国内起債市場を斬る 起債評価:11/14~11/18

ようやく起債市場が本格的な募集シーズンを迎えたようである。しかも、週末の金曜日に向かっての集中度は強い。水曜日の16日に募集されたのは、東北電力の3年債と地方公共団体金融機構のFLIPに基づく債券であったが、続く木曜日の17日から一気に加速したようであり、18日の金曜日は多くの案件が募集されている。従来の起債が多い時期と少し異なる点を意識すると、メーカーによる起債が積極的に見られるようになったことを指摘できるだろう。

まず、木曜に募集されたメーカーによる起債としては、日本電産の3年債200億円及び5年債500億円の計700億円がある。後継問題で懸念を持たれるのは、ソフトバンクグループなどあまりにも強い創業者が居残っている企業には共通の特徴である。特に、永守イズムと呼ばれる社風は、到底、ソーシャルボンドを発行することの出来ないようなブラック体質と言われている。現時点での格付けは、R&IによるAA-格と高水準であるが、中期までしか見込めない格付符号の限界を強く示している。後継問題が適切に解決されない限り、長期の与信に躊躇する投資家は少なくないだろう。今回の起債が最長で5年債ということも高格付けの発行体にしては珍しく、同社の先行きへの懸念を示しているものと見て良いだろう。

SDGs債の募集でも、メーカー等の動きが複数確認されている。日本碍子の5年債50億円は、グリーンボンドとして募集されている。電池や次世代半導体関連などの投資が資金使途とされており、事業内容に沿ったものと評価してよいだろう。金曜日の募集例に目を転じても、ミネベアミツミの5年債250億円がグリーンボンドとして募集されている。省電力ボールベアリング設備等の資金使途は、同様に同社の事業内容に則したものである。

メーカー以外でも、SDGs債の募集が盛んである。東邦ガスの30年債100億円は、トランジションボンドで、台湾での洋上風力発電や知多のLNG基地等の整備に用いるとする。豊田通商の10年債150億円は、ユーラスエナジーホールディングス社の株式を取得するためとしたグリーンボンドである。JR九州の3年債50億円・5年債100億円・10年債100億円の計250億円は、新型車両や研修センターの対応としたグリーンボンドである。JR西日本の10年債100億円も同様に新型車両対応であるが、グリーン及びソーシャルの双方に適合したサステナビリティボンドとして募集されている。北陸電力の5年債185億円・10年債153億円・20年債106億円という端数起債が多用された計444億円も、ゼロミッション火力発電への対応としたトランジションボンドである。グリーンに向けたトランジションボンドの枠組みは、より多くの業態で適用できると考えられ、急速に募集例が増加している。

なお、その他に、公共セクターでは、東日本高速道路が5年債・7年債・10年債の計960億円ものソーシャルボンドを募集しており、鉄道建設・運輸施設整備支援機構も2年債60億円及び20年債130億円のサステナビリティボンドを募集している。相変わらずSDGs債の募集が紅葉盛りである。

国内起債市場を斬る 続決算月特別号:11/7~11/11

円ドルレートの動きの大きさに目を取られたのか、起債市場の動きは鈍い。引続き、9月末決算発表の時期であり、今月中旬以降の社債等募集シーズンに備えているようでもある。起債観測の上がっている銘柄は少なくないが、相変わらず、劣後債やSDGs債などの名前も多く聞こえて来る。メーカーでも、電機関連で通常の社債やグリーンボンドを募集する準備が進んでいるようだし、鉄道等運輸ではグリーンボンドの他にサステナビリティボンドの動きも見られる。通常の社債を募集する準備もかなり多くの企業で進んでいるようであり、決して起債市場が停滞しているということではなく、来月中旬までの年内最後の起債シーズンに備えていると見るのが適切であろう。財投機関債等の動きも複数あるようだし、現在の閑散期と打って変わって、年末に向かって市場は慌ただしくなることが予想される。

この週で募集された社債等はわずかに2銘柄である。まず、地方公共団体金融機構が定例の10年債を募集している。他の年限が付随しないというのも珍しいが、260億円を0.449%クーポンで募集した。発行金額も大きくない中で、クーポンが上昇していることもあって、地方の投資家から根強いニーズがあったものと思われる。10年国債利回りに対するスプレッドは+20bpsとされており、地方債の個別銘柄対比でも十分に魅力がありそうだ。

唯一民間企業によって起債されたのが、電源開発の第82回債であった。年限は10年でクーポンは、切りよく1%とされている。再生可能エネルギー関連の資金使途としたグリーンボンドの認定を得ており、投資家としては購入し易い銘柄になった。電源開発の格付けは、R&IのA+格に対しJCRのAA+格と大きなスプリットが存在しており、投資家による評価は容易ではない。潰れる可能性という意味では否定的に考えられるが、直接の小口電力販売に従事しているものではないため、代替性があると見ることも出来る。もっとも、同種の発電事業者と比べると歴史的な経緯も含めて残在韓は大きい。同じ10年の地方公共団体金融機構債と比べると、スプレッドのみならずクーポンの絶対水準も魅力的である。170億円という募集金額は決して大きくないが、グリーンボンドという認定を含めて多くの投資家は、総合的判断で購入し易かったようだ。

