国内起債市場を斬る 起債評価:6/21~6/25

3月期決算企業の株主総会がピークに達する時期であり、民間企業の起債は見られない。財投機関債等で募集されたのは、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債と国際協力機構の10年債及び20年債のみであった。

国際協力機構の募集した財投機関債は、10年債と20年債が各100億円である。営利を目的としない政府系機関であり、実質的にODA等政府と一体となって一部の役割を担う存在であることから、取得している格付けは、R&IのAA+格及びS&PのA+格と日本国債と同水準の符号である。前回までの起債と同様に、今回の2本立ての起債も、ソーシャルボンドとしての認定を得ている。

国際協力機構の設立目的は、「開発途上地域に対する技術協力、有償及び無償の資金供与による協力の実施、住民を対象とする国民等の協力活動の促進に必要な業務、開発途上地域等における大規模な災害に対する緊急援助の実施を行い、開発途上地域の経済及び社会の開発若しくは復興又は経済の安定に寄与することを通じて、国際協力の促進並びに我が国及び国際経済社会の健全な発展に資すること」であり、そもそもが十分に社会的な存在であることに疑いはない。それが、ICMA(The International Capital Market Association)の定義する基準に基づきソーシャルボンドとしての特性を有するものと認定されている。特に、今回の起債の前に更新されたセカンドオピニオンは、石炭火力発電事業を起債によって獲得した資金使途から除外されたことを評価している。お金に色はないのであるが、セカンドオピニオンを公表した日本総研からは、「適格基準を満たす使途に適切に資金が充当され、新たに設定した除外基準に基づく使途に調達資金が充当されないように管理し、その結果を開示していくことを推奨する」と指摘されている。

同じくこの週に募集された東京都の5年債も、地方債としては、初めてソーシャルボンドとしての認定を得ている。具体的な資金使途としては、「①社会的に支援が必要な人々を対象とする事業であること、②明確な社会的便益(新たな便益の発生又は既存の便益の維持)が見込まれ、その効果を定量的に把握できる事業であること、③地方財政法第5条各号その他の法令の規定により地方債を財源とすることができる事業であること」という3つの要件を満たす事業とし、資金区分を明確にした上で管理・レポーティングを行うものとされている。今回債については、具体的に、特別支援学校とチャレンジスクールの整備、雇用・就業促進施設等の整備、中小企業制度融資預託金が明示されている。

地方公共団体そのものが、ソーシャルな存在であることに間違いはないのだが、より具体的に基準へ合致するよう資金使途となる事業を絞っていることで、通常の地方債と異なる位置づけのものとしている。日本の地方債は米国でいうゼネラルモーゲージ債であり、資金使途等を特定したレベニュー債とするのは法的に不可とされているが、資金管理を厳格にすることで、倒産隔離等を実現することは不可能であるものの、レベニュー債に少し近づいた仕組みを実現したものである。今後、同様の取組みが他の地方公共団体でも活用されるか注目したい。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/14~6/18

起債市場は、3月期決算企業の株主総会シーズンが迫り、急に下火になった観がある。もっとも7月に入れば、次の四半期になることもあって起債量は自ずと復活してくるのは必至であり、現在は単なる準備期間と考えて良いだろう。この週は、募集案件の数が多くなかったものの、いずれも個性的な物が集まったようである。

まず、三菱地所は、7年債200億円・10年債300億円・20年債200億円と計700億円を募集している。格付けがAA-(R&I)・A+(S&P)・A2(ムーディーズ)と高いこともあって、クーポンは7年債で0.16%、10年債で0.26%、20年債で0.61%と決して高水準にならないが、信用力の安定性を評価されていることは間違いない。新型コロナ首都圏集中感染によって、都内オフィスビルの位置づけの激変は否めないが、高格付けの超長期債を含む大型募集案件と題して良いだろう。

