国内起債市場を斬る 新春特別号:「ハイブリット」債。規制に依拠した投資リスク

近年の起債市場で注目を集めた一つの種別に、事業会社の発行する劣後債がある。通常の債券に対して、資本性があると格付会社等が認めるために、ハイブリッド債などと美化して呼ばれているが、本質はあくまでも期限前償還条項の付された劣後債でしかない。しかも、金融機関等の規制業種でない事業会社の発行するものについては、監督官庁による指導がなく期限前償還をスキップされる懸念が大いに存在する他に、格付会社等による資本性認定基準が変更されることによって、容易に依拠する枠組みが破壊されてしまうリスクを指摘して来た。その後者のリスクが、どうやら顕在化して来そうだ。

具体的には、国内基準の自己資本比率規制が適用される銀行等の保有する劣後債等に対するリスクウェイトが、従来の格付水準に応じた掛け目(20%~150%)から、一律150%へと変更される予定が公表されたのである。これはバーゼルⅢの国際基準で設定されたものと同じ掛け目であり、決して新奇なものではない。従来格付けの高いものに対して適用されていた低めのリスクウェイトが、一気に優先債権ではBB-未満に適用される水準となる方向である。劣後性に対する評価を国際基準に合わせるものであって、決して違和感はない。

事業会社の劣後債に対する金融機関からの需要は、今回の変更によって基本的に消失すると考えるべきだろう。一般的にリスクウェイトが大幅に上昇したならば、その金融商品の保有を継続したり、新規に投資するインセンティブは無くなってしまうだろう。事業会社の劣後債に対して、期限前償還を前提とした当該保有期間対比での利回りの高さが、これまで投資家のニーズを喚起して来たのであるが、リスクウェイトが跳ね上がってしまうと、投資妙味は投資家側の変化によってなくなってしまうのである。極論すれば、国内基準行による事業会社の劣後債購入は、一切期待できなくなってしまう可能性が高い。

今回のような規制・制度の変更は、劣後債の商品特性によるものではなく、それに対する評価や分類が異なってくることによるものであるから、発行体の責任ではなく、引受証券による「投資家に対するセールストーク」が問題となる可能性はあるが、基本的に、規制や監督のルールに基づくものであって、誰の責任とも言い難い。むしろ事前にこういった事態の発生懸念を考慮に入れていなかった投資家の怠慢、手落ちと言われても仕方ない。そもそも、規制や監督等に依拠した投資は、その前提が覆ってしまうと、一気に評価が変わってしまうのである。

もっとも、国内基準を適用される金融機関等以外の機関投資家には、今回の変更は影響しない。財団等の諸法人や年金といった投資対象に対する規制の存在しない投資家は、引続き、事業会社の劣後債に対する強いニーズを示す可能性はある。しかし、期限前償還されないリスクや格付会社による評価方針変更といったリスクを、決して忘れてはならないのである。