国内起債市場を斬る 起債評価:5/30~6/3

漸く、起債市場はエンジン全開に入った。目立つキーワードは、相変わらず、超長期、SDGs債という二つであるが、それらに含まれるものがあるものの、メーカーの起債が相次いだというのは、一つのピークであり、市場の盛り上がりを端的に示す兆候でもある。メーカーが発行条件を決定した社債は、横浜ゴムの7年債及び10年債計300億円、IHIの5年債及び10年債計200億円、キリンホールディングスの5年債200億円、サントリーホールディングスの3年債・5年債・10年債の計850億円、三菱ケミカルホールディングスの10年債170億円、エア・ウォーターの5年債100億円、JFEホールディングスの5年債及び10年債計300億円と、総計で2,120億円にも上っている。業種もゴム、食品、機械、化学、鉄鋼と幅が広い。

超長期債は、利回りが金利上昇の影響を強く受けており、民間企業による当該年限の社債発行は減っているように見えるが、公益企業や公共セクターといった安定基盤を有する発行体にとっては、まだまだ魅力的な水準なのかもしれない。低金利に慣れた投資家から見ても、現在の金利水準は、金利が上昇傾向を継続すると考えなければ、一頃よりも改善された利回りを享受することが可能である。全力で買い進むのでなければ、購入チャンスが継続していると考えていることだろう。中国電力16年債の0.85%クーポンは微妙な年限と利回り水準だったかもしれないが、四国電力の20年債に付された1%クーポンは数字が象徴する意味も大きい。一方で、都市再生機構のように、40年債が1.269%クーポンで50年債が1.435%クーポンと言われてしまうと、やや利回り水準の評価が難しく見えるかもしれない。果たして、それだけ先の将来の金利水準がどうなっているか、少なくとも現在の投資担当者は、債券の償還時にその部署どころか、その機関投資家で定年を迎えているだろう。何れにせよ、5年債以上では国債対比のスプレッドプライシングが復活している例も多くなっており、新たな目線の構築が必要になっている。

SDGs債の中では、ややトランジションボンドの募集が目立つようになっている。必ずしも環境に優しいとは思えない業態の企業が、環境改善に取り組む方向へ努力するプロジェクトに向けたファイナンス目的である。趣旨としては、ノンバンクが再生エネルギー関連融資に当てるといったグリーンボンドより、余程、筋は良さそうに思える。IHIは5年債と10年債の両方がトランジションボンドで、JFEホールディングスも5年債と10年債の両方がトランジションボンドとされた。トランジションボンド以外には、日本取引所グループの1年債はセキュリティトークンを活用したグリーンデジタルトラックボンド、長瀬産業の10年債はサステナビリティリンクボンド、エア・ウォーターの5年債はサステナビリティボンドと多様な募集があり、ソーシャルボンドもなかなかの流行のようで、キリンホールディングスの5年債、クレディセゾンの機関投資家向け5年債、都市再生機構の超長期債両方と目立っている。こうしたラベルを有した社債等は、投資家にとっても実利に限られない投資メリットがあり、ますますSDGs債市場の賑わいは続きそうである。