国内起債市場を斬る 起債評価:3/1~3/5

2021年は、3月に入っても募集される社債の数が増えない。ノンバンクや銀行劣後債の募集等はあるが、大型起債も見られないし、「金曜日、20本集中起債」ということもない。と言っても、5日の金曜日には12本の募集が集中したという状況を見ると、社債等に全く動きがないと言うのでもない。単に、例年ほど年度末に向けて急いで起債するといった動きが、感じられないというのが正直な感想である。

大型起債がないと言っても、アサヒグループホールディングスは3年債と5年債を500億円ずつ計1,000億円の社債を募集している。しかし、いずれも日銀による社債買入れオペの対象年限であるため、投資家の視点からは大型起債とは言い難い。年度内の引受手数料を稼ぐ証券会社からすれば、最終投資家が機関投資家か日本銀行かは、どうでも良いことだろう。3年債のクーポンは0.001%と最低水準であり、500億円の発行総額でも利息の支払負担は大した金額にならない。

この週で目立ったものとしては、初登場も含めて回号の若い起債が多かったことが上げられる。社債発行体の裾野が拡大していると見れば良いことなのだが、知名度や格付けの水準を考えると、必ずしも手放しで喜んでもいられないようだ。まず、北國銀行のB3T2劣後債(バーゼルⅢ適格Tier2証券)は第2回となっている。これは特約の種類が異なるために若い回号となっているものであり、昨年7月以来の劣後債募集であって、必ずしもレアな発行体ではないように感じられる。

第2回から第4回債を募集した昭和産業(JCRのA-格)や、第2回債を募集したプレミアムウォーターホールディングス(R&IのBBB-格)、第1回債を募集した東祥(JCRのBBB+格)、第1回債及び第2回債を募集したTOYO TIRE(JCRのA-格)といったところが、レア銘柄と言って良いだろう。いずれも格付けは、公募普通社債として必ずしも高い水準にはない。なお、TOYO TIREは2019年に東洋ゴム工業から社名変更したものであるが、タイヤのブランド名はTOYO TIRESと複数形で、法人名は単数形と使い分けている。

オリックス銀行の第1回債が登場している。母体企業はフリークエントイシュアーであるが、銀行子会社による社債募集は初めてとなる。発行登録を用いず、有価証券届出書での募集であった。オリックスの100%子会社であって、格付けは同じくAA-(R&I)格と高水準である。募集された社債のクーポンは0.16%で、JCRから同じ符号のAA-格を取得しR&IからはA+格を取得しているアサヒグループホールディングスの5年債に比べると、2倍の高い水準である。銀行という業態の特性や、やや変動性の高い親会社のオリックスの業態を意識したものと思われるが、投資家が、嗜好品主体のアサヒグループホールディングスなら、安定した発行体と言い切ることが正しい判断なのか、疑問は残る。