国内起債市場を斬る 起債評価:8/22~8/26

旧盆休みが終わって、起債市場にどっと賑わいが戻って来た。週後半に数多くの社債等が募集・条件決定されており、各案件の銘柄と金額や発行条件を羅列するだけで、本稿に書ききれるか心配になるほどだ。その中から着目する案件を三つほどピックアップしてみたい。

最初は、LIXILである。持株会社と事業会社とが統合して社名や内容が変わっているものの、基本的にはサッシや台所関係など住宅・建築関連の設備機器メーカーである。ホームセンター事業を切り離したこともあって、わかり易い経営体制になったとも評価できる。今回の起債は5年債・7年債・10年債の3本立てであり、1億円単位での募集が行われた結果、5年債の発行額が398億円、7年債の発行額が63億円、10年債の発行額が89億円とやや細かな設定になっている。社債の金額が1億円単位であるかため、何らの問題はないと考えられるが、このような1億円単位での起債が今後の市場慣行として定着するかどうか注目しておきたい。

次に、SBIホールディングスが個人投資家向けに1,000億円の4年債を条件決定している。募集期間は8月29日から9月8日までであるが、R&Iから同社が取得しているA-格の評価に対しても、相当程度高い1.09%クーポンという利回りを付している。筆頭主幹事が大和証券であることは評価できるものの、グループに属するSBI証券がネットなどでの販売を予定して250億円を引受けており、発行体の子会社であることを考えると、社債発行の枠組みとしては課題を感じる。実際には、三菱UFJフィナンシャルグループの個人投資家向け社債でも同様の引受体制になっていることを考えると、杞憂なのだろう。ちなみに、SBI証券は募集初日の段階で、「完売御礼」とHPに掲載している。

最後に、日本郵政が初めての公募普通社債を募集している。5年債150億円・10年債150億円・20年債50億円の計350億円であり、いずれもグリーンボンドとしての認定を得ている。認定されている具体的な資金使途を見ると、「蔵前一丁目開発事業及び五反田計画に対する不動産開発資金に充当する予定」とされており、郵便とはほぼ関係なく、不動産開発事業に関するものである。同社は郵便等の配達で温室効果ガスをばら撒いていると見られがちであるが、EV車両の利用等による排出削減にも取り組んでおり、今回は不動産開発の関連でグリーンボンドとなっているが、郵便事業においてトランジションボンドの認定を得ることも可能なのではなろうか。なお、今回の社債に対しては、日本郵政株式会社法第7条の規定に基づいて一般担保が付されている。過疎地等を含めたユニバーサルサービスの提供を求められていることを考えると、純粋な民間上場会社としてのみ信用力を評価することは適切でなく、暗黙の政府保証の存在を想定することも可能だろう。今回の社債に付された格付けは、JCRのAA+格で日本国債より1ノッチ低いものとなっている。同残存の国債対比+14~25bpsのスプレッドが付されており、国家として潰せない企業と考えるのならば、魅力的な投資対象に思えるのではなかろうか。

国内起債市場を斬る 起債評価:8/15~8/19

起債市場の休み明けに動き出すお馴染みの発行体が、顔をならべた。6月末分の決算発表を終え、旧盆の夏休みを経て再開された起債市場において、まず動き出したのは、財投機関と電力であった。起債観測という意味では、小売やメーカー、ノンバンクといった他のセクターも動いていることを確認できているが、具体的に社債等債券の募集に至ったのは、財投機関と電力会社各々2つずつであった。

財投機関で債券を募集したのは、鉄道建設・運輸施設整備支援機構と日本学生支援機構の二つである。いずれもほぼ定例の8月下旬の起債である。前者は従来と同様にサステナビリティボンドの認定を得ており、後者はソーシャルボンドである。前者は鉄道や運輸関係の建設を担当していることから、業務にグリーンの要素もあって、サステナビリティボンドを募集するには相応しい発行体である。後者は、社会的な意義からソーシャルボンドに違和感はないが、貸付対象が学生であることから、グリーンボンドとなる可能性は乏しい。もっとも、貸与を受けた元学生に対する取立ての厳しさが消費者金融並みであるといった批判も時々目にすることから、ソーシャルボンドとしての機能を十分に果たせているかどうか、認証機関は精査すべきであろう。

なお、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の財投機関債は10年債と20年債各100億円を募集したが、日本学生支援機構は2年債300億円のみである。後者については、国債対比+10bpsのスプレッドプライシングによって、0.01%クーポンのパー発行と6年ぶりに応募者利回りがプラスになったことが注目される。長く続いた0.001%クーポンのオーバーパー発行によって応募者利回りを0%とした起債が、ついに途絶えたのである。短い年限においても将来の金利変動を予感させる起債となった。

