国内起債市場を斬る 起債評価:7/20~7/24

本来なら東京オリンピックが開会を迎えたはずの週である。開会スケジュールに合わせて祝日を移動させたため、23日木曜からの四連休となった。オリンピックが延期されたからと言って、移動させた祝日を元に戻すわけには行かず、結局、来年もオリンピックを開催できるかどうかわからない状態で再び祝日を移動させることとなる。本来は1964年の東京オリンピック開会式の日であった「体育の日」は、「スポーツの日」と名を変えてしまっており、このまま7月に定着してしまうのではないか。出自がオリンピックにあることから、スケジュールに合わせ数日ずらしただけの海の日や山の日とは、大きく意味合いが異なる。そもそも過酷な東京の夏にオリンピックを開催しようという計画に誤りがあることは、1964年のオリンピックが10月開催だったことからも明らかであろう。新型コロナウイルス感染症が来年夏には落ち着いていることを、ひたすら祈るばかりである。

営業日が三日しかない中でも、起債市場は整斉(せいせい)と動いていた。コロナの蔓延に対する警戒から夏休みの予定が立たない中で、報道される感染者数の増加傾向を意識すると、再び警戒宣言が発出される前に、起債してしまおうという意識も根底にあるだろう。いずれにせよ、例年では、8月上旬がギリギリの起債タイミングというスケジュールである。

本数を稼いだのは、引続き、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債である。新型コロナ対応による地方公共団体の歳出増加もあり、構造的には、機構による年間調達額は増加される可能性が高い。21日と22日の二日間で、計10本総額765億円が募集されており、金額面でも決して小さくない。

金額面では、まず、ソフトバンクの3年債・5年債・10年債の3本立てである。3年債を100億円と抑えたものの、5年債700億円と10年債200億円で計1,000億円を調達している。持株会社のような果敢な投資活動による財務的な不安定性はなく、通信会社という事業基盤の構造的な安定性は評価される。しかし、持株会社の国内外における積極的な投資活動によって、間接的に影響を受ける可能性があることは、子会社であるソフトバンクの弱点かもしれない。

金額を稼いだもう一つが、東京センチュリーの劣後債である。いずれも60年債であるが、早期償還が5年で可能なものを1,000億円、10年で可能なものを300億円募集している。ノンバンクの劣後債に関しては、銀行や保険・証券と異なり、金融庁による早期償還に対する強い指導は期待し難いため、事業会社の劣後債と同様のノンコールリスクを検討する必要がある。決して単純な5年債や10年債と評価してはならない。東京センチュリーの場合には、リース等ノンバンク業界の将来性に加えて、みずほフィナンシャルグループとの距離感を考慮するべきだろう。元々は第一勧業銀行との関係が密であった。旧興銀リースであるみずほリースとの併存は難しく、東京センチュリーはNTTの出資を受入れているが、果たしてNTTファイナンスとのすみわけが出来るのか、一寸先はわからない。両巨大企業グループの狭間に落ち込んでしまわないだろうか。最大60年間の与信判断は、決して容易ではない。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/13~7/17

起債ラッシュは長続きしなかった。最大の要因は、日銀による金融緩和の意図が固く金利の先高感が感じられないことだろう。この7月に資金調達しなくても、上期中にでもまだ十分に機会があるだろうと思える。新型コロナウイルスの感染者数が再び増加し、感染第二波の到来が懸念されるものの、重症者数や死亡者数の増加率は鈍い。PCR検査数の増加や若年層の感染などが背景にあるものと考えられ、そのためGo Toキャンペーンによる旅行業への需要促進やイベント等の入場拡大が検討され、4月のような緊急事態宣言による自粛へと向かう状況にはない。こうした景気実感も、慌てて起債しようとする発行体の行動を引き留めているものと思われる。

