国内起債市場を斬る 起債評価:10/19~10/23

此の週は、秋の長雨から秋晴れへと天気の構図が移り変わる週であった。起債市場の方は、活発な起債が減り、やや公的セクターが中心の展開へと推移しつつある。その中でも、幾つか面白い起債を見ることが出来た。

公的セクターにおいては、そもそも前の週から続く地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債が多い。もともと四半期最初の月の中下旬に多くを募集し、最低30億円で定例発行の年限と重ならないという条件であるから、引受対象になっている証券会社が投資家を見つけてくれば、債券発行は容易である。セカンダリー市場に出てくる可能性は大きくなく、実質的に私募債と変わらないように思うが、位置付けは公募債であり、そこそこの数の銘柄が日証協の店頭売買参考統計値の公表対象になっている。市場での出会いが乏しい中で、毎日価格を付ける証券会社に無駄な労力を強いているということになる。そろそろ、店頭売買参考統計値の公表対象を見直すべきとも思う。

3年債を募集したのが、名古屋鉄道とポケットカードであった。前者は、20年債とのセットでの募集であり、いわば、一般的な起債年限の上限と下限とを募集した形であった。クーポンを比較すると、前者は0.001%で、後者は0.3%と水準が全く異なる。格付けは、前者がR&IのA格及びJCRのA+格で、後者はR&IのA-格及びJCRのA格と1ノッチずつの差である。それで、ここまでクーポンに差が出るのは、業種による違いが大きいだろう。より高格付けの銘柄なら、0.001%クーポンでオーバーパー発行が珍しくないのが3年債である。

民間企業の起債でもう一つ目を引いたのが、DMG森精機による劣後債の募集である。募集されたのはいずれも民間事業会社としては初となる公募の永久劣後債であった。同社は以前に私募の永久劣後債を募集した例があり、発行体として永久劣後債の発行に違和感はなかったものと思われる。投資家側も期限前償還を前提にすれば、期限付き劣後であろうが永久劣後であろうが、大きな差はないと認識したのかもしれない。今回の永久劣後債2本は、3年後もしくは7年後に期限前償還が可能である。一般的な格付会社のルールにしたがって、永久劣後債は発行体格付けから2ノッチより下とされており、今回の永久劣後債はBBB格と評価されたために、投資家によっては手が出し難くなっている。万一発行体の業績が悪化した場合には、簡単にいわゆる投資適格の格付水準を下回ってしまう懸念がある。早期償還を前提にすれば、3年債は1%、7年債は2.4%という高いクーポンであって魅力的なのであるが、ダウングレードリスクについては大丈夫という判断なのだろうか。なお、劣後事由として清算型倒産のみを対象としていることは、投資家が外形的に判断できるため評価して良い設定であると考えられる。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/12~10/16

下半期入りしたとたんに賑わった起債市場は徐々に落ち着きを見せはじめている。それでも16日の金曜を中心とした週後半には、条件決定が相次いでいる。この週の特徴としては、銀行持株会社の劣後債と、新顔の登場といったところだろうか。

銀行持株会社の劣後債としては、まず、火曜日の13日に三菱UFJフィナンシャルグループが永久劣後債を2本募集している。早期償還可能なタイミングが、5年3か月後のものを230億円で、10年3か月後のものは370億円と、計600億円の募集である。格付けはR&I及びJCRのA-格で決して高格付けとは言えないが、将来的にメガバンクが破綻するとは考え難く、早期償還を確実だと考えるならば、前者で0.851%、後者で1.038%クーポンという水準は十分に魅力的である。
次に、翌14日の水曜日に条件決定したのは、みずほフィナンシャルグループの10年物個人向け期限付き劣後債である。シンプルな10年債は0.875%クーポンで630億円、当初5年で期限前償還可能なものは当初0.56%クーポンで740億円の計1,370億円が条件決定されている。期限付き劣後債であるため永久劣後債ほど格付けは引き下げられず、R&I及びJCRからA+格を取得している。期限前償還を前提とした5年債と考えるならば、ブレットの10年債ともども機関投資家でも手を出したい水準なのではないか。

