国内起債市場を斬る 起債評価:10/17~10/21

早い会社では9月末決算の発表がはじまり、下期に入っての起債シ-ズンの盛り上がりは数週間で中休みに向かいつつある。この週の公募社債等の起債は、本数こそ地方公共団体金融機構のFLIPに基づく起債計12本で膨らんでいるが、それを除いた募集本数は前週よりも減っている。ただし、KDDIによる計1,000億円の大型起債があり、大和ハウス工業も計1,500億円を募集しているため、金額ベースでは決して小さくない結果になっている。

前週は金融関連の劣後債を含む社債募集が目立っていたが、それらが収まったことで、公共セクターの債券募集がもっとも目立つ展開になった。これらは、下期入りしてすぐに動かなかった発行体による第二陣及び第三陣といったところか。前述の地方公共団体金融機構のFLIP債以外に、日本高速道路保有・債務返済機構が3年債200億円・19年債50億円・20年債100億円を募集し、日本学生支援機構は定例となっている2年債300億円を募集している。日本高速道路保有・債務返済機構は、最近では償還時利子一括払いの起債があまり見られなくなり、中期債と超長期債を組み合わせた起債が多くなっている印象である。また、19年債といった半端な年限出の起債にも果敢に取り組んでいる。日本学生支援機構の2年債は、かつては実質0%利回りの債券としての募集が続いていたが、今回のクーポンは0.076%となっており、金利水準の変化が意識される。なお、日本高速道路保有・債務返済機構と日本学生支援機構の募集した財投機関債はいずれもソーシャルボンドの認定を受けており、両機構のミッションを考えると違和感はない。

電力会社では北海道電力が6年債96億円及び10年債48億円という端数金額の電力債を募集しているが、それ以外の民間による公募普通社債の募集の方が多く、ようやく他の業種が動きはじめたという感じだろうか。既に述べたKDDIの3年債と5年債各500億円はサステナビリティボンドとして募集されているが、大和ハウス工業の計1,500億円は普通の社債として募集されている。大和ハウス工業の業種分類は大分類だと建設になるがサブセクターは住宅であり、一般的な建設業者とは位置づけが異なる。同社の取得している格付けがR&IのAA-格及びJCRのAA格と高水準であり、多くの建設会社とは一線を画した存在であることを立証してくれる。

奇しくも同日に大型起債を募集したKDDIと大和ハウス工業の両社がR&Iから取得した格付けは同じ水準であり、両社ともが5年債を募集している。クーポンを比較すると、KDDI債が0.43%であるのに対し、大和ハウス工業債は0.53%と10bpsも高くなっている。募集金額が倍の規模だからという説明は容易だが、業種の差が存在することも否定できず、KDDIがサステナビリティボンドであるため、グリーニアムと同種のサステナビリティプレミアムが存在している可能性も否定できない。今後もこのような起債例が増加することで、SDGs債に対するプレミアムの妥当性について検証する機会が増えることを期待したい。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/11~10/14

下期に入っての起債シ-ズンがはじまっている。先週の四半期のはじまりに際して、まず、電力、公的機関、金融関連という辺りが動き出すのが定番であると説明したが、この週もほぼ同様の傾向が続いている。

まず、電力関連の起債では、東京電力パワーグリッドが、3年債250億円・5年債430億円・10年債220億円の三本立て計900億円を募集している。格付けがR&IのA-格及びJCRのA格とや電力関連の中で低いこともあって、3年債のクーポンが0.72%で、5年債が0.98%と1%近く、10年債に至っては1.35%と以前なら超長期債でしか見られないような高い利回り水準である。東京電力関連の信用力を格付符号より高いと評価する投資家にとっては、相当程度魅力的な水準になったと言えるだろう。また、同日に中部電力も3年債200億円を募集しているが、クーポンは0.27%と東京電力パワーグリッドと比べると随分低い水準に止まっている。JCRの格付けは同じAA格であることを考えると、格付けだけで利回りが決まるものでないことが良くわかる。なお、R&Iによる中部電力の評価はA+格である。

次に、公的セクターとしては、前週とあまり顔触れが大きく変わった感じはしない。首都高速道路が5年物ソーシャルボンド280億円を募集し、地方公共団体金融機構が10年債260億円と20年債180億円を募集している。間もなく民間企業の9月末決算の発表シーズンが来ることもあって、今後はやや公的セクターの目立つ展開になることが予想される。

大きく前週と異なるのが、金融関連の動きである。電力や公的セクターより少し動きが遅いものの、メーカー等は更に遅れて来るのだろう。銀行関連では、あおぞら銀行が3年債100億円、みずほフィナンシャルグループが劣後債を10年債と5年期限前償還債計1,030億円を個人向けに募集し、5年期限前償還債285億円を機関投資家向けに募集している。山口フィナンシャルグループは5年期限前償還の劣後グリーンボンドを個人向け200億及び機関投資家向け24億円の計224億円を条件決定している。その他にノンバンクとして、トヨタファイナンスが3年債400億円及び5年債200億円を募集した他、三井住友トラストパナソニックファイナンスが5年グリーンボンド92億円を募集している。

これら以外には、ヒューリックが2種の劣後債を募集しているだけであり、社債等発行体の顔触れは業種という観点では、あまり広がりが見られていない。なお、この週の顕著な特徴として、超長期債の募集が見られなくなっていることに着目しておきたい。日銀のイールドカーブコントロール対象外の年限ということで金利水準の上昇が意識されており、地方公共団体金融機構による20年債の募集が唯一である。劣後債も、ヒューリックの劣後グリーンボンドは期限前償還されなければ35年や40年後に償還されるかもしれないが、銀行持株会社の劣後債はいずれも最終償還が10年のみである。前週には電力や鉄道などで超長期債の募集があったのに比べると、超長期債の不在が目立つ展開の週であった。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/3~10/7

