国内起債市場を斬る 起債評価:7/18~7/22

起債市場での動きが盛り上がらなかったのは、月曜日が海の日で三連休となったこともあり、週後半に開催された日銀の金融政策決定会合で変わった動きが出ないか見守っていたためもある。更には、新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が激増し在宅勤務の再拡大等で労働環境に影響が出たためもあるのだろうか。株主総会シーズンを越えた直後の7月中旬に見られた起債ラッシュを過ぎると、市場に夏休みムードが台頭するためというのが真相かもしれない。本格的に暑い夏を迎えると、あくせく働くよりも、少し活動をセーブしたくなるのが人情なのであろう。

公募社債等で目立ったのは、本数で見ると、地方公共団体金融機構のFLIPS債である。主に各四半期の最初の月に、定例の起債年限と重ならない年限で募集するという方針の通りに募集されており、6本の債券が8年から19年の範囲で分散して募集されている。10年や20年は定期的に公募債の他、地方公務員共済向けに縁故債を発行しているため、民間企業の公募普通社債では、ほとんど見ることのないレアな年限で募集される。発行年限の分散という意味では、これほど分散している発行体の例は、国も含めて他にない。もっとも、10年債を10年間毎年募集すれば10年に渡る償還年限の分散になることもあり、国や地方公共団体の起債年限に対する考えは、こちらの方が近いだろう。

民間による公募普通社債の募集は、ダイキン工業による7年債と10年債の2本立て計400億円のみである。一般消費者に馴染みがある製品はエアコンくらいであるが、総合的な空調産業であり、夏の社債募集は時宜に適っているだろう。当初の起債観測が両年限とも150億円程度とされていたことを考えると、やや増額されての募集であり、電力債などの減額が目立った今月前半とはやや趣が異なるかもしれない。必ずしも起債頻度が多くないこともあり、また、格付けがR&IのAA-格及びJCRのAA格と高水準であり、また、ムーディーズのA2格も取得していることをプラス材料として評価して良いだろう。金利水準が上昇したといっても、日本銀行のコントロール下にある10年までは大したことなく、国債対比+30bpsでプライシングされた10年債のクーポンですら0.544%にしかならない。金融政策が見直されない限り、10年以内の債券で高い利回りを得るには、信用リスクを取るしかない状況が続いている。

FRBに続いてECBも利上げに動いている中で、金利上昇が著しくなる前に、海外での外貨調達に向かう企業も少なくない。この週の一つの例を挙げると、NTTファイナンスが米ドル建てでグリーンボンドを募集している。2年債・3年債・5年債を5億ドルずつ募集しており、136円で換算すると、合計で2,040億円に相当する。日本国内の公募債だと、大規模とされる調達額である。米国国債対比のスプレッドは+90~120bpsであり、日本国内で同社が発行する公募普通社債のスプレッドとは大きな格差がある。ちなみに、今回の起債で取得したNTTファイナンスの格付けは、ムーディズのA1格とS&PのA格である。国内格付会社による発行体格付けは、R&IのAA+格及びJCRのAAA格と日本国債と同符号であり、もし日本国債を海外市場において米ドル建てで募集したら、どういうプライシングになるのだろうか想像してみるのも面白い。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/11~7/15

7月中旬になっても、起債ラッシュと言い切れるほどの盛り上りはない。前週にも触れたように、一部の起債案件では、予定していた金額よりも募集額を落として案件を成立させたり、日銀のイールドカーブコントロールの対象外にあって金利上昇傾向の強い超長期年限での起債を諦め、中短期債にシフトしたりといった動きが散見される。また、募集された社債等の顔触れを見ても、公的とSDGs債ばかりが目立ったというところである。

