国内起債市場を斬る 起債評価:5/17~5/21

前週に引続き、電力と財投機関が主体になった。電力債では、四国電力が10年債と20年債各100億円を、東北電力が10年債300億円・20年債100億円・30年債100億円を、北陸電力が10年債と端数年限の13年債各100億円を募集している。ゴールデンウィークが明けてからすべての電力会社が出揃ってはいないが、順調に電力各社が募集している展開である。東日本大震災と福島第一原発事故から10年以上が経過したが、電力債にはある程度のスプレッドが乗ったままである。一般担保条項に効果があることは認識されるものの、将来の新発債には付されなくなることが予定されており、福島原発と同種の事故が生じた場合に奉加帳方式で各社に損失負担が再び強いられる悪夢は必ずしも忘れ去られていない。化石燃料エネルギーへの依存度の高さも、ますますESGへの取組みが強く意識される中では、業界全体がネガティブに捉えられかねない。再生可能エネルギーへの注力にも限界があり、万一原油やLNGの価格が上昇した場合にもユーザーへの価格転嫁が容易でなくなっているため、収益構造が悪化する可能性は高い。これらの懸念から電力債にはプレミアムが乗ったままになっており、格付け対比での投資妙味を感じる投資家は少なくない。

財投機関等による債券募集も相変わらず多い。日本高速道路保有・債務返済機構は29年債50億円と34年債100億円の端数年限の利子一括払債の2本を、鉄道建設・運輸施設整備支援機構は10年債と15年債各100億円を、日本学生支援機構は2年債300億円を募集している。その他に、地方公共団体金融機構は、FLIPに基づく5年債から21年債計6本350億円を募集している。これらのうち、鉄道建設・運輸施設整備支援機構債券が両年限ともサステナビリティボンドの認定を受けている他、日本学生支援債券はソーシャルボンドとなっている。いずれも社会的に意義のある取組みを行っている財投機関であり、認定を受けることに必ずしも大きな意味はないとも考えられるのだが、SDGs債券への投資実績を誇りたい投資家にとっては、十分に購入するインセンティブになるだろう。利回りに悪影響がないのであれば、発行体が認定機関に対して支払う手数料と、発行後が取組み結果の公表等の手間を負担するだけであり、投資家にはマイナスの材料がない。サステナビリティリンクボンドのような仕組みは、公的な機関の発行する債券には必ずしも必要であると思えない。

その他に、大丸や松坂屋、パルコを傘下に有するJ.フロントリテイリングが募集した5年債と7年債各150億円のうち、5年債のみがサステナビリティボンドの認定を得ている。具体的な資金使途としては、「大丸心斎橋店本館・渋谷パルコの建設、再生可能エネルギー由来電力の購入、LED照明への切り替え、社用車のEV化、神戸・旧居留地の賃借、女性の活躍推進への取り組み」とされているが、これではサステナビリティボンドとしての位置づけが疑問視されるだけでなく、投資表明した投資家のESG投資に対する真摯さも懸念されるところである。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/10~5/14

GWを終えて3月期決算企業の決算発表も峠を越えると、徐々に起債に向けた動きが増えて来る。一般的に動きが早いのは、電力・ノンバンク・財投機関というイメージであるが、この週はノンバンクがまだ動かず、電力と財投機関の動きが先行したようである。社債等の多くが14日の金曜日に募集されたためか、起債観測の上がっているノンバンクもあるが、募集は翌週以降に持ち越したようである。

電力関連で動いたのは二社で、電源開発が10年債300億円と20年債100億円を募集し、北海道電力が3年債200億円と10年債100億円を募集している。格付けを見ると、R&Iの評価は電源開発がA+格で、北海道電力がA格と1ノッチの差があるものの、北海道電力債には一般担保条項が付されており、顕著な信用力の差を意識しない投資家は少なくないだろう。電源開発債には社債管理者が付されているが、センサー機能を持った特約や一般担保条項が付されていないため、受託銀行が社債管理手数料を懐に入れるだけとなっている。同じ日に募集した10年債は、電源開発債が0.31%クーポンで北海道電力債が0.33%クーポンとわずかな差である。もっとも北海道電力が同時に募集した3年債のクーポンは0.001%クーポンと最低水準に設定されており、パー発行なので多くのノンバンク等の社債より投資妙味を感じた投資家もあるだろう。