西日本鉄道は、劣後債を計300億円募集している。5年経過時点以降で償還可能な35年債200億円と、7年経過時点以降で償還可能な37年債100億円という内訳である。鉄道会社の劣後債については、劣後事由が発生するようなことは考え難いと思われるが、地域限定のイベントが生じる事態も頭の片隅には置いておくべきだろう。地震や台風、火山の噴火等による被害の長期化や、海外からの影響等もあり得ないこととは断言できない。また、超長期的には人口動態の影響も、営業地域を変えることが難しいため、リスクとして認識しておく必要がある。

一方で、東武鉄道が募集したのは、0.001%クーポンの3年債であり、オーバーパー発行で実質利回りは0%である。年限から見ても、明らかに日銀オペに吸収されることを前提とした起債であると思われる。日銀は社債買入れオペを継続する姿勢を表明しているが、金額面では抑制的に取り組まれる可能性が高く、日銀による買入れを前提にすることは、やや将来に対する懸念を持っておいた方が良いだろう。

レア物として括って(くくって)よいと思われるのが、マクロミルの3年債50億円及び5年債100億円、東海カーボンの5年債100億円、GMOインターネットに3年債100億円及び5年債150億円である。マクロミルの5年債で第4回債と回号がもっとも大きく、GMOインターネットの3年債は第1回債と回号が最小である。格付けは、東海カーボンがA-(R&I)格であるものの、マクロミルとGMOインターネットはBBB+(R&I)格である。東海カーボンが炭素製品のメーカーであるのに対し、マクロミルはネット等によるマーケット調査会社、GMOインターネットはネットを利用した金融を含む様々なサービス提供者といった違いがある。GMOインターネットは。グループ内の上場会社が多いだけでなく、海外展開も広いので、やや実態の把握が難しいだろう。そういう意味では、レア物で募集された社債は、長くても5年債までという年限設定には、違和感が少ない。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/7~6/11

6月に入って起債市場がやや盛り上がりを取り戻したかに見える。これまでのパターンですと金曜日に募集案件の集中する傾向が強いが、この週は週初めの月曜日を除くと火曜日から金曜日に万遍なく案件が分散している。また、金曜日の案件数が木曜日よりも少ないために、慌ただしい展開とは見えない。いつの間にか、金曜日に案件が集中する状況に慣れきってしまったようだ。今月末に企業の株主総会が多く集中することを考えると、翌週以降の起債は3月期決算企業以外の民間企業や公的セクターが中心となることだろう。

この週の起債の特徴は、概ね前週までと異なるものではなかった。ノンバンク、電力、個人向け、劣後債、SDGs債、財投機関債等といったラベルでほとんどの案件を語り尽くせる。これらから外れているものと言えば、光通信の5年債・10年債・20年債の3本立て計500億円とスターゼンの第1回債50億円の2件に留まる。前者は、過去の発行体による忌まわしい買入消却さえなければと思う一方、この事業内容での20年債という年限について疑問視しておくべきだろう。20年という超長期では、事業内容と格付の安定性は両立しない可能性が高く、中短期債ならともかく超長期債を安心して購入できる発行体ではない。逆に、スターゼンの初回債は5年という年限の設定も適切である。BBB+(JCR)という評価でもあり、食肉専門の商社という事業内容からも、ヘッドラインリスクさえなければ安定的な企業と期待できる。同じ年限の5年債でも、R&IのA-格及びJCRのA格を取得した光通信の0.3%クーポンより高い0.35%クーポンとなっている。光通信も5年債なら、事業展開を想定できる範囲であり、投資対象に加えても悪くない年限なのであるが。

劣後債を募集したのは、野村ホールディングスとENEOSホールディングスの2社である。前者は永久劣後債で5年経過後に期限前償還が可能になるもので、後者は60年劣後債を期限前償還が可能になるタイミングで5年・10年・15年の3本に分けたものである。野村ホールディングス債は2,250億円の1本で、ENEOSホールディングス債は1,000億円ずつが3本といずれも巨額の募集であった。こういった期限前償還が可能なコーラブル債については、期限前償還の確実性を適切に評価しないと、投資元本回収のスケジュール見通しを誤る可能性がある。金融庁監督下の野村ホールディングスについては、期限前償還される可能性は極めて高く、当初5年のクーポン水準1.3%は投資妙味が高い。それでも、証券会社を主力とするグループの持株会社であるから、絶対的な安心感は持ち得ない。海外投資での損失発生といったニュースが、いつ入って来るか予測できるものではない。

