国内起債市場を斬る 起債評価:6/22~6/26

新型コロナウイルス感染症の影響で、3月期決算企業が株主総会を一部延期しているものの、基本的に6月下旬の総会開催が集中している。そのため、例年通り、6月下旬は起債の多くない時期である。こういった時期に、前の週から続いている一つの流れが、公共セクターによる起債である。この週も、日本高速道路保有・債務返済機構の財投機関債50億円の他、地方公共団体金融機構がFLIPに基づく債券を10本計1,140億円募集している。FLIPであるから当然でもあるが、1本当たりの募集額は決して大きくない。流通市場では、なかなかお目にかかることができなくなってしまう起債である。

この週でもう一つ際立ったのが、事業会社による劣後債の募集であろう。事業会社による劣後債の募集に関しては、期限前償還期に必ずしも償還されない可能性があり、また、格付会社が資本性を認定する条件として、期限前償還を実施した場合に、同種の劣後性資金調達で借換を行うことが求められている。後者に関しては、株式に近いとして資本性を認定する条件としては当然の要請であり、5年等の短い期間で償還してしまうのであれば、到底、株式と同等の安定した資金調達とはなり得ないからである。企業が資本性調達による借換えという公約を守らない場合には、格付会社は資本性を認めない可能性がある。この6月にも三菱商事の劣後債が期限前償還を迎え、借換えの実施有無が注目を集めたところ、結局、劣後ローンでの資本性資金調達が継続された。シニア債と比べると調達コストが高くなるために、収益性の観点からは単純な償還を望み易いが、資本性を認めてもらうためには劣後調達を継続する必要がある。発行体にとっては、一種のジレンマが存在するのである。

この週に募集されたのは、まず東海カーボンの劣後債200億円である。30年債を募集したが、10年経過後に期限前償還可能とされている。格付けはR&IのBBB格であり、10年後に償還されるという前提で見れば、実質的に1.77%クーポンの10年債である。小額の募集であったが、投資妙味はあるのかもしれない。

次に、不動産会社であるヒューリックが募集したのは、5年経過後に期限前償還可能な35年債1,200億円、7年経過後に期限前償還可能な37年債400億円と10年経過後に期限前償還可能な40年債400億円の計2,000億円である。取得した格付けは、JCRのA-格であった。当初クーポンは、35年債(実質5年債)が1.28%、37年債(実質7年債)が1.4%、40年債(実質10年債)が1.56%と設定されており、格付けの低い東海カーボン債より低利である。しかし、発行総額の大きさと不動産会社という事業特性を考えると、リスクは小さくないと考えるべきだろう。特にコロナ禍の影響で、オフィス需要の低迷が懸念される。唯一投資対象として考慮できる要素は、旧芙蓉グループの位置づけとみずほフィナンシャルグループとの関係である。これから不動産不況が来ると考えれば、メガバンクグループによる財務面でのサポートの有無が大きな要素となることだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/15~6/19

3月期決算企業の株主総会シーズンである。COVID-19への対応で、総会の開催も例年とは異なる形態が可能となっているものの、基本的には例年通りのスケジュールを維持している上場企業は少なくない。もっとも株主自身が「三密」を避けようとするため、必ずしも大規模な人数の株主総会の開催とはならないようだ。起債市場も株主総会を意識して暫時動きが大人しくなり、7月に入ってからのラッシュに備える展開である。既にメーカーや銀行、鉄道、通信等で大規模の起債観測が見られており、7月はやはり例年のような起債市場の展開になるようだ。

今年度は、新年度入りしてすぐに緊急事態宣言に伴う自粛が行われたため、学校や企業の夏季休暇スケジュールがよく読めない。そもそも東京オリンピック対応で祝日を移動したものが存置されているが、海外への渡航は困難であり、国内でも県外への移動がようやく解禁されたばかりの状況であるから、多くの国民にとって夏の予定がまだ立っていないというのが実情だろう。当面、新型コロナウイルスに脅えながら、春先の遅れをしっかり消化しようとするしかなく、夏場の起債市場が例年のように実質的な休みとなるのかは、まだ判然としない。

この週の起債では、金額面で目立ったのがみずほフィナンシャルグループの期限付き劣後債である。バーゼルⅢの規制に対応してTier2にカウントできるものであり、劣後事由等に該当した場合、元本が毀損する可能性はある。そのため、通常のシニア社債に対して劣後プレミアムが乗ることで、10年固定債の利回りは0.895%と高水準である。劣後性を考慮した格付けはR&I及びJCRのA+格であり、前週の10年債での起債で言えば、エアウォーターや日本製鉄(何れもシニア)と同程度の評価である。エアウォーターのクーポンは0.38%で、日本製鉄は0.42%であるから、みずほフィナンシャルグループの劣後債だと倍以上の利回りが得られる。400億円と決して大き過ぎる規模ではない。同時に募集された5年で早期償還が可能な10年債300億円は、当初クーポンが0.56%である。調達額は、計700億円に過ぎない。

