和ハウス工業、宇部興産、西日本鉄道といった顔触れであり、20年債を募集したのが三井不動産、大和ハウス工業、名古屋鉄道、西日本鉄道であった。つまり、20年債を募集した企業の多くは10年債と併せての募集であり、三井不動産と大和ハウス工業は3年債や5年債を含めた3本立ての起債であった。結局のところ、20年債を募集できる企業は鉄道等安定した経営基盤を有しているものか、三井不動産や大和ハウス工業のように業界でトップクラスのポジションを確立している企業に限られるような情勢である。

米国や欧州の中央銀行が金融緩和に転じたため、これらの国の国債への投資では、十分な利回りの確保が難しくなっている。ヘッジコストが低下しているとは言え、元の現地通貨建ての利回りが低下してしまっているために、高い投資妙味を期待できる状況ではない。日本国内の社債等でスプレッドが厚く、利回りの絶対水準が高いものには、投資家のニーズが集まりやすい傾向がある。日銀の金融緩和の強化とゴールデンウィーク期間中の海外情勢、更には、日本の緊急事態宣言解除の方向性を見据えつつ、慎重に投資判断を行う必要があるだろう。新型コロナウイルスの影響からほぼ脱したとされる中韓についても、更にようやく感染者・死者の増加が鈍化をはじめたかもしれない欧米においても、企業の破綻増加は確実視できる。日本国内に関しても、コロナショックによる破綻が見られはじめている。クレジット市場に関しては、やや楽観の雰囲気が強くなっているかもしれないが、今後のデフォルト続発懸念を否定するだけの材料はまだない。くれぐれも慎重に臨みたいところである。病状の急変は、個人だけでなく、企業においても見られるかもしれないが、企業向けPCR検査は、無いのだ。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/13~4/17

新型コロナウイルスの蔓延を受けた緊急事態宣言の影響が、資本市場にも色濃く出はじめている。既に宣言の対象が一部の都府県から全都道府県へと拡大され、不要不急の外出抑制や在宅勤務が推奨される中では、参加者が減少しており市場機能の低下は必至である。米FRBはシェール企業等に向けた信用供与を強化しているものの、ハイイールド債市場がほぼ存在しない日本においては、日本銀行の出番は金融機関に対する貸出促進くらいしかない(4月1日、米国の大手シェール企業ホワイティング社が、テキサス州南部地区の破産裁判所に「米連邦破産法11条」を申請し、ニューヨーク証券取引所の株式の取引を一時停止すると発表した事はご存じであろう。)。公募普通社債市場での資金調達に依存する日本企業はほぼ大企業のみであり、現状でもよほどでなければキャッシュフローの危機は迎えていないだろう。ただし、特定の業種や企業によっては、先行きに資金繰りの問題を迎えるかもしれない。例えば3月に社債を募集した日本航空は、多くの国際線がいつまで飛行停止継続となるか予想できない状態にあり、国内線も日本全土が緊急事態宣言の対象になった以上、当面の減便は当然の結果である。事態の悪化を予想せずに、日本航空債を利回りだけに惹かれて購入した投資家は、投資判断の姿勢が甘いと言わざるを得ない。実際には、20年債ですら0.7%クーポンしかなかったのであるから、今となっては割高な買い物であったと言えよう。

海外の多くの中央銀行は、金融緩和の強化によって企業破綻を防止する姿勢を取っているが、日本銀行は既にイールドカーブコントロールを導入しており、更なるマイナス金利の深掘りは収支況の悪化している地域金融機関にとって致命傷になりかねないため、打つ手が限られている。そのため、金利水準が下がらず、むしろ市場の不安定化を意識し利回りが高まる方向にある。この週に募集された東京電力パワーグリッド債のクーポンは、5年債600億円が0.75%、10年債700億円が1.2%、15年債500億円が1.45%という水準であった。約半年前に募集された同社による同年限の起債では、5年債700億円が0.58%、10年債700億円が0.98%、15年債600億円が1.28%であったことを考えると、利回りの顕著な上昇が確認できる。