一方、ENEOSホールディングスに関しては、期限前償還の確実性が、かなり劣る。当初5年の0.7%クーポンや当初10年の0.97%クーポンは、野村ホールディングス債の当初5年より低く、当初15年の1.31%クーポンでようやく野村ホールディングス債の当初5年と同程度である。石油関連という事業リスクの高さを考えると、明らかに割高な起債と見るべきだろう。ヘッドラインリスクという意味では、証券会社よりも高いかもしれず、中東地域での紛争や代替エネルギー関連の話題にも振り回されかねない。更に言えば、化石燃料が事業の大半を占める以上、部分的に再生可能エネルギー開発の努力等ESG経営に向けた努力を行っているが、ESG投資のEの観点からはアウトというレッテルを貼られる企業である。ダイベストメントと呼ばれるESG投資の手法では、除外対象となる可能性が高い。単純に利回りの高さを求めて兵器製造企業や賭博関連企業にも投資するのが適切な投資行為なのかという、投資家の規範意識が問われるものである。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/31~6/4

カレンダーが6月に変わった途端、多くの社債等の募集が動きだした。本数・金額ともに4日の金曜日は相変わらず多いものの、月が変わった火曜から木曜にも万遍なく募集があった。この週には、10年長期国債の入札から地方債の条件決定といった公共債の動きも少なくなく、慌ただしい週となった。これから株主総会までの期間が、一つの社債等募集のタイミングである。

この週の社債等の募集を幾つかの特徴でまとめてみたい。まずは、SDGs債の募集である。投資家側のESG熱の高まりもあって、グリーンボンドやソーシャルボンド等のSDGs債募集が増えているのは近年の傾向だが、この週も幾つか見られる。SCSK(2011年11月住商情報システム株式会社を存続会社として株式会社CSKと合併し、SCSK株式会社に商号変更)の5年債はグリーンボンドであり、九州電力の募集した5年債と10年債のうち、10年債のみがグリーンボンドとなっている。都市再生機構の20年債・40年債・50年債という超長期債の3本立ては、いずれもソーシャルボンドの認定を受けている。最後に、ANAホールディングズの5年債はサステナボリティリンクボンドとなっている。かつてトレーニングセンターの二酸化炭素ガス排出を抑えるとしてグリーンボンドを募集した発行体であるが、欧州のESG教信者の中にはジェット燃料を燃やして大量の二酸化炭素排出を継続する空運業そのものに否定的な見方が強く、航空会社のグリーンボンドは強く疑問視されたものである。今回のサステナビリティリンクボンドは、SPTsを未達の場合に環境保護団体等へ発行体が寄付を行うという仕組みである。投資家に直接の経済的なメリットのない点が斬新であり、固定利付という本来の債券の特性を考えると、投資家に経済的なインセンティブを与えなくても良いとも考えられる。

次に、個人投資家向け社債の条件決定である。夏のボーナスシーズンを見据えた動きであるが、そもそもボーナスを貰うようなサラリーマン等が必ずしも個人投資家向け社債を積極的に購入するとは考え難く、単なる既存の個人投資家向け社債の償還見合いのタイミングと考えるべきかもしれない。10万円から購入可能な四国電力の3年債はオーソドックスな電力債であり、0.13%クーポンは銀行預金と比べればはるかに高い利回りである。一方、ソフトバンクグループの劣後債は100万円が最低の購入単位であり、5年経過以降に期限前償還が可能になるものの、最終償還は35年に設定されている。個人投資家保護の観点からは、発行体に償還オプションを与えることに疑念は残るが、これまでは期限前償還されて来ている。格付けはJCRのBBB格であり、持株会社の構造的劣後性を帯びていることもあって、投資家に十分なリスクの所在を説明出来ているかが大いに疑問視される。そもそも、通信事業者のソフトバンクと、持株会社のソフトバンクグループが混同されている懸念すらある。期限前償還されている間は問題が表面化しないが、今後の経営状態次第によっては、劣後債を販売した証券会社の説明責任を問われるような事態も発生しかねないだろう。

