国内起債市場を斬る 起債評価:4/19~4/23

4月も下旬になると、3月期決算の発表タイミングを意識し、同時にGWのスケジュールを考えて、起債市場の動きは鈍くなる。決算発表を終えてしまうと、再び動きは活発化するのだが、しばらくは閑散とした展開になるのもやむを得ない。この週の起債としては、ノンバンクに銀行、財投機関等といったところが引続き主体となっている。本数は地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債が計13本によって多くなっているが、金額で大きかったのは東京センチュリーの3本立て計500億円と商船三井の劣後債500億円である。もっとも地方公共団体金融機構のFLIP債は計13本もあるから、総額は計700億円に上っている。

この週に募集された社債を見ると、必ずしも格付けの高くない銘柄が少なくない。5年債を募集した日本トムソンはBBB+(JCR)格であるし、期限付劣後債を募集した商船三井はBBB(JCR)格である。日本トムソンは格付けが低いとは言えベアリングメーカーであり、必ずしも将来を悲観視する必要はないだろう。一方、商船三井の劣後債は、期限前償還を前提として5年債として評価すると、1.6%クーポンと極めて高い利回りを得られるが、果たしてこの発行体の劣後債が無事に期限前償還されるだろうか。期限前償還されず35年債となると、5年経過時点以降は6か月円Libor+260bpsの変動利付きになり、相当高い利回りとなる。発行体の利払い負担を考えると、期限前償還を当然と考えるのが一般的であるが、海運業界の先行きを楽観視できるだろうか。

ノンバンクと銀行の起債は、中期年限が主体となっている、東京センチュリーは3年債100億円と5年債200億円、7年債200億円を募集した。同社は、R&IのA格及びJCRのAA-格を取得するみずほグループの中核ノンバンクの一つである。5年債のクーポンは0.09%とこの週に募集されたノンバンク及び銀行の中でもっとも低い。三井住友信託銀行の5年債は、格付けはJCRのAA-格と東京センチュリーと同一水準だが、0.14%クーポンである。ノンバンクと銀行とで社債の位置付けが異なるという理由もあるが、両者のクーポンの差異は、やや意外感がある。もう一つのノンバンクは、日本住宅ローンで5年債と10年債を募集している。もっとも前二者とは異なり、今回が第3回債及び第4回債というレア銘柄であって、募集金額も5年債30億円と10年債20億円という小額である。公募普通社債の枠組みで募集されたものの、流通市場でお目にかかることは少ないだろう。

社債等の条件決定及び募集後の払込みまでのタイミングを考えると、GW直前の起債は多くならないことだろう。次の起債の山は5月下旬以降となることが想定される。金利水準に大きな変動はないと思われるものの、新型コロナ感染の状況と緊急事態宣言の延長次第では、株式市場の変調を通じて金利へ影響が及ぶことも考えられる。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/12~4/16

年度初めの起債市場は、引続き淡々と進んでいるイメージである。株価の波乱もないし、新型コロナのワクチン接種も遅々として進まない。ようやく一部の地方公共団体で高齢者への接種がはじまったものの、用意された接種可能回数が対象者に対して少ない。訪米から帰国した菅首相は9月までに対象者全員への接種をという方針を示しているが、その前にオリンピック・パラリンピックが立ちはだかり、更には、自由民主党総裁選と衆議院議員の任期満了が控えていることを考えると、口が裂けてもワクチン接種が晩秋以降にずれ込むとは言えないだろう。関西を中心に猛威を振るっているように見える新型ワクチンの変異株も、関東では調査数が少ないだけと指摘されており、決して明るい展望が開けたとは思えない。株価も金利も小幅の上下変動は見られるものの、なかなか一方向への動きは見られず、感染者数の増加のみが報道される中で、このままゴールデンウィークに突入することになるのだろうか。

起債市場で募集されている債券は、引続き、ノンバンク、電力、鉄道、財投機関債等といったところが主体である。これら以外を探してみると、丸紅が10年債を募集した他、初顔のNISSHA(旧日本写真印刷は2017年に「NISSHA株式会社」と社名変更)が5年債を募集し、明治ホールディングスが5年のサステナビリティボンドを募集しただけである。準財投機関債である東日本高速道路債は、5年・7年・10年の全年限についてソーシャルボンドの認定を受けているが、発行体の事業目的から考えると、当然の取組みであると思える。特に、ICMA(International Capital Market Association)等の設定したガイドラインに合わせた資金使途を宣言しなくても、ハナから発行体はソーシャルな存在なのである。

