国内起債市場を斬る 起債評価:11/23~11/27

勤労感謝の日を含む三連休明けで、営業日としては4日しかなかった週であるが、年内最後の債券募集期間に入っており、水曜日以降に債券の募集が相次いだ。募集された民間企業の社債だけを見ても、業種の幅が広い。金融、小売、化学、建設、石油、精密機器、陸運、通信、電力、金属製品、土石製品と様々である。年限を見ると、日銀オペ対象年限である3年や5年も多いが、7年や10年も幾つか見られ、逆に金利水準の上昇している超長期は北陸電力の12年債100億円のみと少ない。

年末が近づいたという実感を強くするのは、大型案件の募集であろう。複数年限を併せて1,000億円以上となる募集が複数行われている。まず、関西電力の5年債及び10年債各500億円の計1,000億円である。近年、原発誘致関連のスキャンダルに追われていた感の拭えない同社であるが、5年債のクーポンは0.18%で10年債のクーポンは0.44%とJCRでAA-格及びR&IのA+格を取得している会社にしては高い水準であることから、強い投資家のニーズがあったようである。何しろJCRでA格を取得している高砂熱学工業の10年債のクーポンが0.43%である。もっとも格付けだけで語るのは危険であり、他に募集された10年債を見ると、JCRでA+格のニコンが0.47%クーポン、R&I及びJCRで同じ水準の格付けを取得しているソフトバンクが0.57%クーポン、JCRでA格の太平洋セメントが0.45%クーポンと、必ずしも格付けとは連動していない。個々に企業の内容や業種、資金使途等を分析する必要があろう。

大型案件の二番目は、ソフトバンクである。5年債800億円・7年債250億円・10年債150億円の計1,200億円を募集している。投資持株会社と化したソフトバンクグループと異なり、同社は通信業者という位置づけである。それでも持株会社の投資活動による影響を完全には遮断しきれないことから、格付けのみでは説明できないような利回りの高さとなっている。それでも、調達の主軸が5年債というのは、市場への影響に配慮したものであろう。

もっとも大きな金額を募集したのが、セブン&アイホールディングスである。3年債1,300億円・5年債1,800億円・7年債400億円と短めの年限で合計3,500億円を募集している。3年債と5年債という日銀オペ見合いの年限では、一つの回号だけで前述の関西電力やソフトバンクの調達額を越えている超大型の起債である。資金使途は、大型起債につきもののM&A関連であり、具体的には米国子会社の7-ElevenがSpeedwayブランド等のコンビニ事業を買収するためのものである。つまり、M&A関連の起債の特徴として、同社の有利子負債比率が上昇することは確実であって、買収が収益に貢献できなければ格下げといった事態も生じる可能性が考えられる。セブン&アイホールディングスの事業全般を振り返ると、国内のコンビニ事業はネットワークの強さを維持している一方、そごう・西武の百貨店事業がコロナの影響で大きなダメージを受けているだけでなく、セブンペイの失敗やネット通販チャネルであるオムニ7の低迷もあって、8月末時点の持株会社の経常利益は10%を上回る低下となっている。なお、格付各社はSpeedwayの買収を発表した時点で、いずれも格下げ方向のレーティングモニターとしており、現在の格付けであるA+(R&I)及びAA-(JCR)を妄信するのではなく、引下げとなる可能性を十分に織り込んで考える必要があろう。