また、機関投資家向けの起債において、5年債が復権している可能性を指摘しておきたい。歴史的には、10年債と並ぶ主軸年限の一つでありながら、マイナス金利政策のお陰で影が薄くなっていた感はあったが、この1年くらいで5年債の募集がやや増えているように見える。この週だけでも、三菱マテリアルの3本立てのうち200億円、SCSKのグリーンボンド50億円、ジャックスの3本立てのうち200億円、九州電力のグリーンボンドでない方の500億円、共英製鋼の初物100億円、神戸製鋼所の100億円、日本航空の300億円と数多い。日銀の社債オペに対する姿勢が少し変化したことで、3年債の募集から5年債にシフトしている可能性も考えられ、今後の動向を注目しておきたい。

最後に、アイフルの1.5年債についても触れない訳には行かないだろう。同社は日本で唯一のハイイールド債発行体となっているが、同社による継続発行だけでなく、他の発行体が追随して市場の拡大が進むことを期待したい。必ずしもそれだけで社債市場の活性化が進んだとは言えないと思われるが、一つの重要な指標と見て間違いないからである。

国内起債市場を斬る 起債評価:5/24~5/28

3月期決算企業の決算発表を越え、電力と財投機関といった早駆けの得意な発行体に続いて、ようやく社債等がまとまって募集されるようになって来た。特に、業種面での偏りがなくなり、幅広い業態からの募集が見られた週であった。業種を列挙してみると、高速道路、銀行、証券、建設、ノンバンク、化学、鉄道、通信、ガスといった顔触れである。金曜日に多くの社債募集が集中するのは、やむを得ないところでもあるが、募集日をもう少し工夫すれば良いのではと、何時ものことながら思わざるを得ない。

この週の起債では、複数本立ての起債が目に付いた。二本立ての起債としては、大和証券グループ本社の5年債及び7年債各150億円、キリンホールディングスの5年債400億円及び7年債300億円、東急の3年債及び20年債各100億円である。東急の起債は、日銀オペ見合いの3年債と鉄道にふさわしい超長期の20年債という組み合わせで、合理的な選択と思える。しかも、3年債はオーバーパー発行で利回りは0%という起債である。残りの2社は、5年債及び7年債と中期年限が主体である。証券会社が中期の起債というのは違和感のないところであるが、飲料メーカーであるキリンホールディングスに関しては、より長い年限も選択できたのではないかとも考えられる。

複数本立て起債としては、三本立て起債の方がより目立ったように感じる。三菱ケミカルホールディングスは5年債200億円・10年債200億円・20年債300億円の計700億円、大和ハウス工業は5年債250億円・10年債150億円・20年債100億円の計500億円、ソフトバンクは5年債350億円・7年債300億円・10年債350億円の計1,000億円、大阪ガスは10年債200億円・20年債100億円・30年債100億円の計400億円と、いずれも大型の起債になっている。しかも、ソフトバンク以外は超長期債を組み込んでいるところが面白い。また、二本立て起債と同様に、5年債が4社で計800億円と多くなっている。基本形は、5年債・10年債・20年債という組み合わせだが、ソフトバンクは20年債でなく7年債とし、大阪ガスは5年債でなく30年債を選択したのは、業種特性によるものと考えればよかろう。

これから株主総会の時期まで、少し起債が増えるものと思われる。引続き、多様な業種が多様な年限で募集することだろう。また、この週はケネディクス・レジデンシャル・ネクスト投資法人(資産運用会社:ケネディクス不動産投資顧問株式会社)によるソーシャルボンドくらいしかSDGs債の募集は見られなかったが、最近の潮流に乗り、様々な発行体によってグリーンボンドやソーシャルボンドなどが手を変え品を変え登場してくるものと予想される。