国内起債市場を斬る 年度初特別号:2021年度の起債を振り返る③

3月末に情報ベンダーのリフィニティブの1部門であるディールウォッチは、2021年度のアワードを発表している。株式と債券の両方にわたる広範囲を対象とするアワードであるが、字幅の関係から、社債に関係する表彰の一部のみを取り出してコメントしておきたい。

まず、Bond Issuer of the Yearは楽天グループが受賞した。11月に募集した3年債から15年債まで6回号に及ぶ総額3,000億円の起債を評価したものである。リリースに記載されたコメントを補足すると、『他の銘柄よりも高い利率で起債して大型調達が必要な発行体にモデルを示した』とある。確かに、10年債以上の年限ではクーポンは1%を超えており、利回りの絶対水準だけを見れば投資家は興味を示すだろう。しかし、ネット上のプラットフォームを提供し、小売から金融、更には通信事業にまで手を伸ばす同社について超長期の見通しを確信するのは難しい。少なくとも巨額の設備投資を行って参入した楽天モバイルの携帯電話事業は、現状で成功しているとは言い難い。多くのTVCM露出と、初年度一定期間の料金無料で顧客数を確保して来たが、auとのローミングを縮小した結果、繋がりにくいという評価が定着しており、今後、無料期間が順次終了することで契約数を維持できるかどうかは微妙と思われる。業態特性を考えると、超長期年限を含めて、高い利回りを払って3,000億円を調達したのは立派と言えるが、前回触れたJR各社の起債と比べると信用力の安定性は乏しいだろう。

次に、Bond of the Yearを受賞したのは、3月頭に募集された関西電力の劣後債であった。募集された時にもコメントしたが、電力会社の劣後債は事業会社の劣後債とは大きく性質が異なる。事業会社の劣後債の回収順位は、無担保融資>無担保社債>劣後債となるが、日本の公募社債のデフォルト時の弁済率は平均すると十%台であり、劣後債にまで残余財産が回ってくる可能性は極めて低い。一方、電力会社の場合には、一般担保付債>無担保融資>劣後債の順位であり、全財産にまで請求権の及ぶ一般担保付社債の存在が圧倒的な壁となる。しかも、金融機関等からの融資残高は膨大に存在し、劣後債に期待できる弁済率は間違いなく0%である。この起債においては、5年後、7年後、10年後に早期償還可能となる60年債とされているが、早期償還されるかどうかは、今後のエネルギー価格や原子力発電の再稼働状況に左右されることが必至である。ロシアによるウクライナ侵攻によってエネルギー価格はおろか、原子力発電所問題がクローズアップされかねない時点で、電力会社の劣後債を募集するのはいかがなものだったろうか。募集した発行体にしても、購入した投資家にしても、狂気すら感じさせるものである。

Debut Debt Deal of the Yearは6月に募集されたGMOインターネットの2本立てが受賞した。リリースのコメントを引用すると、『国内 SB 市場の発行体では伝統的な大企業が主流となる中で、ネット企業の草分け的な存在が市場に登場。明確な比較銘柄が存在しないことから独自の水準を打ち出した起債運営は、後続となるネット企業の手本を示した。』とある。確かに、此れほど胡散臭さを拭えないネット企業の社債には、投資家も積極的にはなれないだろう。R&IのBBB+格を取得しており、日本銀行の社債買入れ対象候補となるからこそ起債が可能だったのではないか。そういう意味では、Debut Dealを支援したのは日本銀行であり、表彰されるべきは日本銀行であろう。

Innovative Debt Deal of the Yearを受賞したのは、同じく6月に募集されたANAホールディグスの第42回サステナビリティリンクボンドであった。『環境目標が未達の場合、寄付をするという世界初のスキームを導入』し、過去のサステナビリティボンドが採用したようなクーポンのステップアップを排することで仕組み債としての性質を打ち消したことが評価されている。しかし、何にせよ、フライトシェイムと呼ばれるほどジェット燃料を燃やして大量の二酸化炭素を排出する空運会社は、ESGの嵐が吹き荒れる欧州では毛嫌いされている。トランジションボンドのように直接的な自社グループの努力を評価するのならともかく、サステナビリティ・パフォーナンス・ターゲットとして設定されたのは、「①DJSI WorldおよびDJSI Asia Pacificの構成銘柄に選定、②FTSE4Good Indexの構成銘柄に選定、③MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数の構成銘柄に選定、④CDP 「A-」以上の評価取得」のうち3項目以上の達成という外部評価機関による間接的な評価のみであって、他人任せとしか見えない。結果として、投資家にも理解され難い基準設定になっているのではないか。

以上、アワード取得の一部を抽出して紹介したが、発行体の観点と、投資家の観点、また、市場育成の観点では、評価される内容は異なる。少なくとも、これらの取組みが市場の拡大や発展に繋がってくれるものである事を祈りたい。