国内起債市場を斬る 起債評価:4/12~4/16

年度初めの起債市場は、引続き淡々と進んでいるイメージである。株価の波乱もないし、新型コロナのワクチン接種も遅々として進まない。ようやく一部の地方公共団体で高齢者への接種がはじまったものの、用意された接種可能回数が対象者に対して少ない。訪米から帰国した菅首相は9月までに対象者全員への接種をという方針を示しているが、その前にオリンピック・パラリンピックが立ちはだかり、更には、自由民主党総裁選と衆議院議員の任期満了が控えていることを考えると、口が裂けてもワクチン接種が晩秋以降にずれ込むとは言えないだろう。関西を中心に猛威を振るっているように見える新型ワクチンの変異株も、関東では調査数が少ないだけと指摘されており、決して明るい展望が開けたとは思えない。株価も金利も小幅の上下変動は見られるものの、なかなか一方向への動きは見られず、感染者数の増加のみが報道される中で、このままゴールデンウィークに突入することになるのだろうか。

起債市場で募集されている債券は、引続き、ノンバンク、電力、鉄道、財投機関債等といったところが主体である。これら以外を探してみると、丸紅が10年債を募集した他、初顔のNISSHA(旧日本写真印刷は2017年に「NISSHA株式会社」と社名変更)が5年債を募集し、明治ホールディングスが5年のサステナビリティボンドを募集しただけである。準財投機関債である東日本高速道路債は、5年・7年・10年の全年限についてソーシャルボンドの認定を受けているが、発行体の事業目的から考えると、当然の取組みであると思える。特に、ICMA(International Capital Market Association)等の設定したガイドラインに合わせた資金使途を宣言しなくても、ハナから発行体はソーシャルな存在なのである。

敢えて比較してみたいと思ったのが、前週金曜日のJR東日本と同様に、多年限の債券募集を行ったJR西日本である。R&Iの格付けは、JR東日本のAA+格に対し1ノッチ下のAA格であり、JR東日本が営業基盤として首都圏を有しているのに対し、JR西日本は関西圏を擁している。採算性の厳しいローカル路線(東北や山陰をイメージすると良いだろう)は両社とも有しており、将来的にJR北海道やJR四国の負担をどう負わされるかによって差の生じる可能性はあるものの、現状では顕著な差が見られない。このまま新型コロナの影響で旅客運送が大幅減を継続するならば両社とも大きな損害を被るが、昨秋のようなGoToキャンペーンの実施を狙っている政権・政治家・地方公共団体の動きを考えると、両社に対して破綻処理等が行われることは容易でないと想定される。

両社とも市場で調達したのは、3年債・5年債・10年債・20年債・30年債・40年債・50年債の計7本であった。JR東日本は計2,000億円を募集し、JR西日本は計1,600億円を募集している。利付国債の募集年限だと2年・5年・10年・20年・30年・40年であるから、超長期50年債は国債よりも長く、短い年限もマイナス金利の関係から国債より1年長い3年債の設定である。募集された利回りをJR東日本対JR西日本で比較すると、3年債は0%対0.001%、5年債は0.05%対0.05%と同じ、10年債は0.245%対0.23%、20年債は0.596%対0.582%、30年債は0.847%対0.829%、40年債は0.978%対0.961%、50年債は1.142%対1.133%となっている。総じて長めの年限は1週後に条件決定を行ったJR西日本債の方が利回りは低くなっている。財務省の公表する国債金利情報で国債利回りの水準を比較すると、10年以上の年限で1~2bpsほど利回りが低下しているので、JR西日本の発行利回りカットも概ねその範囲内であったことが確認できる。