国内起債市場を斬る 下期初特別号:円安と社債投資

政府と日銀は9月22日に円ドルレートが146円を伺う水準になると、2.8兆円規模の円買いドル売りの為替介入を実施した。しかし、介入の効果は2週間も持たず、今週に入って円ドルレートは再び145円を越えている。起債市場は上期末を挟んだ時期であったため、社債等を募集する動きは見られなかったが、円安が社債市場に与える影響は決して小さくない。

輸出産業は円安によって輸出が割安となりメリットがあるとするのは、既に古い日本の産業構造に対する理解だろう。プラザ合意以降の円高を持ち出さなくても、2000年以降でも何回かの円高不況局面を迎えた。その結果、日本国内で製品を作り、海外へ輸出して販売するといった古典的なモデルの企業は、ほぼ見られなくなったのではないか。円安局面において海外で製品を販売するならば、現地で生産した方が明らかに価格競争力がある。いつまでも古いビジネスモデルに捉われてはならない。確かに、円安によって多少の輸出メリットはあるかもしれないが、輸出企業の増収も、労働分配率の低さを考えると、消費を押し上げて景気を浮揚させるような効果は期待し難い。

逆に、円安によって収支にマイナスの影響が及ぶ業種については、クレジット投資という観点からは考えておくべきである。まず考えないといけないのは、エネルギーの多くを輸入に依存する電力関連企業である。もちろん東京電力リニューアブルパワーのように、水力発電など再生可能エネルギーに特化していれば異なるし、かつて社債を募集していた日本原子力発電も輸入エネルギー価格の高騰による直接の影響を受けないだろう。しかし、原油やLNGは将来にわたって輸入に頼らざるを得ず、火力発電を中心に置く発電会社は、少なからずの影響を受ける。肝心なのは、輸入エネルギー価格の上昇を電力の小売価格に転嫁できるかである。転嫁の可否次第で、電力会社の収支は大きく変化するだろう。家庭向けのみならず企業向けの電力価格も、政策の影響を受けるだろう。中長期に及ぶ円安継続は、電力関連のクレジットに対する影響が必至である。

また、既に新型コロナウイルス感染症の影響で大きな打撃を受けているが、旅行や空運、宿泊関連については、社債や関連REITの信用力に影響の生じる可能性がある。円安によるインバウンドの復活期待は高いが、日本側の感染対策等だけでなく、出発国のコロナ対策次第では日本への渡航が自由に出来ない可能性も残る。また、円安によって、日本から海外への渡航は、引続き大きなダメージを受けている。ウィズコロナでテレワークに慣れたビジネス界は海外出張よりもウェブ会議に傾きがちである。そもそも円安と原油価格高騰によって、航空運賃と燃油サーチャージが高騰しており、運航便数の抑制がさらに価格を上昇させるという悪循環に陥っている。

総合商社のように、物やサービスを動かすことを業とするならば、円安がメリットにもデメルットにもなるだろうが、円安が事業内容にプラスに働く業種は、一部の製造業に限られ、必ずしも多くないという認識が必要だろう。特に、円安の原因の一つが欧米と日本との間の金融政策の方向性の差であることを考えると、円安対策として日銀の金融緩和政策が微修正される可能性を否定しきれない。