公的セクターでは、地方公共団体金融機構が定例の10年債と20年債とを募集している。10年債は毎月募集であるが、20年債は募集されない月もある。個別の地方公共団体よりも信用力の高いイメージの発行体であるが、基本的な構造を考えると、政府保証がない以上、最高位の地方債と同程度と考えるべきだろう。東京都債や共同発行債といったあたりの目線で考えるのが良いだろう。その他にも、東京地下鉄が20年債・30年債・40年債と超長期セクターばかりで募集している。超長期年限の国債金利上昇を受けて、地方公共団体金融機構の20年債だとクーポンは1%割れだが、東京地下鉄だと20年債で1%を越え、30年債で1.5%、40年債で1.67%クーポンとなっている。一方、日本高速道路保有・債務返済機構は4年債と19年債という、少し変わった年限の起債で、いずれもソーシャルボンドである。また、国際協力機構も10年債と20年債を募集しており、ピースビルディングボンドと称しているが、募集文書にあるように、これもソーシャルボンドに含まれるものである。20年債のクーポンは0.91%と1%を下回る。同様にソーシャルボンドを募集したのが、東日本高速道路で5年債・7年債・10年債で、当初より少し減額したものの計990億円を積み上げている。

圧倒的に公的セクターの起債が目立ち、その中でもSDGs債が多く募集されているが、民間セクターでも、SDGs債は負けていない。募集されたのは、三菱地所のサステナビリティリンクボンドのみであるが、5年債・10年債・30年債各200億円の計600億円であり、中でも、30年債というのはサステナビリティリンクボンドとしては最長の年限である。それもそのはずで、30年後についても、募集時に設定した環境等に関するSPTs(サステナビリティ・パフォーマンスターゲット)が将来においても妥当であるかどうか確証を持つことが容易でないのである。今回の起債に付されたSPTsの中で、30年債に適用されるのは、”2050年にネットゼロ達成”と”2050年度に女性管理職比率40%を達成”の二つである。後者については、容易に達成の判断が可能であり、おそらく30年後にも違和感はない水準と期待できるが、果たして前者のネットゼロ達成が30年後に十分な目標設定であるかは不明である。温室ガスの抑制をより強く求められることになるならば、甘い目標設定であったと認識される可能性がある。SPTs未達成の場合は、寄付やボランタリー・クレジット等を購入することになっており、超長期にビル経営を実行している発行体に相応しいと見る投資家も少なくないだろうが、サステナビリティリンクボンドを短期的なブームに終わらせないためには、目標や年限、未達成時の対応等の設定については、シビアに見ておくべきだろう。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/4~7/8

ようやく株主総会明けの起債市場で、社債等を募集する動きが活発になって来た。それでも、最初に動く業態は、いつもと変り映えしない。まずは、電力関連である。JERAは6年債101億円と25年債103億円という、年限も金額もちょっと変わった社債を募集した。これが呼び水になったものの、その後の電力関連の起債は、やや苦戦した状況となった。九州電力は3年債70億円・6年債150億円・18年債81億円と、これも珍しい年限の組み合わせと金額である。電源開発の3年債は、募集金額が239億円と完全な端数での発行である。その後も、北陸電力は3年債200億円と10年債100億円の募集を目指していたとされるが、最終的には3年債166億円と10年債73億円に募集額を絞っている。エネルギー価格の上昇と夏場の電力不足に対する懸念もあって、電力関連に対する警戒感が高まっているのである。その後に募集された中国電力の3年債も、146億円に募集額を絞っているなど、電力債に関する市場の変調が懸念されるところである。金曜日に募集された関西電力債は、3年債200億円と20年債70億円とまとまった金額になったが、中部電力の20年債は92億円と100億円に満たず、北海道電力の10年グリーンボンドも50億円のみであった。

もう一つの早期に動く業種としては、鉄道を挙げることができる。東日本旅客鉄道は3年債150億円・30年債100億円・50年債200億円と、年限を絞っての募集となっている。短期と超長期との極端に年限が分散している。しかし、3年債のクーポンが0.24%であるのに対し、50年債のクーポンは1.854%と7.7倍ちょっとでしかない。先行きの金利が上昇すると思うならば、明らかに3年債を選ぶべきだろう。また、京王電鉄は10年債120億円と20年債80億円を募集している。超長期年限の金利水準が変化して来たことで、やや超長期の債券募集が抑制されているようにも感じられる。

