国内起債市場を斬る 起債評価:4/18~4/22

この週の起債では、電力関連のものが再び中心になったかのように見える。大林組のサステナビリティリンクボンドや、日本高速道路保有・債務返済機構のソーシャルボンドといったSDGs債も相次いでいるが、既に新鮮味を失いつつある。唯一目新しいSDGs債としては、大阪大学がサステナビリティボンドを募集している。国立大学法人による公募債券としては東京大学に次ぐものであり、40年という超長期年限であった。実質的に暗黙の政府保証の存在が期待できることもあって、格付けは国債と同符号であり、特に文部科学省系や学校関係の投資家にはアピールしたものと考えられる。超長期年限の利回りが上昇し、国債利回りで30年国債で1%を超える水準となっていることから、大阪大学40年債も1.169%と高いクーポンが付されている。希少価値のある銘柄と考えた投資家も少なくないだろう。

電力関連の起債が相次いだと言っても、いわゆる電気事業法に基づく典型的な電力債ではないのが味噌であろう。東京電力パワーグリッド債は、一般担保付を付すことが認められており、まだ電力債に近い債券である。5年債900億円・10年債800億円・15年債300億円と計2,000億円の大型起債となった。15年債に付された1.1%クーポンは、大阪大学の40年債とほぼ同水準であるが、年限の差と信用力の差について判断を悩む投資家も少なくないだろう。東京電力パワーグリッドについては、福島第一原子力発電所の事故処理を見ても、国もしくは他の電力各社による支援の発動を期待してしまうが、それが必ずしも法的な枠組みに基づくものではないことで、投資判断が大きく分かれる。それでも、10年債の0.94%クーポンは魅力的な水準だったのではなかろうか。

一方、東京電力と中部電力の火力発電機能を統合して設立されたJERAは、日本国内の発電力の3割を担う会社であり、海外展開や再生可能エネルギーの活用によってゼロエミッションを目指している。トランジションボンドの起債観測が上がっていたものの、今回は3年の普通社債を募集している。格付けは東京電力パワーグリッドよりも高いが、今回の社債は3年債として、0.2%クーポンを選択している。国債利回りの上昇が長期から超長期に限られ、3年といった年限でほぼ変動していない中では、積極的に投資した投資家もいたのではなかろうか。

最後に、新顔で社債募集したイーレックスは、東証プライム市場に上場する電気事業会社であり、バイオマス発電を行うとともに、法人及び個人向けに電力小売にも従事している。同社の創業は1999年、現セントラル短資である日本短資が、電力取引事業への参画を構想したことが背景にあり、創業時より排出権取引や、グリーン電力への関心は高く、そのことが現在の再エネ発電事業につながっている。募集したのは5年債50億円と小額であり、0.59%クーポンを付している。取得した格付けはJCRのA-格と、JERAより3ノッチも低い水準であり、東京電力パワーグリッドよりも1ノッチ低い。東京電力パワーグリッドの5年債より低いクーポンなのは、希少性ということか。社歴は20年を超えており、破綻や新契約停止などの相次いでいる新電力各社とは別物であるが、投資を躊躇した投資家も少なくないだろう。50億円というほぼ最小募集金額の社債とせざるを得なかったのもやむを得ない状況だったのではないか。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/11~4/15

例年であれば、期初の起債市場で電力債の次に来るのはノンバンクや銀行の社債というのが定番であったと思うが、最近の市場を象徴するように、今年度は、『お次はSDGs債』という順番となった。地方公共団体金融機構の10年債・20年債・30年債といった公共セクターの債券も募集されているが、条件決定された社債等計3,400億円のうちSDGs債が2,700億円とほとんどを占めているのが実態である。

機関投資家向けにソーシャルボンドを募集したのは、富士フィルムホールディングスである。3年債400億円・5年債400億円・7年債200億円・10年債200億円と、報道されていた予定通りの計1,200億円を募集している。取得した格付けはR&IのAA格とムーディーズのA2格であり、いずれも、日本国債の1ノッチ下の紛れもない高格付けである。付された回号が第16回から第19回であることからもわかるように、決して頻繁な社債の発行体ではない。5年債以上は国債対比のスプレッドプライシングで行われ、+14~+17bpsの水準で募集されている。ソーシャルボンドによる調達資金は、『当社連結子会社を通じて行った、バイオ医薬品製造会社であるBIOGEN (DENMARK) MANUFACTURING ApS(現 連結子会社 FUJIFILM Diosynth Biotechnologies Denmark ApS)の株式取得及び同社の製造設備の増強に係る設備投資に要したリファイナンス資金に充当する』とされている。つまり、買収対象がソーシャルボンド適格な事業を行っているものの、単純に言ってしまえば、M&Aとそれに伴う設備投資 のための資金調達・借換えである。

