国内起債市場を斬る 起債評価:12/6~12/10

相変わらずSDGs債の募集が多い。投資家にとっては、債券の購入の背中を押してくれる動機であり、発行体にとっては、資金調達を行う大義名分が立つ。引受証券会社にとっても、双方の顔を立てやすいのであるから、まさに三方一両良しというのがSDGs債に対する人気を支えている。この週も、岩谷産業の5年及び7年グリーンボンド、みずほリースの5年グリーンボンド、清水建設の5年サステナビリティボンド、名古屋鉄道の7年サステナビリティボンドと多くが募集された。しかし、これらのSDGs債は資金使途が特定され、債券の発行後も状況をフォローして開示することが求められるため、大きな金額を募集することは容易でない。この週の各案件も最大で100億円の募集となっている。

SDGs債と対極にあるのが、複数本立てでの大型起債である。この週には4本立ての社債が二組募集されている。まず、一組目が楽天カードである。業種としては、ノンバンクに分類されるが、親会社である楽天グループ傘下の様々な事業を含めて評価する必要がある。格付けは、R&IのA-格とJCRのA格である。募集したのは、3年債300億円・5年債140億円・7年債50億円・10年債110億円の計600億円である。必ずしも高格付けとは言い難い信用力であるため、3年債の利回りは0.3%と普通の社債利回りであり、10年債のクーポンは1.07%と1%を越える水準である。信用評価としては、楽天グループに対して多くの与信を行っていなければ、通常のA格の社債として評価して良いかもしれない。

もう一組が、東日本旅客鉄道である。300億円400億円・30年債100億円・40年債100億円・50年債200億円の計800億円を募集している。日銀の社債オペ見合いの短期債と、超長期債の組み合わせという年限設定である。R&IのAA+格と日本国債並みの高格付け銘柄であるから、3年債の応募者利回りは0%になっている。また、40年債のクーポンですら、0.993%と1%の絶対水準を越えていない。ようやく50年債で、1.179%クーポンとなっている。

楽天カードの10年債とJR東日本の40年債と利回りはいずれも1%前後であるが、投資家としてどちらを選ぶかは悩ましいところだろう。JR東日本の社債がデフォルトするという可能性は極めて低い。運賃の認可もしくは届出制が採用されている以上、本業のみでの破綻は考え難い。よほどの人口減少や首都圏の鉄道網崩壊とかがなければ、鉄道事業は大丈夫と考えられる。しかし、周辺事業は、百貨店でも不動産でも、過去のバブル崩壊の歴史を繰り返さなければ良いがと願われるところであろう。一方、楽天グループの10年後を見通すのは、決して容易でない。グループの主力であるECビジネスの先行きが不透明であるし、銀行・保険といった金融セクターへの進出も決して将来性が高いとは言い難い。インターネット利用ビジネスの発展可能性次第の要素も濃いと思われるが、足元は携帯電話ビジネスの設備投資負担が大きくなっている。携帯電話ビジネスは、新規ユーザーの獲得に成功したものの、2年目以降の顧客定着が必ずしも確実視できない。もっとも競争の激しい業界の一つであるために、そこにベットしていることで大きなリスクが存在していることを忘れてはならないだろう。