一方で、クーポンが目立ったのは、NTTファイナンスとサントリーホールディングスの3年債である。前者はJCRのAAA格及びS&PのA-格を取得した400億円の募集で、後者はJCRのAA-格で300億円の募集である。いずれも日本銀行による買入れオペの対象年限であり、投資家による一次購入が期待できるだけでなく、発行体としては実質的に最低利回り(オーバーパー発行とすることで、更に利回りを低くすることは可能であるが)での資金調達が可能である。金融緩和の効果として、高格付けの発行体が低利で資金調達できることに必ずしも違和感はないが、むしろ需要の消失や固定費負担の大きさで喘ぐ中小企業等の資金調達に資する政策の方が、より金融支援としての意味があるのではないか。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/8~6/12

緊急事態宣言が解除されたものの、大都市を中心とした感染は完全にはなくなっていない。徐々に街の生活は日常に戻りつつあるが、株価の動きを見ても、必ずしも旧来には戻り得ない。ウィズコロナの時代における新しい生活や経済のあり方を模索しているかのように見える。油断すれば、何時でも、何処でも新宿歌舞伎町の「夜の街」のように大規模感染が起きるだろう(歌舞伎町だけが注目されるのも気の毒だが)。今月下旬に都道府県を跨ぐ移動が解禁されると、大都市から地方への感染者移動が生じ今までに感染者が多く出ていなかった地方でクラスターはが発生するかもしれない。海外の動向を見ても、まだまだ決して安心できる状態にはない。なまじ金融緩和で株価水準を高めに維持していることもあって、不安定な株価も、こうした脆弱な状況を象徴しているかのようである。

コロナショック後の社債市場の注目年限としては、5年債を挙げることができる。日銀による買入れオペの対象となったことで、一気に発行量が増加している。これまで、利回りを求める投資家が10年債からそれ以上に長い超長期債へシフトする一方。短期的に利益を得る対象として日銀オペ見合いの3年債購入が行われてきた。近年は3年債と10年債もしくは超長期債という組み合わせが見られていたのが、オペ対象の拡大以降、3年債及び5年債に10年債以上を組み合わせたり、5年債と10年債以上といった組み合わせの起債がよく見かけられるようになった。かつて5年債は、中期年限の中核と位置づけられ、投資家層も厚いとされていたのが、マイナス金利政策によって利回りが低下したこともあって、感覚的に発行量が減少していたように見られた。それが、日銀オペの対象となったことで、見事に復権を果たしたのである。

この週においても、5年債を募集した発行体としては、ノンバンクで芙蓉総合リース・ホンダファイナンス、その他に大成建設、日本通運、日本製鉄、丸紅、旭化成、三井住友信託銀行と業種も幅広く分散している。この中でも、3年債とともに5年債を募集したのが、ホンダファイナンス・日本製鉄・三井住友信託銀行・旭化成と4社ある。必ずしもすべてが日銀オペ見合いのみとは言えないかもしれないが、5年債の募集は一つの顕著なトレンドとなっているようである。

5年債の復権による反動なのか、この週に超長期債を募集した民間企業は見られない。野村ホールディングスの永久劣後債は、5年経過時に期限前償還が可能であり、金融庁による監督の下でほぼ間違いなく償還されることが期待できるため、投資家は実質的に5年債として扱うだろう。他の超長期債としては、都市再生機構が40年債200億円、日本高速道路保有・債務返済機構が利子一括払いの20年債及び40年債の計100億円を募集したのみに留まる。コロナショックを受け大きく水準の変動した超長期ゾーンに対して、投資家がやや慎重な姿勢を示している可能性もあるが、単に民間企業が超長期年限を発行対象として選択肢にしなかっただけなのかもしれない。もう少し市場の動きを確認すべきだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/1~6/5

新型コロナウイルス感染症は、国内だけ見るとようやく沈静化しはじめているようであるが、第二波以降の感染再拡大に対する懸念はなかなか拭えない。消費の低迷に起因する経済への悪影響は、しばらく続くものと思われるが、世界的に株価は2月の水準へと回復している。これを中央銀行による金融緩和のもたらしたミニバブルと考えるのか、それともコロナの早期終息に向けた期待による株高なのか、今後の推移のみがそれを教えてくれることになるだろう。一頃の「先の見えない不安感」が薄れていることは、様々の意味で前向きになる兆候であるが、債券市場について考えると、補正予算に対応する国債増発と日銀による大量買入れの綱引き、それに企業倒産の増加による信用懸念の高まりが加わって、一般債利回りの方向感が掴み難くなっている。

6月に入って起債市場の動きが活発化している。決算発表を乗越え、緊急事態宣言による自粛も徐々に解除されていることから、大型の起債案件も見られるようになっている。それでも、動きが遅いメーカーより、ノンバンク、鉄道などの動きが先行している。相変わらず、日銀による買入れ見合いの3年債及び5年債の募集は目立っているが、それを含めた複数年限にわたる起債が一つの特徴である。野村不動産ホールディングスの3年債200億円・5年債100億円・10年債100億円は、まさに日銀対応の年限で調達金額を稼いでいる。同様の年限設定は、川崎重工業でも見られるが、5年債を300億円と大きく積み増している。JR九州も日銀対応の3年債200億円が募集金額の半分となり、10年債と20年債は各100億円の募集である。

