国内起債市場を斬る 令和2年度末特別号-2:2021年度の起債市場を予想する

既に2021年度の起債市場は動きはじめている。4月2日に中国電力が10年債を募集した。引続き、四半期初めの起債市場を、電力会社やノンバンク、財投機関債がリードするという構造は変わらないだろう。それに、鉄道や銀行が加わり、おもむろにメーカーが動くというのが恒例のパターンと考えられる。メーカーによる起債の多くはM&A絡みであり、金額が大きくなることも珍しくない。M&A絡みで発行金額が大きくなるのは、メーカーに限らず、他の業態でも同様である。金余りが基本となっている現在の金融環境で、巨額の資金調達ニーズが生じるのは、業態を問わずM&A関連である可能性が高い。

本年度の起債市場を見通すと、昨年度から状況が大きくは変わらないだろうと結論付けざるを得ない。発行金額自体は、M&Aの多寡によって影響がある他、満期償還を迎える債券やローンの借換えニーズに左右されることとなろう。先行きの金利上昇期待が、米国国債ですら2023年と言われる中で、日本でより強く感じられることはない。金利上昇を意識し慌てて資金調達意欲が高まるといったことはないだろう。日本銀行は社債等買入れオペについて特に大きな政策変更を打ち出していないため、引続き、日銀の買い入れる5年以内の社債による調達が見込まれるとともに、利回りの絶対水準を求める投資家のニーズに対応する観点から、超長期債の募集も多くなるだろう。

利回りを求めるという観点からは、超長期債の一種と考えられなくもないが、発行体による期限前償還が可能な劣後債の募集が、発行体及び投資家双方のニーズにマッチしており、引続き相応の募集金額となる可能性は高い。ほとんど破綻することがない日本の社債発行企業に関しては、期限前償還されることを前提とした投資家による投資判断が一般化している。しかし、劣後債の保有に関する規制の変更や格付会社による資本性認定基準の見直し等外部要因による影響に左右されることは不可避だろう。

もう一つ起債市場で焦点になるのは、SDGs債の募集だろう。既に日本の公的年金はESG投資の対象を国内の株式だけではなく、すべての投資対象資産としている。当然に、不動産やインフラ投資だけでなく、社債や債券一般も含まれる。財投機関債や地方債のようにコンセプト面からは、当然にソーシャルやサステナビリティの要素を持っている発行体の債券は、基準に合致した体裁を作ることで、容易にSDGs債を発行することができるだろう。そうなれば、ほとんどすべての債券がSDGs債になってしまい、一部の特定業種の発行体による社債のみが非SDGs債として、スプレッドの上乗せを要求される状態になるかもしれない。これまでの日本の起債状況を見ても、空運会社のトレーニングセンターが二酸化炭素排出を抑制しているからとグリーンボンド認定を受けたり、ガソリン燃焼自動車の売上が過半を占める自動車メーカーがサステナビリティボンドを募集したりもしている。発行体の努力を否定する気はないが、基準の設定次第では、すべての債券がSDGs債となってしまい、認定を受けることの意味合いが低下してしまう可能性もあろう。第三者の認定機関の任命など、より適切な運営が望まれる。

これらの着目点は、いずれも前年度以前から継続している物ばかりである。果たして新年度は、新しいトピックが起債市場の話題になることがあるだろうか。楽しみは、尽きない。