国内起債市場を斬る 起債評価:8/23~8/27

ようやく8月の起債市場が本格的な動きを見せるようになった。主として東京オリンピックと旧盆の夏休みによる影響であったが、基本的には、これから上期末最後となる募集期間に向かう時間帯である。例年であれば、電力や鉄道、ノンバンクといったフリークエントイシュアーだけでなく、メーカーの起債も見られ、更には、新顔の発行体も加わって起債ラッシュに近い状態となることも珍しくない時期である。今年は敬老の日が9月20日の月曜日とやや遅めになるため、ギリギリで9月17日の金曜日まで募集が行われるそうなカレンダーの並びである。

8月23日の週に債券を募集した発行体は、それまでの財投機関等主体と打って変わって、民間の事業会社が中心になった。業種としては、鉄道、メーカー、電力、サービス、ノンバンク、高速道路といったところである。年限も、3年債から通常の35年債まで様々であり、DNG森精機の劣後債は5年経過以降に期限前償還されなければ永久債である。格付けも幅が広く、もっとも高いのはR&IでAA+格およびJCRでAAA格の西日本高速道路であり、もっとも低いのはR&IでBBB格のタケエイである。DNG森精機の永久劣後債もR&Iから同じくBBB格を取得しているが、劣後債とシニア債では格付けの意味するところが若干異なる。利回りに目を転じると、オーバーパー発行で0%利回りとなったのが京成電鉄とオリエンタルランドの3年債および西日本高速道路の2年債であり、もっとも高いクーポンを付されたのがJR東海35年債の0.897%であり、それに次ぐのが東京電力パワーグリッドの15年債0.88%であった。DNG森精機の永久劣後債の当初5年は0.9%クーポンであり、期限前償還を前提にすると、実質5年債の0.9%クーポンで最も高いと評価できる。

このように、DMG森精機の永久劣後債が、格付けの面でも利回りの面でも、際立った水準であるが、期限前償還されない場合には、永久債となってしまうリスクがある。5年経過後のクーポンは、1年物国債利回り+2.015%の変動になる仕組みであり、1年物国債の利回りが大きくマイナスに沈んだ場合には、発行体に期限前償還しないインセンティブが生じる可能性もある。事業会社の発行した劣後債が投資家の期待通りにファーストコールされるかどうかは、もう少し実例の蓄積を待った方が良いだろう。あくまでも発行体によるオプション行使の有無であり、行使しないことが資本市場において容認されるかどうか、仕組みの吟味、格付会社の資本性評価と、参加者の受取り方によって大きく左右されるだろう。

年限と利回り、格付けを総合的に考えると、8月にR&Iが格上げと評価した東京電力パワーグリッドの10年債0.68%や15年債0.88%が魅力的に映る。しかし、温室効果ガスの排出に対する世界的な抑制が進む中で、長期や超長期の与信がどう評価されるかは不透明感が拭えない。それが利回りの高さの源の一つである。一般担保付という特性は電気事業法の附則に落とされており、当面は、かつて見られた強い信用力サポートの効果があると思われるが、附則が修正されなくても経済産業大臣による認定を失うことで、将来の電力債が持つ信用力に影響が生じる可能性がある。枠組みが変わらなければ、格付け対比で魅力的な利回りが得られるのが電力債であるが、劣後債の期限前償還と同様に、先行きの不透明感がその根底にあることを忘れてはならないだろう。