複数年限の起債としては2年限や3年限は良く見かけるが、5つの年限で社債を募集した発行体が2つもあったのは珍しい。一つは東京地下鉄で、10年債から50年債を10年刻みで各100億円を募集した。したがって、合計募集金額は決して大きくない。最近の鉄道関連で見かけられる起債形態で、年限の分散を図ったものと考えられる。なお、10年債のみサステナビリティボンドの認証を得ているが、同社の位置づけを考えると、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の財投機関債のようにすべての年限で認証を得る方が適切だろう。

もう一つの5年限を募集したのが、Zホールディングスである。ソフトバンクグループに属する上場持株会社であり、傘下にヤフーやイーブック、一休、GYAO、ジャパンネット銀行など多数のIT関連企業を有している。上位の持株会社であるソフトバンクグループも同様であるが、あまりにも資本関係が複雑であり、かつ、LINEの経営統合に端的に表れているように、買収やスピンアウトによって企業の将来像が容易に転変してしまうため、社債投資の対象としては躊躇せざるを得ない。今回募集された社債でも1.5年債250億円・3年債800億円・5年債700億円までは、日銀買入れを意識して購入するのも面白いが、7年債150億円・10年債100億円ともなると、A+(R&I)・AA-(JCR)といった格付けのみを鵜呑みにして投資するのは危険過ぎるだろう。10年債に付された0.9%という高い水準のクーポンが、不透明リスクに見合っているだろうか。それでも、5年限で計2,000億円の大型起債を成功させたのだから、驚嘆を禁じ得ない。

Zホールディングスの起債に比べると、京成電鉄と京浜急行電鉄が各々20年債を募集しているのは、違和感なく見ることが出来る。クーポンはいずれも0.73%に設定されている。なお、取得した格付けはA+格で同水準であるが、京成電鉄はR&Iからで、京浜急行電鉄はJCRからであり、発行額は京成電鉄の100億円に対し、京浜急行電鉄は150億円と多い。どちらの投資妙味が高いと考えられるか、好みも分かれるところだ。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/25~5/29

新型コロナウイルス感染症の拡大に対応した緊急事態宣言が徐々に解除され、少しずつ日常が戻りつつある。と言っても、ウイルス自体が完全に根絶されるものではなく、第二波以降の感染拡大を懸念すると、単純に以前の状態に戻るのではなく、新しい態勢を築くしかないのだろう。それをウィズコロナと呼ぶのかどうかは別にしても、以前のように皆が一か所に集まるといった方式は見直さざるを得ない。人と会うことについても、オンラインで代替することが増えるだろう。ただし、どんなにインターネット技術が進んでも、直接に対面することがすべてなくなるとは思えない。これからは、新しいスタンダードを模索する時間帯だろう。

起債市場の運営も色々と変わって行くのではないか。発行体や主幹事証券による投資家訪問は考え難くなっている。また、発行体が投資家や市場関係者を一か所に集めて、決算の状況や起債計画を説明するといったイベントも、徐々にネットを活用によるロードショー開催が、一般的になるのではないだろうか。参加者が都合の良い日時に随時アクセスできるのであれば、いずれの市場関係者にとっても利便性は高い。募集のスケジュールも見直すことが出来るだろう。

起債市場は、必ずしもフル回転といった状況ではない。決算発表のピークを越え、徐々に社債等の募集がはじまっているものの、関係者がフルに出勤しているものではなく、手探りで進んでいるといった感じは否めない。それでも、29日の金曜日には、メーカー、ノンバンク、鉄道など幅広い業態による社債の募集が行われた。前週にも見られたが、4月末に日本銀行が社債の買入れ対象年限を残存5年以内としたことで、従来からの3年債に加え5年債を併せての起債が増加している。この週でも、キリンホールディングス、SBIホールディングス、南海電気鉄道、オリックスが、3年債と5年債をともに募集している。残る電源開発も5年債を募集しており、まさに日銀買入れによる5年債の復権と呼んでよいだろう。

その一方で、超長期年限の国債利回りが上昇していることもあって、超長期年限の社債が募集されていないことにも注目しておきたい。この週の発行体の中でも、電源開発や南海電気鉄道は、超長期債を募集してもおかしくない業種の発行体である。両社がともに10年債までに年限を留めていることは注目しておきたい。もし超長期年限の国債利回りが当面下がらないのであれば、現状水準での超長期債に投資妙味が高いと考える投資家も少なくないだろう。かつて10回台の20年超長期が入札されていた時代に、米系のヘッジファンドから10bp以上も下の利回りで大量買い注文を店頭市場で受けた時代を思い出させる。発行体と投資家の間での、鬩ぎ合いは見物である。