10月に入るや否や、下期の起債がはじまった。新しい四半期に入ってまず動くのが、電力、公的機関、金融関連というのが定番であるが、この10月の冒頭はどうだっただろうか。

まず、電力による起債は、想像された通り多くなった。北陸電力が3年債・10年債・20年債の3本立てで口火を切ると、沖縄電力が3年債と7年債の2本立てで続いている。その後も、東北電力が8年債と20年債の2本立て、関西電力が3年債と10年債の2本立てと複数本立ての募集が見られたが、四国電力は10年物のグリーンボンド単独を募集している。これらの電力債の募集総額は、1,105億円に上る。なお、北陸電力の20年債が51億円で、東北電力の同じく20年債が59億円と、超長期年限の起債が端数になっていることは注目しておきたい。10年以内は比較的まるまった金額で募集し易いが、超長期年限については投資家のニーズに合わせた金額に絞って募集額を決めているということであろう。万一募残が生じた場合に、超長期年限の大きな金利変動が生じると債券先物でのヘッジが十分に機能しないため、引受証券が慎重的なスタンスになっているものと推測が可能である。なお、電力に近い業態としては、これらの他に、北海道ガスが20年債100億円を募集している。

公的機関に関しては、阪神高速道路が5年物ソーシャルボンド350億円、日本政策投資銀行が3年債300億円・5年債200億円・10年債250億円の3本立て、西日本高速道路が2年債400億円及び5年債800億円のソーシャルボンド2本立て、地方公共団体金融機構が30年債200億円と募集が続いている。更に、筑波大学が社会的価値創造債としてサステナビリティボンド200億円を初めて公募債の募集を行っている。公的セクターは組織特性からソーシャルボンド等を募集し易い発行体であることも、債券発行を促進する効果があるものと思われる。

金融関連の起債としては、銀行やノンバンクの動きがなく、損害保険ジャパンが久しぶりに5年債と10年債各500億円を募集しているのみである。残存している円建て社債が劣後債のみであり、今回が第1回及び第2回債の普通社債となっている。

結果的に、これらの三つのセクター意外で目立ったのが、鉄道関連である。近年は複数本立てでの起債が目立つ業態であるが、この週は、JR東海が35年物のグリーンボンド80億円を募集した他、JR東日本は3年債150億円・10年債100億円・30年債100億円・50年債100億円を募集している。JR東日本の募集は、最近の複数本立てで良く見られたような年限設定であるが、やや募集した金額の少ないことが目立っている。

国内起債市場を斬る 下期初特別号:円安と社債投資

政府と日銀は9月22日に円ドルレートが146円を伺う水準になると、2.8兆円規模の円買いドル売りの為替介入を実施した。しかし、介入の効果は2週間も持たず、今週に入って円ドルレートは再び145円を越えている。起債市場は上期末を挟んだ時期であったため、社債等を募集する動きは見られなかったが、円安が社債市場に与える影響は決して小さくない。

輸出産業は円安によって輸出が割安となりメリットがあるとするのは、既に古い日本の産業構造に対する理解だろう。プラザ合意以降の円高を持ち出さなくても、2000年以降でも何回かの円高不況局面を迎えた。その結果、日本国内で製品を作り、海外へ輸出して販売するといった古典的なモデルの企業は、ほぼ見られなくなったのではないか。円安局面において海外で製品を販売するならば、現地で生産した方が明らかに価格競争力がある。いつまでも古いビジネスモデルに捉われてはならない。確かに、円安によって多少の輸出メリットはあるかもしれないが、輸出企業の増収も、労働分配率の低さを考えると、消費を押し上げて景気を浮揚させるような効果は期待し難い。

逆に、円安によって収支にマイナスの影響が及ぶ業種については、クレジット投資という観点からは考えておくべきである。まず考えないといけないのは、エネルギーの多くを輸入に依存する電力関連企業である。もちろん東京電力リニューアブルパワーのように、水力発電など再生可能エネルギーに特化していれば異なるし、かつて社債を募集していた日本原子力発電も輸入エネルギー価格の高騰による直接の影響を受けないだろう。しかし、原油やLNGは将来にわたって輸入に頼らざるを得ず、火力発電を中心に置く発電会社は、少なからずの影響を受ける。肝心なのは、輸入エネルギー価格の上昇を電力の小売価格に転嫁できるかである。転嫁の可否次第で、電力会社の収支は大きく変化するだろう。家庭向けのみならず企業向けの電力価格も、政策の影響を受けるだろう。中長期に及ぶ円安継続は、電力関連のクレジットに対する影響が必至である。

また、既に新型コロナウイルス感染症の影響で大きな打撃を受けているが、旅行や空運、宿泊関連については、社債や関連REITの信用力に影響の生じる可能性がある。円安によるインバウンドの復活期待は高いが、日本側の感染対策等だけでなく、出発国のコロナ対策次第では日本への渡航が自由に出来ない可能性も残る。また、円安によって、日本から海外への渡航は、引続き大きなダメージを受けている。ウィズコロナでテレワークに慣れたビジネス界は海外出張よりもウェブ会議に傾きがちである。そもそも円安と原油価格高騰によって、航空運賃と燃油サーチャージが高騰しており、運航便数の抑制がさらに価格を上昇させるという悪循環に陥っている。

総合商社のように、物やサービスを動かすことを業とするならば、円安がメリットにもデメルットにもなるだろうが、円安が事業内容にプラスに働く業種は、一部の製造業に限られ、必ずしも多くないという認識が必要だろう。特に、円安の原因の一つが欧米と日本との間の金融政策の方向性の差であることを考えると、円安対策として日銀の金融緩和政策が微修正される可能性を否定しきれない。