国内起債市場を斬る 起債評価:11/16~11/20

ようやく2020年末に向けた起債市場の動きが本格化している。相変わらず金曜日への案件集中は顕著だが、既に火曜日から三菱重工業が5年債及び10年債で計650億円を募集し、その後も明治ホールディングスの3年債やNECキャピタルソリューションの10年債等が社債を募集されている。衛生用機器メーカーである瑞光(6279)が、初めての公募普通社債である5年債を募集したのも木曜日であった。

金曜日に案件の集中した状況を年限別に分解すると、日銀による買入れオペ見合いの5年債以内と、超長期債の募集が目立つ。また、中軸年限である7年債や10年債の募集も細々とではあるが確認できる。グリーンボンドで募集されたのはキリンホールディングスの5年債100億円であり、東日本高速道路の5年債・7年債・10年債の計900億円はソーシャルボンドとしての認定を受けている。

3年債の募集はクーポンが低廉で済むこともあり、また、投資家が償還まで抱え込まないことも可能なため、市場では消化負担が小さいと考えられている。引受証券会社は、引受手数料を得ることが出来て実績となる。国債より利回りが高く、証券会社経由で日本銀行に持ち込めば売却益を得られるのだから、投資家に損もないだろう。日銀の金融緩和による副作用というか市場の歪みと言えよう。しかも、金融緩和という政策目標の錦の御旗を掲げた中央銀行は、市場介入によって損失が発生しても政策コストと割切ることが可能なのである。結局、市場参加者の誰もが不利益を被らない。敢えて言えば、日銀納付金の減少によって国庫がとも言えるが、その裏で金利の低下による最大の受益者は国内最大の債務者である政府であることから、国民もしくは納税者も受益者であると考えられるのかもしれない。

超長期債の募集者は、京阪神ビルディングが15年債、三菱ケミカルホールディングスと京浜急行電鉄・東武鉄道・南海電気鉄道が20年債といった顔触れである。R&Iの格付けでは三菱ケミカルホールディングスがA格と1ノッチ高く、京浜急行電鉄以外の三社が並ぶ構造にある。京浜急行電鉄はJCRからのみA+格を取得しており、これは三菱ケミカルホールディングスの格付けと同じ水準である。京阪神ビルディングは不動産業界であり、鉄道三社ともども、新型コロナ感染症による需要減の影響を強く受ける業態である。もっとも三菱ケミカルホールディングスのような基礎化学も、中長期的に消費低迷の影響を緩やかに受けることは間違いない。クーポンを単純に並べてみると、京阪神ビルディングが0.86%、京浜急行電鉄が0.67%、三菱ケミカルホールディングスが0.77%、東武鉄道が0.74%、南海電気鉄道が0.81%となっている。南海電気鉄道は、かつての負のイメージから完全には脱却できていないだけでなく、関西空港アクセス客の減少による下方圧力も意識されているのだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:11/9~11/13

11月に入り徐々に起債市場が動きはじめているものの、まだ、本格稼働という感じではない。あたかも12月中旬までの年内の募集期間ギリギリに向けて、エネルギーを蓄えているかのようだ。起債観測は、様々なメーカーや交通関連など多くの企業から上がっているが、新型コロナウイルス感染症の動きが活発になりつつある状況に鑑みると、旅行や小売、サービスに関連する発行体は今後も苦しまざるを得ないのかもしれない。札幌を中心とした北海道の感染者増に加えて、当初は感染者がないと豪語していた岩手県でも複数の飲食店でクラスターが発生しており、予断を許さない展開となっている。寒さや乾燥でウイルスが活性化し、飛沫の距離、範囲共に延びていくという。気温の低下から換気が不十分になり、これが感染拡大の要因となっている可能性が高い。もしそうであれば、本格的な寒波の到来による首都圏や中部・関西の気温低下による状況の悪化が懸念される。欧米の感染拡大を対岸の火事と見ることは極めて危険であり、未だに日本の感染者が少ない要因は、解明されていないのも、不気味だ。

徐々に動きはじめた起債市場では、住宅金融支援機構の3本立て財投機関債以外には、日銀オペ見合いの年限である3年債及び5年債の社債のみが募集されている。発行体は高格付けと低格付けとの両極であったと言って良いだろう。トヨタグループに属する自動車部品メーカーであるデンソーは、R&IのAA+格と日本国債並みの水準の格付けを得ている発行体である。募集した3年債は0.001%クーポンであるが、単価が100.003円のオーバーパーであって、利回りは0%である。それでも同年限の国債よりは高い利回りなのである。久しぶりの希少性も加わって、500億円の募集でも何ら支障がない。

もう一方のグリーは、BBB(R&I)格を取得しているネット企業である。元来はSNSの運営会社とされていたが、現状はネットゲームに注力しているようである。新型コロナウイルス感染症の拡大で在宅を強いられている人が多い中で、売上の拡大が確実視できる強みはあるものの、流行り廃りの激しい業界であって、短期間で大きく業績や収益状況の変化する可能性も高い。そういう意味では、3年債と5年債という組み合わせは、ギリギリの年限ではないか。しかも、募集金額は3年債50億円に対して5年債は30億円と、公募普通社債では見ることが稀な少額発行である。3年債の0.51%はデンソーと比べると500倍以上の高いクーポンであり、5年債も0.85%クーポンと十分に高い水準であるが、発行体の先行きが懸念からか、なかなか投資家の購入意欲を掻き立てるものではない。それが、BBB格という格付けであり、業種としての特性にも結び付いた見方であろう。今回が第1回債及び第2回債という初の公募普通社債であり、投資先の分散という意味では購入を考えても良いとする投資家はあっただろう。

