国内起債市場を斬る 起債評価:8/3~8/7

8月に入ると、起債市場はますます夏休みモードが濃くなる。今年度は新型コロナウイルス感染症を回避する観点から遠出はできないものの、テレワーク等勤務形態が従来と異なる企業が多い。社債の引受けを行う証券会社においても、直接の接客を行わない間接部門ではテレワークが多くなっており、投資家や発行体と接する営業部門も、対する相手がテレワークだと接触手段はTEAMS(ZOOM)や電話がメインになる。どんなにIT技術が進歩しても、重要な状況での対面が重要であると考える相手は少なくない。よほどのIT企業でない限り、完全にリモートでの社債募集はできないのではないか。古い意識だと思われるかもしれないが、市場参加者のほとんどが変わらなければ、ネットで社債発行のすべてが完結することは望み難いだろう。とは言うものの、小職の長野の田舎の隣は長い間、駐車場付きの飲食店だったのが、いつの間にか賃貸型テレワーク・オフィスに変わっていた。某企業が、居抜きで契約した様で得ある。社員も、全員東京から転居したのであろうか。対面ビジネスの変化は、身近でも起こっている。

この週に募集されたのは、民間企業の社債も公的セクターも少しずつといったところであった。民間企業では、三井住友ファイナンス&リースが3年債及び10年債計250億円を募集し、日鉄興和不動産が5年債及び10年債を計100億円募集している。JCRの格付けで見ると、前者がAA格で後者がA-格と大きな差がある。その結果、10年債のクーポンを比較してみると、三井住友ファイナンス&リースの0.39%に対し、日鉄興和不動産は0.74%と35bpsの差になっている。三井住友ファイナンス&リースが三井住友フィナンシャルグループの中核ノンバンクであるのに対し、日鉄興和不動産は日本製鉄系の不動産会社である。グループの中核企業が有する事業の安定感に加えて、ノンバンクよりも不動産に対する懸念が強いこともあろう。新型コロナウイルス感染症の影響によってテレワーク等働き方の変化が進み、今後のオフィス需要がどうなるか注目を集めている。住宅需要に関しても、遠距離通勤に対する考え方の変化が生じつつあり、先行きの方向性が不透明である。新型コロナウイルスが信用力に与える影響は長期間に及ぶ可能性が高く、慎重に評価する必要がありそうだ。

一方、公共セクターでは、地方公共団体金融機構が30年債100億円を募集し、住宅金融支援機構が5年債500億円・10年債200億円・40年債100億円の計800億円を募集している。新型コロナウイルス感染症の影響が沈静化しない中では、民間企業だと業種によって信用懸念が残るもの、公共セクターに対する信頼感は逆に強いと考えられる。例えば、民間不動産会社の信用懸念を意識するものの、逆に、住宅金融支援機構に期待される役割は大きい。地方公共団体金融機構についても、政府の財政状況が厳しい中で、地方公共団体が独自の感染症対策を打ち出すためには、重要なファイナンス主体となっている。公共セクターの信用力が高まっているというよりも、民間企業の信用力が相対的に下がっていると考えるべきだろうか。海外の状況を見ても、日本の企業が新型コロナウイルス感染症の影響から脱したと見ることはできないのである。