実際に起債された顔触れを見わたすと、本数で上げれば、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく6本が、金額で上げると、みずほフィナンシャルグループの永久劣後債計2,070億円が、目立った両巨頭ということになろう。しかし、起債として注目すべきは、日産自動車とTDKによる起債だろう。金曜日に募集されたTDKの社債は、5年債300億円・7年債300億円・10年債400億円の計1,000億円で、極めてオーソドックスな年限設定である。かつてはカセットテープ等記録メディアのメーカーとして、一般消費者にも知られる会社であったが、現在はハードディスクドライブのヘッドやフェライト等電子部品のメーカーとして認識すべきであろう。そもそもがフェライト関連の製造を目的に起業されたメーカーであり、今回の起債も第5回債から第7回債と希少価値が高い。これまで事業内容を変化させ生き残って来た企業であり、投資対象として検討するのは面白い。なお、格付けはR&IのA+格を取得している。

一方、木曜日に募集された日産自動車は1.5年債290億円・3年債300億円・5年債110億円と計700億円であったが、クーポンを見ると、1.5年債で1%、3年債で1.4%、5年債で1.9%と随分と高いクーポンが付されている。背景としては、新型コロナ感染症の影響を受けた自動車に対する需要の低迷と、日産自動車そのものに対する財務体力の懸念がある。格付けだけを見るとR&IのA格を取得しており、TDKの1ノッチ下でしかない。しかし、同じ5年債を見比べても、TDKの0.18%クーポンに対し、日産自動車は1.9%という高い水準である。倍率を計算すると、10倍以上という結果になってしまう。日産自動車の先行きをどのように懸念するかは、ルノー等海外のステークホルダーによる影響があるため、なかなか読み難い。そのために、ここまで大きなクーポン格差が付されたものと解されるが、クーポンが1%あると、何となく嬉しくなってしまうのが、高金利時代を知っている人間の性なのだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/6~7/10

7月第2週の金曜日は起債ラッシュになることは、ほぼ事前に予想はできていた。メディアも覚悟していたようで、いつもとは異なる多数の起債観測が事前に上がっていた。条件決定が集中することで苦労するのは発行体ではなく、引受証券と投資家なのである。もっとも、事前にマーケティングが終了していると、当日は値決めの儀式だけで済むだろう。以前のようにスプレッドプライシング方式でクーポンが決まるのであれば、参照国債の利回りを確認するだけの値決めだが、最近のマイナス利回り時代においては、想定されているクーポンの絶対水準で良いかどうかを確認する作業となる。日銀が金利水準をコントロールしている中では、それほど大きな金利変動がないことが期待できるため、絶対水準での値決めも決して難しくはないだろう。

10日の金曜日に条件決定された案件は、数えるだけでも膨大になる。まず、公的セクターからは、東日本高速道路が1年債100億円・5年債500億円・7年債200億円・10年債500億円の計1,300億円で、日本政策投資銀行が3年債300億円・5年債300億円・10年債350億円・50年債100億円の計1,050億円、住宅金融支援機構が5年債400億円・10年債200億円・20年債150億円の計750億円と、合計で3,100億円を募集している。

次に、鉄道関係では、阪急阪神ホールディングスが3年債200億円・5年債100億円・10年債200億円の計500億円、JR東日本が5年債200億円・10年債150億円・20年債100億円・30年債200億円・40年債200億円の計850億円、小田急電鉄が3年債600億円と合計で1,950億円を募集している。

電力・ガスでは、西部ガスは20年債100億円と小額であったが、東京電力パワーグリッドが5年債1,000億円・10年債1,200億円・15年債700億円の計2,900億円という圧巻の金額を募集している。募集年限の多さではJR東日本に負けるが、金額は3倍以上である。

ノンバンクでは、オリエントコーポレーションが2年7か月債100億円の他、5年債を機関投資家向けと個人投資家向けで各50億円を条件決定しているだけで、ソーシャルボンド認定を受けたことが目立つ。

もっとも多様であったのが、メーカーであろう。DIC(念のため旧社名:大日本インキ化学工業)の3年債200億円、セイコーエプソンの3年債100億円・5年債400億円・10年債200億円の計700億円、王子ホールディングスの5年債150億円・10年債150億円・20年債100億円の計400億円、小松製作所の3年債400億円・5年債100億円の計500億円、LIXILグループの3年債150億円・5年債250億円・10年債100億円の計500億円、タダノが5年債100億円、ダイドーグループホールディングスが5年債100億円・10年債100億円の計200億円、ENEOSホールディングスが同じく5年債100億円・10年債100億円の計200億円と、製造業の中でも様々な企業が社債を募集している。