同日に募集された東日本高速道路の10年債700億円は、0.225%クーポンであった。かつてはかぎりなく公的セクターに近い存在と考えられた東京電力債に対して、1%に近い大きな利回り格差が生じているのには感無量である。原発事故の処理に公的サポートが期待できることに加え、原油価格が大きく低下しているのにも関わらず、東京電力パワーグリッド債のクーポンが大きく上昇しているのである。政府が緊急経済対策として大規模な財政出動を用意しており、日本国債の信用力に対する懸念も高まりかねないが、ヘリコプターマネー等(政府が対価を取らず国債買い入れで財政資金を供給して大量の貨幣を市中に供給する究極の経済政策)貨幣量を増大できる政府が倒れる以前に、脆弱な民間企業の方が財務的な問題に直面すると見るべきであろう。現在の緊急事態宣言が1か月で解除されるのか、より延長されるかは誰にも予測できないが、解除は容易でなく、小売や運輸等の幾つかの業種には大きな信用圧力となる可能性が高いだろう。投資家は、現在の格付けや利回りの絶対水準だけを見るのではなく、発行体企業の将来的な帰趨を含めてより慎重な投資判断が求められる。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/6~4/10

前週の三菱UFJリース債に続いて、ようやく起債市場の動きが活発になってきた。年度や半期の初めというタイミングで動くのは、ノンバンク、電力、財投機関というのがこの時期お馴染みの顔触れであり、2020年度の最初も概ねそういった流れになっている。かつてとは異なって、メガバンクが四半期ごとに定例の起債を行うことは絶えて久しい。以前はベンチマーク債を目指すと豪語した銀行もあったが、その後のAT1債の取り扱いなどを見ると、銀行の社債は決して普通の事業債と同列には扱えないことがよくわかる(TLAC債の社債要項には、銀行が破綻した場合、バーゼルⅢで規定されている総自己資本、所謂普通株式等Tier1資本、AT1債、Tier2債の合計によっても吸収することができない損失については、TLAC債をもって吸収される旨が明記されている)。

新型コロナウイルス感染症が世界経済に与える影響を考えると、小売や運輸といった幾つかの特定セクターによる起債に対して慎重な投資家も少なくないが、事業基盤が安定していれば、どんなに今回の経済停滞が長引いても、その後の回復が期待できると考えられる。この週の起債の中では、JR東日本の5本計1,250億円の大型起債が象徴的である。3年債500億円の募集は日銀オペを意識したのか珍しく短期債であるが、それ以外は10年債から50年債へ10年刻みの募集である。同社の最近の起債では、20年債から40年債など10年刻みの募集が多かったので、違和感はない。3年債500億円さえ除けば、いつもの起債といったところだろうか。ただし、参照年限の国債がない50年債はレアである。

電力債は、既に東日本大震災と福島第一原発事故の影響から免れたようであるが、まだ、国債対比の利回りという意味では、同格付けの一般的な事業債よりスプレッドは乗っている。一般担保付の債券発行も経過措置で当面認められているため、相対的な投資妙味は高い。原発への依存度の高さ等から、かつての中央三電力とそれ以外の電力という序列は崩壊しており、個別の電力会社の置かれている状況が考慮される慣習になっている。当然、営業基盤となっている地域経済の強さや産業の状況による影響は強く反映され、また一方で、電力会社同士の横並び意識も根強い。この週でも中部電力と中国電力の10年債が同じクーポンとなっているのに、違和感を覚える市場参加者もあるだろう。

この週に募集された10年物社債のクーポンを比較してみると、JR東日本が0.265%で、中部電力と中国電力が0.35%、東北電力債が0.38%、北海道電力が0.44%、三菱地所が0.43%となっている。格付水準のみを見ると、三菱地所債の利回りが、中部および中国電力債と逆転しているが、財務上の特約がまったく付されていない裸の債券と一般担保特約付債券の差も影響していよう。現在の経済環境では、事業基盤の安定性が高く評価されているようである。3月中旬にJ-REIT価格が大きく上下動したことを考えると、市場関係者には不動産市況の先行きに対する懸念が少なからずあるように思える。短期的には、外国人投資家の見切り売りや地域金融機関の期末前の損切りであったとされる。しかし、根本的には人口減少の進む日本経済の将来像が不動産業の背景にあり、根強いとされる丸の内界隈のオフィス需要に対しても、緊急事態宣言前後から急速にテレワークが増えており、今後のビジネスモデルに対する悪影響と見直しすら懸念される状況である。

