国内起債市場を斬る 起債評価:5/16~5/20

漸く3月期決算企業の決算発表シーズンが終わり、社債等の募集に至る案件が増えて来た。しかし、中身を見ると、シーズン当初に動く事の多い電力関連債券に加え、SDGs債がほとんどである。実は、SDGs債という呼称も日本証券業協会が提唱しているものの、必ずしも海外で一般的な表現ではない。一方で、ESG債といった表現を使われることもあるが、Environment・Social・Governanceという三要素を中心に据えたESGという概念は必ずしも、現在の起債市場の実勢にそぐわないものである。少なくともガバナンス債という概念は成立しない可能性が高い。ICMAの策定した原則等で定義されているのは、グリーンボンド、ソーシャルボンド、サステナビリティリンクボンドの三種であり、別途、サステナビリティボンドのガイドラインが設けられている。海外では、グリーンボンド等の頭文字を取って、GSS債といった表現も用いられているようだが、少し実務における定着等の様子を見てみたい。将来的にSDGs債やGSS債といった表現について変更する可能性があることは留意されたい。

この週で目立ったのは、まず、電力関連のトランジションボンドである。主に化石燃料を燃焼して発電している従来型の電力会社にとっては、特定の再生可能エネルギー等による発電プロジェクトを抜き出してグリーンボンドの認証を得ることも不可能ではないが、トランジションボンドを打ち出すことがより適切であろう。世の中の流れもあって、電力各社が温室効果ガスの排出抑制と再生可能エネルギーの活用に向かっている中では、トランジションの評価を受けることが妥当であろうし、やや無理筋のプロジェクト単位でグリーンボンド認定を取得することに対しては、グリーンウォッシュの誹り(そしり)も免れない可能性がある。具体的な起債としては、九州電力の5年債及び10年債がトランジションボンドとされ、また、JERAの5年債及び10年債も同様である。後者については、東京電力と中部電力の火力発電事業を統合した経緯もあって、トランジョションボンドとしての取組みにこそGSS債募集の活路があるように思われる。なお、北陸電力の二本立て、関西電力の三本立て、電源開発の二本立ては通常の電力債もしくは社債として募集されており、中部電力の二本立ては5年債が通常の電力債で、10年債のみがグリーンボンドとしての認定を得ている。

その他に、グリーンボンドとしての認定を得たのが住友商事の10年債とJR東海の35年債であり、日本学生支援機構の2年債はソーシャルボンドとなっている。また、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の5年債と10年債の二本立てはサステナビリティボンドである。結局のところ、GSSのいずれかに該当するような可能性のある発行体なら、GSS債のラベルを得て投資家にアピールできることもあって、有効活用出来る可能性が高い。認証に要するコストも必要となるが、社債等の売れ行きにプラスとなるかどうか需要調査の段階で検討する価値はあろう。ESG投資を掲げる投資家は少なくなく、GSSのラベルが付いた起債を購入することのメリットは投資家側にもあるし、結果的に、取扱う証券会社をも利することになる。ラベルの認証機関も手数料収入で潤い、メディア受けも良いというのであれば、誰にとっても失うもののないWin-Winの関係となるのだが、果たして欠落している視点はないのだろうか。より、現実に沿った検証が必要である。