国内起債市場を斬る 起債評価:10/26~10/30

10月の終わりは、例年起債募集が少ない時期である。前週は公的セクターと、事業会社では3年債及び森精機の永久劣後債を取上げたが、この週も普通の事業会社の起債は見られなかった。

まず、三井住友信託銀行が3年債及び5年債を募集している。取得した格付けがJCRのAA-格及びムーディーズのA1格という他の社債との比較が容易でない評価である。ムーディーズのA1格という国債と同じ符号を、政府による万一の場合のサポートを表すものと考えれば、中短期の時間軸で信用力を懸念する必要は多くない。もっとも銀行に対する信用判断は、格付けのみに基づくのは危険であり、今後の新型コロナウイルス感染症の影響による経済全般の低迷を頭の片隅に入れておいた方が良いだろう。3年債の0.1%クーポンは、マイナス金利の国債に比べると投資妙味があるし、高格付けの一部ノンバンク等で見られるゼロ利回りや下限ギリギリの0.001%クーポンよりに比べても、高い水準である。発行額が3年債100億円と5年債200億円しかなく、流動性の面も含めて、投資家に十分に行き渡る金額ではなかった。

楽天の劣後債は、変動利付化する期限前償還の後、存続していないと期待される年限を30年に固定して、35年債・37年債・40年債の3本が募集された。EC市場でのプラットフォーム提供だけでなく、銀行や保険、携帯電話等多様なビジネスに展開する企業であり、同社の事業展開の先行きを予想することは容易でない。期限付劣後債ということで、取得した格付けは、R&IのBBB格及びJCRのBBB+格である。将来の格下げの危険性を考えると、期限前償還されなかった場合の35年債・37年債・40年債といった年限は、到底、投資できるものではない。クーポンのステップアップが盛り込まれていることで期限前償還を前提に投資する購入者も少なくないだろうが、例えば35年債の場合、当初5年は1.81%の固定クーポンで、その後、6カ月円ライボー+210bpsに変動化する。5年後の金利水準は想像しがたいものの、現在と同程度の状態であれば、決して高い金利にはならない。事業特性を考えても、期限前償還されない可能性を無視してはならない投資対象であろう。第4極を目指して参入した携帯電話事業も、当面の通話料金の無料設定を考えると、設備投資の回収にかなりの年限を要すると考えられ、通信品質の確保や通話可能エリアが改善しなければ、5Gは掛け声倒れに終わり、まだまだ他の事業のお荷物になるのではなかろうか。当初1,000億円とされていた募集額が、35年債500億円・37年債200億円・40年債500億円の計1,200億円まで増額されている。投資家の需要は多く集まったようであるが、果たして、5年から10年後に無事早期償還されるだろうか。投資家判断のばらつきに、目が離せない。