既に、北海道電力のグリーンボンド50億円には触れたが、その他のSDGs債としては、日本電気の5年・7年・10年のサステナビリティリンクボンド計1,100億円、川崎重工業の10年グリーンボンド90億円、出光興産の5年・7年のトランジションボンド、三井不動産の5年・7年・10年のグリーンボンド計800億円と、相変わらず本数も金額も多くが募集されている。電力債が需要に合わせて募集金額を減らしているのに対し、SDGs債は多くが100億円単位での募集である。引続き、投資家のSDGs債に対する購入意欲は強いようだ。

なお、住宅金融支援機構は5年債200億円・10年債100億円・15年債100億円・20年債150億円の一般担保財投機関債を募集しているが、これらの中で、20年債のみがグリーンボンドとされている。今年度に入って、これまで同機構が募集したグリーンボンドは、政府保証債のみであったが、ようやく従来と同様に財投機関債でのグリーンボンドが見られるようになったことは、一つの変化とも言えよう。

国内起債市場を斬る 6月末特別号:7月に起債ラッシュはあるのか?

前週は株主総会シーズンでサムライ債を除くとほぼ起債はなかったので、少し近視眼かもしれないが、この7月に起債ラッシュがあるかどうかについて検討してみたい。起債ラッシュに厳密な定義などはないが、イメージとしては1日に10以上の発行体が複数本立ての社債等を募集する状況が二営業日にわたって見られるような状況である。過去を紐解いてみると、発生しているのは月の中旬頃で、7月・9月・11月・12月・3月といったタイミングで見られることがある。このタイミングには理由がある。一つは社債等の募集が困難な時期になる前に一斉に募集するといったもので、半期末を控えた9月、年末を控えた12月、年度末を控えた3月といったタイミングで生じるのは、この要因である。一方、それらとは異なる理由から生じる可能性のあるのが、7月と11月かもしれない。この二月については、募集不能となるタイミングの前ではなく、逆に、期末や半期末の決算発表や株主総会といったイベントが終了した後といった要因が考えられる。

起債ラッシュの発生する可能性のあるタイミングは、このように、1年間に複数回存在しているが、常に発生するものではない。発行体の資金調達意欲にも左右されるし、投資家の購入意欲の有無も重要である。また、それらの背景にある金利の先高観や経済見通しといったものも影響する。M&Aなどによって発行体側に資金調達ニーズがあり、投資家がクレジット投資に注力したいという意向があり、需給が見合っているのならば、先行きの金利は上昇しないという見通しがあったり、クレジットの先行きに対する警戒感は低いのかもしれない。金利がまもなく上昇するという見通しであるならば、発行体の早期調達ニーズと投資家の購入意欲はマッチしない。

現在の金融・経済環境を考えると、超長期債に関しては金利上昇に対する警戒感が少なくない。日銀は7年や10年までに関しては、イールドカーブコントロールを死守する姿勢を示しているため、それを越えた超長期ゾーンにまで手が及んでいない。2016年初めに単純なマイナス金利政策を導入した際には、20年ゾーンまで全てゼロ金利近傍まで金利は低下したが、現状はそういう展開になる可能性が低く、むしろ日銀は超長期の金利上昇を妨害しないと考えられる。したがって、超長期の起債に対しては、発行体の調達ニーズと投資家の購入意欲は乖離している可能性が高い。そのため、超長期年限の起債での金額積み上げは、難しいのではないか。

一方、10年以内の金利に関しては、来年度頭に黒田総裁が任期満了を迎えるまで、水準の上昇を見込むことが難しい。日本経済に関しては、欧米のような急速な金融緩和抑制による景気のオーバーキル展開がは見込まれないため、引続き、微温経済といった感じで低金利と低成長が続くと思われる。したがって、10年以内の社債等の起債環境は、良好な状況が続くのではなかろうか。投資家のSDGs債に対する購入意欲も強く、7月には様々な発行体がこぞって、グリーンボンドやトランジションボンド等を募集する準備を進めているようであり、10年以内の年限におけるSDGs債の募集が、7月の起債市場の特徴になりそうだ。ただし、超長期ゾーンの起債が想定通り盛り上がらないのであれば、起債ラッシュにまでは至らない物と想定される。