同様に、機関投資家向けのソーシャルボンドを募集したのが東日本高速道路である。2年債400億円・5年債500億円・10年債200億円の計1,100億円を募集している。すべての年限で国債対比のスプレッドプライシングが行われ、+10bps前後で決定している。日本高速道路保有・債務返済機構の併存的債務引受条項が付されており、取得した格付けは日本国債と同符号のAA+(R&I)格・AAA(JCR)格・A1(ムーディーズ)格である。資金使途は『高速道路の新設、改築、修繕又は災害復旧に要する資金』となっており、いわば本来業務である。結局のところ、この週のソーシャルボンドは2社とも、ほぼ本業のコアに関する資金調達であり、殊更にソーシャルボンドとしなくても良いような案件であった。このように、最後にSDGs債として残って行くのは、奇をてらった特殊な債券ではなく、こういった本業にしっかりと結びついた起債だけになるのかもしれない。

最後に、イオンモールは個人投資家向けの5年債400億円の条件を決定している。100万円単位で購入が可能であり、『ハピネスモール債』と称するサステナビリティリンクボンドである。SPTとしては、『2025年度末に国内の全イオンモールで使用する電力をCO2フリー化すること』としており、未達成の場合には、『発行額の0.2%相当額』をイオン環境財団等の適切な団体に寄付する予定とする。5年債で0.49%クーポンの水準はA-(R&I)格の信用力から大きな違和感はなく、比較的身近な発行体であって、個人投資家の資金を集め易いものと想像できる。もっとも、少子高齢化が進んで行く中で、地方物件の収益性低下と、温室ガス抑制のための設備更新努力が見合うかどうかには、懸念が残る。

なお、これらの公募普通社債等以外に、フィリピン共和国の円建てサステナビリティボンド4本立て計701億円や、オリックスのユーロ建てグリーンボンドなどの起債も行われており、今後の起債観測を見ても、新年度もますますSDGs債の募集が相次ぎそうである。

国内起債市場を斬る 起債評価:4/4~4/8

期初は電力債から、というのが例年のパターンである。起債時期で、それに競合できる業態としては、ノンバンクや銀行であり、辛うじて公共債が同時期に債券を募集出来るかといったくらいだろうか。2022年度の起債市場も、予想を裏切らない形ではじまっている。

この1週間で募集された中では、電力債が圧倒的な存在感を持って見える。それ以外の社債等では、日本政策投資銀行が3年債400億円・5年債400億円・10年債300億円・40年債100億円の計1,200億円という大型の募集を行った他、JR東日本も5年債100億円・20年債150億円・50年債200億円と、金額は大きくないが年限の幅として広い社債募集を行っている。これらについては、物価上昇を受けた金利の上昇によって国債対比のスプレッドプライシングが復活しており、3年債や5年債といった年限でも国債対比が機能するようになったことを評価して良いだろう。とにかく、利回りがマイナスであるというのは、通常の状態ではない。異常が長続きすればそれが常態になるとも言われるが、マイナス金利は、あくまでも日銀が人為的に作り出したものであり、巨額の国債買入れを停止し、目標金利の水準を変更したり撤廃すると、金利水準は自然に本来の姿へと戻って行く。特に、日本政策投資銀行はS&P以外の主要格付け会社から日本国債と同符号の格付けを取得しており、3年債のクーポンを国債対比+5bpsの0.031%と設定できたことは、起債市場が正常化に向かっている動きとして評価できるだろう。

電力債の起債は週を通して多く目立った。羅列するだけでも、四国電力の10年債及び30年債、中国電力の10年債及び20年債、東北電力の3年債・5年債・10年債、九州電力の5年債・10年債・30年債、中部電力の3年債及び10年債、関西電力の5年債及び10年債、北陸電力の10年債、北海道電力の3年債と、東京電力関連と沖縄電力以外はことごとく電力債を募集しており、総額は3,900億円にも上る。年限のバリエーションも大きく、中期から超長期まで投資家の多様なニーズに応えることが出来ている。電力会社に関しては、エネルギー価格の高騰によって収益力の低下が懸念されている。総括原価主義の下でも、国民生活や産業発展に大きな影響が予想されるため、電力価格への転嫁がタイムラグを伴い、簡単には進まないと思われる。そのため、収益性の悪化が顕著になる前に、率先して起債する動きになったものだろう。電力供給はこれから夏場にかけての危惧も囁かれており、小口の電力会社の業務停止や破綻も散見され始めているため、年度早々に資金調達を急いだものと考えられる。引続き、いずれも格付け対比ではやや甘めのスプレッドが付されており、一般担保付きの電力債を購入可能と考える投資家には、4月頭から利回りを稼ぐ絶好のチャンスを提供している。

なお、関西電力の5年債及び10年債はグリーンボンドとしての認定を得ており、起債観測の上がっている関連した後続案件としては、JERAのトランジションボンドや東北電力のグリーンボンドなどがあり、ESG関連債券の潮流は電力会社にも押し寄せているようである。理屈の上では、未だにLNGや石炭火力への依存が強い(特に、JERAはほとんどが火力発電)ため、特定プロジェクトに紐付けしたグリーンボンドよりも、トランジションボンドを選択した方が、一般担保の特性から考えると適切であろう。