財投機関等では、新関西国際空港が5年債と10年債を各100億円募集している他、西日本高速道路が5年債を800億円、地方公共団体金融機構が10年債を350億円、住宅金融支援機構が5年債400億円・15年債200億円・20年債100億円・30年債300億円の計1,000億円を募集している。地方公共団体金融機構の債券募集が10年債のみというのは、珍しいかもしれない。また、住宅金融支援機構も10年債を外して、5年債・15年債・20年債・30年債という刻みも過去多かったようには記憶していない。この4本立ての中では、15年債と20年債とがグリーンボンドとしての認定を得ている。

グリーンボンドという意味では、安川電機が5年債100億円をグリーンボンドとして募集している。安川テクノロジーセンターの建設資金に充てる予定であり、効果としては、「高環境効率商品、環境適応商品、環境に配慮した生産技術およびプロセス」の他に、「エネルギー効率」を掲げている。グリーンボンドの認定に際しては、セカンドパーティーオピニオンをR&Iから取得しており、調達した資金の適正な利用に対するモニタリングが期待される。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/26~5/7

GWを挟む時期は、3月期決算企業の決算発表もあって、起債市場の動きは鈍い。そもそも飛び石休暇であると、今年のカレンダーで行けば4月30日とか5月6日・7日といった証券会社の営業日程では、社債等の募集は容易でない。前日が休日であると募集しづらいし、募集から払込までの日程を大きく開けることは好まれないからである。結局のところ、この期間に社債が募集されたのは、本格的な休みに突入する前の4月27日及び28日に限られた。しかし、いずれの日も1銘柄ずつの募集であって、決して市場が盛り上がっているという訳でもない。

4月27日に募集されたのは、中日本高速道路の5年債950億円である。日本高速道路保有・債務返済機構の併存的債務引受条項が付されているため、信用力の面では実質的に財投機関と同等と考えられる存在である。発行体が株式会社形態という面での不安感は多少あるかもしれないが、国と実質的に一体である財投機関が併存して債務を引受ける仕組みである。格付けも引続き、R&IのAA+格・JCRのAAA格・ムーディーズのA1格と、いずれも日本国債と同じ符号を得ている。5年債でクーポンは0.05%であった。利回り水準としては、同月に募集された東日本高速道路の5年債と同じであった。日本政策投資銀行や住宅金融支援機構の0.02%クーポンは上回るものの、JR東日本やJR西日本も5年債は同じ0.05%で募集しており、決して割高感はない。

続く28日に募集されたのは、住友不動産の10年債300億円であった。バブル経済の崩壊後に格付けが投資適格と呼ばれる水準を下回っていた時期には、個人投資家向けの社債募集で凌いだり、その後も、流通市場の実勢から大きく乖離した水準での社債募集を強行したりと、社債市場において”いわくつき”の発行体の一つと目されて来た。しかし、現在の格付けは、R&IのA+格及びJCRのAA-格と、高格付けと表現してもおかしくないような信用水準になっている。不動産市場の全般的な回復もあるが、特に、大都市圏のオフィスや物流施設等多様なニーズに対応したことで、人口減少社会においても、大手不動産各社は根強い需要を確保しているのである。クーポンは0.31%に設定されており、野村證券が単独で全額を引受けた。今月に募集された起債市場で同じく歴史的にいわくつきの発行体の一つとされる東京電力パワーグリッドの10年債は、0.8%クーポンであるから、格付けが大きく異なるとは言え、住友不動産の評価が大きく回復していることを感じさせる。同月に募集された他の10年債を見ても、0.31%クーポンは、他の電力債とほぼ同じくらいの水準であり、丸紅やオリックスよりも低い水準である。住友不動産が普通の発行体になったことを強く意識させられた起債であった。