国内起債市場を斬る 起債評価:4/4~4/8

期初は電力債から、というのが例年のパターンである。起債時期で、それに競合できる業態としては、ノンバンクや銀行であり、辛うじて公共債が同時期に債券を募集出来るかといったくらいだろうか。2022年度の起債市場も、予想を裏切らない形ではじまっている。

この1週間で募集された中では、電力債が圧倒的な存在感を持って見える。それ以外の社債等では、日本政策投資銀行が3年債400億円・5年債400億円・10年債300億円・40年債100億円の計1,200億円という大型の募集を行った他、JR東日本も5年債100億円・20年債150億円・50年債200億円と、金額は大きくないが年限の幅として広い社債募集を行っている。これらについては、物価上昇を受けた金利の上昇によって国債対比のスプレッドプライシングが復活しており、3年債や5年債といった年限でも国債対比が機能するようになったことを評価して良いだろう。とにかく、利回りがマイナスであるというのは、通常の状態ではない。異常が長続きすればそれが常態になるとも言われるが、マイナス金利は、あくまでも日銀が人為的に作り出したものであり、巨額の国債買入れを停止し、目標金利の水準を変更したり撤廃すると、金利水準は自然に本来の姿へと戻って行く。特に、日本政策投資銀行はS&P以外の主要格付け会社から日本国債と同符号の格付けを取得しており、3年債のクーポンを国債対比+5bpsの0.031%と設定できたことは、起債市場が正常化に向かっている動きとして評価できるだろう。

電力債の起債は週を通して多く目立った。羅列するだけでも、四国電力の10年債及び30年債、中国電力の10年債及び20年債、東北電力の3年債・5年債・10年債、九州電力の5年債・10年債・30年債、中部電力の3年債及び10年債、関西電力の5年債及び10年債、北陸電力の10年債、北海道電力の3年債と、東京電力関連と沖縄電力以外はことごとく電力債を募集しており、総額は3,900億円にも上る。年限のバリエーションも大きく、中期から超長期まで投資家の多様なニーズに応えることが出来ている。電力会社に関しては、エネルギー価格の高騰によって収益力の低下が懸念されている。総括原価主義の下でも、国民生活や産業発展に大きな影響が予想されるため、電力価格への転嫁がタイムラグを伴い、簡単には進まないと思われる。そのため、収益性の悪化が顕著になる前に、率先して起債する動きになったものだろう。電力供給はこれから夏場にかけての危惧も囁かれており、小口の電力会社の業務停止や破綻も散見され始めているため、年度早々に資金調達を急いだものと考えられる。引続き、いずれも格付け対比ではやや甘めのスプレッドが付されており、一般担保付きの電力債を購入可能と考える投資家には、4月頭から利回りを稼ぐ絶好のチャンスを提供している。

なお、関西電力の5年債及び10年債はグリーンボンドとしての認定を得ており、起債観測の上がっている関連した後続案件としては、JERAのトランジションボンドや東北電力のグリーンボンドなどがあり、ESG関連債券の潮流は電力会社にも押し寄せているようである。理屈の上では、未だにLNGや石炭火力への依存が強い(特に、JERAはほとんどが火力発電)ため、特定プロジェクトに紐付けしたグリーンボンドよりも、トランジションボンドを選択した方が、一般担保の特性から考えると適切であろう。