新顔の登場としては、まず三井住友建設の5年債である。三井建設と住友建設が2003年に統合して設立されたゼネコンであるが、位置づけは準大手に過ぎない。JCRでA-格という評価からも積極的な投資対象とはし難いかもしれない。
続いて、東京臨海高速鉄道が10年債100億円を募集している。お台場地区に繋がる「りんかい線」の運営会社である。東京都が9割以上の株式を保有してる第三セクター会社であるが、鉄道の運営は実質的にJR東日本と一体化され埼京線の電車が乗り入れている。もっとも運賃は別計算であるために、割高感は否めない。コミケ等お台場でのイベントや通勤時には、多くの人が蛇行して時間を要するゆりかもめでなく、りんかい線を選択する可能性は高いが。
最後の新顔はJERAで、中部電力と東京電力フュエル&パワーが半分ずつ出資する火力発電等の会社である。既存電力債と異なり一般担保付の社債を発行できないが、5年債と10年債各200億円を募集している。結局のところ、中部電力及び東京電力と事業を切離すことができないため、両社の信用力の影響を受けざるを得ないと考えられる。JERAの格付けはR&IのA+格及びJCRのAA-格を取得しており、東京電力ホールディングスの格付けがR&IでBBB+格、JCRでA格であり、中部電力の格付けがR&IでA+格、JCRでAA格という水準から見ると、必ずしも高い方に寄せているものではない。なお、JERAは2020年のプロ野球セントラルリーグに特別協賛し冠スポンサーとなっており、知名度の向上に役立ったものと思われる。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/5~10/9

10月の第2週も、9日金曜日への案件集中が著しい。しかも、500億円を越える大規模の案件が複数あり、起債市場は活況を呈しているかのように見える。しかし、大型案件のうちでも、JR東日本の3年債1,000億円などは、日銀による社債買入れオペ見合いの募集であり、投資家の保有対象ではない。結局のところ、引受証券の実績作りと鞘取り目的の一部投資家(更には、日本銀行の金融政策への貢献)のための起債だから、本来的な投資に繋がらない起債市場の虚しさは強まるばかりである。このような環境の中でも、この週の起債で幾つかトピカルなものが目立ったので、概説しておこう。

まず、五洋建設の3年債及び5年債で後者のみがグリーンボンド認定を得ているなど、複数年限での債券募集のうち、一部のみがグリーンボンドやソーシャルボンドであるという案件が見られた。アサヒグループホールディングスは、普通の3年債と5年のグリーンボンド、60年の早期償還可能劣後債の組み合わせで募集した。住宅金融支援機構も5年債は通常の起債であるのに対し、10年債及び20年債はグリーンボンド認定を得ている。お金に色がない以上調達した資金に境目はなく、このような起債を行った発行体は、認定を得た当該債券の償還まで適正に調達資金を利用していることを、投資家に対して報告を続ける義務があると考えるべきなのではなかろうか。一方、中国銀行の劣後債やトヨタファイナンスの5年債は単独で認定を得ており、住友倉庫の3年債及び5年債は揃って認定を得ている。

SDGs関連では、ヒューリックの10年債がサステナビリティリンクボンドとして募集されている。当初のクーポンが0.44%に設定されており、2026年8月末に予め宣言した基準を達成できていない場合には、クーポンが0.54%にステップアップし、達成している場合には0.44%クーポンを償還まで維持するというものである。過去には、日本企業のユーロ円債で、格付けの低下や支配株主の変更といった要因でクーポンが上昇する債券を募集した例はあるが、国内公募でサステナビリティを基準としクーポンが変動する債券は初めてである。面白い取り組みであり、あくまでも基準未達でクーポンは上がり、下がることはないので、投資家の判断は比較的容易であろう。もっとも、今回の基準設定内容は不動産業を営む発行体に馴染むものではあるが、現状で10年の与信が適切な先であるか疑問がないとはしない。

次に、九州電力が最終償還60年で、早期償還可能のタイミングが5年債700億円、同じく7年債300億円、10年債1,000億円と計2,000億円の大型の劣後債を募集している。事業会社による劣後債の募集は既に珍しくなくなっているが、事業債の場合には無担保社債対比で劣後する社債であり、電力債の場合には元々募集されているのが一般担保付社債である。つまり、発行体の全資産が既に電力債の担保となっており、実質的に社債権者は先取特権を持つのと同様の効果を期待することが可能である。結果として、事業債は無担保の金融機関借入と同順位なのに対し、一般担保付電力債は無担保の借入等に優先する。その結果、電力会社の発行する劣後債は、回収可能性が電力債対比で著しく劣ることに留意しておく必要がある。