国内起債市場を斬る  ステイホーム特別号➂:いわゆるコロナ関連業種の信用リスク

欧米を中心に、再び北半球における新型コロナ感染者の数が増加しはじめている。日本においても、GoToトラベル等経済支援策の影響もあるのか、各地で再び感染者に増加の兆しが見られる。札幌を中心とした北海道における感染者の増加は、気温低下に伴うものか、それとも窓を閉め暖房を使用する影響なのか、今後の本州や他の地域への拡散は予断を許さない。日本においては第三波のように見える感染者数の増加であるが、欧米では第二波の到来と見られているようである。

こうした感染者再拡大の状況を考えると、クレジット投資に対する影響を改めて検討しておくべきではなかろうか。特に、コロナ関連業種と呼ばれる、感染拡大の影響が売り上げや収益へ直接に影響すると考えられる業種について、検討しておくべきだろう。まず、小売に関してはネット通販等で売上を代替できる可能性もあり、個別企業の地域展開やマーケティング手法によって影響は区々であり、一概には判断できないが、慎重に臨む必要はありそうだ。

一方、まず、直接のダメージが大きいのは、旅行や宿泊といったところであろうか。幸いなことに、ホテル関連企業による社債発行はほとんど見られていないが、投資法人債においては、影響の生じる可能性があろう。旅行関連では、旅行取扱業者による社債は顕著な影響がこれからも継続するだろうし、旅客運送業者に関しては、中長期的な影響が必至である。もっとも大きな影響を受けるのは航空各社であり、次に、鉄道業者ということになろう。バス事業者に関しても、営業地域によっては業績への影響が大きくなる懸念がある。

サービス関連では感染拡大で業績に影響のある企業も少なくないが、社債への影響という意味では、個々に吟味する必要があろう。テレワーク等在宅勤務や外出の抑制からビジネスチャンスが拡大するものがある一方、訪問型のビジネスは敬遠されがちとなる。雇用形態や労働実態の変化から、強みを発揮できる人材派遣関連サービスもあれば、逆に、厳しくなる企業もあるだろう。なかなか一括りには行かない。

中長期的にもっとも注意しておかねばならないのが不動産関連かもしれない。J-REITを含めて考えると、まず大きな影響を受けた宿泊関連の次に、中長期的にはテレワークの増加によってオフィス需要の低迷が不可避であろう。当面、新規竣工物件へのニーズは維持されようが、陳腐化したレガシー物件に対するニーズは低迷する可能性がある。更には、景気の低迷から住宅に対するニーズも影響を受ける可能性があるし、そもそも人口減少トレンドの中にあることを考えると、不動産全般の先行きは厳しく、個々に長所短所を見極めて行く必要があろう。

新型コロナウイルス感染症の再拡大によって、政府は新たな財政出動を強いられる可能性もあり、民間企業のみでなく、各国の国債に対する信用リスクも懸念される展開が考えられる。民間の手が及ばぬところに公的サービスの出動が求められる中で、所得の低迷から税収が減少するだけでなく、経済活動の沈滞によって消費税収も低迷するだろう。ラストリゾートではなく、最後に影響を受けるのがソブリンであることを忘れてはならないけ。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/26~10/30

10月の終わりは、例年起債募集が少ない時期である。前週は公的セクターと、事業会社では3年債及び森精機の永久劣後債を取上げたが、この週も普通の事業会社の起債は見られなかった。

まず、三井住友信託銀行が3年債及び5年債を募集している。取得した格付けがJCRのAA-格及びムーディーズのA1格という他の社債との比較が容易でない評価である。ムーディーズのA1格という国債と同じ符号を、政府による万一の場合のサポートを表すものと考えれば、中短期の時間軸で信用力を懸念する必要は多くない。もっとも銀行に対する信用判断は、格付けのみに基づくのは危険であり、今後の新型コロナウイルス感染症の影響による経済全般の低迷を頭の片隅に入れておいた方が良いだろう。3年債の0.1%クーポンは、マイナス金利の国債に比べると投資妙味があるし、高格付けの一部ノンバンク等で見られるゼロ利回りや下限ギリギリの0.001%クーポンよりに比べても、高い水準である。発行額が3年債100億円と5年債200億円しかなく、流動性の面も含めて、投資家に十分に行き渡る金額ではなかった。

楽天の劣後債は、変動利付化する期限前償還の後、存続していないと期待される年限を30年に固定して、35年債・37年債・40年債の3本が募集された。EC市場でのプラットフォーム提供だけでなく、銀行や保険、携帯電話等多様なビジネスに展開する企業であり、同社の事業展開の先行きを予想することは容易でない。期限付劣後債ということで、取得した格付けは、R&IのBBB格及びJCRのBBB+格である。将来の格下げの危険性を考えると、期限前償還されなかった場合の35年債・37年債・40年債といった年限は、到底、投資できるものではない。クーポンのステップアップが盛り込まれていることで期限前償還を前提に投資する購入者も少なくないだろうが、例えば35年債の場合、当初5年は1.81%の固定クーポンで、その後、6カ月円ライボー+210bpsに変動化する。5年後の金利水準は想像しがたいものの、現在と同程度の状態であれば、決して高い金利にはならない。事業特性を考えても、期限前償還されない可能性を無視してはならない投資対象であろう。第4極を目指して参入した携帯電話事業も、当面の通話料金の無料設定を考えると、設備投資の回収にかなりの年限を要すると考えられ、通信品質の確保や通話可能エリアが改善しなければ、5Gは掛け声倒れに終わり、まだまだ他の事業のお荷物になるのではなかろうか。当初1,000億円とされていた募集額が、35年債500億円・37年債200億円・40年債500億円の計1,200億円まで増額されている。投資家の需要は多く集まったようであるが、果たして、5年から10年後に無事早期償還されるだろうか。投資家判断のばらつきに、目が離せない。