国内起債市場を斬る 起債評価:5/9~5/13

GWが終わっても、3月期決算企業の決算発表シーズンという市場の動きが鈍くなる要因は解消されていない。そのため、引続き起債市場での社債等を募集する動きは少ない。間もなく到来すると思われる社債等の募集が盛んになるシーズンを控えて、発行体との調整準備に勤しんでいるのであろう。こういった状態の期間に社債等の募集に動くのは、公的セクターや電力会社というのが例年のパターンである。実際に、この週に社債等を募集したのは、まず、地方公共団体金融機構の定例であり、10年債300億円のみが募集された。次に、住宅金融支援機構は、15年債100億円・20年債100億円・30年債300億円の計500億円の財投機関債を募集している。30年債だと国債対比+10bpsのスプレッドでも、クーポンが1%を越える水準となっており、公共セクターの安定を好む投資家の需要を集めている。他の年限と比べて、募集金額が圧倒的に大きく目立っている。

東日本高速道路の社債も、準財投機関債と言える公共セクターの起債と言える。今回募集したのは、2年債400億円および5年債800億円の計1,200億円と大きな金額になった。2年債のクーポンが0.08%で5年債のクーポンが0.105%と、昨今の金融情勢を反映して一頃より高い利回り水準になっている。発行体側から見れば調達コストの上昇ということになるが、投資家から見れば期待収益の増加であるから、好ましい状況と言っても差支えないだろう。発行体側も国債の流通利回りが上昇しているのであれば、組織内部的にも説明が付くと考えられる。この利回りの上昇は、市場の拡大や安定には好ましいものと考えて良いだろう。日銀による金利の押下げとスプレッド圧縮が長期にわたったことの反動が、これから生じてくる可能性が高い。極端に低利の社債等が売れなくなる懸念を持っておくべきであろう。

中国電力が募集したのは、12年債と20年債各100億円である。12年債が0.67%クーポンで20年債が0.97%クーポンで募集された。20年債については、4月頭に同社が募集した際のクーポンが0.9%であり、超長期金利の変動幅が大きくなっていることを考えると、やや利回り水準に物足りなさがあろう。100億円の起債であったからこそ消化可能となったと見るべきである。

これらの起債の他、丸井グループが1年債1億3000万円を自己募集している。特徴としては、先行したSBI証券などと同様にセキュリティトークンを利用していることである。最低投資単位は1万円で、社債管理者も設置されているが、個人投資家保護の観点からIT技術に全幅の信頼を寄せるのは躊躇されるかもしれない。特に、1%クーポンと極めて高水準の利回り設定になっているがものの、源泉徴収等控除後の利息の7割を同社のエポスポイントで付与する仕組みには、やや疑念を覚える。エポスポイントは確かに1ポイント=1円の換算が可能になる仕組みであるが、運営主の恣意性が介入する余地はある。例えば、セールスイベントなどの際に、エポスポイントの付与率アップとかが行われていることを考えると、1%クーポンという公表を過大表示と考える余地があるのではなかろうか。ポイントの換金性を停止されたり交換比率が変更されたりした途端、1%の高いクーポンは画餅に帰する。個人投資家向けの社債募集であり、適正なポイント運営が行われることについて何らかの担保が必要であろう。ブロックチェーンを活用したデジタル社債といった新奇な面にのみ目を向けず、しっかりと債券としての中身を考えたい。