国内起債市場を斬る 起債評価:7/19~7/23

東京オリンピック開催に向けた祝日の変更によって週の営業日が3日に限られると、起債は多くなりようがない。しかも、休み明けの月曜日にいきなりは動きづらいため、結果として社債等の募集日は2日間に限られてしまう。それでも、この週に募集された社債等の本数が計12本と多くなったのは、地方公共団体金融機構のFLIPに基づく債券募集が7本あったからである。四半期最初の月の中旬以降に、FLIPに基づく債券募集を行うのは同機構の定例であり、今回も8年債から19年債を募集している。8年債のみ200億円とまとまった金額であったが、それ以外は30億円もしくは40億円の募集であり、一般的な公募債の募集とは位置付けを異にする。もっとも同機構の信用力を最上位の地方公共団体と同等であると考えるならば、様々な年限の地方債を基に相対的な価値を評価することが可能であり、細かな年限の債券を募集してもプライシングに困ることは少ないだろう。

民間の社債で募集されたのは、Zホールディングス(2019年10月1日に持株会社体制に移行し当社の商号を「ヤフー株式会社」より社名変更)と日本郵船の2社によるものである。新興といっても古株ではある情報通信業と、岩崎弥太郎の時代に創業した海運業とでは、後者の創業年代が1885年であり、前者の1996年と両社は100年以上の差がある。一方、格付けを見ると、ZホールディングスがR&IのA+格及びJCRのAA-格であるのに対し、日本郵船はJCRのA-格と劣っている。創業年代の古さと信用力の高さは、決してリンクしない。もっともZホールディングスは東証1部に上場している持株会社であるものの、更に上位の持株会社Aホールディングスが存在しており、それがソフトバンクと韓国NAVERの合弁会社であるという複雑な資本提携関係となっている。単純な信用力の評価だけでなく上位構造の資本関係変化による影響が不可避であることも忘れてはならない。なお、Zホールディングスは、傘下に抱える主なネット関連事業を列挙しても、アスクル、PayPay銀行、イーブック、一休、GYAO、出前館、ZOZO、ヤフー等多様な業種が存在しており、情報通信業と考えるより一大コングロマリットと考えるべきであろう。募集したのは、5年債500億円・7年債200億円・10年債300億円と合計で1,000億円に上る。

一方、明治初期からある日本郵船が募集した5年債及び7年債各100億円は、トランジションボンドとしての適格性評価を得た日本初の公募普通社債である。トランジションボンドは、”企業の温室効果ガス排出削減に向けた長期的な移行(トランジション)戦略に則ったプロジェクトへの投資を使途とする債券”である。グリーンボンドが再生可能エネルギー関連の設備やファイナンスを意識し環境に配慮した債券とされるのに対し、トランジションボンドは重厚長大型産業や運輸業等の化石燃料を大量に利用する企業が、温室効果ガス排出削減に向かうためのファイナンス目的の債券とされる。考えようによっては、グリーンボンドの曖昧な境界線を部分的に明確化することで、発行企業の裾野を拡大することを可能にしたものとも考えられる。今後もトランジションボンドの発行が広まるのかどうか注視したい。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/12~7/16

2021年7月の起債市場は、東京オリンピック開催によるカレンダー変更の影響を受けている。四半期頭の起債市場では、そろそろ多様な業種の起債が見られ、一気に起債市場が盛り上がる時期なのだが、例年にはない4連休があり、都心部の交通規制等による物量及び人流への影響、無観客での競技開催の影響を世の中全般が受けており、盛り上がるだけの一方向でないオリンピック関連イベントを見ると、起債市場でもやや変質した雰囲気が醸し(かもし)出されている。この週に起債市場で社債を募集した業態も、複数のノンバンクが動いた他、商社や不動産、メーカーなどが出て来ているが、やや小粒の案件が多いイメージを受ける。

ノンバンクの起債を見ると、トヨタファイナンスの3年債200億円が利回り0%で募集され、東京センチュリーは7年債及び10年債各150億円を募集し、オリエントコーポレーションは2年7か月債と10年債各100億円を募集している。特に、グリーンファイナンス等の資金使途ではなく借換え等の対応が中心であって、あまり話題になるような材料が見られない。トヨタファイナンスの格付けは、R&IによるAAA格が日本国債より上であり、S&PによるA+格とムーディーズのよるA1格は日本国債と同水準である。投資家による支持は強く、オーバーパー発行で応募者利回りが0%となっても消化に支障はない。