国内起債市場を斬る 決算月特別号:丸井グループの個人向け社債

9月末決算の発表時期で、前週に社債等の募集がなかったため、今年度上期の起債の中で異色を放っていた丸井グループによる個人向け社債について取上げてみたい。

丸井グループが個人向け社債を活用した社会貢献を打ち出したのは、3月の頭のことであった。以前から五常・アンド・カンパニー及びクラウドクレジットとの共創によるマイクロファイナンスの展開に取り組んでいたが、途上国の応援と資産形成を同時に実現できる「応援投資」という選択肢を提供するとして打ち出したのが、ソーシャルボンドとして認定を得た個人向け社債による資金調達であった。マイクロファイナンスの側では、途上国での個人事業主や中小零細事業者向けの小口金融サービスを提供するとし、一方で、その資金を個人向け社債で調達し、預金より高い利息収入を提供することで、若い世代を含めた日本の個人が「応援投資」を可能にするというスキームである。

具体的な個人向け社債としては、一般的な形態の個人投資家向け社債13億円(最低投資単位100万円で3年0.31%クーポン)を3月下旬に募集していたが、新規の取り組みとして募集されたのが、5月中旬に第1弾と9月中旬に第2弾の登場したエポスカード会員向けのセキュリティートークン債であった。第1弾及び第2弾とも、1年ものの社債でクーポンは1%とされており、1.3億円程度の募集を予定した。打ち切り発行を選択した結果、第1回債の募集額は1.2178億円であり、第2回債は1.1907億円であったことが発表されている。

エポスカード会員向けとされたのは、利息の7割(厳密には更に源泉徴収税額を控除した残)をエポスポイントで付与する方式を採用したためである。税の控除が必要なため全額をポイント付与とすることは出来ないし、幾ら給与のデジタル支払いが認められる方向であるものの、社債の利子をポイントで支払うことについては、金融商品としての商品性に疑義を抱かれる可能性がある。確かにエポスポイントは1ポイント=1円での支払利用が可能であり、換算レートが事業者によって変更されたこともないため安定性が高いと言って良いだろう。実際に、エポスカードの利用等で獲得したエポスポイントをネット上で手続きすることで1ポイント=1円としてプリペイドカードに移行し、実際の支払いに利用することが可能である。

利子の一部支払いに自社のポイントを活用するのが新規な取り組みの一つであることに加え、証券保管等振替機構を利用せずブロックチェーンを利用したセキュリティートークン債としたことで、発行体による自己募集を可能としたことも注目される。エポスカードを取得することで信用情報を把握している顧客向けという手法は合理的と言えよう。また、セキュリティートークン債であるために、最低単位を1万円としたことでマイクロファイナンスならぬマイクロインベストメントを実現可能としたことが、「応援投資」というコンセプトに沿ったものであった。なお、譲渡制限を付しているために、社債権者の変更は発行体による買入消却以外は実施できないこととされている。

丸井グループが今回採用した仕組みのすべてを他の発行体が真似できるものではないが、セキュリティートークン債のスキームについては、SBI証券や日本取引所グループによる起債が先行しており、今後の活用について注目したい。特に、投資最低単位の引き下げによるマイクロインベストメントの可能性については、個人投資家向け社債の裾野を拡大するものとなるのかもしれない。ただし、自己募集の出来る発行体は限られると思われる。

国内起債市場を斬る 起債評価:10/24~10/28

決算発表の時期は、自然と民間企業による社債等の募集は少なくなる。また、一般的に公共セクターの債券募集は月央までが多いため、月末の近づくこの週も財投機関債では住宅金融支援機構の貸付担保債券しか募集されていない。結果的に、あまり特徴のない民間の起債がパラパラと見られた。しかも、小口案件が多くなっている。三井住友信託銀行が5年債200億円と10年債80億円の計280億円を募集したのが最大であり、他は数十億円程度の案件がほとんどである。また、三井住友信託銀行の10年債を除くと、募集されたのは3年から5年の中期債ばかりであった。

敢えて特徴でグルーピングすると、一つが前述の三井住友信託銀行を含む金融関連の起債である。銀行セクターでは、他にオリックス銀行の3年債60億円が募集されており、ノンバンクでイオンフィナンシャルサービスが3年債及び5年債各50億円と、みずほリース4年債122億円という端数金額の募集が見られる。中期の小額起債という括りから少し外れているのが、このグループであるが、金額も年限も決して大きく逸脱しているものではない。

もう一つのグルーピングが、SDGs債であり読者はお馴染みのものである。既に触れたオリックス銀行の3年債はサステナビリティボンドの認定を取得している。金融機関の場合、融資先の資金使途を対象に含めることが可能なため、認定される範囲が広くなる。このサステナビリティボンドも、グリーンとソーシャルの両方のプロジェクトを対象とするということで、サステナビリティボンドとしての認証を得ている。また、森永乳業の3年債50億円はグリーンボンドとして募集されている。資金使途は、農場の糞尿処理発電やエネルギー効率改善、軽量容器製造機器用の設備投資などとされている。

そして、新しいSDGs債という触れ込みになると思われるのがマルハニチロの募集したブルーボンドである。今回のブルーボンドは、グリーンボンド原則に基づいて募集されたものであり、まったく目新しいものとは言い難い。既に海外ではアジア開発銀行等の認定したブルーボンドの募集事例がある。東証への上場企業で業種分類で水産業に区分されるのは、マルハニチロか極洋、日本水産くらいしかなく、ブルーボンド自体の拡大可能性は決して大きくない。かつてJICAがジェンダーボンドと目新しいラベルを貼って起債したこともあるが、あくまでもソーシャルボンドの一種という位置づけであり、闇雲にラベルの種類を増やすことは市場参加者を迷わせる。話題作りには良いのだろうが、投資家はきちんと債券の内容を理解して投資することが重要である。ブルーボンドだからではなく、あくまでもR&IがBBB+格と評価した5年債である。資金使途が、環境持続型の漁業や養殖漁業などとされている典型的なブルーボンドであった。