敢えて比較してみたいと思ったのが、前週金曜日のJR東日本と同様に、多年限の債券募集を行ったJR西日本である。R&Iの格付けは、JR東日本のAA+格に対し1ノッチ下のAA格であり、JR東日本が営業基盤として首都圏を有しているのに対し、JR西日本は関西圏を擁している。採算性の厳しいローカル路線(東北や山陰をイメージすると良いだろう)は両社とも有しており、将来的にJR北海道やJR四国の負担をどう負わされるかによって差の生じる可能性はあるものの、現状では顕著な差が見られない。このまま新型コロナの影響で旅客運送が大幅減を継続するならば両社とも大きな損害を被るが、昨秋のようなGoToキャンペーンの実施を狙っている政権・政治家・地方公共団体の動きを考えると、両社に対して破綻処理等が行われることは容易でないと想定される。

両社とも市場で調達したのは、3年債・5年債・10年債・20年債・30年債・40年債・50年債の計7本であった。JR東日本は計2,000億円を募集し、JR西日本は計1,600億円を募集している。利付国債の募集年限だと2年・5年・10年・20年・30年・40年であるから、超長期50年債は国債よりも長く、短い年限もマイナス金利の関係から国債より1年長い3年債の設定である。募集された利回りをJR東日本対JR西日本で比較すると、3年債は0%対0.001%、5年債は0.05%対0.05%と同じ、10年債は0.245%対0.23%、20年債は0.596%対0.582%、30年債は0.847%対0.829%、40年債は0.978%対0.961%、50年債は1.142%対1.133%となっている。総じて長めの年限は1週後に条件決定を行ったJR西日本債の方が利回りは低くなっている。財務省の公表する国債金利情報で国債利回りの水準を比較すると、10年以上の年限で1~2bpsほど利回りが低下しているので、JR西日本の発行利回りカットも概ねその範囲内であったことが確認できる。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/5~4/9

漸く本格的な2021年度の起債市場がはじまった。既に指摘したように、起債タイミングの頭を取るのは、電力・ノンバンクであり、その後に財投機関や鉄道が続いて、おもむろに銀行が動いてメーカーが出て来るというのが典型的なパターンのイメージだろう。この4月についても、まずは2日に中国電力が先走り、この週に入ってリコーリース、東北電力が週央までに社債を募集した後、8日の木曜に北陸電力、クレディセゾン、地方公共団体金融機構の募集があり、9日の金曜日に多くの案件が集中するという構図になった。金曜日に募集されたのは、関西電力、トヨタファイナンス、日本政策投資銀行・住宅金融支援機構、東日本旅客鉄道・九州旅客鉄道といった顔触れで、毎年のパターンの通りである。小売業に分類されるバローホールディングスが5年債を募集したのは、やや異質に映るところであった。

募集された債券種類と年限構成を概観しても、前年度からの起債市場の特徴に大きな変化は見られない。まず、日銀による社債買入れオペの対象となる3年債・5年債の募集が多い。リコーリースとトヨタファイナンスはこの2年限のみに絞った起債であるし、クレディセゾンは5年債と7年債を募集している。結局のところ、日銀の社債オペによって起債が容易になる恩恵を受けているのは、ノンバンクが最大なのかもしれない。

もう一つの特性としては、超長期年限を含めた起債である。地方公共団体金融機構が10年債・20年債・30年債という主力年限で3本立てを選択したのが典型であり、日本政策投資銀行は主幹事証券の異なるスポット分を含めると3年債・5年債・10年債・30年債・50年債という5本立て計1,000億円の構成である。一方で住宅金融支援機構は、5年債・10年債・15年債・20年債で計800億円とやや刻みが細かいイメージに映る。

更に、これらの上を行くのが東日本旅客鉄道で、3年債・5年債・10年債・20年債・30年債・40年債・50年債と最近の起債パターンで、日銀買入れゾーンから超長期まで幅広い年限を一度に募集している。一つの回号は最大450億円でも、総計で2,000億円になる。一つの発行体による起債でイールドカーブを描くことが可能になるのは、面白い起債であると言って良いだろう。