最後に、以前にも触れた東京大学債である。結局、40年債200億円が0.823%クーポンで、ソーシャルボンドの認定を得て募集された。同大学の位置付け等を考えると違和感はないし、AA+(R&I)及びAAA(JCR)という日本国債と同符号の格付評価も頷けるものである。しかも、国債対比では+18bpsの上乗せがあるのだから、実質的に財投機関債並みの存在と考えて良いだろう。高い信用力の源泉は、東京大学の債券だからということなのか、国立大学法人の債券だからということなのか。前者はプラス要素であるものの、本質は後者であろう。頭の体操をしてみると、京都大学や一橋大学でも、更には、帯広畜産大学でも同じように考えられるだろうか。なお、財投機関と同様に、国立大学法人も経営困難になった場合には破綻処理ではなく、別の法人と統合して救済されることが確実視できるだろう。経営破綻でなくとも2007年に大阪外国語大学は大阪大学に統合されているし、同様の国立大学法人の統合は単科大学を中心に珍しくない。統合による救済を所与とするならば、すべての国立大学法人の信用力を日本国債と同程度と見て良いのだろうか。なかなか難しい問題である。

国内起債市場を斬る 起債評価:9/28~10/2

下期入りを待っていたかのように、複数の社債等が募集された。ちょうど1年前にあたる時期の社債等の募集を見てみよう。本年はうるう年であったため、2019年の同時期は10月3日が木曜日、4日が金曜日であった。昨年の木曜に募集されたのは、阪神高速道路・電源開発・ジャックス・東京電力パワーグリッド・クレディセゾンの5社であり、金曜に募集されたのが中国電力・ソニー・セガサミーホールディングス・リコーリース・首都高速道路・ダイキン工業・日本政策投資銀行・ニッコンホールディングス・新生銀行・北海道電力・住宅金融支援機構と既にプチ起債ラッシュとも見える状況になっている。

2020年は10月1日が木曜であり、昨年ほど2日の金曜に起債が集中することはなかったが、10月に入った二日間で募集されたのは、みずほリース・阪神高速道路・首都高速道路・東京電力パワーグリッド・クレディセゾンの計5社である。昨年の同時期と比較してみると、社債募集が重なっていないのは、みずほリースのみであって、他の4社は同様に下期入りした瞬間とも言える10月最初に社債を募集している。こうした発行体の癖というか傾向を見ておくと社債等の募集タイミングを予測することが可能になる。

昨年の起債内容と比較してみよう。阪神高速道路は2019年が1年債550億円に対し、2020年は4年債350億円を募集している。1年債はレアな募集年限である。なお、前年の1年債からソーシャルボンドの認定を得ており、2月の前回は3年債と、徐々にソーシャルボンドによる調達年限を伸ばしている。一方の首都高速道路は2019年の5年債400億円と発行額は大きく変えず、5年債を360億円募集している。前年のクーポン0.03%に対し、今年のクーポンは0.07%と水準が異なる。利息が倍返しになったと考えるか、わずかに4bps増えたと考えるか、投資家の印象も其々であろう。

東京電力パワーグリッドは、前年が5年債700億円・10年債700億円・15年債600億円の計2,000億円であったが、今年は6年債500億円及び12年500億円の計1,000億円と募集額を半減している。年限の設定は、償還年限の分散を図ったものと考えられるが、昨年の10年債は0.98%クーポンであり15年債は1.28%クーポンであった。両者を足して2で割ると1.13%になり、今回の12年債のクーポンと一致する。絶対金利水準で募集するのが同社の社債募集の常であるが、意外にも、こういう簡単な決まり方をしているのかもしれない。

クレディセゾンは2019年に7年債100億円を募集したのに対し、今年は10年債100億円を募集している。クーポンは0.23%から0.4%に上昇しているが、年限延長から当然の結果であろう。