電力債を募集したのは、中国電力と北陸電力の2社であった。いずれも通常の電力債で、グリーンボンド等の認証を得た起債ではない。前者は、当初アナウンスした3年債と6年債に、急遽10年債を加え、計630億円の募集となった。後者は、17年債と半端な年限での募集となったが、結果として、出来上がりのクーポンが1.04%と1%の大台を超えたところに意味があろう。しかし、それでも発行金額が95億円と100億円に達しなかったところに、電力会社に対する投資家の慎重な姿勢を垣間見ることが出来るようである。膠着するウクライナ戦争の動向は、サハリンからの天然ガス輸入にも影響しており、化石エネルギーによる発電体制に対する逆風である。一方で、ヨーロッパではグリーンエネルギーと認定された原子力についても、地震国、被爆国日本においては、なかなか積極的に容認される状況にない。太陽光や風力は出力が安定せず、水力についても新規増設が容易でないことを考えると、今後の日本におけるエネルギー政策の行き詰まりが今更ながら意識される。産業革命以前の生活に戻すことは不可能である以上、極端なESG推進を唱えたり核に対するアレルギーに拘るのではなく、未来を見通し、状況に応じた判断が更に必要なのではないか。

国内起債市場を斬る 起債評価:8/8~8/12

新型コロナ感染症第7波の真っ最中であり、「山の日」の祝日が週内の木曜日にあると、起債市場に賑わいは見られない。そもそも旧盆の休み直前でもあり、休日と週末に挟まれた12日の金曜日は、社債等の募集に不向きとなる。そのため、実質的には、社債等を募集する動きは週前半までで終わらざるを得ず、ほぼ9日の火曜日と10日の水曜日の2日間のみに限られることとなる。それでも少ないながら社債等を募集する動きが見られたことが、むしろ驚きをもたらしたかもしれない。

火曜日に募集されたのは、地方公共団体金融機構の10年債250億円である。同機構は10年債を原則毎月募集し、その他の月にも5年債や20年債等を募集しているが、10年債のみという月は大人しく見える。10年債については、利付国債の利回りが月初の入札で決まった後、新発10年物地方債の発行条件によって概ねの水準が定まるため、大きな波乱が起きることはまずない。特に、全地方公共団体からの出資によって設立された同機構は政府保証債の発行体でもあり、政府保証を受けずに発行される債券も、もっとも信用力の高い地方債と同等の信用力を有しているとされることもあって、「スーパー地方債」と見られることが一般的である。今月の10年債は国債対比+13bpsのスプレッドでプライシングされ、出来上がりは0.295%クーポンとなった。実質的に国債と遜色ない信用力を期待できるという判断から、投資家から根強いニーズが集まっている。

水曜日に募集されたのは、電源開発の7年債180億円及び20年債137億円と、中日本高速道路の5年債600億円であった。電源開発の起債は、20年債が137億円と細かく刻んだ金額になっているが、一般担保ではないものの社債管理者を設置した社債であるため、1億円単位の募集金額にすら拘る必要はない。これまでの市場慣行としては、ほとんどの募集額は10億円単位となっていたが、足元の数週間では、細かく1億円単位での募集が幾つか行われていることに注目しておきたい。投資家のニーズにきめ細かく対応しているためと見るか、購入ニーズが減退しているのか、理由は様々のようであるが、市場慣行が変化してきているようだ、という見方が強いようだ。

中日本高速道路の5年債は、日本高速道路保有・債務返済機構による併存的債務引受条項が付されているため、実質的には財投機関債と同等の信用力があるとみなされており、格付けもR&IのAA+格・JCRのAAA格・ムーディーズのA1格といずれも日本国債と同水準の符号である。同社は、米ドル建ての社債に関してグリーンボンドの認定を得て発行している例はあるが、円建て社債ではソーシャルボンドの認定も取得していない。米ドル以外にも、ユーロ建てや豪ドル建て、NZドル建て、更には人民元建ての起債も行っており、色々な取り組みに積極的な発行体である。

国内起債市場を斬る 起債評価:8/1~8/5

カレンダーが8月に変わったからと言って、起債市場の状況が大きく変わるというものではない。引続き、海外の金利は上昇傾向にあり、一部において景気の先行きに対する懸念の声は出はじめているが、まだ少なくともこの先数か月は好調を維持できそうである。一方で、日本に関しては円安が一段落し、真夏の酷暑の中で気分は夏休みモードとなっている。亜熱帯化している日本は、近年、夏にあちこちで水害が発生しており、今年は福井などの北陸や山形など北日本での被害が出ている。被災地域の早急な復興を願ってやまない。