東日本旅客鉄道と対極にあるのが、九州旅客鉄道で10年のグリーンボンドを募集している。新年度に入ってもSDGs債の募集トレンドは継続するものと期待される。既に、神戸市のようにグリーンボンドやソーシャルボンドといったガイドラインに基づくESG債の厳密な枠組みを嫌って、広い意味でのサステナビリティに資する起債としてSDGs債を標榜する例が見られるようになっている(2021年3月8日、神戸市の起債は包括的なSDGsへの取り組みの一環で、ICMAの環境債や社債貢献債など特定のガイドラインには沿わない形で発行)。特定の債券だけ使途を絞ったとしても、責任財産限定特約でなく無担保やジェネラルモーゲージである以上お金に色がないため、特定のガイドラインを遵守しているかどうかは、第三者による十分な確認がなければ、発行体の恣意的な発表に任される可能性があることを考えると、神戸市のような考え方も首肯できるのではないか。

国内起債市場を斬る 令和2年度末特別号-2:2021年度の起債市場を予想する

既に2021年度の起債市場は動きはじめている。4月2日に中国電力が10年債を募集した。引続き、四半期初めの起債市場を、電力会社やノンバンク、財投機関債がリードするという構造は変わらないだろう。それに、鉄道や銀行が加わり、おもむろにメーカーが動くというのが恒例のパターンと考えられる。メーカーによる起債の多くはM&A絡みであり、金額が大きくなることも珍しくない。M&A絡みで発行金額が大きくなるのは、メーカーに限らず、他の業態でも同様である。金余りが基本となっている現在の金融環境で、巨額の資金調達ニーズが生じるのは、業態を問わずM&A関連である可能性が高い。

本年度の起債市場を見通すと、昨年度から状況が大きくは変わらないだろうと結論付けざるを得ない。発行金額自体は、M&Aの多寡によって影響がある他、満期償還を迎える債券やローンの借換えニーズに左右されることとなろう。先行きの金利上昇期待が、米国国債ですら2023年と言われる中で、日本でより強く感じられることはない。金利上昇を意識し慌てて資金調達意欲が高まるといったことはないだろう。日本銀行は社債等買入れオペについて特に大きな政策変更を打ち出していないため、引続き、日銀の買い入れる5年以内の社債による調達が見込まれるとともに、利回りの絶対水準を求める投資家のニーズに対応する観点から、超長期債の募集も多くなるだろう。

利回りを求めるという観点からは、超長期債の一種と考えられなくもないが、発行体による期限前償還が可能な劣後債の募集が、発行体及び投資家双方のニーズにマッチしており、引続き相応の募集金額となる可能性は高い。ほとんど破綻することがない日本の社債発行企業に関しては、期限前償還されることを前提とした投資家による投資判断が一般化している。しかし、劣後債の保有に関する規制の変更や格付会社による資本性認定基準の見直し等外部要因による影響に左右されることは不可避だろう。

もう一つ起債市場で焦点になるのは、SDGs債の募集だろう。既に日本の公的年金はESG投資の対象を国内の株式だけではなく、すべての投資対象資産としている。当然に、不動産やインフラ投資だけでなく、社債や債券一般も含まれる。財投機関債や地方債のようにコンセプト面からは、当然にソーシャルやサステナビリティの要素を持っている発行体の債券は、基準に合致した体裁を作ることで、容易にSDGs債を発行することができるだろう。そうなれば、ほとんどすべての債券がSDGs債になってしまい、一部の特定業種の発行体による社債のみが非SDGs債として、スプレッドの上乗せを要求される状態になるかもしれない。これまでの日本の起債状況を見ても、空運会社のトレーニングセンターが二酸化炭素排出を抑制しているからとグリーンボンド認定を受けたり、ガソリン燃焼自動車の売上が過半を占める自動車メーカーがサステナビリティボンドを募集したりもしている。発行体の努力を否定する気はないが、基準の設定次第では、すべての債券がSDGs債となってしまい、認定を受けることの意味合いが低下してしまう可能性もあろう。第三者の認定機関の任命など、より適切な運営が望まれる。

これらの着目点は、いずれも前年度以前から継続している物ばかりである。果たして新年度は、新しいトピックが起債市場の話題になることがあるだろうか。楽しみは、尽きない。