国内起債市場を斬る 起債評価:8/15~8/19

起債市場の休み明けに動き出すお馴染みの発行体が、顔をならべた。6月末分の決算発表を終え、旧盆の夏休みを経て再開された起債市場において、まず動き出したのは、財投機関と電力であった。起債観測という意味では、小売やメーカー、ノンバンクといった他のセクターも動いていることを確認できているが、具体的に社債等債券の募集に至ったのは、財投機関と電力会社各々2つずつであった。

財投機関で債券を募集したのは、鉄道建設・運輸施設整備支援機構と日本学生支援機構の二つである。いずれもほぼ定例の8月下旬の起債である。前者は従来と同様にサステナビリティボンドの認定を得ており、後者はソーシャルボンドである。前者は鉄道や運輸関係の建設を担当していることから、業務にグリーンの要素もあって、サステナビリティボンドを募集するには相応しい発行体である。後者は、社会的な意義からソーシャルボンドに違和感はないが、貸付対象が学生であることから、グリーンボンドとなる可能性は乏しい。もっとも、貸与を受けた元学生に対する取立ての厳しさが消費者金融並みであるといった批判も時々目にすることから、ソーシャルボンドとしての機能を十分に果たせているかどうか、認証機関は精査すべきであろう。

なお、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の財投機関債は10年債と20年債各100億円を募集したが、日本学生支援機構は2年債300億円のみである。後者については、国債対比+10bpsのスプレッドプライシングによって、0.01%クーポンのパー発行と6年ぶりに応募者利回りがプラスになったことが注目される。長く続いた0.001%クーポンのオーバーパー発行によって応募者利回りを0%とした起債が、ついに途絶えたのである。短い年限においても将来の金利変動を予感させる起債となった。

電力債を募集したのは、中国電力と北陸電力の2社であった。いずれも通常の電力債で、グリーンボンド等の認証を得た起債ではない。前者は、当初アナウンスした3年債と6年債に、急遽10年債を加え、計630億円の募集となった。後者は、17年債と半端な年限での募集となったが、結果として、出来上がりのクーポンが1.04%と1%の大台を超えたところに意味があろう。しかし、それでも発行金額が95億円と100億円に達しなかったところに、電力会社に対する投資家の慎重な姿勢を垣間見ることが出来るようである。膠着するウクライナ戦争の動向は、サハリンからの天然ガス輸入にも影響しており、化石エネルギーによる発電体制に対する逆風である。一方で、ヨーロッパではグリーンエネルギーと認定された原子力についても、地震国、被爆国日本においては、なかなか積極的に容認される状況にない。太陽光や風力は出力が安定せず、水力についても新規増設が容易でないことを考えると、今後の日本におけるエネルギー政策の行き詰まりが今更ながら意識される。産業革命以前の生活に戻すことは不可能である以上、極端なESG推進を唱えたり核に対するアレルギーに拘るのではなく、未来を見通し、状況に応じた判断が更に必要なのではないか。