こういった状況下においても、月初の長期国債入札が行われ、その後、政府保証債や地方債のプライシングが行われるという段取りは不変である。余程の金利変動や市場の機能不全がない限り、お役所仕事である公共債の条件決定から募集という流れが止まることはない。そのためもあって、8月第一週の起債市場では、公共セクターによる債券募集が目立つことになった。まずは、成田国際空港と新関西国際空港である。前者が厳密には社債と分類され、後者が財投機関債に分類されるという差はあるものの、東西の主要な国際空港運営会社であり、政府によるサポートは十分に期待できる。なお、両社が共通に取得している格付けは、R&IのAA格及びJCRのAA+格と、日本国債より1ノッチ下であることには留意しておく必要があろう。株式会社形態を採用していることもあり、必ずしも政府保証債と同等の信用力を有しているというまでの評価は出来ないという理由であろう。成田国際空港が、3年債170億円・5年債130億円・10年債87億円・17年債73億円の計460億円と年限・金額とも細かく設定している一方、新関西国際空港は5年債119億円及び10年債81億円の計200億円としている。新関西国際空港も回号で見ると、十分に端数の付いた募集金額であるが。なお、新関西国際空港はソーシャルボンドの認定を得ている。

これらの他に、横浜高速鉄道は10年債80億円を募集し、日本政策投資銀行は2年債100億円を募集している。みなとみらい線の保有会社である前者は、鉄道施設購入資金の返済ということで普通の社債になっているが、後者はサステナビリティボンドとしての認証を得ている。日本政策投資銀行はサステナビリティボンド・フレームワークを設定しており、適格プロジェクトに対する新規投融資やリファイナンス等で資金投入することが可能であるため、サステナビリティボンドを活用する余地は大きいだろう。

これらの公的セクター以外には、イオンモールが4本立ての社債を募集している。3年債30億円・5年債230億円・7年債60億円・10年債80億円と、総計では400億円の大きな金額であるが、年限も金額も細かく設定されている。上述の国際空港による債券募集と同様に、今後はこうした年限・金額を細かく設定することが主流になって行くのだろうか。

国内起債市場を斬る 起債評価:7/25~7/29

日銀の金融政策決定会合が終わり、米国FOMCを週央に跨ぐ週で、金融政策の変更判断を意識しながら市場をにらむ展開となった。日本では物価の見通しなどに変更があったものの金融政策そのものに変更はなく、米国は市場の予想通りに0.75%の大幅利上げとなった。主に物価上昇へ対応する観点からの利上げであったが、先行きの景気に対するマイナスの影響を懸念する声もあり、金融政策の変更に慎重な日本とは大きく様相が異なる。市場では円安の更なる進行が予想されたものの、米国経済の先行きに対する不安感などもあって、逆に、円高に戻るという展開となった。1米ドル137円程度から次は140円かと皆が予想する中で、急速に132円と逆方向に進んだのだから、為替についての予断は禁物である。

起債市場の動きは鈍い。内外の金融政策の動向を見守るという説明は可能かもしれないが、むしろ第七波と言われる新規感染者数の急増が過去最大のペースであり、一週間当たりでは日本の新規感染者数が世界最多とも言われると、やや市場の動きが停滞するのも無理がないかもしれない。特に、月末というタイミングもあって、公共債の募集もなく(住宅金融支援機構による貸付債権担保財投機関債は前週の金曜日に募集されたため)、ほぼ静かな起債市場となった。次の週は8月第一週となり長期国債の入札などもあって、多少の動きはあるだろうと予想される。

唯一募集されたのが、光通信による7年物社債である。といっても、個人投資家向けに募集されており、火曜日に条件決定され水曜から募集期間がはじまったという展開である。社債の金額は100万円で、比較的投資しやすい設定であろう。取得した格付けは、R&I及びJCRの両方からA格であり、必ずしも高格付けではないかもしれないが、低格付けというほどでもない。

光通信に対する投資判断で難しいのは、業種や信用度への理解だろう。同社は業種として情報通信業に分類されるが、元々は携帯電話の販売代理店として一世を風靡し、その後、ITバブルの崩壊を経て業種転換を行う中、ソフトバンクのように通信業へ自ら参入することはないものの、買収などを通じてインターネット関連を含め様々な事業を複数展開している。主要な事業展開を見ると、個人や中小企業向けの通信回線サービス提供、宅配水の販売、保険商品の仲介などと実に多様である。同社のHPで事業内容として記載されている表現を見ると、「商品・サービスの販売後に使用料などに応じた継続的な収入が見込まれるストック事業を中核事業とし、個人および法人のお客様向けに様々な商品・サービスを広く普及させることを通じて、お客様、取引先様、株主様、従業員、社会などステークホルダーに貢献することを目指す」とあり、ほとんど特定されていない内容である。社債の購入を検討する個人投資家としては、格付け以外にあまり依拠できる材料がないだろう。それでも、7年債で1%というクーポンの高さは魅力的に見える。同社の7年後の姿を予想するのは、専門のクレジットアナリストでも難しいと思われるのだが、利回りの高さに飛びつくこともあるだろう。