強いてこの週の起債市場の特徴を挙げるならば、トヨタファイナンス債の高格付けと異なり、いわゆる投資適格の下限に近いBBB格ゾーンの社債募集が複数見られたことであろう。永谷園ホールディングスの5年債200億円は、JCRからBBB+格を取得している。もっとも、食品メーカーという業種特性から、健康問題に関連したヘッドラインリスクが現れない限り、信用力の安定が期待できる。一方、SBIホールディングスはR&IからBBB+格を取得して、3年債及び5年債各400億円を募集している。以前からネット経由で銀行や保険への進出を図り、複数の地銀と連携するなど業容の拡大に勤し(いそし)んでいて、今回の起債は募集金額も大きい。5年までの中期年限であれば業容に大きな変化はないものと期待されるが、知己金融機関を中心に合従連衡がますます増えると考えられる中、必ずしも5年間の安定性の維持できない可能性も否定できない。

帝人の募集した期限前償還可能な30年劣後債600億円も、格付けはR&Iから取得したBBB格となっている。同時に募集した3年債及び5年債はA-格であり、劣後債の構造的な評価(ノッチダウン)である。

第1回債を募集したオープンハウスの3年債100億円が興味をそそる。取得した格付けは、R&IからのBBB-格であり、クーポンは0.95%と極めて高い水準である。1997年創業と必ずしも社歴は長くなく(多くのIT系新興企業よりは長いが)、首都圏を中心とした大都市圏での不動産分譲及び住宅建築等を行う。テレビでの積極的なCM展開や、東京ヤクルトスワローズのトップスポンサーの一角を占めるなど、知名度は決して低くない。住宅に対する評価も取り立てて悪いものは見られないようであり、人口減少の日本において大都市圏に特化した地域戦略は、適切なものと考えられる。90年代に低格付けの複数の不動産会社が破綻し、社債がデフォルトした事例があった。オープンハウスに関しては、同様の展開となるリスクは低いように見えるが、どうだろうか。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/5~7/9

年度第2四半期の始まりである。この週は3月期決算企業の株主総会が終わったタイミングでもあり、例年、起債が多く見られる時期でとなる。四半期の頭ということで、ノンバンクや銀行といった金融セクター、鉄道関連、電力会社に財投機関等公共セクターといった顔触れが動き、その後に、メーカー等様々な業態が登場してくるというのが、例年の典型的な展開であろう。今年度はオリンピックによって祝日のカレンダーが例年と異なる(ただし、昨年度と同じ)並びになっているため、必ずしも毎年の夏と同じような展開にはならないかもしれないが、まずは、オリンピック開催期間の前までというのが一括りになろう。海外はおろか国内の観客動員も抑制したため、オリンピック開催期間中のテレワーク要請が無意味となる可能性もあり、4回目の緊急事態宣言が発出された中で、東京都心のビジネスコンディションが予想できない。資金調達の必要がある発行体は、オリンピック開催に向けた4連休前までに、動くものと予想される。

この週の起債の特徴は、まずは、多くの年限に渡る複数本立ての起債が目立ったことだろう。それは結果として、募集金額も大きなものとなる。まず、東京ガスは、5年債100億円・10年債150億円・20年債150億円・30年債100億円の計500億円を募集した。中期から超長期まで分散した年限設定であるが、その後に追随した案件と比べると、可愛いサイズであったと言えるだろう。日本政策投資銀行は、スポット発行の20年債100億円の他に、四半期案件として3年債300億円・5年債300億円・10年債400億円を募集しており、合計は1,100億円に上る。また、東日本旅客鉄道も負けていない。10年債100億円・20年債150億円・30年債250億円・40年債250億円・50年債250億円の計1,000億円の募集である。