国内起債市場を斬る 年度末特別号:その後の新型コロナウイルスとクレジット‐3

新年度の起債市場は、3日金曜日に三菱UFJリースが3年債と10年債を募集したのに加えて、投資法人債や地方債なども募集されている。しかし、三菱UFJリースも当初は5年債も募集するとしていたのが、慎重なスタンスから取りやめている。また、次週に条件決定を予定していた東プロも、7年債の募集を見送ることを決めている。株価の大きな上下変動のみならず、政府による緊急事態宣言の発表が予定される中では、本格的な起債市場のスタートにはなり難いかもしれない。例年のように、ノンバンクに続く発行体は電力だと思われるが、今後、既に上がっている起債観測のように、電力債の募集ができるのか注視しておきたい。

新型コロナウイルスが長期間にわたって蔓延した場合のクレジット市場に与える影響としては、まず、個別の脆弱な企業が破綻することが考えられる。既に、海外も含めて見ると、空運や小売でデフォルトが発生しているし、日本でも宿泊などでの破綻例が出ている。個別企業の破綻は、同業の中でもっとも脆弱な企業の破綻として現れる。自粛や都市封鎖等が長引けば長引くほど、影響を受けるの個別企業だけでなく、同業他社も含めた業種全体の問題となりかねない。これまでに挙げた業種については、問題の継続する期間が長引くかどうかや、政府等による適切な金融支援が行われるかどうかによって、波及する範囲が変わってくることだろう。

今回のコロナショックがクレジット市場に与える影響範囲は、ここまでに留まらない可能性がある。次の段階としては、金融危機の発生が考えられる。世界各国の中央銀行が必死になって金融緩和を強化しているのは、まず、低信用力企業を中心に脆弱な企業の破綻を回避する取組みであるが、特に、原油価格の下落によってシェール関連企業の財務内容が悪化しており、結果として、ハイイールド債やレバレッジローンで資金調達をしていた企業のクレジットが悪化することを懸念したものと思われる。当該企業の信用力悪化の影響は、プライベートデットやCLO等様々な形態で、日本の地域金融機関や企業年金の財務内容に波及する。個別の地域金融機関の経営問題だけであれば、日本の金融システムへの影響は軽微かもしれないが、地域金融機関は横並びの好きな業態であり、同種の病巣を多くの地域金融機関が抱えて抱えている可能性は高い。多くの地域金融機関の財務内容が悪化するならば、金融システム全般に対する不安が再燃してしまう。

そして、最悪のシナリオとしては、ソブリン危機に至る可能性も考えざるを得ない。自粛や都市封鎖、鎖国状態によって世界経済が沈滞しており、各国政府は大胆な財政出動を開始している。それは、刺激によって委縮した経済を再活性化するためのものであるが、税収確保等の結果が見られない場合には、財政赤字を拡大させ、財政状態の悪い国の信用力を大きく棄損する可能性がある。GDP対比で巨額な赤字を抱える日本の場合には、まだ債務の9割を日本国内の資金でファンディングしているために、格付符号が悪化したとしても、債務返済能力が極端に損なわれることはない。むしろ財政赤字の制約が厳しい欧州各国や、国家の政策総動員で感染者を封じ込めた極東の各国については、財政状態の悪化が心配である。IMFの介入するような状態にならないことを祈っておきたい。更に、原油価格の低下によるロシア経済の赤字拡大によって、ロシアのソブリン問題が再燃する可能性も懸念しておくべきだろう。

新型コロナウイルスによる肺炎の拡大がどの範囲こまで及ぶのかは、人類の過去の経験では推し量ることができない。100年ほど前のスペイン風邪と同様に、グローバルに甚大な影響が及ぶようになっており、当時とは、世界中の情報や人、モノの移動・伝播速度は圧倒的に速くなっている。まだまだ明るい先行きが見えない中で、過度に鬱になるべきではないものの、慎重に事態の推移を見守る必要があるだろう。
(本稿終わり)