更に、これらの分類に入らない企業としては、不動産の東京建物が5年債200億円・10年債200億円の計400億円をサステナビリティボンドとして募集し、情報・通信のコナミホールディングスが5年債・7年債・10年債を各200億円、建設業の日揮ホールディングスが3年債と5年債各100億円を募集している。

まさに壮観な起債ラッシュであったが、従来からの傾向である日銀オペ見合いの3年債及び5年債(オリエントコーポレーションの2年7か月債も含められる)が目立つとともに、利回り水準を求める投資家を意識した超長期の起債も、日本政策投資銀行の0.892%クーポン50年債やJR東日本の0.902%クーポン40年債に代表されるように目立っている。クーポンの絶対水準から言えば、東京電力パワーグリッドの1.08%クーポン10年債及び1.37%クーポン15年債が突出した水準である。

一部にコノタイミングでの起債を延期した発行体もあったように報じられているが、7月の起債ラッシュが今後もまだ続くのか注目しておきたい。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/29~7/3

3月期決算企業の株主総会が終わると、7月の起債シーズンに突入する。年度の第2四半期入りしたことに加え、6月下旬の起債抑制期を越えており、その一方で8月中旬には市場参加者の多くが夏休みとなるから、例年7月は濃縮された起債シーズンとなる。過去の歴史を振り返っても、期末が意識される9月・12月・3月以外で起債ラッシュが見られるのは、7月と11月の可能性が高い。実際に市場がどうなるかは、金利の先高感の有無やその年の祝日カレンダーにもよる。今年は東京オリンピック対応のために祝日が7月下旬に並べられており、延期になっても祝日を動かすことはできなかったため、例年にはない四連休が7月に設定されている。起債活動には影響が少ないと思われるものの、それまでに起債が集中する可能性もあるため、7月10日以降の起債観測の盛り上がりには注意が必要であろう。

四半期初旬、起債に向けてすぐに動く業態としては、いつも電力、ノンバンク、銀行、鉄道といった傾向が見られる。それに、公共機関も加わることがあるが、週の途中で月が替わったため、ややいつもの典型的な顔触れ以外も見られる。もっとも、中部と中国の電力2社、ノンバンクのクレディセゾン、銀行からは新生銀行、公的セクターからは中日本高速道路と、期待に違わない銘柄が社債を募集している。

それ以外の起債の一つの特徴は、相変わらずの日銀による社債買入れオペ対応の3年債と5年債である。豊田自動織機製作所の3年債に加えて、アシックスの3年債及び5年債は、この分類に含めて良いだろう。両社ともれっきとしたメーカーであり、前者は自動車部品や車体、産業車両、繊維機械の製作会社であり、トヨタ自動車グループの源流にも当たる。募集された社債は、0.001%クーポンの3年債で100.002円のオーバーパー発行であるから、辛うじてプラス利回りの発行条件である。アシックスはスポーツ用品メーカーであって、今回の公募普通社債の募集は第3回債及び第4回債と希少価値が高い。

これらとまったく異なる起債という意味では、電通グループの5年債500億円・7年債100億円・10年債600億円の計1,200億円という大規模な起債が注目される。R&IでAA-格を取得する高格付企業であるが、何しろ近年の政治スキャンダルで叩かれている広告代理店の持株会社である。安倍政権との癒着により不当利得を得ているのではないかという指摘は強い。加えて、電通は2016年のブラック企業対象を受賞しただけに留まらず、2019年も同特別賞を受賞している。どう考えても、SDG(Sustainable Development Goals)のうちsocialの観点で懸念される投資先と言わざるを得ない。電通グループの社債を購入した投資家がESG投資(Environment、Social、Governance)を意識していると言うなら、その投資姿勢が眉唾であることを容易に指摘できる試金石のような起債であった。