そして、公共債も負けない。東日本高速道路は、レアな年限である1年債200億円の他に、5年債300億円・7年債200億円・10年債700億円と、超長期ゾーンを含まずに、計1,400億円を募集している。日本政策投資銀行の3年債も同様だが、東日本高速道路の1年債もオーバーパー発行であり、いずれも利回りは0%となっている。住宅金融支援機構の財投機関債も、5年債300億円・10年債250億円・15年債100億円・20年債100億円の計750億円と大規模の募集となった。なお、これらの複数年限と比べると、3本立ては可愛く見えてしまうが、地方公共団体金融機構も、5年債200億円・10年債350億円・20年債200億円の計750億円を募集している。

これらの大規模な起債の陰に隠れるかのように、SDGs債の募集も引続き、見られている。そもそも、東日本高速道路債は全年限がソーシャルボンドとなっており、住宅金融支援機構債も15年債と20年債はグリーンボンドの認定を得ている。その他に、中部電力の10年債がグリーンボンド、川崎重工業の10年債がサステナビリティボンド、京阪ホールディングスの10年債もサステナビリティボンドになっている。公的機関でない民間企業の場合には、火力発電で大量の化石エネルギーを燃焼し炭酸ガスを排出していたり、オートバイ等の内燃機関が不可欠な輸送用機器を製造していたり、見た目は電車の運航でクリーンかもしれないが電気の創出過程を考えると炭酸ガス排出に依存している、これらの発行体が、グリーンボンドやサステナビリティボンドを語り債券を募集することは、やや口幅ったいところであるが、よりクリーンな事業活動に向けた努力を行っているということで、前向きに評価しておきたい。

国内起債市場を斬る 起債評価:6/28~7/2

結局、3月期決算企業の株主総会が終了するまで社債の募集はなく、第一四半期の終わりを迎える中では、財投機関債等も動くタイミングではなかった。そのため、社債等の募集があったのは、金曜日に募集されたサントリー食品インターナショナルと近鉄エクスプレスのみであった。

サントリー食品インターナショナルが募集したのは3年債200億円で、クーポンは0.001%と最低水準で設定された。発行単価は100.003円のオーバーパーであり、応募者利回りは0%となる。JCRからAA-格と高評価を受けた3年債であり、日銀オペによって買い取られる期待もあって、問題なく消化された模様である。日銀による社債買入れオペは、やや消極的な姿勢に変化しているものの、拡大した年限である5年債まででなく、元からの購入対象とされていた3年債までならば、オペ対象として継続される可能性は高いだろう。事務方としては信用リスクを過度に負いたくないと考えているだろうが、日本にハイイールド債の新発市場が存在しないことを考えると、このような高格付け債を購入することは、社債買入れ実績の積み上げにこそ貢献すれ、企業に対する資金繰り支援の観点からは、何らの意味がないものになっている。信用危急時を除いて存在意義の乏しい日銀による社債買入れオペであるが、真剣に役割と継続することの意義を見直すべきだろう。単に、現執行部による金融緩和政策を継続するというだけの観点では、金融資本市場を歪める取組みでしかない。結局、誰も喜ばない取組みを無駄に続けているようにしか見えない。

一方、近鉄エクスプレスの10年債100億円は、R&IのBBB+格という評価を得て募集されている。近鉄グループに属する運送会社であり、高い競争力を有しているとされるが、格付けは決して高くない。10年債は格付け対比だとやや長い印象を受けるが、事業特性やグループ母体企業の存在を考えると、決して格付けがBBBレベルだからと言って、投資を躊躇する必要はないようにも思える。希少性のある業種と発行体であり、社債募集のタイミングも良かったのではなかろうか。6月に同じR&IのBBB+格で募集された社債(劣後債除く)を見ると、マクロミルル (本社:東京都港区、代表執行役 グローバル CEO:佐々木 徹)はの5年債が0.56%クーポンでほぼ同程度の利回り、また、GMOインターネット(本社:東京都渋谷区桜丘町26番1号 セルリアンタワー、表取締役会長兼社長・グループ代表熊谷 正寿)は3年債で0.58%クーポンと近い水準の利回りになっている。同じ格付けでも、業種と企業の双方の観点から、同程度の利回りとなる年限が大きく異なっているのは面白い。近鉄エクスプレスの信用力に対する信頼が強いことを、端的に示す結果となっている。