国内起債市場を斬る 年度初特別号:2021年度の起債を振り返る③

3月末に情報ベンダーのリフィニティブの1部門であるディールウォッチは、2021年度のアワードを発表している。株式と債券の両方にわたる広範囲を対象とするアワードであるが、字幅の関係から、社債に関係する表彰の一部のみを取り出してコメントしておきたい。

まず、Bond Issuer of the Yearは楽天グループが受賞した。11月に募集した3年債から15年債まで6回号に及ぶ総額3,000億円の起債を評価したものである。リリースに記載されたコメントを補足すると、『他の銘柄よりも高い利率で起債して大型調達が必要な発行体にモデルを示した』とある。確かに、10年債以上の年限ではクーポンは1%を超えており、利回りの絶対水準だけを見れば投資家は興味を示すだろう。しかし、ネット上のプラットフォームを提供し、小売から金融、更には通信事業にまで手を伸ばす同社について超長期の見通しを確信するのは難しい。少なくとも巨額の設備投資を行って参入した楽天モバイルの携帯電話事業は、現状で成功しているとは言い難い。多くのTVCM露出と、初年度一定期間の料金無料で顧客数を確保して来たが、auとのローミングを縮小した結果、繋がりにくいという評価が定着しており、今後、無料期間が順次終了することで契約数を維持できるかどうかは微妙と思われる。業態特性を考えると、超長期年限を含めて、高い利回りを払って3,000億円を調達したのは立派と言えるが、前回触れたJR各社の起債と比べると信用力の安定性は乏しいだろう。

次に、Bond of the Yearを受賞したのは、3月頭に募集された関西電力の劣後債であった。募集された時にもコメントしたが、電力会社の劣後債は事業会社の劣後債とは大きく性質が異なる。事業会社の劣後債の回収順位は、無担保融資>無担保社債>劣後債となるが、日本の公募社債のデフォルト時の弁済率は平均すると十%台であり、劣後債にまで残余財産が回ってくる可能性は極めて低い。一方、電力会社の場合には、一般担保付債>無担保融資>劣後債の順位であり、全財産にまで請求権の及ぶ一般担保付社債の存在が圧倒的な壁となる。しかも、金融機関等からの融資残高は膨大に存在し、劣後債に期待できる弁済率は間違いなく0%である。この起債においては、5年後、7年後、10年後に早期償還可能となる60年債とされているが、早期償還されるかどうかは、今後のエネルギー価格や原子力発電の再稼働状況に左右されることが必至である。ロシアによるウクライナ侵攻によってエネルギー価格はおろか、原子力発電所問題がクローズアップされかねない時点で、電力会社の劣後債を募集するのはいかがなものだったろうか。募集した発行体にしても、購入した投資家にしても、狂気すら感じさせるものである。

Debut Debt Deal of the Yearは6月に募集されたGMOインターネットの2本立てが受賞した。リリースのコメントを引用すると、『国内 SB 市場の発行体では伝統的な大企業が主流となる中で、ネット企業の草分け的な存在が市場に登場。明確な比較銘柄が存在しないことから独自の水準を打ち出した起債運営は、後続となるネット企業の手本を示した。』とある。確かに、此れほど胡散臭さを拭えないネット企業の社債には、投資家も積極的にはなれないだろう。R&IのBBB+格を取得しており、日本銀行の社債買入れ対象候補となるからこそ起債が可能だったのではないか。そういう意味では、Debut Dealを支援したのは日本銀行であり、表彰されるべきは日本銀行であろう。

Innovative Debt Deal of the Yearを受賞したのは、同じく6月に募集されたANAホールディグスの第42回サステナビリティリンクボンドであった。『環境目標が未達の場合、寄付をするという世界初のスキームを導入』し、過去のサステナビリティボンドが採用したようなクーポンのステップアップを排することで仕組み債としての性質を打ち消したことが評価されている。しかし、何にせよ、フライトシェイムと呼ばれるほどジェット燃料を燃やして大量の二酸化炭素を排出する空運会社は、ESGの嵐が吹き荒れる欧州では毛嫌いされている。トランジションボンドのように直接的な自社グループの努力を評価するのならともかく、サステナビリティ・パフォーナンス・ターゲットとして設定されたのは、「①DJSI WorldおよびDJSI Asia Pacificの構成銘柄に選定、②FTSE4Good Indexの構成銘柄に選定、③MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数の構成銘柄に選定、④CDP 「A-」以上の評価取得」のうち3項目以上の達成という外部評価機関による間接的な評価のみであって、他人任せとしか見えない。結果として、投資家にも理解され難い基準設定になっているのではないか。

以上、アワード取得の一部を抽出して紹介したが、発行体の観点と、投資家の観点、また、市場育成の観点では、評価される内容は異なる。少なくとも、これらの取組みが市場の拡大や発展に繋がってくれるものである事を祈りたい。